レッドチーム演習サービスとは
レッドチーム演習サービスとは、実際のサイバー攻撃を模倣した手法により、企業や組織のセキュリティ体制を総合的に評価するサービスです。攻撃者の視点に立ち、外部からの侵入、内部移動、情報奪取といった一連の攻撃を仮想的に実行することで、防御側の検知・対応能力やインシデント対応体制の強化を図れます。
レッドチーム演習の必要性と効果
近年、標的型攻撃やゼロデイ攻撃など、高度で巧妙なサイバー攻撃が増加しています。従来のセキュリティ対策では対応が難しいこれらの脅威に備えるには、実戦に即した演習が不可欠です。
レッドチーム演習を実施することで、セキュリティ体制の盲点や従業員の対応力を可視化でき、インシデント発生時の被害を最小限に抑える体制が整います。また、組織全体のセキュリティ意識の向上にも寄与します。
レッドチーム演習を通じて得られる具体的な効果としては、以下が挙げられます。
- ■未知の脆弱性の発見と修正
- 既存のセキュリティ対策では検出されない未知の脆弱性や構成ミスを洗い出します。
- ■防御能力の評価と向上
- 実際の攻撃シナリオをもとに、防御側(ブルーチーム)の検知精度や対応スピードを検証・改善します。
- ■セキュリティ意識の向上と教育効果
- 演習により従業員のセキュリティ意識が高まり、日常業務におけるリスク回避行動が浸透します。
- ■インシデント対応プロセスの検証
- 演習を通じて、CSIRTやSOCなどの対応チームが適切に機能しているかを実地で確認できます。
レッドチーム演習サービスとそのほかのセキュリティ対策との違い
レッドチーム演習サービスは、従来のセキュリティ診断と異なり、攻撃者の視点に立って組織全体を標的とする「実戦形式」の評価手法です。ここでは、特に混同されやすい「ペネトレーションテスト」との違いや、「ブルーチーム」との役割の関係性について解説します。
ペネトレーションテストとの違い
ペネトレーションテスト(侵入テスト)は、Webアプリケーションやネットワーク機器など、あらかじめ定められた範囲内で脆弱性を技術的に検査することを目的としています。一方で、レッドチーム演習は、技術的な攻撃にとどまらず、物理的侵入やソーシャルエンジニアリングなども組み合わせ、組織全体に対して横断的な攻撃を仕掛ける点が大きな特徴です。
このため、レッドチーム演習では単に脆弱性の有無を確認するだけでなく、「実際にどこまで侵入を許してしまうか」「防御側がそれにどう対応できるか」といった観点も含めて、総合的に評価が行われます。
ペネトレーションテストの概要や種類、活用メリットなどは以下の記事で詳しく解説しているので、あわせて参考にしてください。
ブルーチームとの関係性
ブルーチームとは、サイバー攻撃に備えてネットワーク監視やインシデント対応を行う「防御側」のセキュリティチームです。これに対して、レッドチームはあくまで「攻撃者の視点」に立ち、実際の脅威を模倣した攻撃を仕掛ける役割を担います。
レッドチーム演習では、攻撃側(レッドチーム)と防御側(ブルーチーム)を対峙させることで、実戦さながらの環境下で防御体制の実効性を検証します。演習の結果から、検知能力の遅れや対応プロセスの不備といった課題が可視化され、現実の攻撃を想定した具体的な改善に役立てられます。
レッドチーム演習サービスの実施内容
レッドチーム演習サービスは、実際の攻撃を想定したリアルなシナリオに基づいて段階的に実施されます。主な流れは以下のとおりです。
レッドチーム演習サービスの流れ | 実施内容 |
---|---|
1.事前調査と計画立案 | 演習対象となる組織の業務内容やIT環境を綿密に調査し、攻撃者の視点から侵入経路や標的を想定します。そのうえで、演習の目的や制約条件を踏まえた具体的な攻撃シナリオを策定します。 |
2.攻撃の実行 | 計画に基づき、外部からの侵入、内部ネットワークの横展開、情報奪取などの攻撃を段階的に実施します。手法としては、フィッシングメールによる認証情報の窃取、物理的な侵入、USBメディアによるマルウェア感染など、多角的なアプローチが用いられます。 |
3.検知と対応の評価 | 攻撃に対して防御側(ブルーチーム)がどのタイミングで異常を検知し、どのように対応したかを詳細に分析します。検知の有無や初動対応の正確さ、エスカレーション手順などが評価対象となります。 |
4.報告と改善提案 | 演習後は、攻撃の進行経路、検知・対応状況、想定される被害などを詳細にまとめた報告書が提出されます。具体的なセキュリティ改善策や今後の対応方針に関する提案も行われ、演習結果を継続的な対策強化に活用できます。 |
レッドチーム演習サービスの選び方
レッドチーム演習サービスは、提供企業ごとにアプローチや得意分野が異なります。自社に適したサービスを選ぶためには、導入目的やIT環境にあった演習内容が実施できるか、実績や支援体制が十分かどうかを見極めることが重要です。ここでは、選定時に確認すべき主なポイントを紹介します。
自社と同じ業種・規模での導入実績があるか
業界ごとに求められるセキュリティ要件やリスクの傾向は異なるため、自社と同じような業種・規模の企業への提供実績があるかを確認しましょう。類似企業での成功事例があるベンダーであれば、自社の業務に即した適切なシナリオ設計やリスク評価が期待できます。
また、豊富な実績をもつサービスほど、突発的な対応や要望への柔軟さにも優れています。
クラウドやリモートワーク環境への対応ができるか
近年ではクラウドサービスの利用やリモートワークの定着により、従来とは異なるセキュリティリスクが増えています。こうした現代的なIT環境を想定したシナリオ設計が可能かどうかは、サービス選定の大きなポイントです。
オンプレミス環境中心の演習しか対応できない場合、実際の脅威への備えとして不十分となる可能性があります。
報告書の質やアフターフォローが充実しているか
演習の成果を活かすには、攻撃経路や対応状況の可視化、具体的な改善提案が含まれた報告書が不可欠です。内容がわかりやすく、経営層と現場のどちらにも役立つ構成になっているかを確認しましょう。
また、演習後にセキュリティ体制の見直しや、再評価の支援を受けられるかといったアフターフォロー体制も重要な選定基準です。
おすすめのレッドチーム演習サービス比較
ここからは、国内外の主要なレッドチーム演習サービスを比較します。
レッドチームオペレーションサービス
NRIセキュアテクノロジーズ株式会社が提供する「レッドチームオペレーションサービス」は、標的型攻撃を模したシナリオベースで実施される高度なセキュリティ評価サービスです。侵入から権限昇格、内部移動、情報奪取までを一貫して評価。防御側(ブルーチーム)の検知力や対応力を客観的に分析・支援します。CISO(最高情報セキュリティ責任者)・SOC向けの報告や改善策提案も充実しており、全社レベルでの対応強化が図れます。
レッドチームオペレーション
ストーンビートセキュリティ株式会社が提供する「レッドチームオペレーション」は、実際の攻撃者と同様の手法で組織の脆弱性を検証する演習サービスです。ペネトレーションテストを超える現実的なシナリオに基づき、攻撃を段階的に実行。社内セキュリティ対策やSOC運用の実効性を洗い出し、攻撃を受けた場合の本当の弱点を可視化します。
レッドチーム演習
GMOサイバーセキュリティ byイエラエ株式会社の「レッドチーム演習」は、APT攻撃や内部不正リスクを模した包括的な攻撃シミュレーションを提供します。事前のヒアリングを通じて企業固有の脅威シナリオを設計し、サイバーキルチェーン全体にわたる多層的な演習を実施。演習後には詳細なレポートと改善提案を提示し、組織的な対応力の向上を支援します。
レッドチーム演習(擬似サイバー攻撃)
株式会社サイバーディフェンス研究所が提供する「レッドチーム演習(擬似サイバー攻撃)」は、最新の攻撃手法に対応した実践的なセキュリティ演習です。攻撃側と防御側の動きを忠実に再現し、セキュリティオペレーションやインシデント対応のリアルな訓練を実施。TLPT(脅威ベースのペネトレーションテスト)やCSIRT訓練の一環としても活用されています。
レッドチームオペレーション
株式会社大和総研が提供する「レッドチームオペレーション」は、実運用に即したシナリオを用いた高度な侵入テストです。外部からの侵入のみならず、内部ネットワークの横展開や機密情報の奪取シナリオまで再現可能。セキュリティ体制の現実的な改善点を見極められ、継続的なレジリエンス強化に貢献します。
レッドチーム評価サービス
株式会社日立ソリューションズが提供する「レッドチーム評価サービス」は、攻撃者目線による実践型セキュリティ評価サービスです。内部への侵入を前提とした演習により、既存のセキュリティ製品やSOCの有効性を検証。標的型攻撃への備えとして、組織全体の検知・対応プロセスを多角的に見直す支援を提供します。
TLPT/レッドチーム演習サービス
伊藤忠テクノソリューションズ株式会社が提供する「TLPT/レッドチーム演習サービス」は、金融・製造など特定業種のリスク特性を踏まえた実践演習を特徴としています。脅威ベースの演習と実際のレッドチーム活動を組み合わせ、標的型攻撃への備えと防御体制の実効性を高精度で評価します。
レッドチーム/ブルーチーム演習
CrowdStrike Holdings Inc.が提供する「レッドチーム/ブルーチーム演習」は、レッドチームとブルーチームが同時に活動する対抗型演習です。実際のAPT攻撃を想定しながら、検知・阻止・対処のプロセスを強化。グローバル標準に準拠した訓練内容で、CSIRTやSOC担当者の実戦力を育成できます。
レッドチーム評価サービス
株式会社大塚商会が提供する「レッドチーム評価サービス」は、疑似攻撃により企業ネットワークの脆弱性や盲点を明らかにする演習サービスです。自社のIT環境を精査したうえで、実行可能な攻撃シナリオを設計・実行し、改善提案までを包括的にサポート。セキュリティコンサルティングとの併用で、より実効性のある防御体制の構築が可能です。
レッドチーム演習サービスのよくある質問
レッドチーム演習は高度な専門性が求められるため、「本当に自社に必要なのか」「どのくらいの期間・費用がかかるのか」といった疑問をもつ方も多いでしょう。ここでは、導入を検討する際によく寄せられる代表的な質問にお答えします。
- Q1:レッドチーム演習は中小企業でも必要ですか?
- 必要です。特に顧客情報や機密データを扱う業種では、企業規模に関係なく標的になるリスクがあります。大企業と取引のある中小企業がサプライチェーン攻撃の踏み台にされる事例も増えており、事前に実戦的な演習で弱点を把握しておくことが重要です。
- Q2:演習はどれくらいの期間がかかりますか?
- 演習そのものは2週間〜1か月程度ですが、事前のヒアリングやシナリオ設計、最終報告まで含めると、全体で1〜2か月程度かかるのが一般的です。シナリオの複雑さや対象範囲によって期間は前後します。
- Q3:情報漏えいや業務への影響はありませんか?
- 基本的に影響はありません。演習はあらかじめ締結された契約・同意に基づき、安全な環境と厳格な監視体制のもとで実施されます。実際の業務や顧客データに影響を与えないよう十分に配慮されています。
- Q4:費用の目安はどのくらいですか?
- 企業の規模や演習のシナリオによって異なりますが、おおよそ数百万円〜数千万円が相場です。小規模な検証型の演習であれば数百万円前後、大規模で複数フェーズにわたるシナリオを実施する場合は数千万円規模になることもあります。
- Q5:演習は1回だけで十分ですか?
- 一度の演習でも現状の課題を明らかにするには効果的ですが、継続的な実施が推奨されます。攻撃手法やIT環境は常に変化しているため、定期的にレッドチーム演習を行うことで、最新の脅威に対する防御力を維持・向上できます。特にシステム更新やクラウド移行、大規模組織改編のタイミングでは再実施が有効です。
まとめ
レッドチーム演習サービスは、実戦形式で自社のセキュリティ体制を評価し、未知の脆弱性や対応力の課題を明らかにする手段です。導入にあたっては、実績や対応環境、アフターフォローの質を見極めることが重要です。
この記事で紹介したサービスを比較し、自社に最適な演習を取り入れることで、より強固なセキュリティ対策を実現しましょう。