セキュリティ対策疲れとは
セキュリティ対策疲れとは、企業が導入するセキュリティツールや対応すべきアラート、社内ルールなどが増え、担当者や従業員の負担が過度に高まっている状態を指します。
サイバー攻撃の高度化やクラウドサービスの普及、テレワークの定着などを背景に、企業が守るべきIT資産は増えています。それにともない、EDRやWAF、メールセキュリティ、脆弱性診断など、複数の製品やサービスを組み合わせて対策するケースも一般的になりました。
しかし、対策を追加するたびに管理画面やアラート、確認作業が増えれば、運用負荷も高まります。重要なのは対策の数を増やすことではなく、自社のリスクに応じて必要な対策を選び、無理なく継続できる運用体制を整えることです。
セキュリティ対策疲れが起こる4つの原因
セキュリティ対策疲れの背景には、ツールの増加だけでなく、アラートや管理対象の増大、人材不足など複数の要因があります。ここでは、主な原因を4つに分けて解説します。
ツール過多で管理が複雑化する
セキュリティ対策は、エンドポイント、ネットワーク、メール、Webアプリケーション、クラウドなど、対象ごとに求められます。そのため、課題が生じるたびに製品を追加していると、管理するツールが増え続けます。
製品ごとに管理画面やアカウント、設定方法が異なれば、担当者は複数の画面を確認しなければなりません。ログや検知情報も分散するため、インシデント発生時に情報を照合する手間も増えます。
また、導入時には必要だった製品でも、その後ほかのツールと機能が重複する場合があります。定期的に利用状況や役割を見直さなければ、ツール数と運用コストだけが膨らみやすくなります。
大量の通知によるアラート疲れ
EDRやネットワーク監視、クラウドセキュリティなどでは、異常や不審な挙動を検知するとアラートが発生します。監視範囲が広がるほど通知件数も増え、すべてを人手で確認するのは困難です。
重要度の低い通知や誤検知が多い環境では、担当者がアラート処理に追われ、本当に確認すべき重大な警告がほかの通知に埋もれる可能性もあります。
そのため、アラート数を減らすだけでなく、重大度や影響範囲を踏まえて優先順位を付け、対応が必要なものへ集中できる仕組みが重要です。
可視化できないIT資産やリスクが増える
クラウドサービスやSaaS、テレワーク用端末などが増えると、企業が管理するIT環境は複雑になります。事業部門が独自に利用するクラウドや、管理部門が把握していない公開サーバなどが存在するケースもあります。
管理対象を把握できていなければ、「どこを守る必要があるのか」がわかりません。また、各ツールが異なる範囲を監視している場合、企業全体のリスクを横断的に捉えにくくなります。
新たなツールを追加する前に、自社のIT資産や外部公開資産を洗い出し、どの対策でどこを守っているのか整理することが重要です。
人材不足や業務の属人化が進む
セキュリティ製品を導入しても、検知内容を判断し、必要な対応を行うのは人です。しかし、高度なセキュリティ知識をもつ人材を十分に確保できない企業もあります。
詳しい担当者へ対応が集中すると、その人が不在の際に判断が止まったり、引き継ぎが難しくなったりします。また、通常の情シス業務と兼務している場合は、アカウント管理や問い合わせ対応、端末設定などの日常業務も重なり、セキュリティへ割ける時間が限られます。
個人の知識や経験だけに頼らず、対応基準の標準化や情報共有、外部サービスの活用を含めて運用体制を整えることが重要です。
相次ぐ情報漏えいから考えるセキュリティ運用の重要性
企業への不正アクセスや情報漏えいは現在も相次いでいます。個別の事故原因とセキュリティ対策疲れを直接結びつけることはできませんが、セキュリティ製品を導入するだけでなく、継続的に監視・点検・改善する運用体制の重要性は高まっています。
イープラスで1,463件の個人情報が漏えい
株式会社イープラスは2026年9月29日、同社システムへの不正アクセスにより、顧客の個人情報1,463件が漏えいしたと発表しました。
対象となったのは、電子チケット「スマチケ」の払戻し情報を管理するシステムです。漏えいした情報にはメールアドレスや氏名のほか、対象者によって銀行口座情報や住所なども含まれていました。一方、クレジットカード情報やパスワードは漏えい対象に含まれていません。
同社は対象システムのセキュリティ設定を見直して不正アクセスを遮断したほか、管理下にある全システムの再検査やセキュリティ強化を進めています。また、セキュリティ診断の実施サイクル短縮や社内規定・管理体制の見直しも再発防止策として挙げています。
参考:弊社システムに対する不正アクセスの発⽣および個⼈情報 漏えいに関するお詫びとお知らせ|株式会社イープラス
タイムズカーでは約660万アカウントの情報が漏えい
タイムズモビリティ株式会社が運営する「タイムズカー」では、2026年9月25日にWebシステムへの不正アクセスを検知しました。同月28日の発表では、第三者に取得されたアカウント情報は約660万件とされています。
漏えいした情報は対象者によって異なり、氏名や住所、生年月日、電話番号、メールアドレス、運転免許情報、本人確認書類情報などが含まれます。9月29日の続報では、運転免許証画像などの本人確認書類が漏えいしたアカウントが約160万件だったことも公表されました。
同社は不正アクセス経路や攻撃元との通信を遮断し、その後も監視を継続しています。こうした事例からも、セキュリティ製品を導入して終わりではなく、異常を早期に把握し、影響範囲を確認して速やかに対応できる運用体制を整える重要性がわかります。
参考:「タイムズカーWebサイト」への不正アクセスに関する調査結果および今後の対応について(第3報)|タイムズモビリティ株式会社
セキュリティ対策疲れを放置するリスク
担当者の負担が高い状態を放置すると、業務効率の低下だけでなく、セキュリティ対策そのものの実効性が低下するおそれがあります。ここでは、代表的なリスクを解説します。
重大なアラートを見逃しやすくなる
大量のアラートを日常的に確認していると、1件ごとの確認が形式的になりやすくなります。重要度を適切に判断できない状態では、攻撃の兆候を示す警告がほかの通知に埋もれる可能性があります。
重大なアラートの見逃しを防ぐには、通知件数だけでなく、検知ルールや優先度設定、対応フローまで定期的に見直すことが重要です。
脆弱性への対応が後回しになる
OSやソフトウェア、ネットワーク機器などでは、新たな脆弱性が継続的に発見されます。しかし、担当者が日々の監視や問い合わせ対応に追われていると、パッチ適用や設定変更などの対応が遅れる場合があります。
すべての脆弱性へ同じ優先度で対応するのではなく、インターネットへの公開状況や脆弱性の深刻度、自社への影響を踏まえて優先順位を決めることが重要です。
担当者の退職や異動が大きなリスクになる
運用手順や判断基準が特定の担当者の経験に依存している場合、その担当者が退職・異動すると、セキュリティ体制を維持しにくくなります。
対応フローや設定内容、インシデント発生時の連絡先などを文書化し、複数人で共有しておくことが重要です。必要に応じて、外部の専門サービスを組み合わせる方法もあります。
従業員のルール疲れにつながる
セキュリティ対策疲れは、情シスやセキュリティ担当者だけの問題ではありません。複雑なパスワードルールや頻繁な認証、多くの禁止事項、繰り返し行われる研修などは、一般従業員の負担にもなります。
ルールが増えすぎると、内容を十分に理解しないまま形式的に守る状態になったり、業務を優先してルールを回避したりする可能性があります。利用者に過度な負担をかけず、安全性を確保できるルールや仕組みを設計することが重要です。
セキュリティ対策疲れを解消する方法
セキュリティ対策疲れを改善するには、単純に製品数を減らすのではなく、リスクと運用負荷の両面から現在の対策を見直すことが重要です。ここでは、代表的な改善方法を紹介します。
導入済みツールを棚卸しして役割を整理する
まず、社内で利用しているセキュリティ製品を一覧化しましょう。製品名だけでなく、監視対象、管理担当者、契約費用、利用頻度、ほかのツールと重複する機能なども整理します。
ほとんど利用されていない製品や、複数の製品で同じ機能を担っている場合は、統合や契約の見直しを検討します。ただし、製品数だけを減らすと防御範囲に抜けが生じる可能性があるため、見直し前後でどの領域をカバーできるか確認することが重要です。
アラートを集約して優先順位を付ける
製品ごとに個別のアラートを確認する運用では、ツールが増えるほど担当者の負担も高まります。ログやアラートを集約し、複数の情報を関連付けて確認できる仕組みを整えましょう。
SIEMでログを横断的に分析したり、EDR・XDRで端末や複数領域の脅威情報をまとめたりする方法があります。重要度や影響範囲に応じて通知を絞り込み、優先順位の高いインシデントへ集中できる運用を目指すことが大切です。
EDRの仕組みや機能については、以下の記事で詳しく解説しています。
ASMで外部公開IT資産を可視化する
「そもそも何を守る必要があるのかわからない」という課題には、ASM(Attack Surface Management)の活用が有効です。
ASMは、インターネットからアクセス可能なサーバやドメイン、クラウド環境などを外部視点で継続的に調査し、企業が把握していないIT資産や脆弱性リスクの可視化を支援します。
監視対象を整理すれば、限られた人員や予算を優先度の高い資産へ配分しやすくなります。特に、クラウド利用やグループ会社が多く、外部公開資産の全体像を把握しにくい企業では検討しやすい対策です。
以下の記事では、ASMの意味や基本機能を詳しく解説しています。
脆弱性診断で対策の優先順位を明確にする
すべてのシステムを同じ頻度・深さで確認しようとすると、担当者の負担は増えます。脆弱性診断を活用し、Webサイトやアプリケーション、ネットワークなどに潜む弱点を定期的に洗い出しましょう。
発見された脆弱性は、深刻度だけでなく、攻撃される可能性や対象システムの重要度、自社への影響も踏まえて優先順位を付けます。すべての脆弱性へ一律に対応するのではなく、リスクに応じて対応順を決めることで、限られた人員でも対策を進めやすくなります。
以下の記事では、脆弱性対策の進め方や運用のポイントを解説しています。
EDR・MDR・SOCサービスで監視負担を軽減する
セキュリティ担当者が不足している企業では、監視や分析のすべてを社内だけで担わないことも重要です。
EDRは、パソコンやサーバなどの端末を監視し、不審な挙動の検知や侵入後の調査・対応を支援します。さらにMDRやSOCサービスを利用すれば、アラート監視や分析、初動対応の一部をセキュリティの専門家へ委託できます。
特に、夜間・休日を含めた監視が必要な企業や、EDRを導入していてもアラートを確認する人員が不足している企業では、外部サービスを組み合わせることで運用負荷の軽減につながります。
SOCの役割や具体的な業務内容については、以下の記事で詳しく解説しています。
セキュリティ教育をわかりやすく継続する
従業員へのセキュリティ対策では、ルールを増やすだけでは十分ではありません。「なぜ必要なのか」「どのような行動を取ればよいのか」を理解しやすい形で伝えることが重要です。
標的型攻撃メールやパスワード管理、生成AI・クラウドサービスの利用など、実際の業務に関係するテーマを中心に教育しましょう。セキュリティ研修サービスを活用すれば、教材作成や受講管理、理解度確認などの負担軽減にもつながります。
以下の記事では、セキュリティ研修の目的や対象者別の内容、実施形式を詳しく解説しています。
課題別に検討したいセキュリティ対策ツール
セキュリティ対策疲れを解消するには、自社で特に負担が大きい業務や、十分に対応できていない領域を明確にすることが重要です。主な課題と、それぞれに適したツール・サービスを整理すると以下のとおりです。
| 主な課題 | 検討したいツール・サービス | 主な役割 |
|---|---|---|
| 端末の監視やアラート対応が多い | EDR・XDR | 端末や複数領域の脅威を検知・分析する |
| ログが各ツールに分散している | SIEM | ログを集約し、複数の情報を関連付けて分析する |
| 外部公開IT資産を把握できていない | ASM | 外部から確認できるIT資産やリスクを継続的に把握する |
| 脆弱性の確認や優先順位付けに手が回らない | セキュリティ診断・脆弱性診断 | システムの弱点を洗い出し、対応の優先順位付けを支援する |
| 専門人材や監視要員が不足している | MDR・SOCサービス | 監視や分析、初動対応などを専門家へ委託する |
| 従業員教育の負担が大きい | セキュリティ研修 | 教材提供や受講管理、理解度確認などを効率化する |
1つの製品ですべての課題を解決しようとする必要はありません。まずは、どの業務に負荷が集中しているのか、既存ツールで機能が重複していないかを整理しましょう。そのうえで、必要な領域に適したツールや外部サービスを組み合わせることが、運用負荷の軽減につながります。
セキュリティ対策疲れを防ぐためのポイント
セキュリティ運用を一度見直しても、IT環境や攻撃手法は変化します。対策が再び複雑化しないよう、導入後も継続的に運用状況を見直せる体制を整えることが重要です。
ツール導入時に運用工数まで確認する
製品を比較する際は、検知性能や機能数だけでなく、導入後にどの程度の運用作業が発生するか確認しましょう。アラート件数や設定変更の頻度、レポート作成、他システムとの連携、問い合わせ対応なども比較ポイントです。
高機能な製品であっても、運用に必要な人員を確保できなければ十分に活用できません。自社の担当人数やスキルを踏まえ、無理なく継続できる製品を選ぶことが大切です。
定期的にセキュリティ体制を見直す
セキュリティ環境は、クラウドサービスの追加や組織変更、新たな脅威の登場などによって変化します。一度構築した体制をそのまま維持するのではなく、定期的にツールの利用状況や監視範囲、アラート設定を確認しましょう。
契約更新やシステム更改のタイミングにあわせて棚卸しを行えば、不要なライセンスや機能の重複にも気づきやすくなります。必要に応じて統合や設定変更を行い、運用負荷が膨らみ続けない状態を保つことが重要です。
担当者に依存しない運用ルールを整える
担当者個人の経験や判断に依存すると、業務量の増加や異動・退職によって運用が不安定になる可能性があります。アラートの対応基準やエスカレーション先、インシデント発生時の手順などを明文化しましょう。
定型作業は自動化し、複数人で対応できる体制を整えるほか、必要に応じてMDRやSOCなどの外部サービスも活用します。人が判断すべき業務を絞り込むことで、担当者の負担を抑えながら安定した運用を続けやすくなります。
まとめ
セキュリティ対策疲れは、ツール過多や大量のアラート、IT資産の可視化不足、人材不足・属人化などによって、担当者の運用負荷が高まった状態です。対策を増やし続けるだけでは、重要なアラートや脆弱性への対応が遅れ、セキュリティ対策の実効性が低下するおそれもあります。
まずは既存ツールや運用業務を棚卸しし、機能の重複や負担の大きい作業を整理しましょう。そのうえで、EDR・SIEMによる監視の効率化、ASMによるIT資産の可視化、脆弱性診断、MDR・SOCによる外部支援などを組み合わせることが重要です。導入後もツールや運用体制を定期的に見直し、無理なく継続できるセキュリティ環境を整えましょう。

