ジョブディスクリプションの意味と注目される背景
まずは、ジョブディスクリプションが何を定める文書なのかを整理します。あわせて、日本企業で関心が高まっている理由や、従来の求人票・職務分掌との違いも確認しておきましょう。
職務記述書として定める内容と役割
ジョブディスクリプションは、英語の「Job Description」に由来し、JDと略されることもあります。日本語では「職務記述書」と呼ばれます。ポストの名称や目的、担う業務、権限と責任の範囲、求められる知識やスキルなどを1つの文書にまとめたものです。人ではなく「仕事」を基準に内容を定める点に大きな特徴があります。
欧米企業では、採用や配置、評価、報酬決定の土台として用いられることが多いとされます。職務の中身が明確なため、応募者は自分に合う仕事かを判断でき、上司は期待する成果を部下に伝えやすくなります。人事部門にとっても、育成計画や後任者の選定を考える際の基礎資料となるでしょう。社内の共通言語として、人事施策全体をつなぐ役割を担う文書といえます。
ジョブ型雇用の広がりで注目される理由
日本企業の多くは、職務を限定せずに人を採用し、配置転換を通じて育てるメンバーシップ型の雇用を採ってきました。一方、ジョブ型雇用は職務を先に定義し、その職務を担える人材を配置する考え方です。この仕組みを動かすには、職務を明文化したジョブディスクリプションが欠かせません。職務と処遇の対応関係を示す根拠としても使われるためです。
近年は、専門人材の獲得競争や働き方の多様化を背景に、ジョブ型の要素を取り入れる企業も出てきています。2024年には政府がジョブ型人事の導入事例をまとめた指針を公表しました。テレワークの普及で、成果や役割を言葉で共有する必要性が意識されたことも背景の一つといわれます。完全なジョブ型へ移行しなくても、一部の職種から職務記述書を整える動きも見られます。
求人票や職務分掌との違い
求人票は、採用活動のために仕事内容や給与、勤務地などを伝える募集用の資料です。職務分掌は、部署や役職ごとの業務分担と権限を社内規程として定めたものを指します。どちらも仕事に関する文書ですが、対象とする範囲や使い道が異なります。混同したまま作成すると、どの場面でも使いにくい文書になりがちです。
ジョブディスクリプションは、ポスト単位で職務と要件を詳しく定義する点が特徴です。一度作成すれば、求人票の作成や評価基準の設定、育成計画の立案にも転用できるため、文書ごとに一から作る手間も省けます。職務分掌が組織の分担を示すのに対し、職務記述書は個々のポストに求める役割を示す文書と整理すると理解しやすいでしょう。既存の職務分掌がある企業は、それを出発点に作成を進められます。
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職務記述書を整備するメリットと注意点
ジョブディスクリプションを整えると、採用や評価の精度向上が期待できます。ただし、運用の仕方によっては組織の柔軟性を損なうこともあるため、メリットと注意点をあわせて把握しておきましょう。
採用のミスマッチを減らせる
職務内容や必要なスキルが具体的に示されていると、応募者は入社後の働き方を想像しやすくなります。企業側も選考で確認すべきポイントが明確になるため、面接官による判断のばらつきを抑えられます。応募者自身が適性を見極めたうえで応募するようになる点も利点です。結果として、入社後に「思っていた仕事と違った」と感じる事態を防ぎやすくなるでしょう。早期離職の抑制にもつながる取り組みです。
中途採用や専門職の採用では、とりわけ効果が見込めます。例えば、データ分析職で扱うツールや求める経験年数を明記すれば、条件に合う人材からの応募が集まりやすくなります。人材紹介会社や社内の面接担当者と要件を共有する際の資料としても活用できます。入社後の受け入れ準備や、配属先での初期教育の内容を検討する際にも役立ちます。
評価や報酬の根拠を明確にできる
職務ごとに責任範囲や期待する成果が定義されていると、評価の基準をそろえやすくなります。何を達成すれば高く評価されるのかが本人にも見えるため、目標設定の納得感が高まります。上司と部下の間で、評価結果をめぐる認識のずれが起こりにくくなる点も利点です。評価面談で具体的な事実をもとに話し合えるようになり、昇格の基準も示しやすくなるでしょう。
報酬の面では、職務の重さや難易度をもとに処遇を決める職務給の考え方と相性がよい仕組みです。同じ等級でも担う職務によって役割が異なる場合、職務記述書があれば差をつける理由を説明できます。人件費の配分を見直す際の判断材料にもなるでしょう。社員が目指すポストの要件を確認できるため、キャリアを考えるきっかけにもなります。
業務範囲の固定化や作成負担に注意する
職務を細かく定めすぎると、記載外の仕事を引き受けにくい雰囲気が生まれることがあります。部署をまたぐ協力や急な業務変更への対応が滞れば、組織全体の動きが鈍くなりかねません。チームワークを重視してきた企業ほど、この点には配慮が必要です。導入前に、社員へ目的を丁寧に説明する場を設けるとよいでしょう。形だけの制度にしない工夫も欠かせません。
また、ポストの数だけ文書が必要なため、作成と更新には相応の工数がかかります。対策として、職務記述書に「その他、上長が指示する関連業務」といった項目を設ける方法があります。全社一斉ではなく、専門職や管理職など効果の大きい職種から始めるのも現実的です。似た職務をまとめて1つの文書で管理すれば、更新の手間も抑えられます。
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ジョブディスクリプションに盛り込む記載項目
記載項目に法的な決まりはありませんが、一般的に盛り込まれる内容はおおむね共通しています。主な項目と書くときの考え方を、職務の中身と人材要件・条件の2つに分けて紹介します。
| 分類 | 主な記載項目 |
|---|---|
| 職務の中身 | 職務名、所属部署、職務の目的、具体的な業務内容、権限と責任の範囲、成果指標 |
| 人材要件・条件 | 必要なスキルや知識、経験、資格、勤務地、勤務時間、雇用形態、報酬 |
職務名や目的、業務内容と責任範囲
最初に、職務名と所属部署、そのポストが存在する目的を記載します。目的は「組織にどのような価値をもたらすか」を1~2文で表すと、読み手が役割をつかみやすくなります。そのうえで、具体的な業務内容を重要度や業務量の多い順に並べていきます。業務ごとにおおよその時間配分を添える書き方もあります。主要な業務に絞り込むと、全体が読みやすくなります。
業務内容は「顧客対応」のような抽象的な表現を避け、何を、どの程度の頻度で行うかまで書くのが理想です。あわせて、決裁できる金額や部下の人数など、権限と責任の範囲も明記します。売上目標や処理件数といった成果指標を示しておくと、評価との連動もスムーズです。報告先となる上司や、連携する部署も記載しておくと役割が伝わります。
求めるスキル・経験と勤務条件
人材要件では、必須の条件と歓迎する条件を分けて書くことが大切です。必須条件を多く並べすぎると、応募者の幅を狭めてしまいます。資格や経験年数だけでなく、職務に必要な知識やコミュニケーション力なども具体的な行動で表すと、選考基準として使いやすくなります。要件は業務内容と対応させて書くと、根拠が伝わります。社内異動の候補者を選ぶ際にも同じ基準を使えます。
勤務地や勤務時間、雇用形態、報酬などの条件も記載しておきましょう。なお、2024年4月からは、労働条件通知書などで就業場所と業務の「変更の範囲」も明示することが求められています。職務記述書と労働条件の書面の内容に食い違いが生じないよう、確認しておくと安心です。法令の解釈に迷う場合は、社会保険労務士などの専門家に相談しましょう。
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書き方の手順と形骸化させない運用のコツ
職務記述書は、テンプレートに沿って書くだけでは現場の実態とずれてしまいがちです。ここでは、作成時に押さえたい手順と、作成後に使われなくなる事態を防ぐ運用のポイントを解説します。
職務分析で現場の実態を把握してから書く
作成の出発点は、対象ポストの業務を洗い出す職務分析です。現在の担当者や上司へのヒアリング、業務日報の確認などを通じて、実際に行っている業務と所要時間を把握します。対象者が多い場合は、アンケート形式で情報を集める方法もあります。そのうえで業務を整理し、テンプレートの各項目に落とし込んでいきましょう。担当者ごとの属人的な作業が見つかった場合は、職務として残すかも検討します。
下書きができたら、担当者と上司の双方に内容を確認してもらいます。人事部門だけで書き上げると、現場の実感と合わない記述が残りやすいためです。複数のポストで表現の粒度をそろえるには、作成ルールや記載例を事前に用意しておくと効率的に進められます。完成した文書は、社員がいつでも閲覧できる場所で共有しておきましょう。
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等級制度や評価制度と連動させて定期的に見直す
ジョブディスクリプションは、等級制度や評価制度と結びつけてこそ効果を発揮します。職務の大きさを評価して等級に位置づけ、その等級に応じた報酬や評価項目を設定する流れを整えると、制度全体に一貫性が生まれます。作成しただけで保管されている状態では、十分に活用できません。評価シートの項目と記載内容をそろえておくと運用が定着します。
事業環境や組織体制が変われば、職務の中身も変化します。年に1回の評価時期や組織変更のタイミングで見直す運用ルールを決めておくとよいでしょう。更新の担当者と承認の流れを決めておけば、改訂が後回しになるのを防げます。制度設計や職務評価を社内だけで進めるのが難しい場合は、人事コンサルティング会社の支援を受ける方法もあります。
人事評価制度の設計・運用を支援するコンサルティング
ここでは、職務記述書と結びつけて運用する評価制度などの人事制度について、設計から相談できるコンサルティングサービスを紹介します。
OGSコンサルティング株式会社の戦略連動型 人事評価制度コンサルティング
- 50〜200名規模の中小企業に特化した支援実績多数
- 経営戦略と連動した、人事評価制度・等級制度・報酬制度を構築
- 人事評価制度の深い構造理解を通じ、組織運営の「自走化」を実現
「OGSコンサルティング株式会社の戦略連動型 人事評価制度コンサルティング」は、経営戦略と連動した人事評価制度の設計から運用までを支援するサービスです。評価制度に加え、等級制度や報酬制度の設計・構築、MVV策定支援、サクセッションプラン策定にも対応しています。組織変革の3ステップにもとづいて導入を進めます。自走化トレーニングを通じて、社内で制度を運用し続けられる体制づくりを後押しする点も特徴です。
HRBrainコンサルティング
- 豊富な実績!事例を基にオリジナルな人事評価制度の構築
- 評価制度運用を支援!評価者研修など、各種研修サービスを提供
- 運用工数を削減する評価運用クラウドツールも用意
株式会社HRBrainが提供する「HRBrainコンサルティング」は、等級制度・報酬制度・評価制度の設計を中心に人事制度の構築を支援するサービスです。蓄積された支援事例をもとに、自社に合ったオリジナルの制度を提案します。運用工数の削減につながるクラウドツールとあわせて、構築から運用まで一貫したサポートを受けられます。研修サービスや規程類の作成で運用開始まで伴走し、運用中の課題や制度の見直しにも対応します。
組織・人事変革コンサルティング (マーサージャパン株式会社)
- 経営戦略と人事制度を整合し一貫性を確保。
- 人事・組織の課題に包括的に対応可能。
- グローバルな知見を活かしたコンサルティング。
コーン・フェリー (コーン・フェリー・ジャパン株式会社)
- 人材・科学・テクノロジーの独自アプローチ。
- 70億件超のデータに基づく深い洞察力。
- 戦略と人材を同期し業績向上を支援。
まとめ
ジョブディスクリプションは、ポストごとの職務内容や責任範囲、必要なスキルを定める職務記述書です。整備すれば採用のミスマッチ防止や評価の納得感向上が期待できる一方、業務の固定化や作成負担には注意が必要です。職務分析で実態を把握して書き、等級制度や評価制度と連動させながら定期的に見直しましょう。自社だけで進めるのが難しい場合は、専門家の支援も検討してください。

