在庫と会計の関係性
損益計算書において、売上原価は以下の計算式で算出されます。
- ■売上原価 = 期首在庫(商品棚卸高) +当期商品仕入高 -期末在庫(商品棚卸高)
上記の式から、在庫が売上原価を左右することが分かります。たとえば、期末在庫が増えると売上原価は小さくなり、利益は大きくなります。
この関係性を利用して、期末在庫を故意に多くカウントして売上原価を減らし、利益を膨らませて見せるといった粉飾が行われることも珍しくありません。適切な会計を実現するには、正しく在庫を把握してこうした問題を排除する必要があります。
ちなみに、会計では在庫を棚卸資産と呼びます。具体的には以下のものが棚卸資産に該当します。
- ■通常の営業により販売するために保有する財貨:商品、製品など
- ■販売を目的として現在製造中の財貨・用役:仕掛品、半製品など
- ■販売を目的として財貨・用役を製造するために短期間に消費される財貨:原料、部品など
- ■販売活動や管理活動に消費される未使用の財貨:消耗品、備品、工具など
棚卸資産の計算方法
棚卸資産の計算方法には継続記録法と棚卸計算法の2つがあります。それぞれの概要を見ていきましょう。
- 【継続記録法】
- 継続記録法は、仕入や販売に伴う在庫の変動が起きるたびに、受入数量や払出数量、在庫数量を帳簿に記録する方法です。帳簿には常に最新の状態が反映されることになります。期中でも在庫を把握できるのがメリットです。
- ただし、盗難や記録ミスによって帳簿と実際の状況に乖離が生じることもあります。また、記録する対象が多いため手間がかかるのが難点です。
- 【棚卸計算法】
- 期中に棚卸資産の受入数量・繰越数量のみを記録する方法です。販売に伴う在庫の変動は記録しません。その代わり、期末に実地棚卸を行って把握した期末在庫を、期首繰越数量と受入数量の和から差し引いて払出数量を算出します。
- この方法は、盗難や紛失によって失った在庫も払出数量として計上されるのが難点です。ただし、継続記録法より期中の記録量は少なく、管理負担が軽いのがメリットといえます。
棚卸資産の評価方法
在庫を把握したら、期末にはそれらの在庫金額を評価しなければなりません。そこで、棚卸資産の5つの評価方法を解説します。
個別法
対象の在庫を購入した際、個別の価格を在庫金額とする方法です。シンプルで分かりやすいのがメリットといえます。
しかし、個別法では購入価格が異なるものはすべて区別して評価しなければなりません。したがって、大量に保有する在庫に適用するには不向きです。不動産や自動車など、ひとつひとつが高額な商品の在庫を評価するのに用いられます。
先入先出法
先に仕入れたものから先に販売していると見なして評価する方法です。
たとえば、1月にある商品を1つ100円で10個、2月に同商品を1つ150円で5個仕入れ、3月に12個販売したとしましょう。このとき、3月に販売された12個は「1月に仕入れた10個+2月に仕入れた2個」と見なされます。同様に、残った3個はすべて2月に仕入れられたものと見なされます。
したがって、残った3個の価格は「150円×3個=450円」です。実際にはこの3個が1月に仕入れられていても、先入先出法では2月に仕入れられたものと考えます。
価格変動によって評価と実態に乖離が生じやすいため、価格変動が少ない商品の評価に適しています。
平均原価法
平均原価法は原価の平均値を算出し、それを基に期末の在庫を評価する方法です。主に以下の2種類があります。
- 【総平均法】
- 期首の在庫金額と当期に取得した在庫金額を合計し、在庫数で割ることで単位当たりの価格を算出する方法です。期末の在庫金額は、その単位当たりの価格を基に評価します。期末にのみ平均値を算出するため手間が少なく済みますが、タイムリーな状況把握には向いていません。
- 【移動平均法】
- 資産を購入するたびに、購入直前の在庫金額と購入金額を合計し、購入後の在庫数で割ることで平均単価を算出する方法です。期末時には、最終的な平均単価を基に在庫金額を評価します。資産購入の都度計算が必要ですが、タイムリーに資産状況を把握できます。
売価還元法
期末在庫の売価に、原価率をかけて在庫金額とする方法です。たとえば、売価100円のお菓子の原価率が3割だった場合、そのお菓子の在庫金額は30円となります。
売価還元法のメリットは個々の商品について綿密な受払記録が必要ないことです。原価率が近い商品をまとめて商品グループごとに分類し、期末在庫の売価合計に原価率を掛けて、商品グルーブの在庫金額とすることもできます。そのため、大量の商品を扱うスーパーマーケットなどで採用されています。
最終仕入原価法
期末にもっとも近い仕入価格を基にして在庫金額を評価する方法です。非常に手間が少なく済みますが、実態と計算結果の間に大きな乖離が生じることもあります。
たとえば、期中に商品Aをずっと1つ100円で仕入れておきながら、期中の最後に仕入れた際の仕入価格が150円になったとしましょう。この場合、当該期中に仕入れた商品Aの在庫金額はすべて150円と見なされます。
このような性質があるため、価格変動の少ない商品に使われます。また、期末に偏って仕入れる商品にも向いているでしょう。
ちなみに、最終仕入原価法は法人税法における原則的な在庫評価方法とされています。一方、「棚卸資産の評価に関する会計基準」では、実態と記録に乖離が生じやすい最終仕入原価法は適用できないことになっています。
棚卸資産を扱う際の注意点
最後に、棚卸資産を扱う際の注意点を見ていきましょう。
税務署に評価方法を届け出る必要がある
上述した棚卸資産の評価方法のうち、どれを採用したのかを所轄の税務署に届け出る必要があります。一般法人の場合は、設立後の第1期の確定申告提出までに届け出ましょう。
合併によって設立された企業で、仮決算の中間申告をする場合は、その中間申告までに届け出ます。期日までに届け出をしなかった場合は、自動で最終仕入原価法が選択されます。
また、一度決めた評価方法を変更する際は、変更する年度の開始日の前日までに届け出ましょう。
在庫の個数と価値を見極める
帳簿上の在庫の個数と価値が、必ずしも実態を正確に反映しているとは限りません。たとえば、以下の要因で在庫の個数や価値が減ることがあります。
- ■盗難や紛失、気化などによる在庫の減少(=減耗損)
- ■経年劣化などによる在庫の価値の低下(=商品評価損)
減耗損は実地棚卸によって把握する必要があります。実際の数量と帳簿上の数量との差額は棚卸減耗損として処理しましょう。
一方、在庫の価値が低下し、購入時の原価よりも時価が小さくなった場合は、その差額を「商品評価損」として処理します。これを低価法といいますが、この場合においての時価は「正味売却額」となります。正味売却額とは、販売価格から販売に要するコストを控除した金額です。
在庫の会計処理を効率化するには、ソフトの導入検討を!
会計において在庫は棚卸資産と呼ばれます。棚卸資産の計算方法は以下のとおりです。
また、棚卸資産の評価方法は以下のとおりです。
- ■個別法
- ■先入先出法
- ■平均原価法
- ■売価還元法
- ■最終仕入原価法
こうした計算や評価には専門の知識が必要になりますが、会計ソフトがあればその負担を軽減できます。在庫の会計処理を効率化するため、会計ソフトの導入を視野に入れてはいかがでしょうか。