医療費控除とは
医療費控除とは、一定の要件を満たす場合に支払った医療費の一部を所得控除できる制度です。医療費控除を申請することで、納めるべき所得税や住民税の額が小さくなります。医療費の負担が多い人を救済する制度であり、毎年多くの従業員が利用しています。
ただし医療費控除は、年末調整では申請できません。会社では対応が不可能なため、希望する従業員は確定申告の時期に個別で手続きする必要があります。
医療費控除の対象要件
医療費控除はどのような人が対象になるのでしょうか。医療費控除の要件について詳しく解説します。
診療・治療にかかった費用などが対象となる
医療費控除は、1年間で自分や自分と生計をともにする配偶者・親族のために支払った医療費に適用されます。具体的には以下のような費用が対象です。
- ●病院で支払った診療報酬
- ●病気の療養に必要な医薬品の購入費
- ●病院で診療を受けるために発生した公的機関の交通費
- ●入院中に必要な部屋代や食事代などの関連費
- ●はり師やきゅう師などに支払った費用
- ●身の回りの世話を依頼した保健師や看護師などへの雇用費用
- ●松葉杖、義歯などの購入費用
- ●重大な疾患が見つかるまでの健康診断費用
- ●助産師に対する出産費用や分娩の介助代
- ●自己負担した妊婦検診費用
- ●レーシック手術費
参考:医療費控除の対象となる医療費|国税庁
参考:No.1122 医療費控除の対象となる医療費|国税庁
医療費が年間10万円以上なら原則利用できる
医療費控除は、1年間で支払った医療費が10万円以上の場合、原則200万円を上限に利用できます。ただし、入院給付金や高額療養費などの各種保険金で支払われた金額は10万円に加算されません。そのため、詳しくは「1年間で支払った医療費のうち、各種保険金で補填された金額を除いたものが10万円以上であること」が医療費控除の条件です。
医療費控除額の計算式は、以下のとおりです。
医療費控除額=(医療費の金額-保険金等で補填された金額)-10万円
年間所得額が200万円未満の場合は、「総所得金額等×5%」を利用して医療費控除額を計算します。
参考:医療費を支払ったとき(医療費控除)|国税庁
医療費控除における手続きの手順と必要書類
医療費控除は、確定申告期間に従業員本人が手続きする必要があります。ここでは、確定申告で医療費控除を行う場合の手順や準備する書類などについて解説します。
必要な書類を一式揃える
確定申告で医療費控除を受けるために必要な書類は、以下の6つです。
- ●会社から発行される源泉徴収票
- ●確定申告書
- ●医療費控除の明細書
- ●医療費の明細書・領収書
- ●健康保険の医療通知書
- ●還付金を受け取るための銀行口座
確定申告書や医療費の明細書は、税務署・国税庁の公式サイトから入手できます。
医療費の領収書は、税務署への提出義務がない代わりに、自宅などで5年間保存するよう決められています。
参考:医療費控除を受けられる方へ|国税庁
医療費控除の明細書・確定申告書を作成する
令和5年1月から申告書Aは廃止され、申告書Bに一本化されました。そのため、医療費控除を申請する場合は申告書Bに一本化された「令和◯年分の所得税及び復興特別所得税の確定申告書」を利用します。確定申告書には、会社から発行される源泉徴収票をもとに所得金額などの必要事項を記入します。申告書の書き方がわからないときは、国税庁の「確定申告書等作成コーナー」を利用しましょう。
医療費控除の明細書には、人ごと・医院ごとに支払った医療費の合計額と、保険金などで補填した金額を記載し、控除額を計算します。計算した控除額は、確定申告の医療費控除の欄に転記しましょう。
医療費控除の明細書と確定申告書は、確定申告が行われる2月16日から3月15日の間に提出する必要があります。ただし医療費の申請ではなく還付を受けるだけの確定申告であれば、2月15日以前に手続きすることも可能です。
還付金の入金をチェックする
医療費控除の還付金は、確定申告後1〜1.5か月程度で指定の口座に入金されます。最寄りのゆうちょ銀行や郵便局で直接受け取ることも可能です。
確定申告の後半時期は、多くの申請書類が届き担当者の負担も大きくなるため、還付金の入金も遅れる可能性があります。特に締め切りギリギリで申告した場合は、還付金の入金に2か月ほどかかることも珍しくありません。還付金を早く受け取りたい場合は、できるだけ早めに確定申告しましょう。
「還付金を早く受け取りたいけど申告時期に左右されたくない」という場合は、インターネットを利用して電子的に国税の各種手続きが行えるe-Taxを利用するのがおすすめです。e-Taxを利用すれば、確定申告後2~3週間前後で還付金が指定口座に振り込まれます。
医療費控除を申請する際のポイント
医療費控除をスムーズに申請するために確認しておきたいポイントについて解説します。
医療費控除対象外のものを必ず確認しておく
医療費控除は、原則病院で治療や診療を受けるために支払った費用に適用されます。そのため、趣味や娯楽、美容を目的とした費用は控除の対象外です。具体的に以下のような費用は、医療費控除できないので注意しましょう。
- ●美容整形費用
- ●娯楽目的のマッサージ費用
- ●歯をオールセラミックするための治療費
- ●健康維持を目的としたサプリメントの購入費用
- ●病気が見つからなかった健康診断費用
- ●自家用車での通院費
- ●パジャマや洗面器具の購入費
- ●里帰り出産のための交通費
「セルフメディケーション」の利用を検討する
セルフメディケーションとは、医師の処方箋がなくても薬局やドラッグストアで購入できる、スイッチOTC医薬品を年間12,000円以上購入した場合に医療費控除を受けられる特例制度です。対象医薬品を年間12,000円以上購入し、かつ定期健康診断やがん検診などの特定健康診査を受けている人が対象です。
医療費控除は、本来であれば年間10万円を超える医療費を支払われないと適用されません。しかしセルフメディケーションを利用することで、年間12,000円以上の出費でも医療費控除を利用できるようになります。
また医療費控除は、原則治療行為のために支払った費用が対象ですが、セルフメディケーションでは予防のために支払った費用にも医療費控除が適用されます。ただし通常の医療費控除と併用できない点には注意が必要です。
参考:セルフメディケーション税制とは|国税庁
医療費控除は確定申告で手続きしよう
医療費控除は、年末調整で申請できません。また、会社では対応が不可能なため、従業員本人が自分で確定申告手続きを行い、控除を受ける必要があります。
医療費控除の申請は年末調整担当者の業務ではないものの、従業員から手続きについて尋ねられた際に対応できるよう、対象条件や申請方法を把握しておくとよいでしょう。なお、以下のボタンから年末調整支援システムの一括資料請求が可能なため、年末調整への対応にお困りの方はぜひご利用ください。