経営戦略を立案するためにはどうすればよいのか
自社が置かれた経営環境を分析し、今後の経営方針を導き出す経営戦略。みなさんが、会社の経営戦略を立案する立場になったとき、何から手を付ければよいでしょうか。そんな時に、考え方のフレームワークを提供してくれるのが、経営分析手法です。経営分析手法は経営戦略を立案するためのツールと位置付けられます。経営戦略に基づく、事業戦略や商品戦略、販売戦略、マーケティング戦略を立案するためにも経営分析手法が用いられることがありますが、あくまでベースは経営戦略と考えてよいでしょう。そこで、経営分析手法について解説する前に、経営戦略の立案方法についておさらいしておきましょう。
1.経営環境の分析
自社が置かれている経営環境を分析することが、経営戦略の最初の一歩です。経営環境を把握しないと、今後会社が進むべき方向性を導くことはできません。自社が置かれた環境を分析するためには、自社内の状況や、自社の外部の環境をいろいろな角度から分析しなくてはなりません。会社の大小に関係なく、経営戦略を立案するためには、経営環境を漏れなく正確に分析することが極めて大切なことなのです。
2.経営方針の策定
経営環境の分析が出来れば、その結果に基づき経営方針を立案します。経営方針に基づき、会社は事業を展開していくことになるため、経営者にとって最も重要な業務であるともいえるでしょう。経営方針は、経営環境分析で明らかになった競争力の源泉となる自社の強みや、ビジネスチャンスと思える事業分野を盛り込みながら策定します。たとえば、「自社が培ってきたシステム提案力を活用しながら、今後の成長期待の高いAI分野への参入を図る」のように、経営環境分析で判明した要素を盛り込むと、説得力が高く、納得性が得られやすい経営方針が策定できるでしょう。
経営環境分析に使える経営分析手法とは
このように、経営戦略の立案は、大きく分けて2つのフェーズに大別されます。そして、経営戦略に使える経営分析手法も2つに大別されるのです。そこで、まずは経営環境分析に使える経営分析手法から解説していきます。
SWOT分析
経営戦略を立案するうえで、最も基本的かつ重要な経営分析手法がSWOT分析です。経営戦略はSWOT分析を軸に進めていくといってもよいでしょう。重要な分析手法であるSWOT分析ですが、決して難しいものではありません。SWOTの頭文字である、自社の強み(Strength)と弱み(Weakness)を明確にし、外部環境となる機会(Opportunity)と脅威(Threat)を洗い出すだけです。
ただし、SWOT分析を進めるうえでは主観が入りすぎないように注意して下さい。経営者が強みと捉えている要素は、他社から見ると競争優位を築く要因にはならないかもしれません。SWOT分析は、客観的な視点で進める必要があるのです。
PEST分析
SWOT分析でおこなう内部環境分析であれば、自社のことなので漏れなく分析することは難しくないかもしれません。しかし、外部環境分析は把握するべき調査項目も多く、何の考えもなく進めては漏れも発生し、不要な調査に時間をかけることになるかもしれません。PEST分析は、SWOT分析でおこなう外部環境分析を、マクロ環境に着目して確実におこなうための分析手法です。Politics(政治)、Economics(経済)、Society(社会)、Technology(技術)の各要素ごとに状況を把握します。できる限り、政府機関や民間の調査機関が公開している調査レポートを参考にすると、効率よく情報を入手できます。
5Force分析
SWOT分析でおこなう外部環境分析を、ミクロ環境に着目して漏れなく確実におこなうための分析手法が5Force分析です。5Forceとは、「売り手」「買い手」「新規参入業者」「代替サービス」「競合他社」の5つの要素のこと。自社と密接にかかわる取引先や競合先との関係性を整理することで、参入障壁や競争優位を築くことの必要性や、ビジネススキームを見直すきっかけを見出しやすくなります。
経営方針の策定に使える経営分析手法とは
経営戦略の立案は、経営環境分析だけでは不十分です。そこから、自社が今後進むべき方向性を明らかにし、経営方針を打ち立てなければなりません。経営方針があれば、より具体的な事業戦略や部署ごとの戦術の立案ができるようになります。ここでは、経営方針の作成時に使える経営分析手法について解説します。
クロスSWOT分析
ただ単に環境分析をおこなうSWOT分析から一歩進み、分析結果から経営方針を導くための分析手法がクロスSWOT分析です。クロスSWOT分析は、強みと弱みという2つの内部環境と、機会と脅威という外部環境を掛け合わせ、4つの象限に分けて、今後の方針を考えていきます。クロスSWOT分析には、自社の強みの活用や弱みの克服により、どのような事業領域をターゲットとするのかを、検討しやすいというメリットもあります。SWOT分析だけでは終わらせず、クロスSWOT分析までおこない、納得性の高い経営方針を導き出すようにしてください。
アンゾフの成長マトリクス
経営環境の分析結果により、まったく新しい新規事業を進めるべきでしょうか、それとも既存の顧客との関係性を強化するべきなのでしょうか。今後の経営の方向性を導くフレームワークを提供してくれるのが、アンゾフの成長マトリクスです。このマトリクスでは、「市場」と「商品・サービス」をそれぞれ「既存」と「新規」に分けて、「市場浸透戦略」「新市場開拓戦略」「新商品開発戦略」「多角化戦略」という4つの戦略に分類します。アンゾフの成長マトリクスは、自社が置かれている経営環境を考慮に入れながら、最適な経営の方向性を見いだすために、ベースとなる考えを与えてくれます。
PPM分析
PPM分析は、複数の事業を展開する大企業が、注力する事業を選別するために有効な分析手法です。PPM分析では、自社が持つ事業を「花形」、「金のなる木」、「問題児」、「負け犬」の4つの象限に分類して整理します。市場の成長率が高い「花形」に位置づけられる事業は、一見すると派手で場合によっては企業の主力事業にもなっています。しかし、成長期待が高いだけに参入企業も多く、競争優位を築くために商品開発やプロモーションで莫大な費用が掛かっているものです。成長期待が高い市場で下位に甘んじている「問題児」ではなおさらです。事業が「花形」や「問題児」に偏っている企業は、資金が枯渇しやすく、場合によっては存続が難しいこともあるでしょう。ましてや「負け犬」に位置づけられる事業は、市場からの撤退も視野に入れなくてはなりません。
成熟化し、参入企業も少ないながら、市場における占有率が高い「金のなる木」の事業なくして、企業の長期的な成長は見込めません。AIへの莫大な投資を続けるGAFAなどのIT系企業も、SNSやスマートフォンといった「金のなる木」があるからこそ実現しているのです。将来の「金のなる木」になる事業を見極めながら、投資する事業を選別する必要があるといえるでしょう。
積極的に使っていきたい経営分析手法
経営分析手法は、一見すると難しそうで、敬遠している方も少なくないでしょう。しかし、経営分析手法を効果的に活用することで、説得力があり納得性の高い経営戦略を導くことが出来ます。変化の速い厳しい経営環境の中で競争に打ち勝つために、積極的に経営分析手法を活用してみてください。