電子カルテの普及率
近年、医療現場において電子カルテの普及率が向上しています。しかし、無床クリニックや大病院など、規模によって普及率には違いがあります。ここでは、普及率の推移や普及状況について解説します。
電子カルテ普及状況の推移
電子カルテの普及状況は、厚生労働省が医療施設調査で公表しています。令和5年(2023年)の調査では、一般病院の電子カルテ普及率は65.6%でした。令和2年の57.2%、平成29年の46.7%から上がり、半数を超えています。病床規模別では、400床以上で93.7%、200~399床で79.2%、200床未満で59.0%です。規模が大きい病院ほど、普及が進んでいます。
一般診療所の普及率は55.0%です。令和2年の49.9%、平成29年の41.6%から上がっていますが、病院と比べると低く、規模や形態による差が残っています。
さらに新しい数字として、社会保険診療報酬支払基金が2026年6月にアンケートを実施しています。医科診療所の電子カルテ導入済みは72.6%で、回答71,616件のうち51,985件でした。病院は、20~199床で73.5%、200~399床で86.0%、400床以上で94.4%です。なお、医療施設調査とは調査の対象や方法が異なるため、数字を単純に比べることはできません。
電子カルテが普及しない理由
小規模な病院や無床クリニックでは、電子カルテの普及率は上昇傾向にあるものの、規模による差が残っています。日本医師会は2025年4月18日~6月1日に、紙カルテを使う診療所へ調査を行いました(有効回答5,466件)。この調査では、54.2%が電子カルテの導入は「不可能」と回答しています。この割合は、高齢の回答者ほど高くなっています。導入できない理由は3つまで選べる形式で、「ITに不慣れ(操作に時間がかかる)」「導入費用が高額」「導入しても数年しか使用する見込みがない」が多く挙がりました。
普及が進まない理由のひとつは、システム導入コストの負担です。従来の電子カルテでは、院内にサーバや専用機器の設置が必要でした。電子カルテ導入には、システム構築も含め多大なコストがかかります。
また、電子カルテはメンテナンスや法改正によるバージョンアップ、システム障害時の対応など、運用に大きな手間が発生します。電子カルテ運用の担当者が必要なため、人員の確保が困難な点も普及しない理由のひとつでした。
しかし近年では、クラウド型電子カルテなど導入コストが安価で、メンテナンスも院内で実施しなくてもよい製品が登場しています。そのため、小規模な病院や無床クリニックでも電子カルテの導入が加速すると考えられるでしょう。
国が目指す普及の目標
国は、電子カルテの普及について目標を示しています。2023年6月の工程表では、遅くとも2030年には概ねすべての医療機関で、必要な患者の医療情報を共有するための電子カルテの導入を目指すとしています。
また、令和12年(2030年)12月31日までに電子カルテの普及率を約100%にすることが、政府が実現すべき目標として法律で定められています。さらに、電子カルテの情報を共有する国のサービスは、令和8年度の冬ごろに全国で使える状態にする案が示されています。
2026年3月31日には、医科診療所向けと中小病院向けの「標準仕様書(基本要件)第1.0版」が公表されました。電子カルテを選ぶ際の見方は、電子カルテの選び方の記事も参考にしてください。
電子カルテの課題
電子カルテは、運用やコストの負担が大きな課題といわれています。ここでは、電子カルテの課題と解決に向けた取り組みを紹介します。
運用負担が大きい
電子カルテは、スムーズな業務ができるように運用しなければいけません。定期的なメンテナンスやシステムバージョンアップが求められます。また、万が一システム障害が発生した場合は、対応する必要があります。システム停止などのトラブルが発生してしまうと、さまざまな業務に影響を及ぼすでしょう。そのため、電子カルテの運用負担は大きく大変といわれています。
日本医師会の調査では、導入できない理由として「ITに不慣れ(操作に時間がかかる)」が多く挙がっています。操作を覚える負担も、運用面の課題です。操作性の見方は、使いやすい電子カルテの選び方の記事も参考にしてください。
しかし近年では、メンテナンスやバージョンアップ、トラブル対応なども提供会社において実施する製品が増加傾向にあります。専門知識も不要で、電子カルテの運用における負担は大幅に軽減されているといえるでしょう。
コストがかかる
電子カルテの導入コストは、製品購入費用やサーバ構築代など高額な場合が多く、小規模な医療機関では導入が困難でした。また、電子カルテに対応したパソコンなど端末導入費もあわせて発生します。費用対効果が予測しづらく、コスト面は課題です。
国の標準仕様書では、オプション機能の価格を含む電子カルテの価格をベンダーが自社のWebサイトで公開していることが、要件に含まれています。医療機関が価格を比べやすくする狙いがあります。
しかし、クラウド型電子カルテなどでは、初期費用が安価で既存のパソコンを利用できる製品が多く登場しています。無料プランのある電子カルテもあるため、少額なコスト負担で利用できます。
検索機能が弱い
従来の電子カルテでは、情報量が多いため、必要な内容を確認したい時に見つけられないケースがありました。
近年の電子カルテは、検索機能が強化されているため、情報を探しやすいといえます。ふせん機能では、重要と判断した情報にタグ付けが可能です。AI(人工知能)が搭載された製品では、学習機能でよく利用する文章や処置内容を登録できます。
情報漏えいやシステム停止の危険性がある
カルテに入力されている情報は個人情報が多く、流出の不安がありました。データの消失におけるリスクもあるでしょう。情報漏えいの課題解決のために、電子カルテの提供会社では、セキュリティ対策の強化をしています。国際規格のセキュリティ対策を取得している電子カルテなどもあるため、従来に比べ対策が進んでいます。
一方で、医療機関を狙ったサイバー攻撃も起きています。2022年には大阪急性期・総合医療センター(大阪府)で、外部ネットワークとの接続点(保守用VPN)から侵入され、暗号化によりシステムが停止しました。通常診療に戻るまで1か月以上かかっています。2026年には日本医科大学武蔵小杉病院(神奈川県)でも、同じく外部ネットワークとの接続点から侵入されました。患者の氏名・住所を含む約13万人分の個人情報などが漏えいしています。
国の標準仕様書では、日次バックアップなどにより、障害が起きた時点まで復旧できることを求めています。バックアップからデータを戻す手順を、文書にするか自動化しておくことも要件です。
ベンダーごとの仕様が異なり、データ連携や移行が難しい
電子カルテは、ベンダーごとにデータの規格が異なり、別の製品へデータを移したり、他のシステムとつないだりする際の手間やコストが課題とされてきました。中小病院向けの標準仕様書でも、データの引継ぎや連携の規格が製品ごとに独自になっていると説明されています。そのため、他の製品に乗り換えにくい状態(ベンダーロックイン)になりやすい点も課題です。
そこで標準仕様書では、電子カルテを乗り換える際に、移行前後のベンダーを問わず使えるデータ移行のレイアウト例を示しています。
電子カルテ導入のメリット
電子カルテは、現場での課題に対して対策している製品が多く登場しています。電子カルテを導入すると、情報の管理や業務効率はもちろん、診療の精度向上などさまざまな効果を実感できるでしょう。ここでは、電子カルテ導入のメリットを紹介します。
情報共有の円滑化
電子カルテの導入でペーパーレス化されるため、物理的な管理が不要になるでしょう。必要な情報の確認の際は、カルテを探しに行かなくとも検索するだけで閲覧できます。また、転院の場合などでは、患者の症状や処置履歴を他の医療機関とスムーズな共有が可能です。
診療内容の精度向上
電子カルテの活用で、患者の診断・処置内容を正確に把握できます。治療履歴をひとつの画面に表示させながら診察できるため、丁寧な診療につながるでしょう。紙カルテの場合は、劣化で読みにくい場合や膨大な診療履歴をすべて確認するのは困難な場合もあります。電子カルテの活用で、スピーディーで適切な処置が実現するため、診療精度が向上するでしょう。
業務の効率化
電子カルテの導入でカルテ作成が効率化します。紙カルテの場合、詳細情報を漏らさず記録するには、整理しながら手書きで対応するため、時間を要するでしょう。また、カルテの劣化や記入の仕方が担当者により異なるなど、読解が困難なケースもあります。電子カルテは、用意されたテンプレートへ入力やよく使用する言葉などを活用できるため、簡単にカルテ作成が可能です。また、誰が作成しても読みやすいといえます。電子カルテの活用は、情報整理の時間が大幅に短縮できるため、業務効率化につながるでしょう。
電子カルテは、他にもさまざまな機能によりメリットがあります。以下のページでは、製品の特徴を比較しているため、電子カルテ導入の参考にしてください。
課題を克服した電子カルテが登場している
インターネット環境があればどこでも利用できるクラウド型電子カルテには、在宅医療でも使いやすい製品があります。電子カルテはタブレット端末で利用できる製品も多く、紙カルテの持ち出しや、往診先で記入をする必要はありません。
また、従来の電子カルテではコストや運用負担の課題が問題視されていました。しかし、近年の電子カルテは、初期導入費用が安価で、メンテナンスやアップデートも提供会社が対応する製品が多くあります。電子カルテ運用担当者の人員を配置する必要がないため、小規模な病院や無床クリニックでも、利用しやすいといえるでしょう。
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電子カルテの課題に関するよくある質問
- Q1:電子カルテの主な課題は何ですか?
- 運用の負担、コスト、検索機能の弱さ、情報漏えいやシステム停止の危険性、ベンダーごとの仕様の違いによるデータ連携や移行の難しさです。クラウド型など、課題に対応した製品も増えています。クラウド型の製品は、クラウド型電子カルテの比較記事で比べられます。
- Q2:電子カルテの普及率はどのくらいですか?
- 令和5年の医療施設調査では、一般病院が65.6%、一般診療所が55.0%です。2026年6月の社会保険診療報酬支払基金のアンケートでは、医科診療所の導入済みは72.6%でした。調査が異なるため、数字は単純に比べられません。
- Q3:電子カルテが普及しない理由は何ですか?
- 日本医師会の2025年の調査では、「ITに不慣れ(操作に時間がかかる)」「導入費用が高額」「導入しても数年しか使用する見込みがない」が多く挙がりました。
自院にあう電子カルテ導入で効果的な活用をしよう
電子カルテは、コストや運用の負担が大きく、情報の検索やセキュリティ面などさまざまな課題がありました。そのため、小規模な医療機関では電子カルテの普及が進みませんでした。しかし近年は、安価なコストでメンテナンスも対応し、情報を管理しやすい電子カルテが多く登場しています。国が2030年までの導入を目指しているため、今後も普及が進むと考えられます。
さまざまな電子カルテがありますが、自院にあう製品を導入すれば、業務の効率化が実現します。電子カルテの特徴を比較し、業務改善に役立ててください。

