BCM対策とは
BCMとは「Business Continuity Management」の略で、日本語に訳すと「事業継続管理」となります。似た言葉にBCPがありますが、こちらは「Business Continuity Planning」の略で「事業継続計画」を意味します。
BCMが事業計画に関する活動全般を指すのに対し、BCPはその一部である計画段階だけを指す言葉です。BCPで計画を立てても、それは書類上の計画に過ぎません。実際に災害に直面した際に、その計画を円滑に遂行することが大切です。BCMではBCPの内容を社内で浸透させ、必要な備えを行うことを目指します。
BCP対策について知りたい方は、以下の記事をご覧ください。
BCMの構築ステップ
では、BCMはどのように構築していけばよいのでしょうか。6ステップに分けて解説します。
1.BCMの基本方針の策定
初めに、災害時に求められる自社の役割や、自社にとって重要な事項を明確化します。具体的には以下のことを整理しましょう。
- ■経営方針
- ■事業戦略
- ■ステークホルダーとの関係
- ■社会から自社への要求
これらの情報を基に、BCMにおける基本方針を定めましょう。「人命最優先」「顧客への商品提供体制維持」「地域社会への貢献」などの方針が考えられます。そして、実際にBCMを行うための実施体制を整備します。関係部門から担当者を選出してBCM管理事務所を立ち上げるなどしましょう。
2.影響度の分析・検討
災害時に自社の各業務がどのような被害を受けるのか考えましょう。具体的には以下の観点から各事業が停止した場合の影響度を定量的に想定します。
- ■利益・売上
- ■顧客への影響
- ■従業員の雇用や福祉
- ■法令、条例など
- ■顧客、取引先からの信頼性
次に、想定した影響度から重要業務を洗い出します。重要業務とは、災害時に優先的に復旧・維持する業務のことです。そして、各重要業務の目標復旧時間や目標復旧レベルを定めます。
さらに、重要業務に必要な資源を洗い出し、ボトルネックを定めます。ボトルネックとは、確保が遅れると事業の復旧が停止してしまう資源のことです。
正しくボトルネックを把握するために、災害規模やそのリスクを分析しましょう。その分析結果を踏まえて、ボトルネックの確保にどのくらいの時間がかかるのか考えます。その時間が、実際の事業復旧に要する時間に直結します。
3.組織の中核となる事業継続戦略・対策の検討
この段階では、前のステップ2で明らかにしたボトルネックの確保時間と、ステップ1で挙げた目標復旧時間の間に差があります。この差を縮め、目標復旧時間内に事業を復旧する方法を考えましょう。具体的には、ボトルネックについて以下の2つを考えます。
- ■想定される被害を最小限に抑える方法
- ■確保・利用できない場合の代替手段
たとえば、事業継続のために電気を使えるオフィスが欠かせない(ボトルネックである)ケースを考えましょう。この場合、被害を抑える方法には予備電源の設置などがあります。それと同時に、別の場所に予備のオフィスを用意しておくなどの代替手段も確保しましょう。
4.対策を踏まえ計画を策定
これまでに定めた対策を基に計画を策定する段階です。以下の4段階に分けて計画を立てましょう。
- 1.BCP
- 指揮命令系統を決め、それに従った災害時の対応手順をマニュアル化します。安否確認などの初期対応から、BCP発動後に行う取引先との連絡や情報発信などの手順を明らかにしましょう。
- 2.事前対策計画
- 災害に備えて普段から行うことを計画します。対応拠点や事業継続の代替手段の確保、データのバックアップなどが該当します。
- 3.訓練計画
- BCPが有事の際に円滑に発動・遂行されるための訓練計画を立てます。定期的な訓練の実施や対象者などを定めましょう。
- 4.更新計画
- 指揮命令系統や取引先の変更などに伴って計画を更新しなければなりません。どのタイミングで更新するのかを定めます。
5.緊急時に備えた教育・訓練の実施
前のステップで定めた訓練計画を実行する段階です。BCM管理事務所の役割は計画を立てるまでが主ですが、その後は社内で訓練が適切に行われているか管理しましょう。具体的には以下のことを目指します。
- 問題点の洗い出し
- どれほど綿密に計画を立てても、実践すると抜け漏れが見つかることがあります。訓練を通じてそれを発見し、計画をブラッシュアップしましょう。
- 知識の体得
- 知識は、単に頭で知っているだけでは活用できません。従業員に実際に体験させることで生きた知識として定着させます。データバックアップなどの日常的な対策のほか、非常時にのみ使うツールの操作習熟などを目指しましょう。
- 従業員の判断力向上
- 実際に災害が起きたときには、経営者の指示を従業員全体に行き渡らせることが困難です。その場合、従業員が自らの判断で動くことが求められます。そのために必要な知識や判断基準を身につけさせ、判断力を養いましょう。
6.継続的な見直し・改善
見直しや改善も計画に従って継続的に行う必要があります。以下の手順で確認しましょう。
- 1.問題点の洗い出し
- BCPを実行した結果、本当に目標復旧時間を達成できるのか検討します。事前対策や日ごろの訓練をテストし、実際の災害に耐えうる状態であるか確認しましょう。また、自社の生産設備や顧客・取引先との関係性など、自社を取り巻く環境に変化がないかも確かめます。
- 2.経営者と議論すべき内容があるか確認
- 自社事業や経営環境については、BCM管理事務所だけでは判断しかねることもあります。その場合は経営者と議論し、判断を仰ぎましょう。
- 3.計画の改善
- 洗い出した問題点のうち、経営者の判断が必要ないものは直ちに改善しましょう。経営者の判断が必要なものも、指示を受け次第随時改善していきます。
BCMを用いた経営手法「BCMS」とは
BCMS(Business Continuity Management System)とは「事業継続管理システム」のことで、BCMを適切に行う一連の流れを指す言葉です。具体的には、BCM方針の決定から計画策定、実行、見直しなどのサイクルを継続的に管理する仕組みを示します。
BCMは、いつ訪れるか分からない災害への備えとして行うものです。そのため、短期的な努力では意味がなく、継続する体制が求められます。BCMSではBCMの運用と経営を一体化した形でとらえ、風土として社内に定着させることを目指します。
BCMSのメリット・デメリット
BCMSにはどのようなメリット・デメリットがあるのでしょうか。
メリット:事業継続能力の向上
BCMSでは継続的なBCMの見直しや改善を図ります。その結果、災害時の対応能力を向上させられるのがメリットです。
災害への備えは、一度行っても時間と共に知識や意識が薄れていきます。どれほど丁寧に計画を立てても、実際に災害が起きれば大きな混乱が生じ、適切な対処ができなくなるでしょう。
BCMSで持続的な努力をすれば、常に社内で災害への対策を意識づけられます。計画も新しい状態に保たれ、高い有効性を維持できます。いざというときに自社が落ち着いて対処可能なだけでなく、顧客や関連企業からの信頼性も向上するでしょう。
デメリット:目的の曖昧さによる機能不全
BCMSを適切に継続するには、BCMの目的を明確化しなければなりません。なぜなら、BCMを評価・改善するためには、どの程度目的を達成できているかを考える必要があるためです。ところが、実際には計画を立てること自体が目的化しているケースが少なくありません。
このようなBCMの機能不全を防ぐには、以下の点に留意しましょう。
- 文書化が目的ではない
- 目的は計画を立てて文書化することではなく、災害時に適切な対応ができる体制を維持することです。定期的な訓練や見直しをしなければ意味がありません。
- 引き継ぎを考慮する
- BCM策定に関与しなかった人物が新たに担当者になる場合、引継ぎ時に気を配りましょう。引継ぎがうまくいかないと、訓練や見直しなどの継続的な努力がそこで途絶えてしまいます。
- 簡易マニュアルを用意する
- 緊急時に分厚い書類を読む余裕はありません。簡易的なマニュアルやチェックリストなどを用意しましょう。
BCM対策を実施し、緊急事態に備えましょう
BCM対策の構築方法やBCMSについて解説しました。事業の継続は企業にとってかかせませんが、いざその場面にならないと必要性がわからないという方も多いかと思います。しかし、地震や台風などの災害だけでなく、事故が起こってしまう可能性もあります。いざとなった時に対応するのではなく、予めBCM対策をたて緊急事態に備えましょう。