BCP訓練とは
BCP(Business Continuity Plan:事業継続計画)とは、緊急時における速やかな事業復旧・継続実現を目的とした計画のことです。
事業継続計画の実効性や内容が適切かどうかを検証するために用いられるのが、BCP訓練です。議論形式で実施される訓練もあれば、実際に計画を疑似体験する訓練もあります。
必要性
2011年の東日本大震災以降、BCPの策定・運用の重要性が高まりました。日本は地震以外にも、台風や豪雨災害など自然災害が多いため、今後も起こりうる緊急事態に備える必要があります。また今後は、自然災害以外にも、新型コロナウイルスの流行などパンデミックに対する備えや訓練も求められるでしょう。
目的
BCPを策定しても、有事の際に行動に移せなければ意味がありません。BCP訓練は、主に2つの目的で実施されます。
- ・訓練を通じて従業員に必要な知識や技能を習得させ、継続により災害への意識を定着させる
- ・実際の訓練を通じてBCP対策の内容に欠陥がないか確認する
訓練によりBCPへの理解が深まるとともに、各自の役割分担も明確化するでしょう。また、机上で議論しただけでは見落としてしまう欠陥を、訓練を通じて発見できます。計画・訓練・見直しのサイクルを繰り返すことで、BCPの内容をブラッシュアップしていきましょう。
BCP訓練の種類と方法
BCP訓練の種類はいくつかあります。ここからは代表的な5つの訓練について解説します。進め方も参考にしてください。
- ・机上訓練
- ・電話連絡網・緊急時通報診断
- ・代替施設への移動訓練
- ・バックアップデータを取り出す訓練
- ・総合訓練
机上訓練
机上訓練はもっとも一般的な訓練方法です。実環境でBCPの内容どおりに動けるか、会議室などで議論します。計画書を見ながら、計画を実行するメンバーが内容を擦り合わせ、計画に問題がないか確認します。
電話連絡網・緊急時通報診断
災害時に従業員同士が適切に連絡をとれるか確認する訓練です。用意した緊急連絡網に従って、連絡がとれるか試しましょう。災害時には、緊急連絡で人員を招集できるかにより、その後の復旧対応に大きな差が出ます。
一度連絡網を作成しても、メールアドレスや電話番号が変更されている可能性もあります。最新状態への更新も訓練の目的です。
代替施設への移動訓練
災害に備えて、オフィスや工場の代替施設を用意している場合に必要な訓練です。代替施設に移動し、実際に復旧作業に取り掛かりましょう。例えば工場の場合、施設を稼働し、製品の製造や加工が可能かを確認します。
バックアップデータを取り出す訓練
緊急時に備え、バックアップデータを取り出す訓練です。復旧に使用するシステムがあれば、稼働できるか確認しましょう。同時に、普段のバックアップが適切かどうかも確認しましょう。バックアップの頻度やバックアップ先などを見直し、復旧に支障がない状態に整えます。
総合訓練
BCP発動後から復旧までの流れを一通り訓練します。近隣の企業や自治体と連携して実施するのもよいでしょう。災害時の連携を円滑にするだけでなく、自社が適切にBCP対策に取り組んでいることのアピールにもなります。
BCP訓練の進め方とポイント
BCP訓練を実施する際の進め方は以下のとおりです。
- 1.準備・計画
- BCP訓練の目標を決め訓練の種類を選定、シナリオを作成する。従業員への事前説明やシステムの準備もあわせて行う。
- 2.実施
-
- BCPの内容・シナリオに沿って各自行動する。
- 3.検証
- 訓練の結果から見えた課題や改善点をまとめる。
- 4.修正・更新
- 検証結果をもとに対策を講じる。BCPの修正・更新を行い、周知する。
ここからは、BCP訓練を計画・実施するうえでのポイントについて解説します。
従業員にBCP訓練の意味や目的を伝える
BCP訓練を実施する目的として、社内外の人物と連携する能力の養成や、非常時に使用するツールやシステムへの習熟などが挙げられます。BCP訓練の意味を理解しないまま実施しても、従業員が得るものは大きくないでしょう。訓練実施前の事前説明で目的をよく説明し、従業員に目的意識をもたせることが大切です。
ある百貨店では、東日本大震災において建物に被害を受けたにもかかわらず、ひとりの負傷者を出すことなく避難誘導できました。防災訓練を年2回実施し、パニックに陥る買い物客の誘導を想定・練習していた成果です。
普段から明確な目的をもって訓練していれば、いざというときにも臆することなく行動に移せます。
災害地や被害状況は具体的に設定する
BCP訓練の準備・計画段階におけるポイントです。災害地や被害状況は具体的に想定しましょう。「自社の工場が被害を受けた」と設定するのではなく、「A地方の地震発生により電力供給が停止、工場Bが稼働不可」のように設定します。綿密に決めることで訓練が現実味を帯び、従業員に緊張感をもたせられます。
ただし、設定にあまり時間や手間をかけすぎるのは賢明といえません。国や自治体が発表しているハザードマップなどを活用して災害地を設定するとよいでしょう。
BCP訓練後の評価は必ず実施する
訓練後には、参加した従業員が適切な行動をとれたか評価する必要があります。曖昧な評価だと問題点も曖昧になるため注意が必要です。以下の4点に分けて評価するとよいでしょう。
- ■迅速性
- 対応に要した時間
- ■正確性
- 与えられた状況を正確に整理できたか
- ■柔軟性
- 検討できた対応の数
- ■達成度
- 期待された行動をとれたか
定量的に計測できるものはできる限り数値で示し、次回以降の指標にするのが理想的です。
また、BCP訓練には、計画が実行可能か検討するという目的もあります。そのため、訓練後には計画に問題がないかも評価しましょう。計画の不備や不明点を洗い出し、より優れたものにブラッシュアップします。
BCP訓練に必要なシナリオの作成方法
BCP訓練におけるシナリオとは、災害発生から時系列に沿って事態がどのように変化するのかを設定したものです。適切なシナリオを作成することで、実際の災害を意識して訓練を実施できます。以下の順番でシナリオを作成しましょう。
- 1.骨組み
- 訓練の目的や従業員に期待する行動。訓練を通じて学ぶべき内容が明確になる。
- 2.登場人物
- 災害時に連携が必要な社内外の人物。さまざまな関係者を設定することで行動の選択肢を増やし、従業員が適切に選択する判断力を養う。
- 3.発災日時
- 曜日や時刻、季節。とるべき対応・可能な対応が異なる。
- 4.被害状況
- 本社のオフィスや工場、データセンターなど被害内容。何が使えて何が使えないのかをはっきりさせることで、とるべき対応が変わる。
はじめは綿密な設定でなくても構いません。上記4点を設定し、発災後の大まかな流れを決めましょう。
BCP訓練を実施して災害に備えよう!
BCP訓練は、災害時における従業員の対応能力を養うだけでなく、事業継続計画に不備欠陥がないかの確認にも有効です。BCP訓練を定期的に実施するとともに、訓練後の検証や改善もあわせて行いましょう。