登壇者プロフィール
株式会社マネーフォワード
リーガルソリューション部 部長
和田 直樹 氏
音楽業界に従事した後、2000年代よりデジタルトランスフォーメーション分野でSE、営業、マーケティング、バックオフィス体制構築に携わる。その後ネットイヤーグループ、アイスタイル、Techベンチャーでそれぞれ事業責任者を歴任した後、 2021年4月より株式会社マネーフォワードに参画。 マネーフォワード クラウド契約の立ち上げ、マーケティング、プロダクトマネジメントを中心にリーガルテック事業管掌をおこなっている。
FRAIM株式会社
執行役員 営業企画部長
山田 純希 氏
新卒で外資系投資銀行に入社し、複数のM&A、債券発行による資金調達、グローバルIPO、大規模株式調達案件の提案及び執行に従事。2020年8月にFRAIM株式会社に営業企画部長として参画。マーケティング全般、協業先とのプロジェクトマネジメント、OEM製品の企画販売等の責任者をつとめる。
契約業務の『ぶっちゃけストレス』なことは
FRAIM株式会社 山田 純希 氏(以下、山田):
契約業務のどこでストレスが生じる可能性があるのかをお話しするために、まずは契約プロセスについて考えたいと思います。
一般的に、契約業務はドラフト、レビュー、交渉、審査、承認、締結、管理という流れで行われると思います。ドラフトは契約書の下書きを作ることで、レビューは法的観点も含めて契約書に問題がないかをチェックすることです。
旧来のやり方ですと、契約書の内容が確定して承認されるまでのプロセスでは、Wordファイルを使って作成・編集を行い、そのファイルをメールでやり取りする。締結の段階になると、印刷した紙の契約書をやり取りして押印し合い、最終的にExcelで契約内容を管理していく…というのが一般的な流れだと思います。
今は、CLM(Contract Lifecycle Management)と呼ばれる契約ライフサイクルマネジメントのサービスやワークフローシステムにより、旧来のプロセスをすべてデジタル上で行って効率化したり、電子契約を取り入れたりする企業様が増えています。
一方で、電子契約による新しいストレスや課題が生まれているのではないかと思っています。 私どもでは、契約書の下書き段階から締結前までのプロセスをサポートさせていただくことが多いのですが、実際にどのような業務で課題を感じているのかを知ることが、ストレスを生む業務を手放すことにつながるように思います。
「探す時間」「編集」「集約」の課題
山田:
ITや通信分野の調査を行う企業のIDCによる「Bridging the information Worker Productivity Gap : in Western Europe: New Challenges and Opportunities for IT」という面白いアンケートがありますのでご紹介します。この調査では、非効率な作業は何かについて聞いているのですが、最も多い回答が「ファイルが添付されてメール検索に時間がかかる」、次は「フィードバックの収集・統合作業」でした。つまり書類作成やレビューに直接関係のないプロセスで時間を消費している、という結果です。
ペーパーレス化は上手くいっていても、ファイル検索やコミュニケーションでの課題が非常に多いのです。リモートになってやり取りするメールが増え、さらになかなか見つからない、ということも多くあるのではないかと思います。
また、同じ調査で、個人の作業では「複数文書からの引用による整合性・体裁確認」、「文章の検索」に時間を取られていることが多いという結果でした。Wordファイルを使ってコピペして貼ったり、それで終わりと思っていたら修正が必要だったりと作業が生じることも多いのではないでしょうか。
共同で行う作業では「フィードバックの集約と統合」、「データの集約」などで時間を取られ、個人と共同の作業を合わせると週に23.4時間費やしているという結果が出ています。週に40時間働く場合、実にその半分以上の時間がこういった面倒くさい作業に割かれているわけです。
この調査から、目的の文章を探すこと自体に時間がかかっている、文書の体裁を整えるなど編集自体で時間が浪費される、過去のやり取りがバラバラに保存され見つからない、という3つの課題が見えてきました。
「コミュニケーション」「混在」の課題
株式会社マネーフォワード クラウド契約 和田 直樹 氏(以下、和田):
特にコミュニケーションについて、紙の契約書を提供されている企業様は「製本が大変だ」「郵送が大変だ」ということもあるものの、ぶっちゃけると、製本した後に鉛筆で「ここに印鑑を押してください」といちいち書くという、そういった地味なコミュニケーションでひと手間ふた手間かかってしまうストレスもあるのではないでしょうか。
また、例えば法務担当の方はさまざまな担当の方から案件の相談があり、紙だけでのやり取りにプラスして、口頭や立ち会って時間をかけた説明が必要になるなど、コミュニケーション面でのストレスもあると思います。これは電子契約になってからも増えつつあるストレスで、解消していきたいポイントの1つだと思っています。
先ほど契約締結前の「探す手間」という話が出てきましたが、締結後のファイルの「混在」も非常に大きなストレスになっているという声をよく伺います。紙の契約書を使っている企業様が電子契約での締結を相手企業様から求められたり、逆に100%電子化を目指している企業様が相手先から紙の契約書の締結を求められたりしてしまうこともあります。
そのため紙と電子の契約書を管理する場所がどんどん増えて混在していく。それによって探す大変さも増し、ストレスを抱えていらっしゃる企業様も結構多くなってきていると感じています。
契約業務のストレスからなぜ解放されないのか?
和田:
契約業務で生じるストレスがなぜ解放されないのか。理由は大きく2つあると思っています。
1つは契約業務のプロセスについてです。ドラフトからレビュー、締結、管理まで、契約業務のプロセス自体は一本でつながっているのですが、レビューは法務の方が担当し、締結は現場の営業の方が担当する、最後の保管は多くの場合、総務の方が担当する。というように、実は各段階でプレーヤーが入れ替わり立ち替わり行っています。
プロセスごとに情報を橋渡ししなければなりませんが、立場の違う者同士で行わなければならない場合もあり、コミュニケーション不足の弊害が起こることもあります。この過程でストレスが生じるものの、先頭に立ってプロセス全部を一本化していこうというリーダーシップを持つのは結構勇気がいることです。
2つ目は、先ほどお話した電子と紙の混在に関係する話です。多くの企業様が電子化にシフトされていますが、すぐにすべての契約をデジタルに切り替えるということは難しいです。
電子化できている部分と紙の契約が残っている部分もあるというような、過渡期の企業様もあります。どこに照準を当てて契約書を電子化すれば良いのか分からない、といった感想を持たれている企業様も多くいらっしゃいます。
社内のシステム導入ハードル
山田:
まさにそのとおりだと思います。弊社は30人から40人規模の会社ですが、それくらいの規模でも何かシステムを入れるとなると本当におおごとです。「こういうシステムを入れますよ」「こういうルールでやりますよ」という全社の説明会をしても、運用が始まるとルールを守ってくれない人が結構多くいて、社内にシステムを浸透させていくのは非常に大変だと思います。導入を担当する側だけでなく、使う側も自分の仕事をしながら新しいシステムに慣れなければならず、ストレスになるのかなと思っています。
「きっと便利になるんだろう」「時間を短縮できるだろう」というふうに考えながらシステムを導入される企業様は非常に多いと思うのですが、実現には意外と時間がかかる。そのハードルがあるため、システム全体の一本化という本当に解決したいところより、目の前の課題や「誰々に何々を守らせる」といったことに取り組む場合も多いのではないでしょうか。
和田:
社内で電子化のプロジェクトを推進しにくいという壁にぶつかる企業様はありますね。また、契約締結はお相手あってのものですので、相手様が受け入れてくれるかどうか分からない、といった不安の声はよく伺います。一方で、それでも推進していこうという気概を持った企業様の共通点は、ペーパーレス化やデジタル化に対して非常に慣れているということです。
例えば、経費精算や領収証はペーパーレス化できていないのに、契約書から電子化するというのはなかなか結構一足飛びな話ですよね。まず企業様とご一緒に社内のペーパーレス化を推進しながら浸透させていくご提案はよくしています。
山田:
弊社ではクラウドで行うサービスを提供しているのですが、今までの慣れたツールから離れるということが非常にしんどい、これまでと同じプロセスで行いたいという企業様は多いのではないかと思っています。
私自身、慣れたものを使いたいタイプで、使い慣れたツールから切り替える精神的ハードルもよく感じていますので、電子化に関しても使い手の立場から見てストレスは多くあるのではないかと思っています。
また意外と各企業様で部署間のパワーバランスもあり、ある部署が「電子化が入ったほうが便利なんだけどな」と言ってくださっても、逆サイドの方から「いや、それちょっと手間だからもう止めよう」というお話があったり。
そういう場合は社内にどうやって広めていくか、というところをサポートさせていただくことも多くあります。実際にシステムを体感し、便利さを共有し、それを社内に伝えていただくといったことも行いますね。
もしかすると対外的な部分より、実は社内でお話するほうが大変で、各部署さんが意志を持ってやっていただくことが電子化を進める大切なポイントになってくるのではないかと思いますね。
早めのシステム導入がポイントになる
和田:
やはりシステム化は後回しになりがちです。なぜなら、便利さよりも面倒くささが勝つからですね。その面倒くささというところ、つまり課題感を顕在化させていくという部分は、どちらかといえば説得ではなく、改善ポイントを一緒に見つけていくというかたちで行っています。
例えば、たくさん残っている紙の契約書をどうデジタルに切り替えて保管したら良いのか分からない…という場合は、紙の契約書のまま続けていくと、どんどん溜まっていき10年後には5倍になって、もはや手がつけられない状態になってしまうため、早めに進めていったほうが良いことをお伝えします。
また、最近企業様から、電子契約化を行っていくとお取引先の負担を減らすことにもなるため、その企業とお付き合いをしていきたいといったエンゲージメントが意外と高まっていく、というお声をよくいただきます。世の中はどんどん変わっていて、電子化もどんどん進み逃げられませんので、対応は早くから行っておいたほうが良いといったようなお話をさせていただき、電子化のための課題の紐解きを企業の担当者様と一緒に行っています。
契約は相手様ありきのことですので、電子契約と紙の契約書の混在というのは正直なところすぐには無くならないとは思っています。そうなると、企業としてどのようなスタンスであるべきなのかといえば、お相手の習慣ややり方を尊重するのが大切だと思います。紙で来ようが電子で来ようが、きちんと自分たちで一元的に受けとめていく運用の仕組みがよろしいのかなと思っています。
ストレスからの解放を実現させるために「手放す」こととは?
山田:
少しドラスティックにお話しすると、Wordなどを手放すというのも本当に一つの手なのではないかと思っています。Wordファイルはすごく便利ですし、熟練の技を持っている人もいらっしゃいますが、例えば契約書でコピー&ペーストをすると条番号がずれてしまうのをチェックしたり、内容が合っているのかを確認したりする作業が必要になります。
こういったプロセスは、最後は印刷して目検で赤ペンを入れるのでしょうが、そういった作業も全部クラウドに一元化してしまうというのも一つの手なのではないかと思っています。
例えばWordで作成し、ローカルのファイルに保存してしまうとほかの人は見つけられません。「あの人に聞かなきゃ見つからない」という事態が発生し、最初にご紹介した一番の弊害である「探す手間」が生じてしまうわけです。書類が誰でも探せて誰でも見つけられる場所にあり、誰でもそれを有効活用できるようにする、というところはクラウドの非常に有用なポイントだと思ていっます。
既存のものを手放すということはすごく苦労もあると思いますし、しんどい思いもするとは思うのですが、その一歩先の効果を求めることも大切だと感じています。契約書業務の場合、過去の契約書を探したり、作成中の案件では関係部署との整合性を取ったりする際などに複数のファイルを開いて眺める必要も多くあるのではないかと思います。
クラウドサービスの活用
山田:
弊社の『LAWGUE』というサービスを使っていただくと文書作成、書類の検索などをクラウド上ですべてできます。検索では欠落している条項なども探すことが可能です。欠落している条項って結構キーになっていて、条項がズレるなどちょっとした間違いは契約に大きな影響を及ぼさないとしても、相手先に「この会社はちょっと適当だな」「このチェックはちょっとゆるいな」といった印象を与えかねません。その結果、今後の取引条件などに大きな影響が出てしまったという話もあります。
条番号のズレや内容が同じかどうかなどを確認するのは機械やAIが得意な部分ですので、思いきってまかせてしまう。自動で回せるフローがあればそちらも思いきってまかせて自動化してしまう。もしかしたら「ちょっと信用ならないな」と思われるかもしれませんが、一度手放してチェックポイント等を設け、「このチェックをすれば大丈夫だよね」というのを考えながら進めていただくことがおすすめです。そうすると案外「あれ?これめっちゃ楽じゃん」「これめっちゃ便利じゃん」と気づいたりすることも結構あるように思います。
些細なことからでも良いので、ご自身が面倒だと思うこと、ちょっとしたストレスがあることを自分の手から離し、外のサービスにまかせてみると案外見える景色が変わったり、ストレスがなくなったりして、本当にやりたいことに集中できる時間が出てくるのではないかと思っています。
過去を手放す
和田:
今の話に一つ加えるとすれば、過去を手放すということがあります。今は紙の契約書と電子契約の混在だけでなく、電子契約も企業によって使っているサービスが違うなど混在しています。3、4年前には想像もできなかったくらい、いろいろなフォーマットや形式で契約が締結され、その分管理や検索する場所も増えていく状態だと考えています。
弊社の「マネーフォワード クラウド契約」は、あらゆるフォーマットの契約書を一元管理できるというコンセプトなのですが、これを導入するときにお客様によく言われるのが「いつからやる?」「過去の契約書も移さなきゃいけないのに結構大変そうだね」ということです。私は、過去に関しては、ほぼ捨てるぐらいの勢いで早くやったほうが良いと考えています。
現在の混在状態はどんどん続いていきますので、放置しておけばおくほど探す手間は2倍、3倍と膨れ上がり、ミスやプレッシャーの素となる潜在的リスクはどんどん増えていくと思っています。どこか一つの分岐点を決め、前に進むためには「過去にこうだったから」「過去にこういうルールがあったからそこは変えられない」ということにとらわれず、契約の電子化の過渡期時代に必要な新しい取り組みにシフトしていくことが必要です。
なぜなら世の中自体がどんどんデジタル化していくからです。お付き合いしている企業様やさまざまなパートナーの方々も電子化を始めていくため、その流れと一緒に歩いていけるよう、早く進めたほうが良いと考えています。
製品・サービスのPOINT
- 法務相談-作成-申請-承認-締結-保存-管理までまるっとサポート
- 送信料・保管料がずっと0円。定額制のシンプルな料金体系
- 紙の契約書も電子契約もまとめて一元管理
おわりに
山田:
私自身も契約業務に携わることがありますので、ストレスが多い業務だと感じています。その部分を電子化やテクノロジーの力で乗り越えていくことは非常に重要だと思っています。皆様がストレスや面倒くさいことから一つひとつ解放されることによって、本当に集中しなければならない業務に集中できるビジネス環境を作っていきたいと思っています。
また、対談を通して「過去を捨てる」という言葉がとても刺さりました。ありがとうございます。
和田:
私たちマネーフォワードは働く方々の働き方を変え、人生もアップデートできるような取り組みを行っております。契約業務や契約管理はまさに過渡期であり、結構変化が強い時代ですが、変化に寄り添いながらお客様と一緒にサービスを作っていけたらと考えております。
これからの変化が多い時代でも、マネーフォワードはお客様と一緒になって変革に取り組んでいこうと考えていますので、ご不明な点がございましたら、ぜひ相談のパートナーとして役立てていただければと思います。ありがとうございます。
ITトレンドEXPO次回もお楽しみに!
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