稼働直後の大規模障害リスク
ERPの本番稼働は、プロジェクトの終わりではなく新たなリスクの始まりです。特に全機能を一度に稼働させる「ビッグバン稼働」では、稼働直後の問題が多発しやすいと言われています。
ビッグバン稼働で業務停止に陥るリスク
ビッグバン稼働とは、ERPの全機能を特定の日から一斉に本番稼働させる方法です。一度に多くの変更が加わるため、設定漏れ・データ移行ミス・想定外の操作ミスが稼働直後に集中して発覚し、出荷業務・受注処理・経理処理が完全に止まるという深刻な事態になることがあります。テスト段階では発見できなかった問題が、実際の業務データを使った本番環境で初めて顕在化するケースも少なくありません。
対策として、ビッグバン稼働を避けて機能や部門を段階的に稼働させるフェーズ型導入を選択することが最も効果的なリスク低減策です。どうしてもビッグバン稼働が必要な場合は、旧システムとの並行稼働期間を設け、問題が起きた際に即座に切り戻せる体制を整えた上で臨むことが重要です。稼働直後は追加のサポートリソースを配置し、問題発生時の即応体制を組んでおきましょう。
段階的稼働でリスクを分散する方法
フェーズ型の段階的稼働では、会計モジュールから先行稼働させ安定してから販売・製造を追加するといった方法が取られます。各フェーズで問題を発見・修正しながら進むため、一度に発生するトラブルの規模を小さく抑えられます。小さな成功体験を積み重ねることで、現場の習熟度と信頼感も段階的に高まります。
段階的稼働のスケジュールは、業務の繁忙期・決算期を避けて設計することが重要です。各フェーズの開始前には、前フェーズの安定稼働を確認する「Go/No-Go判定」を設けて、準備が不十分なまま次フェーズへ進まないようにすることが、品質を維持するための大切な仕組みです。
クラウドセキュリティと情報漏えいリスク
クラウド上に基幹データを保管するERPには、サイバー攻撃による情報被害のリスクがあります。セキュリティ対策の実態を選定前に確認することが重要です。
ランサムウェア攻撃で基幹データが被害を受けるリスク
ランサムウェアとは、システムのデータを暗号化してアクセスできない状態にし、復旧のための身代金を要求するマルウェア(悪意のあるソフトウェア)です。クラウド型ERPが攻撃を受けると、全社の売上データ・取引先情報・財務データが暗号化または流出するリスクがあります。基幹システムがダウンすると受注・出荷・請求などすべての業務が停止する深刻な事態になります。
ランサムウェア対策としてベンダーに確認すべきポイントは、クラウドインフラのセキュリティ認証の取得状況(ISO 27001・SOC2など)・データの暗号化対応・バックアップの頻度と保存場所・侵害発生時の通知と対応手順です。また、自社側でも多要素認証の導入・不審なアクセスの監視・従業員向けのセキュリティ研修を実施することで、リスクを低減できます。
クラウドERPのセキュリティ確認ポイント
クラウドERPのセキュリティを評価する際は、ベンダーが提供するセキュリティホワイトペーパー(セキュリティ対策の詳細文書)の内容と、第三者機関による認証・監査の状況を確認することが基本です。データセンターの物理的なアクセス制御、データの暗号化(保存時・転送時)、アクセスログの記録と監査機能などが実装されているかを確かめましょう。
セキュリティインシデント発生時に、ベンダーがどのタイミングで通知するか・どのように対処するかの手順(インシデントレスポンスプラン)が文書化されているかも重要な確認ポイントです。金融機関や官公庁との取引が多い企業は、ISMAPへの登録状況も合わせて確認しておきましょう。
サポート終了による強制移行リスク
ERPパッケージのサポート終了(EOS:End of Support)は、長期間ERPを使う企業にとって避けられない課題です。サポート切れになると多額の移行費用が発生するリスクがあります。
サポート終了で多額の強制移行費用が発生する
ERPの保守・サポートが終了すると、法改正への対応・セキュリティパッチの適用・バグの修正が提供されなくなります。その結果、サポート切れのシステムを使い続けることが事実上不可能になり、次期システムへの移行を多額の費用をかけて行わなければならない状況が生まれます。移行プロジェクトには多大な工数と費用がかかるため、事前の計画がないと組織に大きな負担がかかります。
EOS対策として、ERPの製品ロードマップと現行バージョンのサポート期間を定期的に確認し、サポート終了が近づいたら早めに対応策を検討することが重要です。SaaS型のクラウドERPは、ベンダーが継続的にバージョンアップを提供するため、オンプレミス型と比べてEOSのリスクが低くなる傾向があります。
製品選定時のEOS対策確認ポイント
ERPを選定する際は、「現行バージョンのサポート期間はいつまでか」「次バージョンへのアップグレードはどのように行われるか」「SaaS型の場合、バージョンアップは自動で行われるか」を事前に確認しておくことが大切です。長期間使い続けることを前提に、ベンダーの製品継続への姿勢と財務健全性も評価基準に含めましょう。
また、SaaS型クラウドERPへの切り替えを選択肢として検討することも有効です。サービスが継続している限り、法改正対応・セキュリティ更新・機能改善が自動的に提供されるSaaS型は、長期的なコストとリスクの観点で優位性があります。
ベンダー選定と口コミの正しい読み方
ERPベンダーの信頼性を評価する際は、公式の成功事例だけでなく、実態に近い情報を多角的に収集することが重要です。
導入成功事例のバイアスに注意する
ベンダーの公式サイトに掲載されている「導入成功事例」は、ERP導入に満足している企業の声がほとんどであり、導入後に使われなくなったケースや、コスト超過・遅延が発生したケースは掲載されません。こうした情報の偏り(バイアス)を理解した上で成功事例を参考にすることが大切です。成功事例から「うまくいった要因」を学ぶことはできますが、自社が同じ成果を得られるかどうかは別問題です。
成功事例を参考にする際は、「自社と規模・業種・利用目的が近い企業の事例か」「事例に掲載されている具体的な数値や効果は定量的か」などを確認しましょう。ベンダーに同業種の参照先(レファレンス顧客)を紹介してもらい、直接話を聞く機会を設けることが、バイアスのない情報収集につながります。
口コミと実態を確認して信頼性を評価する
「要件定義が終わらない」「若手コンサルタントばかりで知識が浅い」「プロジェクトが丸投げされる」などの悪口コミは、ITシステムの評価プラットフォームや業界コミュニティで散見されることがあります。こうした情報はすべてを鵜呑みにするべきではありませんが、複数の媒体で同様の傾向が見られる場合は、実際の課題として把握しておく価値があります。
ベンダーを評価する際には、口コミ情報を参考にしながら、提案段階でのコンサルタントの質・プロジェクト管理の具体的な方法・過去の類似プロジェクトの実績などを確認することをおすすめします。提案書の内容が具体的で実態に即しているか、担当者が自社の業務を理解した上で提案しているかも判断の基準になります。
信頼性で選ぶERPシステム
セキュリティ・サポート体制・製品継続性の面で信頼性の高いERPシステムをご紹介します。長期運用を見据えた製品選定の参考にしてください。
マネーフォワード クラウドERPは、会計・経費・給与・請求書をクラウドで一元管理できるERPです。SaaS型でセキュリティ対応・法改正対応がシステム側で継続的に提供されます。
Oracle NetSuiteは、財務・受注・在庫・CRMを統合管理できる中堅・成長企業向けクラウドERPです。Oracle社によるインフラ管理とセキュリティ認証・SLA保証により、高い可用性を提供します。
OBIC7は、国内の中堅・大手企業向けに提供される統合業務パッケージです。長年にわたる国内での導入実績とサポート体制により、安定した長期運用を支援します。
GRANDIT(グランディット)は、中堅・大手企業向けの国産クラウドERPです。国内での豊富な導入実績と手厚いサポート体制により、長期的に信頼できる運用環境を提供します。
Microsoft Dynamics 365 Business Centralは、中小企業向けのクラウドERPです。MicrosoftのグローバルなクラウドインフラとISO認証取得によるセキュリティ体制が特徴です。
まとめ
ERPの信頼性への不安は、ビッグバン稼働での障害リスク・ランサムウェアなどのセキュリティリスク・サポート終了による強制移行・ベンダーの実態把握の難しさなど多岐にわたります。こうしたリスクを事前に把握し、段階的稼働の採用・セキュリティ対策の確認・EOS対策・ベンダーの信頼性の多角的な評価を行うことで、安心してERPを長期運用できる基盤を整えることができます。デモや参照顧客への直接取材を通じて、実態に近い情報を収集した上で選定を進めましょう。


