過重労働とは何を指すのか
過重労働とは、単に労働時間が長い状態ではなく、長時間労働に加えて深夜勤務や休日労働、業務上の精神的・身体的負担などが重なり、労働者の健康に大きな負荷がかかっている状態を指します。法律上の明確な定義はありませんが、時間外労働の上限規制などを目安にしながら、働き方全体を見て判断することが重要です。
過重労働は労働時間だけでは判断できない
過重労働かどうかは、残業時間の長さだけでなく、勤務内容や休息の状況も含めて判断します。長時間労働が労働時間の長さに着目した言葉であるのに対し、過重労働は深夜勤務や休日のない連続勤務、頻繁な出張、強い精神的緊張を伴う業務なども含めた、総合的な負担の大きさを指します。
例えば、同じ月45時間の残業でも、日中の定型業務が中心の社員と、深夜対応や交替制勤務が重なる社員では、心身への負担は異なります。そのため、残業時間だけでなく、勤務と勤務の間に十分な休息が取れているか、休日を確保できているか、業務負荷が特定の社員に偏っていないかも確認する必要があります。人事部門と現場の管理職が共通の情報をもとに判断できる体制を整えることが、不調の早期発見につながります。
時間外労働は原則月45時間・年360時間が上限
過重労働を把握する際の一つの目安となるのが、労働基準法による時間外労働の上限規制です。時間外労働は原則として月45時間・年360時間までと定められています。臨時的な特別の事情があり、労使で特別条項付き36協定を締結する場合でも、上限なく残業させられるわけではありません。
特別条項を適用する場合でも、時間外労働は年720時間以内、時間外労働と休日労働の合計は単月100時間未満、複数月平均80時間以内とする必要があります。また、月45時間を超えられるのは年6回までです。月45時間を超える残業が常態化している場合は、例外的な働き方が続いている状態といえます。まずは自社の36協定で定めた上限と実際の労働時間を突き合わせ、長時間労働が発生している部署や従業員を把握しましょう。
過重労働が招く健康リスクと企業の責任
過重労働を放置すると、睡眠不足や疲労の蓄積から心身の不調につながり、重症化すれば脳・心臓疾患などを引き起こすおそれがあります。さらに、業務との関連性が認められれば労災認定や損害賠償につながる可能性もあります。ここでは、健康への影響と労災認定の考え方、企業が負う責任について解説します。
過重労働は心身の不調につながる
過重労働が続くと、十分な睡眠や休息を確保できなくなり、疲労が回復しないまま勤務を続ける状態に陥ります。高血圧や不整脈などの身体面の変化だけでなく、集中力の低下や強い疲労感、感情の変化、遅刻・欠勤の増加などとして表れる場合もあります。
また、顧客対応や相談業務など心理的な負担が大きい仕事では、労働時間が極端に長くなくても心身への負荷が高まる可能性があります。健康診断やストレスチェックの結果、残業時間の推移などを組み合わせて確認し、定期的な面談や相談窓口を設けることで、不調の兆候を早期に把握することが重要です。
過労死ラインは労災認定を判断する目安の一つ
脳・心臓疾患の労災認定基準では、発症前1か月間におおむね100時間、または発症前2か月間から6か月間にわたって月平均おおむね80時間を超える時間外労働があった場合、業務と発症との関連性が強いと評価されます。一般に「過労死ライン」と呼ばれる水準です。
ただし、この時間数を下回っていれば安全というわけではありません。2021年9月の基準改正では、これらの水準に近い時間外労働に加えて、勤務間インターバルが短い勤務や休日のない連続勤務、身体的・心理的負荷の高い業務などが認められる場合も、業務との関連性を総合的に評価するとされています。そのため企業は、残業時間だけでなく勤務状況全体を把握する必要があります。
企業には安全配慮義務がある
企業は労働契約法第5条にもとづき、労働者が生命や身体の安全を確保しながら働けるよう必要な配慮を行う義務を負っています。過重労働によって従業員が健康を害した場合には、労災保険による給付に加えて、安全配慮義務違反を理由に損害賠償を請求される可能性があります。
そのため、長時間労働を把握するだけでなく、必要に応じて業務量の調整や医師による面接指導などにつなげることが重要です。労働時間を客観的な方法で記録するとともに、対象者をいつ把握し、どのような対応を行ったのかまで記録しておけば、従業員の健康を守るだけでなく、企業として適切に対応したことを示すうえでも役立ちます。
労働安全衛生法が企業に義務づける対応
過重労働対策の枠組みは労働安全衛生法にあります。労働時間の状況の把握、長時間労働者への面接指導、産業医との連携の三つの柱を押さえましょう。
労働時間の状況を客観的な方法で把握する
労働安全衛生法第66条の8の3は、医師による面接指導を実施するため、事業者が労働者の労働時間の状況を把握しなければならないと定めています。把握の方法は、タイムカードによる記録やパソコンの使用時間の記録など、客観的な方法によることが労働安全衛生規則で求められています。
この義務の対象は、管理監督者や裁量労働制で働く社員も含む点が見落とされがちです。残業代の計算対象外の社員も、健康を守る観点から始業終業の時刻を記録する必要があります。自己申告に頼らざるを得ない場合は、入退館記録やパソコンの稼働時間との差を定期的に確認し、実態とずれていないかを点検しましょう。テレワークでも同じ考え方が当てはまります。
時間外労働が月80時間を超えた社員への医師の面接指導
労働安全衛生法第66条の8と、その要件を定める労働安全衛生規則第52条の2により、時間外労働と休日労働の合計が1か月あたり80時間を超え、疲労の蓄積が認められる労働者から申し出があった場合、事業者は医師による面接指導を行わなければなりません。2019年4月からは、要件が月100時間超から80時間超へ引き下げられました。
事業者には、月80時間を超えた本人へ超過時間を通知する義務もあります。研究開発業務に従事する労働者は、その合計が月100時間を超えた時点で、本人の申し出がなくても面接指導が必要です。高度プロフェッショナル制度の対象者にも別の基準があり、働き方で取り扱いが異なる点に注意しましょう。
産業医への情報提供と衛生委員会での審議
常時50人以上の労働者を使用する事業場では産業医の選任と衛生委員会の設置が義務づけられており、月80時間を超えた労働者の氏名とその超過時間は産業医へ提供しなければなりません。産業医はこの情報をもとに、面接指導が必要な社員への勧奨や、職場環境への助言を行います。
衛生委員会では、長時間労働者の人数や部署ごとの傾向、面接指導の実施状況を議題として取り上げ、対策の効果を検証します。担当者が毎月手作業で集計していると提出が遅れがちですが、勤怠データと連携した仕組みを整えておけば、決められた期間内に必要な情報を渡しやすくなり、審議の質も高まります。
ITトレンドでは、最新の製品・サービスを多数比較・掲載しています。まず資料を取り寄せて、さまざまな製品の機能や特徴を比較してみてください。忙しい業務時間内でも、各社に問い合わせる手間なく、たった1回の入力(約60秒)で健康管理システムの一括資料請求が可能です。浮いた時間で、じっくりと製品を比較検討し進めましょう。
長時間労働者への面談を実務で回す手順
面接指導は制度を知るだけでは機能しません。対象者の抽出、案内、面談、事後措置までの流れを、担当者が迷わず回せる形に整えます。
対象者の抽出と本人への案内
毎月の締め処理の後、時間外労働と休日労働の合計が80時間を超えた社員を抽出し、超過した時間を本人へ通知します。あわせて面接指導を申し出られることを伝え、申し出の窓口と期限を明記した案内を送ると、手続きが滞りにくくなります。
ここで課題となりやすいのが抽出の速さです。給与計算のスケジュールに合わせて月末にまとめて集計していると、通知が翌月の後半にずれ込み、その間に負荷が積み上がってしまいます。週次で残業時間を確認し、月の途中で60時間や70時間といった段階に達した社員を早めに把握しておけば、面談を待たずに業務量を調整する余地が生まれます。抽出条件を決めておけば、担当者が代わっても同じ手順で運用できます。
面談当日に確認しておきたい情報
面接指導では、勤務の状況、疲労の蓄積の程度、その他の心身の状況を確認します。医師が短い時間で的確に判断できるよう、直近数か月の時間外労働の推移、深夜勤務や休日出勤の回数、健康診断の結果、本人が記入した問診票をそろえて渡しましょう。
本人が話しやすい環境づくりも欠かせません。上司が同席する形式では、業務の負担や人間関係の悩みを率直に伝えにくくなります。面談の内容が人事評価に使われないこと、必要な範囲を超えて共有されないことをあらかじめ説明しておくと、実態に沿った申告を引き出しやすくなります。オンラインでの実施を選べるようにしておくと、拠点が離れた社員や在宅勤務の社員にも同じ水準の対応を届けられます。
面接指導後の事後措置と記録の管理
面接指導を実施したら、事業者は医師から就業上の措置に関する意見を聴き、必要に応じて労働時間の短縮、深夜業の回数の削減、配置転換などの措置を講じます。措置を検討した経緯と結論は、本人と現場の管理職に共有し、実行されているかを翌月以降も確認しましょう。
面接指導の結果については、労働者の氏名、実施年月日、疲労の蓄積の状況、医師の意見などを記載した記録を作成し、5年間保存することが労働安全衛生規則で定められています。健康情報は取り扱いに配慮が必要なため、閲覧できる担当者の範囲を決め、保管場所と管理責任者を明確にします。紙と電子データが混在すると所在が分からなくなるため、保管方法は一つに統一しましょう。
過重労働を繰り返さない体制のつくり方
個別の面談だけでは過重労働の原因は解消しません。データで兆しをとらえ、業務量と休息の設計まで見直せば、同じ問題の再発を防げます。
労働時間データの可視化とアラートの運用
残業時間の集計が月末に一度だけでは、対応が後手に回ります。勤怠データを日次や週次で取り込み、部署別・個人別に累積時間を表示し、一定の水準に達した時点で本人と上長へ自動で通知する仕組みを整えると、超過を未然に抑えやすくなります。
通知の水準は、法令上の枠から逆算して設けるのが実務的です。月45時間や80時間に到達してから動くのではなく、その手前に注意段階を置き、業務の割り振りを見直す時間を確保します。健康診断やストレスチェックの結果と勤務データを同じ画面で確認できれば、血圧や睡眠に不安がある社員への対応を優先する判断もできます。健康管理システムの検討時は、自社の勤怠管理と連携できるかを確かめましょう。
業務量の平準化と休息時間の確保
特定の担当者に業務が集中している状態が続くと、その人が休むほど周囲の負担が増え、対策が進みません。業務の棚卸しを行い、属人化している作業を手順書に落とし込む、繁忙期の応援体制を決めておくなど、仕事の側を調整する取り組みが必要です。
勤務が終わってから次の勤務が始まるまでに一定の休息時間を設ける勤務間インターバル制度は、労働時間等設定改善法により事業主の努力義務とされています。導入すれば深夜まで働いた翌日の始業を遅らせるといった運用が可能になり、疲労の回復に役立ちます。制度の効果を確かめるには、導入前後で残業時間や体調不良による欠勤の推移を比較し、部署ごとの差を見ていくとよいでしょう。
健康情報の一元管理に役立つシステム
対象者の抽出から面談記録の保存までを手作業で回すと対応が遅れがちです。勤怠データと健康診断の結果を同じ基盤で扱える製品を紹介します。
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まとめ
過重労働は労働時間の長さだけでなく、勤務の中身まで含めた負荷で判断されます。企業には労働安全衛生法により、労働時間の状況を客観的に把握し、月80時間超の時間外労働で疲労が蓄積した社員の申し出に応じて医師の面接指導を実施する義務があります。対策を実効性あるものにするには、データを早く正確に集め、面談から事後措置までを記録に残す運用が欠かせません。制度の理解と仕組みづくりを同時に進めましょう。

