病院におけるBCP対策とは
BCP(Business Continuity Plan=事業継続計画)とは、地震や災害、テロなどの緊急事態が発生したときに、被害を最小限にとどめ、事業の継続ができるよう対策を講じることを指します。特に緊急時における病院のBCP対策は、命に係わる重要な対策となります。詳しく見ていきましょう。
災害時でも医療提供機能を確保すること
病院がBCP対策を講じる必要性は、医療機関が災害時にも医療提供機能を確保することにあります。
災害時には、利用できる建造物やライフライン、医療機器、人員が限られます。平時よりも厳しい条件の中で医療提供機能を維持しなければなりません。また、災害による傷病者が医療機関を必要とするため、対応はより過酷になるでしょう。
そのような場合に備え、病院はBCP対策をする必要があります。これはMCP(Medical Continuity Plan)と呼ばれ、日本語では医療継続計画と呼称します。
災害拠点病院という施設もある
日本全国に750以上の災害拠点病院と呼ばれる施設があり、災害医療の中核としての役割を担っています。災害拠点病院とは以下の機能を備えた病院です。
- ■24時間緊急対応
- ■被災地の傷病者の受け入れと搬送
- ■消防機関との連携
- ■ヘリコプターを利用した重篤傷病者の受け入れ
- ■ヘリコプターへの医師の同乗・それを支援する体制
各都道府県で、数箇所・数十箇所の病院が災害拠点病院に指定されています。しかし、それでも災害時の重篤患者の治療には人手や設備が足りず、油断はできません。
参考:災害拠点病院一覧(令和3年4月1日現在)|厚生労働省
国がガイドラインを作成を促している
病院のBCP対策に対して、国がガイドラインを作成を促しています。東京都では東京都福祉保健局が「医療機関における事業継続(BCP)ガイドライン」を作成しており、一般病院向け・災害拠点病院向けのものが存在します。
この「医療機関」とは、20人以上の患者が入院可能な施設です。有事の際に、医療機関が医療機能を提供し続けるために必要な備えが書かれています。責任者の選定から行動内容の文書化など、具体的な対策方法が記されているので、これを参考に計画を立てましょう。
出典:医療機関における事業継続計画(BCP)の策定について|東京都福祉保健局
防災マニュアル(防災計画)とは実施する目的が異なる
BCPと防災マニュアルは実施する目的が異なります。防災マニュアルは、災害時に患者や従業員の安全、資源の確保を目的としたものです。一方、BCPは災害時に病院の医療機能提供を維持することが目的です。
BCPにおいても人命や資源の確保は重要ですが、それだけでなくサービスの継続を目指します。したがって、災害時に限られた人員や資源で何ができるか、どのように機能を復旧するかなども考える必要があります。
特に病院は、傷病者が増える災害時に機能することが求められるため、綿密に計画しておかなければなりません。
医療機関におけるBCP対策の現状
1995年の阪神淡路大震災や2011年の東日本大震災など、度重なる大地震や近年猛威を振るっている新型コロナウイルスの大流行など、日本において想定外の有事に見舞われるケースはこれまで幾度もありました。そのような緊急事態に際して、十分なBCP対策を講じているか否かが、スムーズな医療を提供する鍵となるでしょう。
2020年7月のNTTデータ経営研究所の調査によると、2019年4月1日時点では、ほぼすべての災害拠点病院ではBCP対策は行われている一方で、一般病院では、BCP対策を行っている病院は少ないと発表しています。
しかし災害拠点病院でも、現状想定している被害は地震災害にとどまっており、テロやパンデミックなど地震以外の災害に対する対策も想定しておく必要があるといえます。
出典:医療機関の感染症対策に関するBCPについて | NTTデータ経営研究所
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災害拠点病院や一般医療機関におけるBCP策定の方法
災害拠点病院や一般医療機関におけるBCPは、どのように策定すればよいのでしょうか。そのフローを紹介します。
- 1.災害時を想定した体制を構築する
- 2.現状の体制や対策を把握する
- 3.起こり得る被害を想定する
- 4.災害が発生したときの重要業務を決める
1.災害時を想定した体制を構築する
まず災害時に備えて、体制を整えるところからはじめましょう。具体的には、責任者とそのほかのメンバーを選定します。責任者に選ばれるのは、病院長などの権限のある人物です。そのほかのメンバーは、各部門から選定しましょう。
この時に大切なのは、メンバーの所属に偏りが生じないようにすることです。災害時には病院全体で一体となった対応が求められ、すべての部門が協力する必要があるためです。
2.現状の体制や対策を把握する
次に現状の体制を把握し、対策を練りましょう。以下のような観点から、現状の災害への備えを確認します。
- ■指揮系統
- ■人員
- ■設備
- ■資材
- ■搬送手段
- ■ライフライン
災害時の病院では、指揮系統の混乱や人員の不足、停電や断水が起こりえます。このような自体にならないように、あらかじめ現状の体制や対策で対応できるのかどうかを把握しましょう。
例えば、現状の人員やその勤務時間を把握しておくことで、災害時にどのくらい動員できるかがわかります。また、設備の数や状態(耐震化されているかなど)によって、災害時に対応可能な患者数も想定できるでしょう。これらの現状を知ることで、どのような対策をすればよいのかが明らかになります。
3.起こり得る被害を想定する
起こり得る被害を想定しましょう。どのくらいの被害が出るかを予測するのは簡単ではありません。しかし、地震など過去に発生した災害はある程度の想定が可能です。
しかし被害状況は、災害発生からの時間経過とともに変化します。例えば、災害発生直後に停止していたライフラインはやがて復旧し、医療機関が提供できる機能も増える可能性があります。
内閣府中央防災会議や自治体が検討する被害想定なども参考にしながら、予測を立てておきましょう。
4.災害が発生したときの重要業務を決める
災害が発生した際に、取り組む重要業務を選定しましょう。すべての業務を行うのは不可能なため、優先順位の高いものに絞って取り組む必要があります。通常の業務を整理し、その中から災害時にも欠かせない業務を洗い出しましょう。
そして、その業務について以下のことをまとめてておきます。
- ■必要な人員・資源
- ■目標復旧レベル
- ■復旧に要する時間
優先する業務は病院によって違います。何科の病院かによって、災害時に果たすべき役割は異なるでしょう。以下の記事では、BCPにおける目標復旧時間やその手順などについて解説しています。
病院におけるBCP策定のポイント
病院におけるBCPを策定する際は、どのような点に注意すればよいのでしょうか。
非常時に組織がどのように動けばよいか決める
非常時の組織体制について決めておきましょう。多くの場合、BCPにおける責任者には病院長が選ばれます。しかし、有事の際に病院長が院内にいるとは限りません。責任者不在の場合に、誰が指揮を執るのかも決めておきましょう。
また責任者がいたとしても、通常どおりの権限では判断が遅れるおそれがあります。迅速な意思決定や対応を実現するために、災害時には普段と異なる権限体系が求められるでしょう。
さらに、責任者の指示のもとで動く従業員の確保も欠かせません。安否確認システムの導入などにより、従業員を確保しやすい体制を整えましょう。
災害時の行動の優先順位をつける
災害時の行動に優先順位をつけ、高いものからこなしていきましょう。災害時には人員も資源も制限されるため、できることが限られます。一つひとつを確実に行うために、優先順位の高いものに絞って取り組みましょう。
ただしどのような業務を優先すべきかは、状況によって左右されます。どんなに重要な業務でも、資源が足りず遂行が極めて困難な場合は、ほかのできることから取り組みましょう。
医療機関に求められるBCPを把握し対策をしよう
病院におけるBCPは、人命に関わる重大な対応です。ただ被害を想定しガイドラインを策定するのではなく、いつ災害が起こっても対応ができるように、日々従業員への教育や訓練を欠かさず行いましょう。対策に手間取っている方は、BCP対策ソリューションを活用したり専門家に聞いてみたりすることをおすすめします。
以下の記事ではBCP対策に有効なシステムを多数紹介しています。