企業防災マニュアルの必要性
企業における防災マニュアルは、従業員の人命を最優先に守るためのものです。必要な対策や手順をまとめたマニュアルがあれば、災害が起こってもパニックにならず迅速に適切な行動が取れます。
また、従業員や会社の資産を守りつつ、被災後も事業の継続が可能です。防災マニュアルの作成は、一つの社会的責任を果たすことといえるでしょう。
ただし、やるべき防災対策は企業により異なります。汎用的なものではなく、自社専用のマニュアルが必要です。このあと解説する作り方のステップを参考に、防災マニュアルの整備をはじめましょう。
企業防災マニュアルの作り方5ステップ
企業の防災マニュアルは、下記5つのステップに沿って作成しましょう。
- ●従業員の役割分担と初動対応を明確にする
- ●備蓄品をリスト化する
- ●避難の方法と避難経路をまとめる
- ●安否確認・情報共有のための連絡網を整備する
- ●物品や情報資産を守る方法を決める
ステップごとに詳しく解説します。
従業員の役割分担と初動対応を明確にする
突然の自然災害時には、誰もがパニックに陥りやすくなります。しかし、事前に役割分担と初動対応を明確にしてマニュアルに記載することで、従業員一人ひとりが冷静に行動できる可能性が高まります。企業内の役割分担の例は下記のとおりです。
- ●リーダー・責任者:全体に指示を出す
- ●総務担当:情報の集約や外部との連絡を取る
- ●消火担当:初期消火活動を行う
- ●避難誘導担当:従業員の安全な避難を誘導する
- ●救護担当:負傷者の応急処置を行う
- ●点検担当:建物や設備の安全確認を実施する
- ●情報担当:災害情報の収集と社内への伝達を行う
あわせて、被害が拡大する前の「初動対応」を定めておきましょう。誰が何を最初にやるかがあらかじめ決まっていれば、災害発生直後の混乱を最小限に抑えられます。
備蓄品をリスト化する
災害時に必要な備蓄品をリスト化しましょう。主な備蓄品は下記のとおりです。
- ●3日分の飲料水・非常食
- ●乾電池と懐中電灯
- ●手回しラジオ
- ●ヘルメット
- ●非常用電源
- ●衛生用品
- ●救急箱
- ●簡易トイレ
- ●生理用品
- ●毛布
ただし、一度揃えて終わりになってはいけません。飲料水・非常食の賞味期限や、乾電池の使用期限などを管理する必要があります。期限を記載し、定期的に管理・更新できるようなフォーマットで作成しましょう。
避難の方法と避難経路をまとめる
従業員の命を守るためには、迅速な避難が不可欠です。避難の方法や避難経路をまとめて、防災マニュアルに記載しておきましょう。
ただし、災害時には倒壊や火災など、想定外の事態で避難経路が通れなくなることもあり得ます。万が一に備えて、避難経路は複数用意しておくと安心です。また、避難誘導の担当者も決まっていれば、避難経路の変更にもスムーズに対応できるでしょう。
安否確認・情報共有のための連絡網を整備する
災害時に、すべての従業員が社内にいるとは限りません。迅速な安否確認や情報共有が行えるよう、下記のポイントを押さえた連絡網を整備しておきましょう。
- ●すべての従業員の連絡先を記載する
- ●従業員の家族や取引先も含める
- ●電話やメール・SNSなど複数の連絡手段を記載する
なお、電話やメールを用いた手動での安否確認は時間と労力を要します。リソースが不足する災害時において、素早く確実に安否確認するためには「安否確認システム」の導入もおすすめです。一斉連絡や安否の自動集計ができるため、従業員のリソースを復旧作業に充てられます。
おすすめの安否確認システムが知りたい方は、下記の記事をご覧ください。
物品や情報資産を守る方法を決める
災害からの復旧後に事業を継続するためには、重要な物品や情報資産の保護が必須です。以下の対策を防災マニュアルに記載し実践することで、リスクを最小限に抑えられます。
- ●重要書類を入れる耐火金庫の設置
- ●PC・サーバの落下防止
- ●データのバックアップ
災害発生時には、なにも持たず速やかに避難することが求められます。そのためには、普段から情報資産の適切な管理が重要です。
下記のページでは、データの自動バックアップなどで、企業の災害対策をサポートするシステムを紹介しています。災害対策を仕組み化して、事業の継続性をより高めたい方は参考にしてみてください。
わかりやすい防災マニュアルを作る3つのポイント
「会社が作成した防災マニュアルがわかりにくい」と、従業員に評価されてしまうケースがよくあります。これから紹介する3つのポイントを押さえて、すべての従業員にとってわかりやすい防災マニュアルを作成しましょう。
「5W2H」を意識して作成する
防災マニュアルをよりわかりやすくするには、「5W2H」を意識して内容を作成するのがポイントです。ここでは一例として、大地震が発生し、オフィスから避難する場合を想定して解説します。
- ●Why(目的):オフィスからの避難
- ●What(やるべきこと):避難経路の確認と従業員の安否確認
- ●When(タイミングや手順):避難経路の確認と安否確認をすぐに行ったのち、避難場所へ移動
- ●Who(責任者や担当者):避難誘導の担当者
- ●Where(実施場所):会社の駐車場
- ●How(具体的な方法):避難誘導の担当者に従い、徒歩で移動する
- ●How many(必要な人数):オフィス内の全従業員
上記をマニュアル上で明確にすることで、突然の災害でも従業員が慌てず的確な対応を取れるでしょう。
テキストだけでなく写真・図・チェックリストを活用する
どんなに内容が網羅された防災マニュアルでも、テキストの情報のみだと読みづらさがあります。下記のように写真や図・チェックリストを活用して、視覚的にわかりやすいマニュアルを作成しましょう。
- ●避難経路は図と写真で掲載する
- ●消火設備の使用手順を図や写真で説明する
- ●個人の対応内容や備蓄品をチェックリストで記載する
例えば、大分市が公開する防災マニュアルは、図やチェックリストを活用して非常にわかりやすく構成されています。ぜひ参考にしてみてください。
参考:職場の防災マニュアル 「平時の備え」と「緊急時の対応」|大分市
定期的な避難訓練を行い内容を更新する
防災マニュアルに沿った避難訓練を定期的に行い、円滑に進まなかったポイントを従業員同士で話し合ってみましょう。避難訓練を行うことで、下記のような問題点が見つかる場合があります。
- ●避難経路が分かりづらい、もしくは間違っている
- ●避難場所の広さが足りず、従業員を収容できない
- ●防災備品が新しくなり、使い方が変わっている
- ●役割分担に退職者が含まれている
見つかった問題点を改善し、防災マニュアルを実際に活用できるレベルまで落とし込みましょう。また、入社・退職者が発生したタイミングでの内容更新も忘れずに行ってください。
防災マニュアルだけでは足りない!BCPも整備しよう
防災マニュアルは、あくまで従業員の人命を守ることを最優先に作成します。被災後も事業を続けるためには、BCP(事業継続計画)の整備も必要です。BCPの基本や、BCPに記載すべきことを解説します。
BCPは事業を継続するために必要な対策をまとめたもの
BCP(事業継続計画)は、災害発生時に企業の事業継続・早期復旧をするための計画書です。防災マニュアルにとどまらず、下記の要素を含めて作成します。
- ●多様なリスクへの対応:自然災害だけでなく、サイバー攻撃やパンデミックなどを想定
- ●事業継続の視点:コア業務の洗い出しや、早期復旧を想定した業務の優先順位付け
- ●より広範な対策:人命・設備・情報のほか、サプライチェーンなども考慮
あらゆる被害を最小限にして事業を続けるためには、防災マニュアルだけでなくBCPが必要です。
参考:事業継続ガイドライン-あらゆる危機的事象を乗り越えるための戦略と対応-(平成25年8月改定)|内閣府防災担当
BCPに最低限記載すべきこと
BCPに記載すべき内容は、企業の業種や規模などの条件により変わります。しかし、最低限下記の項目は押さえておきましょう。
- ●事業継続の基本方針
- ●被害想定や想定されるリスク
- ●事業に影響し得る重要な要素
- ●指揮命令系統や従業員の役割分担
- ●データバックアップの体制
- ●製品・サービスの供給予定(復旧予定)
- ●安否確認の方法や連絡フロー
- ●備蓄品や救命機材
- ●教育・訓練や経営層によるBCP見直しのプラン
内閣府ではBCPの文書構成モデル例を公開しているので、こちらも参考に記載内容を検討してみてください。
参考:事業継続計画(BCP)の文書構成モデル例 第一版|内閣府 防災担当
BCP対策システムの活用がおすすめ
ITシステムのBCP対策を実現するには、専用システムの活用が便利です。BCP対策システムによって、防災やBCPにおける下記の仕組みが比較的容易に構築できます。
例えば「安否確認システム」を導入すれば、一斉通知機能やデータの自動集計機能により安否確認の手間が削減できます。また、「クラウドバックアップ」を活用すれば、常に自動で最新のバックアップが保持されます。これらのシステムにより、事業の継続性を高めつつ、災害時のリソースの確保も可能です。
BCP対策システムには多くの種類があり、BCPのどの要素をシステムでカバーすべきか迷う方も多いでしょう。下記の記事では、おすすめのBCP対策システムを紹介しているので、ぜひ参考にしてみてください。
企業防災マニュアルやBCPにひな形・テンプレートはある?
防災マニュアルやBCPのひな型・テンプレートは、企業が所在する自治体で公開している場合があります。例えば東京都港区では、令和2年3月に「港区中小企業向けBCP(事業継続計画)作成マニュアル」が公開されました。マニュアルには、BCPのテンプレートも含まれています。
また中小企業庁でもBCPの様式類をダウンロード可能です。製造業やサービス・小売業など、業種別のBCPサンプルも確認できます。これらを活用しながら、BCPの作成を進めましょう。
参考:港区事業所向け防災マニュアル|港区
参考:中小企業BCP策定運用指針~緊急事態を生き抜くために~|中小企業庁
まとめ
役割分担や備蓄品、避難経路などをまとめた防災マニュアルは、災害が起こってもパニックにならず、迅速に適切な行動を取るために必要です。写真や図も活用して、従業員にとってわかりやすい防災マニュアルを作成しましょう。
被災後も事業を継続し、早期に元の状態まで復旧するためには、BCP(事業継続計画)もあわせて作成する必要があります。また、事業の継続性を高めるために、BCP対策システムの活用をぜひ検討しましょう。