サイバー攻撃対策における運用体制の基本的な考え方
サイバー攻撃対策は、製品を導入するだけでは完結しません。導入後の監視・分析・対応まで含めた継続的な運用体制があって初めて機能します。まずは組織の現状を正確に把握し、どこに課題があるかを明確にしたうえで体制を設計することが重要です。
運用体制がなければ製品導入の効果は限定的
セキュリティ製品を導入しても、アラートを誰が確認するか、インシデントが発生した際に誰が初動対応するかが決まっていなければ、実際の被害を防ぐことはできません。製品は「検知する仕組み」であり、そこから先の判断と行動は人と体制に委ねられます。
中小企業では担当者が兼務であるケースが多く、インシデント発生時に対応できる人員が確保されていないことがあります。製品の選定と同時に「誰が」「いつ」「どのように」対応するかを定めた運用フローを整備することが、セキュリティ対策の実効性を高めるうえで欠かせません。
組織規模と体制の現状を踏まえた設計が必要
運用体制の設計は、組織の規模・情報システム部門の人員数・拠点数・予算などの条件によって大きく異なります。100名以下の企業と1,000名以上の企業では、必要なセキュリティ対策の範囲も求められる運用体制の深さも別物です。まずは自社の現状を正確に棚卸しするところから始めましょう。
棚卸しの際には、(1)現在利用しているセキュリティ製品の運用状況、(2)情シス担当者の人数と稼働時間、(3)過去のセキュリティインシデントの内容の3点を整理することが出発点です。これらを明確にすることで、自社に合った体制設計の方向性が見えてきます。
内製と外部委託を組み合わせた分業が現実的な選択肢
すべての運用を自社で賄うことが難しい場合は、外部のセキュリティ専門事業者との分業体制が現実的な選択肢です。脅威の監視は外部のSOC(セキュリティオペレーションセンター)に委託し、インシデント発生時の最終判断は社内担当者が行うという役割分担が代表的なパターンです。
外部委託の範囲としては、24時間365日の監視・アラートの一次分析・レポートの提供など多岐にわたります。内製化する範囲と外部に任せる範囲を切り分けることで、限られたリソースを効率的に活用でき、セキュリティ成熟度に応じて段階的に内製化を進めることも可能です。
少人数の情シス部門が直面する運用課題と解決策
情報システム担当者が少数で兼務が多い組織では、セキュリティ運用に割けるリソースが極めて限られています。このような状況では、24時間365日の監視体制を自社で構築することは現実的でなく、外部サービスの活用が課題解決の糸口といえます。
24時間365日の監視体制を外部委託で補う方法
情シス担当者が1人または少数の場合、夜間や休日の監視は物理的に対応できません。この課題を解決するのが、MDR(マネージド・ディテクション・アンド・レスポンス)やSOCサービスと呼ばれる運用代行型のセキュリティサービスです。外部の専門チームが24時間体制でログやアラートを監視し、脅威を検知した際には分析結果と対応推奨事項を連絡してくれます。
MDRサービスを選ぶ際のポイントは、自社のIT環境との適合性とインシデント発生時の連絡フローです。検知から報告までの時間や誤検知への対応品質も事前に確認しておくと、導入後の運用がスムーズです。
アラート対応の優先順位付けで担当者の負担を軽減する
セキュリティ製品から大量のアラートが発生しても、すべてに同じ優先度で対応することは現実的ではありません。担当者の負担を軽減するためには、アラートの重大度に基づいた優先順位付けのルールを事前に定め、対応不要なものを自動的にフィルタリングする仕組みが有効です。
優先順位付けの基準としては、影響を受ける資産の重要度・攻撃の深刻度・過去の類似インシデントとの照合結果などが挙げられます。SIEM(セキュリティ情報イベント管理)ツールで複数製品のログを集約し、相関分析によって対応すべきアラートを絞り込む方法も有効です。
インシデント発生時のエスカレーションフローを整備する
万が一インシデントが発生した際、「誰に報告するか」「どの順番で対処するか」が明文化されていないと、対応が後手に回ります。担当者が1人しかいない状況でも、あらかじめエスカレーション先(上長・経営層・外部のインシデントレスポンス会社など)を定めておくことが不可欠です。
エスカレーションフローには、(1)インシデントの初期判断基準、(2)連絡先と優先順位、(3)外部委託先への連絡タイミング、(4)経営層への報告基準を含めると実用的です。年1回程度の机上訓練でフローの有効性を定期検証することも、体制の維持・改善に欠かせません。
中小企業が手軽に始められるネットワークセキュリティ体制
専任のIT管理者が不在の中小企業では、導入・管理の手間が少なく、一定のセキュリティ機能をまとめて提供するソリューションが適しています。ここでは、中小企業でも取り組みやすい運用体制の構築方法を紹介します。
UTMで社内ネットワーク全体をまとめて保護する
UTM(統合脅威管理)は、ファイアウォール・ウイルス対策・不正侵入検知・Webフィルタリングなど、複数のセキュリティ機能を1台の機器に集約したアプライアンスです。専任の管理者がいない中小企業でも、ネットワークの出入口に設置するだけで社内全体の通信を保護できます。
UTMを選ぶ際は、(1)管理画面の操作性、(2)クラウド経由でのリモート管理への対応、(3)日本語・電話サポートの有無の3点を重視することが安定運用につながります。初期設定をベンダーが代行するサービスもあるため、IT知識に不安がある場合は合わせて確認しましょう。
クラウド型セキュリティサービスで管理コストを抑える
オンプレミスの機器管理に手間を取られたくない企業には、クラウド型のセキュリティサービスが有力な選択肢です。ハードウェアの保守や機能アップデートをベンダー側が担うため、社内担当者の運用負担を大幅に抑えられます。
クラウド型サービスでは、インターネット上の脅威情報をリアルタイムに反映できる点も利点です。テレワーク環境や複数デバイスへの対応が求められる現代の働き方にも柔軟に対応できます。コスト面では月額課金型が多く、初期投資を抑えやすいことも中小企業にとって導入の障壁を下げる要因の一つです。
ITトレンドでは、最新の製品・サービスを多数比較・掲載しています。まず資料を取り寄せて、複数の製品を機能や特徴の面から比較してみてください。忙しい業務時間内でも、各社に問い合わせる手間なく、たった1回の入力(約60秒)でサイバー攻撃対策の一括資料請求が可能です。浮いた時間で、じっくりと製品を比較検討し進めましょう。
多拠点企業・グループ企業に適した一元管理体制の構築
全国に支店や子会社を持つ組織では、各拠点のセキュリティ対策にばらつきが生じやすく、一部の拠点が攻撃の入口になるリスクがあります。本社が全拠点のセキュリティ状況を把握・管理できる一元管理体制の構築が求められます。
拠点間のVPN接続とインターネット通信の安全確保
多拠点環境では、各拠点のインターネット通信を個別に保護しながら、本社との安全な通信経路(VPN)を確保することが基本要件です。各拠点にUTMを設置し、本社UTMとVPNで接続する構成は、多拠点企業のネットワークセキュリティの代表的なアーキテクチャです。
この構成では、(1)各拠点UTMの本社からの一元管理可否、(2)通信量増加に対応できる帯域の確保、(3)拠点ごとの通信要件への対応を事前に検討することが重要です。SD-WANと組み合わせると、回線最適化とセキュリティを同時に実現できます。
本社からの一括管理でEDRの初動対応を効率化する
EDR(エンドポイント検知・対応)は、PCやサーバーなどのエンドポイントで発生するマルウェア感染や不審な挙動をリアルタイムで検知し、対応を支援するツールです。管理コンソールを通じて、本社の管理者が全拠点のエンドポイントの状態を一元的に把握し、感染端末の隔離などの初動対応をリモートで実行できます。
EDRを多拠点環境で運用する際は、(1)管理コンソールのアクセス権限の適切な設定、(2)検知後の拠点別対応フローの整備、(3)誤検知が発生した際のチューニング方法の把握が重要です。ベンダーのサポートを活用しながら運用ルールを段階的に整えましょう。
グループ全体の脆弱性をホールディングス本社から把握する
ホールディングス体制では、各子会社のセキュリティパッチ適用状況や脆弱性情報を本社が一元的に把握できる仕組みが求められます。脆弱性管理ツールを活用することで、グループ各社のシステムにどのような脆弱性が存在し、パッチがいつ適用されたかを可視化できます。
グループ全体の脆弱性管理では、(1)子会社のIT環境の棚卸し、(2)パッチ適用の優先度判断基準をグループ共通で設定、(3)子会社担当者との情報共有フローの明確化が不可欠です。グループ共通のセキュリティポリシーを策定し、定期的なレビューサイクルを設けることが長期的な体制維持につながります。
外部委託(MSSP)を活用したインシデント対応体制の整え方
社内にセキュリティの専門人材を確保することが難しい場合、MSSP(マネージド・セキュリティ・サービス・プロバイダー)への委託によって、専門的なインシデント対応能力を外部から調達することができます。適切な分業体制を設計することが、委託効果を最大化するポイントです。
MSSPへの委託で得られる運用代行の範囲と注意点
MSSPが提供するサービス範囲は事業者によって異なりますが、一般的には24時間365日の監視・ログ分析・脅威情報の提供・インシデント時の初期対応支援などが含まれます。社内担当者はMSSPからの報告を受けて、最終的な意思決定と社内調整に専念できます。
注意点として、委託先との契約内容(SLA:サービスレベル合意)を事前に確認することが重要です。インシデント発生時の連絡時間・対応範囲・費用の上限・機密保持の取り扱いについては、書面で明確にしておくことがトラブル防止につながります。
委託範囲の切り分けと社内との連携フローの設計
MSSPへの委託が効果を発揮するには、社内と外部委託先の役割分担を明文化した「責任分界点」の設計が不可欠です。監視・検知はMSSP、システム変更判断・業務継続の判断は社内担当者という形で役割を切り分けます。
連携フローの設計では、(1)アラート通知の方法、(2)緊急時の担当者連絡先の最新化ルール、(3)定期レポートのレビュー頻度を定めることが円滑な分業体制の維持につながります。委託後もサービス品質を定期評価し、委託範囲を必要に応じて見直す柔軟性を持つことも大切です。
よくある質問(FAQ)
サイバー攻撃対策の運用体制を整えるにあたって、現場でよく挙がる疑問点をまとめました。体制構築の参考にしてください。
- ■Q1:情シス担当者が1人しかいない場合でも、24時間監視体制は構築できますか?
- 担当者1人で24時間監視体制を自社のみで構築することは現実的ではありません。MDRやSOCサービスなど外部の監視代行サービスを活用することで、夜間・休日を含む24時間365日の監視体制を実現できます。自社担当者はインシデント時の最終判断に専念する分業体制が有効です。
- ■Q2:多拠点企業でセキュリティ対策を統一するには何から始めればよいですか?
- まず全拠点のIT資産とセキュリティ対策の現状を棚卸しすることが最初のステップです。本社主導でグループ共通のセキュリティポリシーを策定し、対応できていない拠点を特定します。一元管理が可能なEDRや脆弱性管理ツールを導入すると、対応漏れの防止に役立ちます。
- ■Q3:MSSPへの委託とMDRサービスの違いは何ですか?
- MSSPは幅広いセキュリティ運用の管理代行を提供するサービス全般を指し、監視・レポート提供・コンサルティングなど多様なメニューを含みます。一方MDRは、EDRなどのエンドポイント製品と連携した脅威の検知・対応に特化したサービスです。インシデント発生時の「対応支援」まで含むかどうかが両者の主な違いであり、自社の課題に応じてどちらが適切かを検討することが重要です。
まとめ
サイバー攻撃対策の運用体制は、企業規模・人員・拠点数によって最適な形が異なります。少人数の情シス部門にはMDR・SOCサービスによる外部委託が有効であり、中小企業にはUTMなど管理負担の少ないソリューションが適しています。多拠点企業では一元管理できるEDRや脆弱性管理ツールの活用がグループ全体のセキュリティ水準の底上げにつながります。自社の現状を棚卸しし、内製と外部委託の最適な組み合わせを検討することから始めましょう。


