産業医の必要性が高まっている理由
近年、産業医の必要性が高まってきています。その理由を2つ見ていきましょう。
1.労働者の健康確保強化が時代の流れ
現在、労働者の健康確保は社会的な課題となっています。職務上生じる負担が健康被害を招き、それが休職や退職、場合によっては自殺などの大きな問題につながるケースが多いためです。
厚生労働省が発表したデータによると、平成25年における動機が明らかな自殺者20,256人のうち、2,323人が勤務問題を原因としています。ほかにも経済問題や健康問題が動機として挙げられていますが、これらも勤務問題とまったく無縁とは考えづらいでしょう。
このような現状を受け、2019年4月から産業医・産業保健機能が強化されました。具体的には、直接面談や必要に応じた就業制限を行う権限、衛生委員会における発言権などが強化されています。元来産業医は、肉体的な危険に晒される従業員の健康を守る存在でしたが、今では多くの業種で従業員のケアを行う存在として重要視されているのです。
参照:平成26年度地域・職域連携推進事業関係者会議 職場におけるメンタルヘルス対策の推進について|厚生労働省
2.社員の健康管理で得られるメリットが大きい
なぜ企業が従業員の健康管理を行わなければならないのか、疑問を感じた人も多いでしょう。確かに、本来健康管理は個人が自分で行うべきという考えもあります。しかし、健康問題が業務の生産性を低下させる可能性がある以上、個人の問題として片づけるわけにはいきません。
そこで求められるのが産業医です。産業医の適切なケアによって健康を取り戻せれば、従業員は高いパフォーマンスを発揮できます。健康を守ってくれる企業に対する、エンゲージメントの向上も期待できるでしょう。
また、リスクマネジメントの観点からも産業医は重宝されます。職場の健康を守るプロであり、潜在的な労災のリスクをいち早く見つける技能に長けているからです。
このほか、産業医の存在は対外的なメリットももたらします。従業員の健康管理に注力する姿勢は、社会的に高く評価されるためです。顧客や協力企業に誠実さをアピールできます。
産業医の役割
産業医と通常の医師は、以下の点で異なります。
- 産業医
- 従業員が働けるか否かを判断する。診断・治療は行わない
- 普通の医師
- 診断・治療を行う
産業医は上記の判断をするうえで、以下のことを行います。
- ■健康診断とその結果に基づく措置
- ■長時間労働者への面接とその結果に基づく措置
- ■ストレスチェックと高ストレス者に対する適切な措置
- ■作業環境の維持管理
- ■作業管理
- ■上記以外の従業員の健康管理
- ■健康教育、健康相談、労働者の健康の保持増進のための措置
- ■衛生教育
- ■健康障害の原因調査、再発防止のための措置
また、復職時の判断も産業医が担います。普通の医師は「日常生活を送れる」という意味で復職可能と判断しますが、本当に職務を遂行できるか否かまでは分かりません。そこで、職務に関する知識も有する産業医が、復職の可否について最終的な判断を下します。
産業医の選任が必要となる条件
日本では事業場の規模(労働者数)によって産業医の選任に関する条件が変わってきます。
- 1人〜49人
- 選任義務はない
- 50人〜999人
- 嘱託産業医を選任
- 1000人〜3000人
- 専属産業医を選任
- 3001人以上
- 2人以上の専属産業医を選任
ここで言う事業場とは支社や支店などの拠点のことです。企業全体ではないため注意しましょう。
では、上記の嘱託産業医と専属産業医について詳しく解説します。
労働者50人以上999人以下:嘱託産業医
嘱託産業医とは、普段は医師として通常の職務に従事する傍ら、定期的に職場を訪れて面談や職場の巡回を行う産業医のことです。月に数回程度、非常勤の形態で産業医として活動するのが一般的です。
基本的にフルタイムで勤務する後述の専属産業医と比べ、報酬額が少なく済むのが魅力です。また、普段は普通の医師として経験を積んでいるからこそ、安心して任せられるという魅力もあります。
ただ、医師にとって嘱託産業医としての職務は副業のような位置づけになりがちです。ほかにもやるべきことがある以上、産業医としての職務に全力を注ぐのは難しくなります。
労働者1,000人以上:専属産業医
専属産業医とは、事業所と直接契約を締結し、基本的にフルタイムで産業医としての職務に従事する産業医のことです。労働者が1,000人以上の事業場には専属産業医を選任する義務が生じます。また、有害業務に常時500人以上が従事する事業場では、1,000人未満でも必要になります。
常に事業所に駐留しており、必要になった際にすぐ対応できるのが特徴です。また、普段から職場や従業員のことを見ているため細かなケアが可能です。常時職場に専門的知見を有する医師がいてくれることは、従業員にとって安心材料にもなるでしょう。
ただし、嘱託産業医より報酬が高くなります。また、一度契約すると簡単には変更できません。産業医としての姿勢に問題があったり従業員との相性が悪かったりした場合、大きな負担が生じるおそれがあります。医療の知識だけでなく、人柄やコミュニケーション能力も踏まえて適切な産業医を選任することが大切です。
産業医を見つける方法
産業医を見つけるにはどうすれば良いのでしょうか。代表的な方法を2つ紹介します。
1.医師会などに相談する
各都道府県には医師会という組織があり、ここにはその地域で活動する医師が登録されています。ここに相談することで適切な医師を紹介してもらえるでしょう。
また、自社が定期健康診断を依頼している病院に相談する手もあります。対応している医師がいるかどうかは相談してみなければ分かりませんが、もしいるならスムーズに話が進むでしょう。
ただし、これらの方法では医師との交渉を自力で行う必要があります。費用の相場や対応してくれる業務内容を、よく確認してから決断することが大切です。
また、産業医に何を求めるのかはあらかじめ明確にしておきましょう。メンタルケアに注力したいのか、業務上取り扱う有害な化学物質のリスクを減らしたいのかなど、目的によって最適な産業医が変わってくるからです。
2.人材紹介会社を利用する
人材紹介会社の中には、産業医の斡旋を行っている企業もあります。サービスに登録している産業医の中から、自社のニーズを満たす人を探してもらえるのが魅力です。
この際、価格などの条件も明確に提示してもらえます。医師会などに相談した場合交渉は自力で行わなければなりませんが、人材紹介会社が仲介してくれればスムーズに事が進むでしょう。また、無事産業医を選任した後も、人材紹介会社がフォローをしてくれる場合もあるため安心です。
ちなみに、インターネット上で見積もりを依頼できる人材紹介会社もあります。まずはそこで相場などを確認しても良いでしょう。
産業医の存在は大きい!義務に則り設置しよう
産業医の重要性は年々高まっています。労働者の健康保全は社会的な課題であるだけでなく、企業が生産性を高めるうえでも軽視できません。事業場の規模によっては、必ず産業医を選任しなければなりません。労働者数によって義務が定められているため確認しましょう。
また、産業医を見つける手段は以下のとおりです。
以上を踏まえ、産業医の設置義務を守りましょう。