事業再開枠とは
新型コロナウイルス感染症の拡大による緊急事態宣言が解除され、国は業種別のガイドラインに沿った事業の再開を後押しするようになりました。日本をはじめとした多くの国々では、新型コロナウイルス感染症の拡大を押さえつつ、経済活動を優先するようになったといえるでしょう。
ただし、何の対策もなしに事業を再開していては、医療機関がひっ迫するなど社会的な混乱は避けられません。事業者が適切な対策を取りながら事業再開できるようにする制度が「事業再開枠」なのです。
参考:業種別ガイドラインについて|内閣官房
対象者
事業再開枠の対象者は、生産性革命推進事業にかかる補助金に採択された事業者のうち、業種別ガイドラインに沿った事業を継続するために必要な感染防止対策を行う事業者です。
生産性革命推進事業にかかる補助金とは、小規模事業者持続化補助金、ものづくり補助金、IT導入補助金のことです。事業再開枠を活用するためには、これらの補助金の採択を受ける必要があるのです。
参照元:事業再開枠支援パッケージの概要(出典:経済産業省)
対象となる取り組み
事業再開枠で対象となる取り組みは以下のとおりです。業種別ガイドラインの内容が考慮されているので、ガイドラインの改訂により今後変更される場合もあります。ご注意ください。
- 消毒費用
- 除菌剤の噴霧装置、オゾン発生装置、紫外線照射機等といった消毒設備の購入費。アルコールなど消毒液の購入費。
- 消毒作業の外注費。
- マスク費用
- マスク・ゴーグル・フェイスシールド・ヘアネットの購入費。
- 清掃費用
- 清掃に必要な手袋・ゴミ袋・石けん・洗浄剤・漂白剤の購入に要する経費。
- 清掃作業の外注費。
- 飛沫対策費用
- 感染防止対策に必要な飛沫対策のためのアクリル板・透明ビニールシート・防護スクリーン・フロアマーカーの購入費、および施工するための外注費。
- 換気費用
- 感染防止対策に必要な換気のための機械装置(換気扇、空気洗浄機等)の購入に要する経費。
- その他衛生管理費用
- 感染防止対策に必要な衛生管理のうち、上記以外のもの。事業継続に必要な経費が対象になります。
- ユニフォームのクリーニング外注費、トイレ用ペーパータオル・使い捨てアメニティ用品の購入費、従業員指導等のための専門家活用費、体温計・サーモカメラ・キーレスシステム・インターホン・コイントレー・携帯型アルコール検知器の購入費。
- PR費用(感染防止のための注意喚起に要する費用)
- 従業員又は顧客に感染防止を呼びかけるためのポスターやチラシの外注費や印刷費。
生産性革新推進事業ごとの事業再開枠について
事業再開枠は、生産性革新推進事業にかかる補助金の採択者が対象になるという特徴があるため、事業再開枠による支援内容が補助金ごとに異なります。
IT導入補助金
IT導入補助金は、中小企業のITツール導入を支援するための補助金で、最大450万円が補助されます。IT導入補助金では、たとえ採択を受けたとしても、事業再開枠を使った感染防止対策費の補助を受けることはできません。
IT導入補助金では、事業再開枠を使うことができませんが、特別枠が設定されています。IT導入補助金における特別枠とは、新型コロナウイルスの影響で、具体的な対策(サプライチェーンの毀損への対応、非対面型ビジネスモデルへの転換、テレワーク環境の整備等)に取り組む事業者を対象としたものです。
IT導入補助金の特別枠を使うと、補助率が1/2から最大3/4にまで拡大されます。国の外出規制に応じてテレワーク環境に対応した事業者などは、IT導入補助金の特別枠を活用するとよいでしょう。
参考:IT導入補助金 特別枠(C類型)
ものづくり補助金
ものづくり補助金は、生産性を向上させるための中小企業の投資を支援する補助金で、最大1,000万円が補助されます。ものづくり補助金でも、新型コロナウイルスの影響で、具体的な対策(サプライチェーンの毀損への対応、非対面型ビジネスモデルへの転換、テレワーク環境の整備等)に取り組む事業者を対象に、特別枠が設定されています。
ものづくり補助金で事業再開枠を使うためには、特別枠で採択を受ける必要があります。特別枠で採択を受けた事業者が、採択決定後の交付申請をおこなう際に申請すると、事業再開枠を使うことができます。
事業再開枠の上限は50万円で、新型コロナウイルス感染症に対する、前述の感染防止対策費用の全額が補助されます。事業再開枠を活用したい事業者は、ものづくり補助金の申請をする際、特別枠による申請を検討するようにしてください。
参考:ものづくり補助金 総合サイト
小規模事業者持続化補助金
小規模事業者持続化補助金は、小規模事業者の販路開拓や生産性向上を支援するための補助金です。IT導入補助金やものづくり補助金と異なり、小規模事業者を対象とする補助金である点に注意してください。
小規模事業者持続化補助金は、現在、一般型(補助上限額50万円)とコロナ型(補助上限額100万円)の2種類が公募されていますが、どちらでも事業再開枠を使うことができます。事業再開枠の上限は50万円で、前述の感染防止対策費用の全額が補助されます。
小規模事業者持続化補助金の事業再開枠の申請は、ものづくり補助金の事業再開枠と異なり、採択決定後ではなく補助金の申請と同時におこないます。このとき、事業再開枠の上限である50万円の範囲内で、補助上限額を引き上げることができます。
このため、感染防止対策費として使わずに、補助上限額を一般型では100万円、コロナ型では150万円に引き上げることもできるのです。
参考:中小企業・小規模企業者の定義|中小企業庁
参考:生産性革命推進事業|中小機構
事業再開枠申請にあたっての注意点
飲食業などの客商売をおこなうサービス業を中心に、感染防止対策費の負担が大きい事業者は、事業再開枠はぜひとも使いたい制度です。しかし、事業再開枠は、誰でも使える制度ではありません。ここでは、事業再開枠申請にあたっての注意点を確認していきます。
事業計画書を作成する必要がある
事業再開枠を使うことができる、ものづくり補助金や小規模事業者持続化補助金の採択を受けるためには、事業計画書の作成が求められます。採択された後は、事業再開枠以外に、一定の投資も必要になります。
そのため、事業再開枠による補助を受けることが難しい事業者もいるかもしれません。このような場合は、県や市でおこなっている支援制度を確認してみてください。一般的に事業再開枠より補助金額は少なくなりますが、感染防止対策費を補助している地方自治体もあります。
参考:八代市新型コロナウイルス感染症予防対策支援補助金|八代市役所
競合優位を築くためという視点で
感染症予防対策は、新型コロナウイルスに対応するためというネガティブな出費と捉える事業者もいるかもしれません。しかし、感染症予防対策は、顧客に安心感を与え満足度を向上させることになり、競争優位を築く要因となります。
競合優位を築くための戦略的な感染症予防対策をおこなう視点をもつことで、ものづくり補助金や小規模事業者持続化補助金を有効的に活用することができるはずです。アフターコロナを見据えた長期的な視点で、事業再開枠の活用を検討してみてはいかがでしょうか。
出費がかさむコロナ対策は事業再開枠の活用を
新型コロナウイルス感染症の勢いはとどまることを知らず、経済活動を優先した日本を含む各国で猛威を振るっています。ウィズコロナという言葉が生み出されているように、私たちはこのウイルスと向き合っていかなければなりません。
ウィズコロナが意味することは、ウイルスを放置し感染を広げるということではありません。事業者には、経済活動を継続する中でも、感染被害を防止しながら顧客が満足する商品やサービスを提供しなければならないという責任があります。事業再開枠を活用しながら費用負担を抑え、ウィズコロナ時代に求められる事業継続の姿を描き出してみてはいかがでしょうか。