登壇者プロフィール
株式会社ユニリタ Growwwing事業責任者 兼 プロダクトマネージャー
尾上 雄馬 氏
ITサービス向けヘルプデスクSaaS「LMIS」の開発を担当したのちに同サービスのカスタマーサクセス部隊の立ち上げを実施。そのノウハウを活かしカスタマーサクセス向けのSaaSである「Growwwing」を開発し社内ベンチャーの事業責任者として現職に就く
株式会社Asobica 代表取締役
今田 孝哉 氏
2015年ファインドスターグループ入社。CS領域におけるSaaSの立ち上げに従事し、500社以上のCS部門を支援。2019年4月には30歳以下アジア次世代リーダー「Forbes Asia U30」に選出。
そもそも「カスタマーサクセス」とは?
株式会社ユニリタ 尾上 雄馬 氏(以下、尾上):
近年増えているサブスクのような定期課金型のサービスでは、継続的してお客様に利用していただくためにお客様のフォローが求められます。カスタマーサクセスはそうした中で誕生した職種・機能で、今後サブスクを提供する中では必須になっていくと思います。
株式会社Asobica 今田 孝哉 氏(以下、今田):
弊社もカスタマーサクセスをやっているのですが、結構失敗するんですよね。お客様を支援し成功・失敗例を見てきた中でも、「こうやったら絶対に成功する」というやり方を見つけるのはなかなか難しい。一方で、失敗例には一定の共通点があるなと思ったので、今日はその辺をお話できればと思います。
失敗事例から見る「こういうカスタマーサクセスは失敗する
尾上:
私は現在「Growwwing」というサービスを提供していますが、もともとはLMIS(エルミス)というヘルプデスク業務支援ツールのカスタマーサクセスの立ち上げを担当していたので、その時のお話をさせてください。
当時、LMISの年次解約率はどんどん上がり、10%に到達していました。ここを何とかしようとカスタマーサクセスを立ち上げ、まずは失敗の原因分析から着手しました。そして、解約企業の分析を行ったところ、契約後の最初のフォローが不十分だったお客様は非常に解約率が高いことが判明しました。弊社の場合は2年以内の解約が72%に及んでおり、オンボーディングと呼ばれる最初のフォローフェーズに力を入れないと解約率は下がらないと感じました。
そこでオンボーディングに力を入れたところ、解約率が年々下がっていきました。年次解約率は3%まで、月次で言えば1%未満まで下がっています。ということで、カスタマーサクセスが失敗する第一の関所はオンボーディング(最初のフォロー)かなと思っています。
こういうカスタマーサクセスは失敗する!
その1 オンボーディング(最初のフォロー)が不十分、足りない
今田:
弊社はサポートの方法から失敗事例をお話したいと思います。よくあるのが、お客様の規模や顧客単価でサポートの手法を変えてしまうというものです。
サポートの手法には「ハイタッチ」「ロータッチ」「テックタッチ」があります。ハイタッチというのは、定期ミーティングや訪問サポートのようなコストの高い対面でのサポートですね。一方、ロータッチはメールやチャット、セミナーといった比較的コストの低いサポートが該当します。そしてテックタッチというのは、動画コンテンツやメルマガ、ユーザーコミュニティといった、もっともコストがかからないサポートです。
すると「高単価のお客様に電話だけで済ませるのは失礼じゃないか」「単価の低いお客様に高いコストはかけられない」と、お客様の規模によってサポートを使い分けて失敗してしまう例が結構あります。これだと手法に縛られてしまうので、お客様の規模ではなく成熟度、具体的に言うと、最適なサポートはお客様ごとに模索していくことが大事だと考えています。
例えばツールの設定方法ひとつとっても、毎回訪問や電話でサポートをしてしまうとお客様も受け身になってしまったり、「次会ったときに聞けば良いや」と活用が進まなかったりします。それなら動画で解説するコンテンツを用意したほうが、分からなかったときにスムーズですよね。このような形でお客様の成熟度でサポート手法を考えるべきだと思います。
こういうカスタマーサクセスは失敗する!
その2 お客様の規模や顧客単価でサポートの手法を変えている
全体像から見る「こういうカスタマーサクセスは失敗する
尾上:
従来の売り切り(フロー)型のビジネスモデルでは、マーケティング部門が見込み客を取ってきてインサイドセールス部門が育て、フィールドセールス部門が受注を獲得、売り上げて完了、でした。しかし、サブスクやリカーリングといったストック型のビジネスモデルでは継続的に売上を得なければいけないため、受注を獲得した後もお客様に伴走して次の契約を更新してもらう必要があります。
そこでカスタマーサクセス部門はLTV(ライフタイムバリュー)の最大化をミッションにして活動します。LTVというのは、1人のお客様が契約から解約までに支払ってくださるお金のことです。つまり、解約をさせないで利用率を向上させ、顧客満足度を高め、最終的にはアップセルのように追加の契約を結んでLTVを大きくする。これがカスタマーサクセスの全体像になります。
今田:
これまではカスタマーサポートと呼ばれる部門が多くて、コールセンターのように「いかに大量の問い合わせを効率よく捌くか」というのが課題でした。しかし、月額制のビジネスモデルが主流になって、顧客満足度を上げて長く利用し続けてもらわないと元を取れない状況になった。すると、カスタマーサポートのように量を捌くだけでは顧客満足度が上がらないので、もっとお客様に寄り添う必要が出てきます。
こういう背景を受けて、カスタマーサポートがカスタマーサクセスにモデルチェンジしました。上場企業の大半はカスタマーサクセスにかなり投資していますし、チャーンが低くないとIRや上場企業の時価総額も上がらない状態になってきていますので、カスタマーサクセスが非常に重要になってきているなと思っています。
こういうカスタマーサクセスは失敗する!
その3 「いかに量を捌くか」で考えている
カスタマーサクセスを成功に導くには?
尾上:
お客様に伴走するのが鍵かなと思います。カスタマーサクセスというと、まずテックタッチ的なところから始めようとするお客様が多いです。しかし、カスタマーサクセスというのはビジネスモデルの変革であり、最終的には文化を変えることです。テックの部分にプラスして人の教育やプロセスの見直しを行わないと、上辺だけの活動になってしまうのかなと考えています。
こういうカスタマーサクセスは成功する!
その1 お客様に伴走する
今田:
「カスタマーサクセスを成功に導くには」に対して弊社が考えていることは3つです。
1つ目はカスタマージャーニーのデザイン。お客様に製品を導入いただいてから満足いただくまでのロードマップを設定するということですね。2つ目は、設定したロードマップに対してどういうタッチポイントを取るかです。メールなのか、チャットなのか、あるいはコンテンツなのか、いろいろなタッチポイントがあるので、フェーズに応じて最適な選択をしていく必要があります。
ただ、この2つに関してはあくまでも仮説でしかありません。ここから先が非常に大事で、仮説が正しかったのかどうか、改善点はどこなのかを振り返る必要があります。ということで、お客様の行動履歴の可視化とタッチポイントの分析というのが3つ目です。そして、この3つ目ができていない会社が非常に多いと感じています。
ダイエットと同じですよね。なんとなくで食べていたら成功しません。毎日摂取カロリーや体重を記録して、良くなかった部分を軌道修正する。これが成功するためには非常に大事だと思います。
こういうカスタマーサクセスは成功する!
その2 お客様の行動履歴を可視化して、軌道修正する
尾上:
「可視化できないものは継続できない」「継続できないものは管理できない」「管理できないものは改善できない」という考えがあります。ダイエットでも試験勉強でも同じですが、今の立ち位置が分からないと次のアクションを起こせないのでゴールにたどり着けない。これはあらゆる場面に通じるモデルだと思います。
今田:
自分の発想が正しいと勘違いしてしまって、立てた仮説がそのままうまく行くと思っていて、計測せずに終わる。これではいけないんですね。
ある例では「施策の優先度が下がるとツールを使ってもらえなくなる」と考えて、施策の優先度を上げてもらおうとしていました。しかし、担当者がそれを推進できればいいですが、なかなかそうはいかない。決裁者を呼び出して施策の重要性を認識してもらう必要がある。つまり、鍵となるのは最初のときに決裁者と推進者を同席させることだったわけです。こういうのは仮説を立てるだけでは分からないので、可視化が大事だなと僕も思います。
カスタマーサクセスによって生まれる未来
尾上:
より良いサービスを育てていこうと考えたとき、開発して終わりにはできません。お客様との関係が始まったあとに、サービスをきちんと使ってくれているのかどうかを監視したり、お客様と直接やり取りして課題感などを拾ったりします。そして、それをサービスにフィードバックする。このループを繰り返すことで、サービスの成長、お客様の満足度向上に繋がると考えています。
Growwwingではそのための機能を提供しています。カスタマーサクセスの行動管理に加え、提供サービスと連携して利用状況を可視化、coorumなどのコミュニケーションツールと連携しコミュニティの情報を収集することで、最終的には先ほどのループを実現していきたいと思っています。このループを実現するために、色々なサービスを組み合わせたり、カスタマーサクセスの人の文化やアップデートしていくことが、私たちがやって行きたいこと、実現したい未来です。
今田:
弊社が実現したい未来を一言でいうと「カスタマーサクセスを誰でも出来るようなものにしていきたい」です。
カスタマーサクセスは一部の人、経験がある人にしかできない業務になってしまっています。セールスに例えると分かりやすいですよね。トップセールスだけが売れて、他のメンバーは売れていないみたいな。でも、そこをダッシュボードで進捗状況を可視化して、お客様の購入意欲をスコア化して、システムが次の行動を提案してくれれば、どんなセールスパーソンでも70点くらいは取れるようになると。この仕組みを実現したのが Salesforceだと僕は思っていまして、まさにこのSalesforceがやったようなことを、カスタマーサクセスの業界でもやりたいと思っています。
具体的に言えば、お客様に困ったことがあったとき、それを解決するポップアップが表示されるとかメールで届くようになれば、電話やチャットで細かくサポートしなくてもすぐに解決するじゃないですか。このデジタル上の体験を僕たちは作っていきたいと思っていて、その結果生まれた時間をお客様との関係性構築に充てていくことが大事だと思っています。人がやらなくても良い部分はツールに任せ、人間だからこそできる関係性構築に専念できるようにする。こういうことを僕らはサポートしていきたいなと思います。
おわりに
尾上:
私がよく言う言葉に「負けに不思議の負けなし、勝ちの不思議の勝ちあり」というのがあります。環境やお客様の状況は常に変わるので勝とうとしても必ず勝てるわけではありませんが、負けよう、つまり解約されようとすれば解約されることは容易です。失敗には理由があるので、それを減らしていけばおのずと成功に近づくだろうと考えています。なので、失敗事例を学んだうえで、いかに同じ轍を踏まないようにするかを第一歩にして、ネクストステップとしては、再現性を作っていくと良いのかなと思います。
今田:
自分たちもカスタマーサクセスでたくさん失敗してきたので「こうやれば上手くいく」というのはなかなかないと思うんですね。一方で、色んなお客様を見てきた中で共通点を感じるところもあるので、それをシェアすることが大事だと思っていて。
カスタマーサクセスってここ数年で一気に注目されているんですけど、カスタマーサクセスはまだまだ始めたばかりという会社も多いので、そこにあるノウハウのギャップを埋めたい想いで今日も参加しました。これからもそういう情報を発信しながら業界を盛り上げていければと思います。ありがとうございました。
ITトレンドEXPO次回もお楽しみに!
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