経済活動の記録は古代エジブトの時代から歴史に残されています。ギリシャやローマ時代を経て、ルネサンスを迎えたイタリアのベニスで複式簿記が完成しました。商人が複数で商船を仕立て船出させ、貿易を終えて帰港した資産を公平に分ける必要性から生まれたとされています。やがて産業革命を経て、企業規模が拡大し、ビジネス活動が活発化したことから企業会計が生まれます。
日本の江戸時代には大福帳が使われていました。明治以降、西洋から複式簿記が伝わり、近代的な企業会計の仕組みを取り入れていきます。1949年には企業会計原則が公表され、企業はこれにのっとって会計処理することになります。
日本でコンピュータの歴史がはじまったのは1960年代から1970年代のころのことで、当初は汎用コンピュータという大型の機械でした。このコンピュータで企業の根幹となる業務がシステム化され、販売や製造とともに、経理システムも構築されました。
1980年代にはオフィスコンピュータが販売され、大企業以外でもコンピュータの導入が進みます。経理業務にも広く使用されるようになりました。さらに、1980年代後半には低価格なパソコンが提供され、小規模な企業でも使用できる経理ソフトも開発されました。
会計は企業の重要な基幹業務であり、他のシステムからデータを収集し、財務会計として最終的にまとめ上げる位置付けにあります。しかし、これらシステムはそれぞれに独立しており、二重入力の必要がありました。時間もかかり、正確性の維持にも大きな負荷がありました。
これを解決する手段として登場したのが、ERP(Enterprise Resource Planning)です。企業における経営資源(ヒト・モノ・カネ)の総合的な管理と最適化を計画するシステムです。基幹業務のシステムが統合され、会計ソフトは中核モジュールとして採用されました。
企業にとって財務管理は非常に重要な事柄です。その一方で生産性の高い業務ではないため、できるだけ実務作業は短時間に終わらせたいものですし、正確でなければなりません。ここではエクセルなど、会計ソフト以外のソフトを使って会計を行っている企業が直面しているさまざまな課題を紹介していきます。
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■課題1.必要なデータ呼び出しや帳票作成ができない
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さまざまな判断を行う時、予算は欠かせない判断要素となりますが、それを把握するために必要なデータや帳票はその都度違ってきます。ところが適切な会計ソフトを導入していない場合、肝心のデータをすぐに取り出せないことがあります。その場合、呼び出し可能なデータを自分で組み合わせて必要なデータを作成し、帳票化する必要があり、時間がかかる上、ミスの原因にもなります。
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■課題2.各拠点で入力や管理を行い、全社統合データ作成のため再入力が二度手間
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例えば営業所ごとの独立会計性を採用している場合、それぞれの会計ファイルを作成していても、その連携がなされていないケースがあります。そのため全社的な会計把握をするためには、各セクションからデータを収集した後、別のシステムに再度入力を行う必要があり、時間と労力のムダが発生しています。
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■課題3.各拠点で配賦基準が違うため各部で独自ファイルを作成し担当者しか操作できない
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各セクションによって配賦基準が違うために、それぞれが表計算ソフトを駆使して会計を行っているために、担当者が変わると操作できなくなったり、担当者が不在時に必要なデータが取り出せないなどのトラブルが発生します。
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■課題4.会計状況をタイムリーに把握できない
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予算は日々使用されたり、新たな用途が決定されたりしていますが、その入力を各セクションで行っていて連携されていない場合、全体をタイムリーに把握することが難しい状態にあります。
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■課題5.不確定要因を織り込めず、予算管理がしづらい
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業務を行う際には不確定要因が多くあります。ところが会計ファイルに確定事項しか入力できないことで、予算管理や計画立案には別の方法を使わなければならないケースがあり、不便な状況に陥ります。
※会計ソフト導入前の課題に関しては、以下の記事にて詳しく解説しています。
会計ソフトで解決できる課題と導入メリット
会計ソフトの基本的な機能
上記の課題は、適切な会計ソフトを導入することにより解決できます。では具体的に、どういった機能が、どのように解決していくのかを見ていきましょう。
会計ソフトは、「仕訳」を入力することで「売掛金台帳」や「買掛金台帳」、「総勘定元帳」などの帳簿を自動作成してくれるソフトです。紙ベースのような伝票作成と転記の作業が一度の入力で完了します。
会計ソフトには支店や関連企業など複数社の財務状況を一元的かつリアルタイムに管理する機能があります。この機能は子会社や関連会社を集中管理する企業だけでなく、フランチャイズ事業を展開している企業でも使えます。
また、一定以上の規模の会計ソフトには「各拠点での分散入力」機能が備えられています。本社の経理部門などの入力作業を大幅に軽減することに貢献してくれるので、複数の拠点を持つ企業には必須の機能であると言えます。
基本機能1.さまざまなデータ形式に対応する入出力機能
会計ソフトには「仕分入力」や「伝票入力」「定期自動仕訳」「OCR」などの機能が用意されており、発生データに合わせて最適な入力方法を選べます。
導入企業の業種や業態に沿った勘定科目体系の構築機能も、会計ソフトには搭載されています。科目別補助や合計科目も登録することができるので、これまでの紙の帳簿や別ソフトでの科目体系をそのまま継続して利用することができます。
会計ソフトでは「データ交換」機能が用意されています。汎用ファイル形式のデータ交換に対応することで、マスターだけでなくさまざまな発生データの入出力が簡便に行なえます。また、「外貨管理」機能も用意されており、伝票入力時に円と外貨を同時入力する、外貨の残高を管理する、といった作業にも対応しています。
基本機能2.さまざまな切り口に対応する集計管理と財務分析
会計ソフトに入力されたデータに対しては、「日次管理」機能や「月次管理」機能を利用して業務を行なえます。日次管理には「入金管理」や「支払管理」を含む「債権・債務の把握」機能、「仕訳帳」や「元帳」などを作成、保存する「帳簿の作成・保存機能」、「手形管理」や「経費精算」を行なう「業務支援・効率化」機能があります。
月次管理は「仮受・仮払消費税の算出」などの支援機能と、「財務報告書」の出力機能がメインになります。日次管理や月次管理でデータに問題がなければ、「年次決算」機能を利用して「決算報告書」を出力することができます。もちろん、出力対象には「キャッシュ・フロー計算書」が含まれます。
会計ソフトはその性質上、財務に関するあらゆるデータが集積されます。このことを利用して、各種経営指標に基づく「経営分析帳票」を出力する機能を備えた製品、「予測B/S」や「予測P/L」を作成する機能を持つ製品もあります。対応する分析は「5期比較財務表」「損益分岐点分析」「ABC分析」などです。また、元帳をセグメント別に出力する機能も経営判断の助けになります。
基本機能3.重要な会計データを守るセキュリティ
会計ソフトの中には、IDやパスワードによる「データセキュリティ」機能を備えた製品があります。あらかじめユーザーを登録しておくことで、ユーザーごとのアクセス権限を設定しておくことが可能。また、「ログ監視」機能や「ジョブ監視」機能、「起動履歴監視」機能、「伝票修正(削除)一覧表示」機能なども用意されています。
※会計ソフトの機能に関しては、以下の記事にて詳しく解説しています。
企業会計に欠かせない会計ソフトの基本的な機能
会計ソフトの導入メリット
それでは、これらの機能を持つ会計ソフトを導入することで得られるメリットをご紹介します。
導入メリット1.用途にあわせた帳票作成がスピーディーに行える
必要なセグメントにあわせたデータの呼び出しや帳票の作成を簡単に行うことができます。例えば元帳やB/S、P/Lを、全社、もしくはセクションごとに作成できるわけです。必要なデータを容易に作成できれば、会計状況の把握が簡便になり、健全な財務状況をキープしながら新たな取り組みに挑戦するなど、これまで以上に大胆な決断をすることにもつながります。
導入メリット2.一括管理により担当者の負担が軽くなる
会計ソフトを全社的に導入した後は、各セクションで分散入力をすることが可能となります。そのデータは連携させて一括管理されるため、全体把握のための取りまとめ作業をする必要はありません。そのため各セクションからの報告を待つことなく全社的な状況を把握することができるようになり、会計担当者の負担を軽減し、時間も短縮することができます。
導入メリット3.柔軟な配賦基準の設定で、全社的な基準づくり、経営分析ができる
ひとつの会計ソフト内に複数の設定ができることで、これまで導入や連携が難しかった企業も活用できるようになっています。例えば配賦基準をセクションごとに設定することが可能です。これらの情報を全社的に共有できるようにしておけば、これまでは知り得なかった他セクションの手法を知ることにつながり、業務改善に役立てたり、全社的な基準作りに役立てることもできるでしょう。
導入メリット4.会計状況をタイムリーに把握できる
会計ソフトを連携して一括管理することで、必要な時にいつでも最新の状況を把握することが可能になります。入力作業は担当部門だけでしか行わない場合でも、経営陣が用途に応じて自由にデータ閲覧ができるようにすることも可能で、常に最新の状況をベースに経営判断ができるようになります。これは問題点の早期発見やスピーディな対応につながり、業績向上に直結することができます。
導入メリット5.会計状況を予測できることでより現実的な経営判断ができる
会計ソフトを導入することで、予算シミュレーションに欠かせない不確定要因を含めた管理会計仕訳を行い、予測B/Sや予測P/Lを作成することが可能となります。この機能を使うことで、予算立案だけでなく、会期途中の予算消化状況の把握や年度末の会計状況の予測が簡便となり、より現実的な経営判断をする一助となるのは大きなメリットです。
予算管理は健全経営や企業の飛躍の最重要項目ですが、多くの企業は入力作業に多くの時間を忙殺され、肝心の管理にまで目が行き届かない状況に陥っています。この入力作業や報告のための帳票作成を簡便にし、その管理や判断に費やす時間を増加させるのが会計ソフトです。
※会計ソフトの導入のメリットに関しては、以下の記事にて詳しく解説しています。
会計ソフトで解決できる課題と導入メリット
会計ソフト最新のトレンド
会計ソフトを取り巻く状況は少しずつ変化し、ソフトは発展を遂げています。そこで、システム担当者が会計ソフト導入を検討する際にぜひ覚えておきたい現状、トレンドについて解説します。キーワードは「消費税改正」と「クラウド化」です。
最新の税制改正への対応は必須
会計・経理業務と密接に結びついている仕事として「税務」があります。会計ソフトで税務申告書を作成する場合、毎年度の税制改正に合わせ、申告書書式等をアップデートした最新バージョンのソフトを使う必要があります。
税制における大きなトピックは、やはり消費税増税です。2014年4月に行われた5%から8%への増税で、一つ一つの取引に含まれる消費税額が変わったことをきっかけとして最新版のソフトを導入する企業が増えました。そして一度延期はされましたが、2019年10月に10%への増税が予定されており、再び対応を迫られることになります。
消費税再増税に備えてシステム導入需要
システム担当者が、消費税再増税で注目しておかなくてはならないことは、10%増税時に一部の商品で軽減税率が導入される可能性があること。軽減税率が導入されると、商品ごとに税率が異なることとなり、経理処理が複雑化するため、 最新の会計システム導入がさらに大きなメリットを持つことになります。
消費税の経理には、税込経理と税抜経理があります。比較的簡易な税込経理を行っていた会社が、軽減税率の導入を境に、商品ごとの消費税額を別に記載する税抜経理に移行するケースが増えてくるでしょう。システム担当者は、税務の変化、煩雑化による人件費等のコストを削減するため、法改正に合わせた会計ソフトを選ぶ必要があるのです。
クラウド技術が会計ソフトに変革をもたらす
次に、機能面からみた会計ソフトのトレンドについてみていきましょう。当初から完成度が高く、基本機能に大きな変化はなかった会計ソフトですが、最近大きな変革の可能性を秘める製品が登場しています。それがクラウド型会計ソフトです。
「クラウド会計」という言葉には異なる2つの意味合いがあります。
ひとつは、大企業を中心に導入されているASP、SaaS型ソフトです。支社・支店を多く持つ企業が、クラウド上にソフトを置くことにより、どこからでも会計業務を行うことができ、またソフトウェアや経理データの管理に安全性が高いため、広く活用されています。
最新トレンド 仕訳作業まで省けるクラウド会計
そして、最近のトレンドとして話題になることが多いのが、2013年ころに登場し、小規模事業者を中心に導入が進んでいるクラウド会計ソフトです。最も大きな特徴が、今までの会計ソフトで必要だった手入力による仕訳まで自動化していることです。
その技術の核となるのが、ネットバンキングやクレジットカード、交通用ICカード等の情報と、クラウド上の会計データの同期です。たとえば、ネットバンキングから取引先に出金を行うと、自動的にその金額と入金先がソフトウェアの帳簿に入力。勘定科目を入力すれば仕訳が完成します。
また、よく行われる取引については、勘定科目を保存しておくことで、次回からは何もしなくても仕訳が完成します。
クラウド化で経理作業をしなくても決算ができる?
すべての取引を1つの口座による取引で行っている会社は、極端に言えば、1年間経理作業をしなくても決算書が作れるだけの帳簿データができあがることになります。多くのクラウド型ソフトは、保守契約を結ぶことで税務申告書にも毎年度対応しており、確定申告にも対応可能です。
クラウド会計への注目の高まりを受けて、老舗のパッケージソフトを発売するベンダーからも、仕訳自動入力に対応したクラウド会計ソフトにも導入されるようになっています。
※会計ソフトのトレンドに関しては、以下の記事にて詳しく解説しています。
会計ソフト最新事情 トレンドは消費増税とクラウド
失敗しない会計ソフトの選び方 5つのポイント
これらのトレンドやメリットを踏まえ、システム担当者としては、各社から発売されているソフトのラインナップの中でどれを選べばよいのか、迷いがあるのではないでしょうか。そこで、新たに会計ソフトを導入する際、失敗しない製品の選び方のポイント・注意点をまとめてみました。
選定ポイント1.株式会社であれば法人向けソフトを
会計ソフトには大きく分けて、個人事業主向け青色申告ソフトと法人向けソフトがあります。株式会社であれば、課せられる税金が法人税となり、個人と異なりますので、かならず法人向けソフトを選ぶべきです
代表的なベンダーには、メイン商品として長い歴史と信頼を持つ、スタンダードタイプの法人会計ソフトがあります。ほとんどの中小企業は、このタイプの会計ソフトで必要な理業務や決算業務をカバーできますので、導入時にはまずこれらをベースとして考えましょう。
選定ポイント2.顧問税理士とシステムを合わせる
各社のスタンダードな会計ソフトは機能的にも非常に似ているので、選択に迷うこともあるでしょう。そこで一つの選び方として、顧問税理士が使っている会計ソフトと同じものを選ぶ方法があります。
顧問契約をしている税理士事務所と同じ会計ソフトを利用することで、データの共有がしやすくなります。また、導入後、慣れない間は、ソフトの操作方法を教えてもらえるなどのメリットもあります。担当税理士に使用ソフトやパソコン環境などについて問い合わせておきましょう。
選定ポイント3.経営分析ツールの充実度をチェック
仕訳から決算書の作成までの機能に大きな違いはありません。しかし、各社が差別化を行うのが、自計化による経営分析・経営診断に役立つツールです。
たとえば、数期にわたる財務データから収益性、生産性、安全性、成長性等をグラフ等で表示する機能や、現預金の増減を月ごとに示し、金融機関への融資申請などでも使える資金繰り表の出力機能、また部署別会計による原価計算、管理会計に対応するものなどがあります。
スタンダードタイプの会計ソフト、上位モデルのソフトにはどのような診断ツールがあるのかを調査し、経営者や経理担当者の意見を取り入れながら、製品を選ぶ必要があるでしょう。
選定ポイント4.会社規模・業務内容による拡張性
会計ソフトは基幹業務システムの中心に位置付けられ、基幹業務のデータは最終的には会計データと紐付けられるように管理されることが一般的です。その意味でも。企業が業務のシステム化、IT化を図る際に最初に検討されます。したがって、将来の拡張性を確認しておくことは重要です。コスト優先で単独で利用するパッケージソフトにするか、業務統合システムとしての発展性を優先するのか、予め検討しておく必要があるでしょう。
同じベンダーが連携可能な業務モジュールを提供しているか、販売管理、生産管理、CRM(顧客管理)やBI(ビジネスインテリジェンス)、人事管理、給与計算など、業種や業態に合わせ、将来の拡張性について導入前に確認しておく必要があります。
選定ポイント5.ネットワーク機能の有無、クラウド型も検討
パッケージ型ソフトは、利用するパソコンやサーバにインストールして利用します。サーバにインストールするタイプでは、ネットワークを経由して複数のパソコンで操作することができるはずですが、パソコンにインストールするスタンドアロン型では利用する端末ごとにインストールする必要があります。同時に複数のユーザで利用できるのか、人数が多いのであれば共同作業のしやすさも確認しましょう。
その際は、クラウド型の会計ソフトも検討対象のひとつとなるでしょう。とくに、外出先や在宅など、リモートワークでから作業を行うことがある場合はクラウド型が便利です。
手間がかかり、経験が必要な仕訳作業もサジェスト機能などでサポートしてくれる製品もあり、クラウド型の中には契約しているクレジットカードやネットバンキングなどのデータを自動的に取得してくれるタイプの会計ソフトもあります。基本機能だけであれば、無料で利用できるものも含め、非常に多くの製品、サービス、機能があります。実際に試用して、最も使いやすいものを選ぶようにしましょう。
※会計ソフトの選び方に関しては、以下の記事にて詳しく解説しています。
失敗しない会計ソフトの選び方 5つのポイント