登壇者プロフィール
NEC グローバルイノベーションユニット エグゼクティブ・ディレクター
森 英人 氏
日本IBM、日本テラデータを経て、2018年より現職。日本電気にて、戦略的な事業カーヴアウトによる起業会社「dotData, Inc.」の日本における事業責任を担うとともに、dotData, Inc.の日本カントリーマネージャー、dotData Japanの代表執行役社長を務める。
株式会社大塚商会 AIビジネス推進プロジェクト 執行役員
山口 大樹 氏
1992年に入社し営業職として活躍。2000年、トータルソリューショングループに異動。2013年、中小企業診断士資格取得と同時に、ITだけでは実現できない企業の課題解決を目的とした「経営支援サービス」を立ち上げる。2017年、自社で培ったAI活用のノウハウをお客様へ提供する「経営支援AIサービス」をリリース。2019年には「AIビジネス推進プロジェクト」に参画し、2020年、執行役員へ就任。
「DX」はどんな変化をもたらした?
NEC 森 英人氏(以下、 森):
「DX」がバズワード化し、色々なところで語られる機会が増えたと思います。ただ、往々にしてDXのHow to的な話、コンテンツデリバリーをデジタル化するとか、そういうところに行きがちなんですよね。なので、一旦原点に返って「DX化で何が嬉しいのか、あえてDXを進める理由」を整理したいと思います。
DXに対しての期待感は大きく3つに分けられます。1つは「破壊的な効率化」。ビジネスの効率が劇的に改善するということですね。たとえば、AmazonはECサイトを運営していますが、注文した翌日にお客様のところに商品が届きます。でも他のところで注文すると、3週間や4週間平気でかかるんですよね。つまり、Amazonの「翌日届く」というのは劇的な効率化が図られているわけです。
また、2つ目は「劇的なビジネスモデル」、3つ目は「革新的な顧客体験」です。この2つについて私はよくNetflixを例に挙げています。NetflixはもともとCDやDVDを貸し出すビジネスをしていましたが、それをデジタルでストリーミング化し、顧客体験が変化しました。さらに、デジタル化によって顧客のニーズを把握できるようになったNetflixは、データ分析を基にオリジナルコンテンツをクリエイトするところにビジネスモデルを移しているんです。
私たちは「データドリブンDX」という言葉で提唱していますが、今例に挙げたような変化は「データ」によってもたらされているんですね。というのも、Amazonの商品が翌日に届くのはなぜかというと、データに基づいて予測しているからなんです。事前に予測し、配送センターに在庫を確保しているからすぐに発送できる。もちろん、予測精度が低ければ過剰在庫で倒産するので、Amazonはデータに基づいて絶妙な予測をしているわけです。
Netflixについても同じです。オリジナルコンテンツを作れるようになったのは、どんなお客様がどの曜日の何時頃に、どのようなジャンルで、どの監督で、どの俳優が出ていて、どういうストーリー展開のコンテンツを見るのか…を分析したからなんですね。何が売れるのか分かったからこそ、ビジネスモデルを転換できたということです。こうした例から分かるように、DXによって単なる情報伝達のデジタル化だけでなく、劇的な効率化やビジネスモデルの変化までも実現できます。
株式会社大塚商会 山口 大樹氏(以下、山口):
データドリブンDXでAmazonとかNetflixの例はやっぱり有名ですし、すごい先端を行く企業じゃないですか。じゃあ、それ以外の企業がデータドリブンDXを実現するためにはどうしたらいいんですかね?
森:
いきなり鋭いですね。そうなんですよ。AmazonやNetflixはすごい財力を持っていて人材を確保できるわけですが、普通はできないです。じゃあ、そうした先進企業が人海戦術でやっていることを、人工知能、AIを使って同じように実現できないかと考えるのが我々のチャレンジです。
そこで私がやっているdotData事業の話になるんですが、dotDataのAIは3つのタイプの未来予測をします。1つは、「投資信託を誰が買ってくれるか」を予測するもの。次が、「オンライン教育プログラムを継続してくれるのが誰なのか」を判別するもの。そして3つ目が「明日はサンドイッチがいくつ売れるのだろう」といったような予測です。
本来その予測、例えば「おにぎりがいつ売れるのか?」を予測するためには、正しく過去を検証するためにまずはおにぎりの売れ行きに詳しい人が色んな仮設を立てて、そしてデータエンジニアやデータサイエンティストなどが集まって、1~2カ月かけて過去のデータを分析・判断する必要があるわけですが、これでは間に合わないというのが問題になっています。しかし、dotDataを使えばこれらのプロセスをAIで完全自動化してスピードを劇的に改善できるし、そもそも人間にしかできないと思われていたことを機械化できるのがポイントです。むしろ、人間では誤解してしまうようなことも、AIなら冷静に分析してくれるんですよね。
「AI使い」、大塚商会のエグいAI活用
森:
以前大塚商会さんの社長様とお話したとき「うち、すごいAI使いなんだよ。あなたが知らないAIを他に4つくらい試してやっているんだよ」と言われたことがあるんですが、それをちょっとお伺いしたいです。
山口:
私は1992年に入社したんですが、当時は各支店に与信や契約などの権限が全てあり、ミニ大塚商会の集合体が大塚商会という感じで営業は凄い柔軟にできていました。ところが、統制が効かないところから非効率が発生していると。
この問題に対して、今の大塚社長が推進役として営業力だけでなく財務的にも強い組織をつくろうと、大戦略プロジェクトを立ち上げました。マスターの統合と売上計上基準の厳格化、債権債務、間接業務のセンター化をテーマに掲げて、その実現に寄与したのがITなんです。一気通貫のシステムとして基幹システムから情報、SFA、CRM、サプライチェーンまでを構築して、生産性が非常に上がりました。
プロジェクトが立ち上がったのが1993年で、活用され始めたのが1998年頃ですが、この時期から顕著に生産性が上がっているんですね。一人当たりの売上高で現在と当時で2.1倍、営業利益で21倍です。
大塚商会では約20年前から、今でいうSFAを活用してデータドリブンの基盤となる情報を蓄積しています。1日1万件の営業報告データがあがっているわけですから、かなりのビッグデータになります。これを利用して現在はRPAやチャットボットを活用しています。ある組織ではRPAのビジネスコンテストをやって、450もの業務をデジタルレイバーに置き換えて年間2億円のコストを削減した事例もあります。
ほかにもコールセンターの例があります。音声のやり取りを自動でテキスト化して、さらにAIがその内容を理解するんです。そして、問い合わせへの回答に役立つデータをAIがDWHから抽出して、オペレータに示すシステムが稼働しています。さらに、入電予測のAIモデルを活用し、オペレータのシフトを組むのも効率化していますね。
さらに営業面では、購買意欲の高いお客様をAIがランキング化してリストを作っています。そしてエグいことに、営業パーソンのスケジュールに空きがあると、AIが「あなたはここに行きなさい」と予定を入れるんです。営業パーソンは嫌々行くわけですが、これが結構決まるんですね。AIが示したお客様に訪問して受注に至る確率は、それ以外での受注確率よりも毎月約5%高いと。
森:
これdotData使っているやつですか?エグい使い方していますね!
山口:
また、組織面も実はAIを活用していますね。スマホのセンサーで筋肉の微細な動きを取り込んでAIで分析し、その組織の活性度・幸福度みたいなものを数値化しているんですよ。まだ検証段階なんですけど、その数値が高ければ高いほど業績が良いという一定の相関関係が見えつつあるんです。
組織の活性度を上げると業績が上がるというエビデンスも取れつつあるので、そこに力を入れています。全社的な展開と、お客様への提供も始めています。
森:
私、今日データがキーだと言ってきたんですが、そもそもAIや分析の前にマスターデータの統合とかサプライチェーンで発生するデータ全部一元化して一貫性持たせないといけないと。そこができたら、今度はデータ分析とか予測とかいろいろ考えて使いこなして…これではなかなか従業員はサボれないですね。
山口:
そうですね。ただ、年間休日もすごい増えているんです。実際、社員数が変わらずとも売り上げが倍増して、年間休日も増えているという状況です。
森:
すごい。利益が21倍とかでしたもんね。
中小企業にもAIを。大塚商会が提供するDX
山口:
森さんのご説明にもありましたが、dotDataは「AIを民主化する」というテーマで大手企業を中心に活用されはじめているんですね。一方、大塚商会のお客様は大半が中堅・中小企業のお客様で、まだまだAIを使いこなすのが資金的に難しいケースが多いんです。そこで今回は、大塚商会のdotData分析サービスという形で紹介します。
森さんにも非常にご協力いただいたのですが、大塚商会はdotDataを自社で使うために数億円投資しているんですね。それで、3~4ヶ月くらいかけて「大塚商会が保有するdotDataをお客様の課題解決のために使います」というサービスを用意しました。
お客様のデータをご提供いただいて、たとえば「フィットネス会員の離反予測をしたい」「クレジットカードのグレードアップの予測をしたい」といった課題の解決を手助けするサービスです。それを100万円から提供しようという形で発表し、たくさんのお問い合わせをいただいています。
森:
さっきAmazonの財力がどうこうって話をしましたけど、NECの提供するdotDataの一番小さい構成でも2,000、3,000万かかりますからね。そこを、100万円と。しかも、大塚商会さんはお客様に寄り添って課題解決を図るというところで、中小企業さんにはすごく良いサービスだろうなと思います。
山口:
ビジネス要件を満たすモデルができたら、そのモデルを大塚商会が適切にお預かりして継続利用していただくことも可能なので、継続性もあります。
森:
モデルの予測実行の代行というか、アウトソース的なこともやっているんですか。自らエンドユーザーとしてAIを使いこなし、実際に結果を出していらっしゃる大塚商会さんが、お客様が結果を出せるよう寄り添っていくというのは心強いですよね。
おわりに
森:
技術革新と我々の生活・ビジネスの変化は両輪だと思っています。技術が発展すればビジネスや生活が必然的に変わる。これは切っても切れない関係です。
そして、企業として生き残る、あるいは勝利するにはトレンドを先に掴まなければいけません。今のAIトレンドも「本当か?」と思って二の足を踏んでいると大きなビハインドになる。反対に、トレンドに乗るかそれを先食いすることで、時代の波を乗りこなせると信じています。
ただ、ひとつひとつの企業さんが先取りのリスクをとる必要はありません。大塚商会さんが先陣を切っていらっしゃって、その船に乗ることでリスクを抑えながら波に乗れるようになっているので、まずは波に乗ろうという意思を持っていただくことが大事かなと思います。
山口:
私もまったく同じことお伝えしようと思いました。まずはAIを体験してください。1543年に種子島に鉄砲が伝来したとき、現状維持バイアスに縛られてそれを使わなかった組織と、ちょっと使いづらいけどやってみようかと使ってみた組織で、圧倒的に差がついたじゃないですか。もしかしたらAIを使う/使わないが同じような現象を引き起こすキッカケになるんじゃないかと思っています。ですので、AIを使う機会やご興味があれば、ぜひチャレンジしていただきたいなと思います。
ITトレンドEXPO次回もお楽しみに!
当日のセッションでは、登壇者が視聴者の皆さんからの質問にリアルタイムで答えてくれます。ぜひ次回のITトレンドEXPOへのご参加お待ちしております!(参加無料)
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