年末調整とは?
まず、年末調整とは何なのかを解説します。
所得税額を正しく調整する手続きのこと
会社は毎月従業員に支払った給与の中から、一定の税金額を源泉徴収しています。しかしこの税金額は過去の申告状況から計算した概算値でしかなく、従業員の扶養状況や各種保険の加入状況によっては、実際に納付すべき税額と乖離しているケースも多いです。
年末調整は、このような場合に正しい所得税額を再計算し、納付すべき税金と実際に支払った税金の差を調整する業務です。法律で規定されている雇用者の義務なので、従業員からの要望があった場合は必ず実施しなければなりません。
退職した人などが対象となる
12月~1月に実施する年末調整は、サラリーマンやアルバイトなどの給与所得者のうち、「給与所得者の扶養控除等(異動)申告書」を会社に提出した人が対象になります。ただし年収が2,000万円を超える人、源泉所得税・復興特別所得税の徴収猶予や還付を受けた人は対象外です。
年の途中での年末調整は、以下のような人たちが対象になります。
- 1.海外店舗への転勤により国内に住んでいない人
- 2.死亡によって退職した人
- 3.著しい心身の障害により働けなくなって退職した人
- 4.12月の給与等を受け取った後に退職した人
- 5.給与総額が103万円以下の退職したパート
「3」は、退職後給与所得を受けられない人が対象です。退職した後に再就職し給与所得者になる見込みがある人は除きます。「5」も、年度内に再就職の見込みがある場合は年末調整の対象になりません。
保険料控除申告書ほか3枚の書類が必要となる
年末調整で必要になる書類は、以下の4つです。
- 【扶養控除等(異動)申告書】
- 年末調整を希望する従業員全員が提出する書類です。
- 【基礎控除申告書 兼 配偶者控除等申告書 兼 所得金額調整控除申告書】
- 基礎控除や配偶者(特別)控除、調整控除を希望する人が提出します。
- 【保険料控除申告書】
- 生命保険料や地震保険料控除を希望する人が対象です。
- 【住宅借入金等特別控除申告書】
- 一定の要件を満たす2年目以降の住宅ローン控除希望者が提出します。会社が自発的に渡す書類ではないため、条件を満たす従業員には自分で準備してもらいましょう。上3つの書類は会社から発行します。
確定申告とは?
次は、確定申告について解説します。
2月~3月に税金の過不足を算出・提出する手続きのこと
確定申告とは、前年の所得金額と納税額を2月~3月の一定期間内に確定する手続きのことです。申告書と必要な証明書類をすべて税務署に提出し、源泉徴収などですでに納めた税金との過不足を算出します。税務署の窓口に赴くほか、郵便やインターネットでも手続き可能です。
自営業者・公的年金をもらっている人などが対象となる
確定申告の対象となるのは、以下のような人たちです。
- 1.株などで収益を得ており源泉徴収していない人
- 2.不動産の賃貸収入から所得控除をしても残額がある人
- 3.仮想通貨売買で収益を得ている人
- 4.公的年金の受給額から所得控除を引いても受給金が余る人
- 5.源泉徴収されていない退職金を受け取った人
- 6.外国企業から退職金を受け取った人(要件あり)
- 7.事業所得を得ている個人事業主やフリーランス
以上の項目にあてはまる場合は、2月~3月に前年の収入状況を確定申告しなければなりません。未申告の場合、税務署が税務調査を実施したときに追徴命令を受けます。なお「4」のうち、受給額が400万円以下の人は確定申告の対象にはなりません。
確定申告書や添付書類などが必要となる
確定申告では、以下の申告書や添付書類などが必要になります。
- 1.確定申告書
- 2.収支内訳書または青色申告決算書
- 3.給与所得や公的年金等の源泉徴収票(原本)
- 4.私的年金などの支払いを証明できるもの
- 5.医療費の領収書
- 6.各種保険料の控除証明書
確定申告書は「A」と「B」の2種類があります。確定申告書Aは、給与所得や雑所得、総合課税の配当所得、一時所得を得ている人が対象です。確定申告書Bよりシンプルになっているため、会社員の確定申告によく利用されています。確定申告書Bは、申告できる所得の種類に制限がありません。
収支内訳書は、白色申告を希望する場合に用意する書類です。比較的シンプルですが、事業所得などの収支状況を正確に計算できます。青色申告決算書は、青色申告を希望する場合に用意する書類です。
年末調整と確定申告の違いは?
年末調整と確定申告は、どちらも所得金額や納税額を正確に申告する制度です。しかし申告方法や納税方法に違いがあります。
年末調整は従業員の申請内容をもとに、会社が所得金額や納税額を決定します。従業員は年末調整に必要な書類を会社に提出するのみで、所得金額の計算や納税額の支払い、税務署への手続きなどに関与しません。
一方で確定申告は、納税者本人が前年度の所得金額を計算し、税務署への手続きや納税額の支払いなどを行います。会社に所属していない個人事業主やフリーランスなどが対象ですが、サラリーマンでも条件にあえば実施する必要があります。
年末調整と確定申告の両方が必要なケースは?
一部の給与所得者などは、年末調整と確定申告の両方が必要になる場合があります。年末調整と確定申告の両方を行っても、重複することに対しデメリットがあるわけではありません。年末調整と確定申告の両方が必要なときとは、具体的にどのようなケースなのでしょうか。
複数の収入源がある場合などは両方行うべき
以下のように複数の収入源がある人などは、年末調整と確定申告を行うと得をする可能性が高いです。
- 1.本業とは別に副業で20万円以上の所得がある人
- 2.不動産を売却した人
- 3.相続した家を売却した人
- 4.株などで収益を得ているが源泉徴収していない人
- 5.満期の保険金を受け取った人
- 6.年収が2,000万円以上の人
- 7.2箇所以上から20万円以上の給与を受け取っている人(源泉徴収されていない)
- 8.転職後、前の会社の源泉徴収票を提出していない人
- 9.源泉徴収税額の徴収猶予や還付を受けた人
- 10.会社から給与が源泉徴収されていない人
副業の収入は、受け取った金額から必要経費を差し引いた所得金額で考えます。たとえば副業で22万円の収入を得たとしても、3万円の経費がかかっている場合は確定申告の必要がありません。しかし住民税の支払い義務が発生するため、住民税の申告は別途必要です。
寄付をした場合などは還付の恩恵を受けやすい
以下のような人たちは、納めすぎた税金を還付できる可能性があります。
- 1.返済期間が10年以上の住宅ローンを利用している人
- 2.年間10万円を超える医療費を支払った人
- 3.災害や盗難などの被害を受けた人
- 4.国や地方公共団体などに寄付をした人
- 5.年度内に退職し再就職をしていない人
- 6.会社内で給与控除額の半分以上の支出がある人
「1」は一定の要件を満たす場合に、ローン残高の1%を上限に住宅ローン控除(住宅借入金等特別控除)を受けられます。「2」は、年度内に支払った医療費のうち保険金などを差し引いた金額が10万円を超える人が対象です。10万円以下でも支払った年間医療費が「総所得金額×5%」を超えていれば還付されるケースがあります。
また「4」はふるさと納税などを行っている人が対象で、「6」では65万円を上限に特定支出控除を受けられます。
年末調整と確定申告の違いを理解し、従業員に対応しよう!
年末調整とは、扶養親族の人数や保険料の支払いなどの最新状況に応じ、所得税額を正しく調整する手続きのことです。指定の書類を提出した人が対象になります。確定申告とは、2月~3月に前年の所得金額と納税額を確定する手続きのことです。個人事業主や公的年金の受給者などが対象になります。複数の収入源がある場合や寄付をした場合は、どちらも手続きした方がよいでしょう。両者の違いを理解し、年末調整業務を進めましょう。