電子カルテとは
電子カルテとは、診療経過やバイタルに検査結果や画像・看護記録・紹介状など患者に付随する情報を加えて、電子データとして保存したものです。あるいは、紙カルテを電子化してデータベースで管理するシステムを指す場合もあります。電子カルテの導入で、ペーパーレス化やカルテの管理、検索が容易になります。
また、検査結果の取り込みやレセプトの作成など、業務全体が効率化する機能を備えたシステムも多くあります。そのため医師はもちろん、看護師や検査技師、医療事務など複数の関係者が利用できるシステムです。
電子カルテは、さまざまなメーカーから提供されていますが、厚生労働省が定めた電子保存の三原則「保存性」「真正性」「見読性」を満たしている必要があります。詳細は以下のとおりです。
- 保存性
- 記録された情報が法令等で定められた期間に渡って真正性を保ち、見読可能にできる状態で保存されること
- 真正性
- 正当な人が記録し確認された情報に関し第三者から見て作成の責任の所在が明確であり、故意または過失による虚偽入力、書き換え、消去および混同が防止されていること
- 見読性
- 電子媒体に保存された内容を、権限保有者からの要求に基づき必要に応じて肉眼で見読可能な状態にできること
参考:医療情報システムの安全管理に関するガイドライン第 5.2版|厚生労働省
紙カルテとの違い
電子カルテと紙カルテの違いを比較表でまとめました。
|
電子カルテ |
紙カルテ |
検索性 |
◎ |
△ |
視認性 |
◎ |
△ |
同時閲覧 |
◎ |
✕ |
保管場所 |
◎ |
✕ |
BCP対策 |
◯(クラウド型) |
◯ |
紙のカルテは電源を必要としないため、停電やシステムの故障で使用できないリスクはありませんが、水害や火災などによって失われる可能性があります。クラウド型の電子カルテであれば、データ自体はサーバに保管されるため、データ消失の可能性は高くありません。BCP対策にも取り組みたい場合は、クラウド型の電子カルテを検討するのもよいでしょう。
電子カルテのメリット
電子カルテの導入により、医師ごとの属人的な管理を防止できるなど、さまざまな効果を得られます。ここでは、紙カルテと比較し、電子カルテの活用メリットを紹介します。
業務効率が高まる
電子カルテで効率化できる業務は診療業務だけではありません。受付や会計業務など病院・診療所全体の業務改善に有効です。効率化できる業務は以下のとおりです。
- カルテ入力や文書作成
- 定型文の登録機能や過去カルテのコピー(Do入力)機能、文書作成やカルテ入力を支援するテンプレート機能などにより、医師のカルテ入力や書類作成などの業務を効率化できます。診断書や紹介状作成にかかる時間も大幅に削減できるでしょう。手書き入力やタッチ操作機能を備えた電子カルテなら、PCが苦手な医師でも操作できるため業務負担の軽減にもつながります。
- 受付業務や会計業務
- 紙カルテと違い検索性が高いため、カルテ出しに時間を要しません。また、日医標準レセプトソフトと連携した電子カルテもあるため、算定漏れなどのミスを防止でき、会計業務がスムーズになります。
- 検査依頼と結果の取り込み
- 電子カルテ上で検査会社に検査を依頼でき、検査結果データも連携され取り込まれます。紙カルテの場合は、検査結果が届いてから紙カルテを探し記入しなければいけません。工数を減らせるだけでなく人為的なミスの防止にも有効です。
リアルタイムでの情報を管理・共有できる
リアルタイムで情報を参照できる点も電子カルテのメリットのひとつです。膨大なカルテのなかから、必要な患者情報をすぐに呼び出せます。診療履歴や検査結果のほか、処方における情報も確認できるため、医師は時間をかけずに状況把握が可能です。
更新された内容はリアルタイムで反映され、端末さえあればいつでもどこでも確認できます。紙カルテのように部門間での受け渡しが必要なく、簡単に情報を共有できるでしょう。紛失の心配もありません。
人的ミスの防止につながる
紙カルテの場合、患者の話を聞きながら記入するため、走り書きになり文字が読みにくいケースもあります。看護師や事務員への指示が正しく届かず、ミスの原因になる場合もあります。電子カルテなら、誰もが読みやすいため、意思疎通がスムーズでミスの防止につながるでしょう。
また、処方ミスを防ぐためのチェック機能を搭載した電子カルテもあります。
カルテ保管場所を削減できる
電子カルテはサーバにデータを保存できるため、紙カルテのように保管場所を必要としません。また、電子カルテ導入前の紙カルテを電子化するサービスもあるため、電子カルテ導入の際にあわせて確認しておくとよいでしょう。
患者へのサービスが向上する
受付業務や会計業務の効率化、検査結果の迅速な共有などによって、診療に時間をかけられたり、患者の待ち時間を短縮できたりもします。総じて病院に対する満足度向上が期待できるでしょう。
数ある電子カルテメーカーのなかから、自院に適した製品を選ぶのに役立つのが以下の記事です。病院や診療所の規模、診療科目別に電子カルテを分類しているため、製品の絞り込みが簡単です。価格の比較や、使いやすいシステムかどうか口コミや評判なども参照できます。システム導入を検討中の方はぜひチェックしてください。
電子カルテのデメリット
電子カルテを導入する際は、デメリットについても理解し、適切な対策を講じておきましょう。対策の実施により、電子カルテの効果的な運用が実現します。
導入コストがかかる
電子カルテの導入や運用にはコストがかかります。必要な機能によっては、カスタマイズ費用もかかるでしょう。しかし前述のとおり、補助金を利用できる場合もあります。事前に申請条件や補助金額などについて確認しましょう。
提供形態やメーカーによっても価格は異なるため、複数企業の製品を比較検討することが大切です。
システム定着までに時間と学習コストを要する
電子カルテを導入しても、自院の診察・診療体制に対応できるように設定を最適化する必要があります。よく処方する薬剤名などをあらかじめ入力することで使用しやすくなりますが、準備が負担となる場合もあるでしょう。また、人によってコンピュータ操作の技量が違うため、すべての医師・スタッフが使いこなすには時間がかかる可能性もあり、業務がスムーズに進まない可能性もあります。
設定に負担を感じる場合は、サポートサービスを実施しているベンダーがおすすめです。また、医師・看護師・医療事務など電子カルテ使用者全員に勉強会や研修を実施すれば、より効果的な運用につながります。操作を覚えられないと不安を抱く人やPC操作が苦手な人も多いため、前もってシステム操作が習得できる場を設けるとよいでしょう。
停電時に利用できない
災害発生時など停電時には、電子カルテの利用はできません。自家発電装置を備える病院もありますが、断線や接続不良などシステムダウンする危険性もあります。提供会社には、災害時などの備えや対応方法を事前に確認しましょう。
セキュリティ対策が必要
ウイルスによる攻撃に気をつけるのはもちろんのこと、内部不正にも注意しなければなりません。カルテをデータ化した場合、USBメモリなどを用いれば簡単に大量のデータを外に持ち出せます。ログの管理やアクセス制限などのセキュリティを厳重にしましょう。提供会社がどのようなセキュリティ対策を実施しているかにも着目しましょう。
日本の電子カルテ普及率
厚生労働省の調査では、2020年日本における電子カルテの普及率は一般病院で57.2%。年々普及率は高まっています。ただ、病床規模別にみると400床以上では91.2%と普及率が高い一方、200床未満では48.8%と普及率がやや低い傾向です。小規模の病院やクリニックにおいて電子カルテが普及しない理由には、導入コストがかかることやIT化により操作が難しくなるのではという不安があることなどがあげられます。
コストの問題で導入が難しい場合、経済産業省管轄の「IT導入補助金」を活用する手もあります。IT導入補助金は、中小企業や小規模事業者が自社の課題やニーズにあったITツールを導入して、業務効率化や売上アップを目指す場合に、経費の一部を補助が受けられる制度です。医療機関も補助対象者に該当し、助成対象となる電子カルテ製品もあるため、制度を利用した導入の検討もおすすめです。
参考:電子カルテシステム等の普及状況の推移|厚生労働省
参考:IT導入補助金|一般社団法人 サービスデザイン推進協議会
電子カルテの種類
電子カルテの提供形態は、「オンプレミス型」と「クラウド型」の2種類に分けられます。病院の規模や使用用途により適した形が異なるため、特徴をもとに自院にあう種類を選択しましょう。
オンプレミス型
オンプレミス型電子カルテとは、自院でサーバや専用機器を設置してデータを保存する電子カルテのことです。院内でデータ管理をするため情報漏えいのリスクが低く、カスタマイズしやすい点もメリットです。
一方で、メンテナンスやアップデートなど運用も自院で実施するため、専門知識のある人員を設置する必要があるでしょう。また、サーバや専用機器を導入するコストがかかります。
クラウド型
クラウド型電子カルテとは、インターネットを利用して提供会社が用意するサーバにアクセスして使用する電子カルテのことです。導入コストが安価で、メンテナンスやアップデートも提供会社が実施します。インターネット環境があれば、どこからでも電子カルテを利用できるため、在宅医療にも適しているといえるでしょう。
しかし、インターネット上に患者の情報を保管するため、オンプレミス型と比較し情報漏えいのリスクがあります。十分なセキュリティ対策が求められるでしょう。
近年では、セキュリティ対策が実施されているクラウド型電子カルテも多く登場しています。以下のページでは、クラウド型電子カルテの特徴を比較しているため、ご覧ください。
電子カルテの導入ポイント
電子カルテには多くの製品があり、どれを選んでよいかわからないという方も多いでしょう。市場シェアが高い人気の電子カルテメーカーの製品から比較するのもよいですが、病院ごとに適した製品は異なります。そこで、製品を比較する際に注目すべきポイントについて解説します。
対応可能な規模や診療科目
電子カルテにはさまざまな製品があり、無床医療機関を主な対象とした製品もあれば、有床医療機関や中小規模の病院を得意とする製品もあります。また、特定の診療科目に特化した機能を備えた製品もあるため、まずは自院の規模や診療科目に適したシステムを選択することが大切です。
なお、2021年よりインターネットを介して患者の医療保険の資格確認が簡単にできるようになりましたが、2023年4月よりこの「オンライン資格確認」が原則義務化されました。そのため、導入を検討している電子カルテの対応の可否は必ず確認しましょう。そのほか、従来の紙カルテに記載している項目に対応しているか、導入目的に適った機能が搭載されているかなどもチェックすることをおすすめします。
参考:オンライン資格確認の導入について(医療機関・薬局、システムベンダ向け)|厚生労働省
他システムとの連携性
予約管理システムや検査システム、医療用画像管理システムなど、既存システムとの連携が可能かどうかをチェックしましょう。特に会計業務の効率化には、レセコンとの連携が欠かせません。製品によって対応できる範囲は異なるため、事前の確認が重要です。
サポート体制
サーバや回線のトラブル、停電や災害などが生じたときに、どのような対応が可能か確認しましょう。駆けつけ対応の可否などサポートの範囲や、問い合わせの対応時間も重要なチェックポイントです。また、トラブル対応だけでなく、操作研修や遠隔操作など導入サポートの内容についても確かめておくと安心です。
セキュリティ対策
電子カルテには膨大な量の個人情報が含まれるため、ランサムウェアなどのサイバー攻撃への対策が欠かせません。また、職員によるUSBメモリを使った情報の持ち出しや、端末紛失による情報漏えいなどにも注意が必要です。
どのようなセキュリティ対策が講じられているかを電子カルテベンダーに確認するとともに、使用者全員に情報セキュリティ教育を実施しましょう。
価格
電子カルテ導入にかけられる予算を設定し、自院が必要とする機能をピックアップしましょう。一般的に多機能であればあるほど価格は高額になりがちです。機能にも優先順位をつけ、初期費用とランニングコスト、費用対効果についても算出したうえで、製品を比較するのがよいでしょう。資料請求や見積もりの依頼からはじめるのがおすすめです。
電子カルテシステムのランキングTOP3を紹介
ITトレンドのユーザーから特に問い合わせが多かった、人気の電子カルテシステムを紹介します。
▼ITトレンド上半期ランキング2023電子カルテ1位
《CLINICSカルテ》のPOINT
- 自社開発のレセプトソフトと一体化
- 国際標準規格に適合したセキュリティ
- 予約や患者アプリとのシームレスな連携
▼ITトレンド上半期ランキング2023電子カルテ2位
《Medicom-HRf Hybrid Cloud》のPOINT
- オンライン順番受付・モバイル型決済・オンライン問診と連携可能
- はじめてでも直観的に理解しすぐに使いこなせるUX/UIデザイン
- クラウド活用によるデバイス&ロケーションフリーを実現
▼ITトレンド上半期ランキング2023電子カルテ3位
《CLIUS (クリアス)》のPOINT
- 【無料】WEB予約・問診・在宅・オンライン診療全て追加料金なし
- カルテ入力時間を短縮できるUI・UX。初心者でも使いやすい
- iPadでも使える!訪問診療や院内での持ち運びに役立ちます
製品詳細やほかのランキング入賞製品も確認したい方は、ぜひ以下の記事も一読ください。主要な電子カルテメーカーも把握できます。
導入の際には3省4ガイドラインを遵守する
電子カルテを導入する際には、各省庁が規定しているガイドラインに則って進める必要があります。これは、医療に関する情報を電子化しクラウド保存する際に遵守しなければならない事項がまとめられたものです。病院や診療所のほか、薬局や介護事業者なども対象とされています。
先述した「電子保存の三原則」とあわせて、ガイドラインに適応した製品であるかも確認しましょう。
電子カルテの導入で業務改善を実現しよう
電子カルテとは、患者のあらゆる情報を電子化して管理するシステムのことです。リアルタイムで正確な情報を共有・管理でき、紙カルテのような保管場所の確保が不要となるメリットがあります。導入後の定着や災害時の不安、セキュリティリスクもゼロではありませんが、適切な対策により効果的な運用が実現するでしょう。
自院にあう電子カルテを選択するためにも、複数企業に資料請求し、サービス内容やサポート体制などを比較することをおすすめします。そのうえで、デモや無料トライアルなどを活用し使用感を確認すると安心です。ぜひ一括資料請求も役立ててください。