BCP(事業継続計画)とは
BCP(Business Continuity Plan)とは事業継続計画という意味で、自然災害やテロ、感染症流行、システム障害などの緊急時に事業を継続、または速やかに復旧する計画・対策を立てることです。日本では2011年に発生した東日本大震災をきっかけにBCPの重要性が注目されました。
またBCPにおいて、定めておくべき主な内容は以下の通りです。
- ●継続・復旧すべき対象業務は何か
- ●どの程度の水準まで継続・復旧が必要か
- ●復旧するための目標時間はどれくらいか
BCPの目的とは
BCPは単なる防災対策と異なり、「事業の継続」を目的に具体的な行動指針を示します。緊急事態が発生しても事業を途切れさせずに継続、または早期復旧を実現できれば顧客の信用を維持でき、高い評価を得られます。さらに企業価値の維持、向上につながることで、社会的信頼を得ることができます。
具体的なBCPの目的には、以下の4点が挙げられます。
- ■命と会社の損害を最小限にする
- 自然災害やテロ、システム障害、情報漏えいなどの事故、感染病流行など緊急時における危機的な状況下で、従業員の命を守ること、また企業の損害を最小限に抑える。
- ■企業の信頼性を高める
- 緊急時に復旧が早い企業の方が、企業間で取引するときにも安心できる。実際に2016年の熊本地震では、BCP対策をしている企業の復旧が早く、高い評価を得ている例が多い。
- ■資材を安定供給する
- 地震で工場や流通網がダメージを受けることで、自社だけでなく取引先などの関連会社も倒産を引き起こす可能性があるため、安定供給は必須。
- ■CSR達成による投資家へのアピール
- BCPは、食品関連企業であれば食料物資の提供や、ホテルであれば帰宅困難者の受け入れなど、災害時の社会貢献を行う側面も含まれている。非常事態の社会貢献はCSR(corporate social responsibility:企業の社会的責任)活動として広く評価され、顧客だけでなく、投資家にもよい印象を与える。
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BCPのメリット
BCPのメリットは以下の3つが挙げられます。
- ●迅速な対応で事業ダメージを減らす
- ●企業の社会的信用・評価の向上
- ●顧客の流出を防止
それぞれのメリットについて詳しく解説します。
迅速な対応で事業ダメージを減らす
自然災害やテロなどの緊急事態が発生し、事業活動が停止する期間が長くなれば損失が大きくなり、顧客が他社へ流出するリスクも高まります。そのような事態が重なれば、事業を再開する際には事業規模を縮小しなくてはならない可能性もあるでしょう。
BCPを策定し緊急事態に迅速に対応することで、上記のようなリスクを低減し事業ダメージを減らせることがメリットです。
また、BCP策定で事業縮小や倒産などのリスクを低減することで、従業員は働く場所を失う心配が少なくなり安心して働けます。
企業の社会的信用・評価の向上
BCPを策定し緊急事態でのリスク対応について整備しておくことで、取引先や投資家からの信頼を得やすくなります。緊急事態の発生により自社の事業や投資に影響が出る可能性が低減できるためです。緊急時に迅速で効果的な対応ができれば、市場での存在感を増し企業イメージの向上も期待できるでしょう。
このような要因から、BCPを策定することで企業の社会的信用・評価の向上を図れます。
顧客の流出を防止
緊急事態の発生により事業の復旧が遅くなれば、顧客が他社に流出するリスクが高まります。顧客の流出が激しければ事業再開後のダメージも大きくなるでしょう。
BCPを策定することで早期に事業の復旧が実現でき、顧客流出のリスクを最低限に抑え市場における自社のシェアを維持できます。
BCPの策定方法
BCP策定の具体的な手順は以下の4つです。
- ●BCMの基本方針を策定する
- ●事業影響度分析(BIA)を行う
- ●リスク分析を行い、戦略・対策を考案する
- ●計画書に落とし込む
それぞれの手順について詳しく解説します。
1.BCMの基本方針を策定する
BCP策定を行う最初のステップは、自社に合ったBCMの基本方針を決めることです。BCMとは「Business Continuity Management」の略であり、事業継続マネジメントのことを指します。事業継続計画の運用には計画・実行・確認・改善のプロセスがあります。この運用全体をBCM、「計画」に該当するのがBCPです。
企業によって事業内容が異なるため、BCMの基本方針も大きく異なります。以下のような点において方針を策定しておきましょう。
- ●非常時に企業が達成すべき目標や、事業継続の目的を設定する
- ●会社の経営方針やビジョン、取引先・株主・従業員との利害関係も考える
- ●BCMの運用体制(リーダー・プロジェクトメンバー)を考える
- ●BCPの基本方針策定は自然災害を想定して、対象となる事象を絞り込む(例:情報資産が重要となる企業であれば、システムが停止しないよう停電時の対策を立てる)
2.事業影響度分析(BIA)を行う
BCP対策では事業影響度分析(BIA)が重要視されます。BIAとは「Business Impact Analysis」の略であり、災害によって生じる事業の影響度のことです。
現状の体制においては、打ち出した方針や目標にどの程度到達できているのかを把握しましょう。さらに到達していない部分に注目し原因を突き止め、現状と目標の差を埋める形で、具体的な対策を立てる必要があります。
まず事業を中断することにより、時系列でどのような影響が出るか洗い出します。その次に、事業を継続するために必要な業務、支援の優先度を決めてください。優先順位が高い業務から先に復旧作業を行えば、効率よく事業を継続できるでしょう。さらに被害を最小限に抑えられるよう復旧の目標時間を設定することで、BCP対策に必要なリソースを明確にできます。
また具体的な影響や計画のシミュレーションを行えば、必要な対策の準備ができるでしょう。例えば災害時に従業員と連絡を取る際は、安否確認システムが必要です。重要なデータを保管している企業であれば、堅牢なデータセンターの活用が有効です。
BCPに必要なBIAについてさらに詳しく知りたい方は、下記の記事をご覧ください。
3.リスク分析を行い、戦略・対策を考案する
BIAを行い業務の優先順位が決まったら、その業務が中断したときのリスクを分析します。その際、考えられるすべての脅威・危険性を洗い出します。
BCPでは地震だけでなく、台風や大雨による浸水や、落雷による停電、火災・断水・通信障害・感染症流行や天候による交通麻痺もリスクに含まれるでしょう。
リスクを分析したら、次はどのように目標復旧時間を達成するか戦略を立てます。非常時に優先される業務を滞りなく行うために、必要な要素を検討するのがポイントです。例えば、重要なサービス・商品の早期復旧、中枢機能の確保や情報システムの維持が該当するでしょう。また、事業継続の妨げになるようなリスクを取り除く対策も必要です。
想定されるリスクやBCPの運用手順についてさらに詳しく知りたい方は、下記の記事をご覧ください。
4.計画書に落とし込む
BCP策定の最後のステップは、ここまで考えてきた戦略を具体的な計画書に落とし込むこみ事業継続計画書(業務継続計画書)を作成することです。計画書にはBCP以外にも、事前対策の実施計画や教育・訓練の実施計画、改善の実施計画が含まれます。
BCPは各部署で行うこともありますが、最終的には1つの企業として適切な計画になっているか判断しなければなりません。
BCPによる費用対効果の分析と評価を明確にして、事業継続計画書を作成し経営判断をします。BCPは1つの部署が単独で行うものではなく、全社員で行うものなので内容を周知しましょう。
失敗しないBCP策定のコツ
BCPを策定しても、緊急事態に活用できない内容であれば意味がありません。効果的なBCPを策定するためのコツは以下の3つが挙げられます。
- ●BCPのサンプルを参照する
- ●BCPのガイドラインを参照する
- ●社外コンサルタントにBCP策定を依頼する
それぞれのコツについて詳しく解説します。
BCPのサンプルを参照する
BCP策定をゼロから行うとなると時間もかかりますし、どのようなフォーマットで書くべきか迷うでしょう。既存のサンプルを利用して自社の状況にあわせて策定すれば、時間をかけずに事業継続計画書を作成できます。
中小企業庁ではBCP策定の運用指針を公開しており、必要項目もわかりやすく掲載されています。ほかにも製造業やサービス業など業界別にアウトプットイメージがあり、サンプルを参考にするとよいでしょう。
参考:中小企業BCP策定運用指針|中小企業庁
BCPのガイドラインを参照する
適切な事業継続計画書を作成するためには、内閣府の「防災情報ページ」に掲載されているガイドラインを参考にしてください。
自社で作成することにより、外部に依頼する費用を削減できます。もしBCPに関する内容で不明な点があれば、ガイドラインを参考にしてみるとよいでしょう。
他社の事業継続計画書を参考にするのもよいですが、内容が適切でない可能性も否めません。BCPのガイドラインは経済産業省・中小企業省なども公開しているため、策定時の参考にしてください。
参考:事業継続 知る・計画する|内閣府防災情報ページ
社外コンサルタントにBCP策定を依頼する
社外のコンサルタントにBCP策定を依頼するのもおすすめです。事業継続計画書は社内の運用・体制を整えるために作成しますが、外部に公開することも十分に考えられます。事業継続計画書は顧客や投資家が内容を確認する可能性もあるため、ミスや不適切な内容があってはいけません。
十分に知識があるコンサルタントに依頼すれば、ミスなく確実にBCPを策定できるでしょう。
しかし、依頼する際に注意することは、BCPは策定するだけではなく運用することが重要であるため、業務を丸投げしないことと、信用できるコンサルタントを選択することです。
BCPは策定するだけではなく運用することが重要であるため、必ず自社の担当者も策定に携わり実態に即した内容になっているか確認しましょう。また、事業継続計画書には自社の重要業務が優先順位と一緒に掲載されるため、企業の機密データを共有することになります。情報漏えいにも注意し、外注先のセキュリティポリシーを確認すると良いでしょう。
さらに詳しくBCPの策定の手順について知りたい方は、以下の記事をご覧ください。
実際に災害が発生した場合の流れを確認
実際に災害が発生した場合、策定したBCPをもとに以下の流れで対応しましょう。
BCP運用のポイント
BCPは策定して完了ではなく、確認と改善をしながら運用しBCP対策拡充を図ることが重要です。BCP運用のポイントは以下の4つが挙げられます。
- ●重要な事業に的を絞る
- ●具体的な行動の指示をする
- ●見直しとアップデートを行う
- ●事前に教育・訓練を実施する
それぞれのポイントについて詳しく解説します。
重要な事業に的を絞る
BCPを運用する際は、重要な中核事業に絞ることが重要です。事業継続に関わるすべてのBCP対策を行うことが理想ですが、緊急時にすべての対応は難しいでしょう。
非常時に活用できる経営資源は限られているため、最優先で取り組むべき重要事業を明確にしておきます。重要事業を絞るときには、会社全体に関わる問題と各事業に関わる問題に切り分けて考えましょう。
また、担当者レベルで重要業務を決めるのは危険性が高いため、経営者・責任者と認識をすりあわせることも大切です。
具体的な行動の指示をする
BCPでよくある失敗は、作成した計画を従業員に共有できておらず、計画どおりに行動ができないことです。運用するところまでがBCP・BCMであることを認識し、従業員全員に計画・指示内容を共有してください。
またあらかじめ従業員に、具体的な行動の指示をしておきましょう。緊急時は冷静な判断ができず二次災害の危険性が高いため、注意しなければなりません。事前に具体的な行動を指示しておくことで、万が一の事態が発生した際でも落ち着いた行動ができます。非常事態でもスムーズに対応できるように、事前に体制を整えておきましょう。
見直しとアップデートを行う
BCPを効果的に運用するためには、定期的な見直しとアップデートが大切です。担当者の異動や方針変更など社内の変化に応じていないBCPは無意味となるため、常に最新の状態を保たなければなりません。
BCPを策定した担当者が退職・異動するときに、引継ぎがされないケースも多くあります。ほかにもBCPに関する文書量が膨大になり十分な管理ができず、有効活用されないことも珍しくありません。
いつ災害が起きても問題がないように、BCPは定期更新をしてください。特に従業員の人数が増えるタイミングや、移転したとき、社内で大きな革新が起きたときには、必ず見直し・アップデートを行いましょう。
事前に教育・訓練を実施する
BCPの運用体制を整えるために、研修や避難訓練の実施も大切です。事前の実施により、非常事態でも適切な行動ができます。
しかし、何の計画もなしに研修や訓練を行うと、従業員の業務に対するモチベーション低下につながりかねません。なぜBCPの教育・訓練を行うのか、目的を共有してください。BCPの重要性を従業員が理解するだけでも、効果はあるでしょう。
また事業継続計画書だけでなく、従業員が内容を理解しやすいようなマニュアル作成も必要です。BCPにおいては、このような教育・訓練の計画も事業継続計画に含まれます。
従業員に対して行うBCP研修や訓練の具体的な方法を知りたい方は、以下の記事をご覧ください。
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いざという時のため自社にBCPを用意しておきましょう
BCPとは緊急事態に事業を継続するための計画ですが、企業の信用を高める対策としても注目されています。自社にとって重要な業務とリスクを洗い出して、非常事態に実行可能な計画を立てることが大切です。緊急事態に備えて適切なBCPを策定しておきましょう。
またBCP策定や運用に適した対策ツールやサービスについて知りたい方は、以下の記事をぜひ参考にしてください。