ERPとは
ERPとは「Enterprise Resource Planning」の略で、企業の経営資源である「ヒト・モノ・カネ・情報」を集約して適切に分配し活用する考え方や、それを実現するシステムのことです。主要業務に必要なデータの統合や管理によって、情報活用を促進し、迅速な経営判断を可能にします。
ERPシステムは、統合基幹業務システムや業務統合パッケージなどともよばれ、業務効率化や情報一元化を目的に導入されます。製品により異なりますが、ERPシステムに搭載される主な機能は以下のとおりです。
- ●財務会計管理
- ●予算管理
- ●販売管理(受注・請求)
- ●購買管理
- ●顧客管理
- ●営業支援管理
- ●倉庫・在庫管理
- ●プロジェクト管理
- ●人材管理
- ●マーケティング管理
- ●Eコマース
- ●ビジネスインテリジェンス(BI)
以下の記事では、ERPの種類や機能について詳しく解説しています。あわせて参考にしてください。
ERPが誕生した背景
従来、企業経営の基幹となる会計・生産・人事・物流などは各部門ごとに別々のシステムで管理されていました。そのため各部門のデータ連携において、二重入力の手間や人為的なミスの発生が課題とされてきました。また、データを経営判断に役立てたいというニーズも高まっていたようです。
そこで誕生したのが基幹業務システムを統合するERPです。1973年にドイツで世界初のERPがリリースされたものの、当時は海外製のERPは日本の商習慣に適合せず、導入企業は少なかったようです。
しかし、2000年代から日本独自の商習慣に対応可能なERPも多数リリースされ、徐々に普及していきました。現在は、業種に応じたさまざまなERPパッケージが開発され、オプションやアドオンの追加により業種業態に最適なERPの導入が可能となっています。さらに、セキュリティ性の高いクラウド型ERPの登場により、ERPをクラウドに移行する企業も増加しています。
ERPと基幹システムとの違い
基幹システムは生産管理・在庫管理・人事システムなど、主要な業務ごとにシステムが独立しています。対してERPは、複数の主要業務を一つのシステムで一元管理する点が大きな違いです。
基幹システムはERPに比べ、導入準備に工数がかからず比較的容易に導入できる点がメリットです。しかし、異なる業務間でのデータのやりとりには複数システムにおいて、連携が欠かせません。
以下は主要な基幹システムの一例です。
これらの違いについて、より詳しく知りたい方は以下の記事をご覧ください。
ERP導入のメリット
業務効率化やデータ活用、リアルタイムな経営状況の把握を目的に導入されるERP。ここからは、システム導入によるメリットを詳しく解説します。
あらゆる情報を一元管理できる
同じデータが複数の部門に散在する場合、データ更新にバラつきが生じ整合性が取れないケースがあります。また、部門担当者が管理することで属人化し、データの保管場所が不明瞭になったり、最新版か否かの区別があいまいになったりするなどの課題もあるでしょう。
ERPは、各部署の情報を一箇所に集約します。一部門で修正したデータは、即時反映され全部署に共有されます。情報収集もスムーズになるほか、データの不整合も解消されるでしょう。
迅速な意思決定を可能にする
ERPシステムを導入し、売上データや営業実績などの経営情報を一元管理することで、リアルタイムに状況を把握できます。よって迅速な意思決定が可能になるでしょう。
多くの製品では、経営を分析するための機能も搭載されています。蓄積データをもとに瞬時に集計や分析ができるため、従来の作業時間と労力を減らせます。スピーディーな意思決定が求められる局面でも、有効活用できるでしょう。
業務の効率化
ERPはすべての情報を一元管理するため、システム間のデータ連携作業はほぼ必要ありません。データ入力の無駄な重複のほか、入力ミスも減らせるでしょう。
また、ERPはデータの変動があってもリアルタイムな共有が可能です。例えば、大型受注があった場合、一般的には部門間での在庫問い合わせや納期の日程調整が必要です。ERPで情報を一元管理すれば、各部署で情報が自動で連携されるため、コミュニケーションコストの削減にもつながります。
ベストプラクティスを活用できる
ベストプラクティスとは、特定の工程における最善の方法を指します。ERPには各基幹業務で求められる機能や導入・運用ノウハウが取り込まれています。そのためERPの導入によってベストプラクティスを活用できるでしょう。
ただし、成功企業のベストプラクティスが必ずしも自社に適合するとは限りません。自社の規模や業界に適した、柔軟性の高いERPを導入しカスタマイズするとよいでしょう。
これ以外にも、セキュリティの一括設定や業務データ活用の促進、内部統制の強化などERPにはさまざまなメリットがあります。ERPの導入メリットをより詳しく知りたい方は以下の記事をご覧ください。
ERP導入のデメリット
ERP導入時には、パッケージ型やオンプレミス型の場合、ライセンスの購入費用や初期構築費用などのイニシャルコストが発生します。製品によっては数千万円レベルの費用がかかるケースもあります。また導入後には、保守運用のための人件費も要するため、コスト面でのハードルが高いでしょう。
さらに、導入に手間がかかる点もデメリットの一つです。例えば、新しくシステムを導入するため、ERPにあわせた業務フローの再構築が求められます。また、社員がスムーズに使いこなせるよう、教育や操作方法などのマニュアル整備も必要です。
ERPシステムの導入形態
ERPの導入形態にはクラウド・オンプレミス型などのインフラに応じた分類のほか、特徴に応じて複数種類に分けられます。
注目のクラウドERP
近年増えているクラウド型ERPは、インターネット環境でアプリケーションにより基幹業務統合の環境を構築できるシステムです。クラウド型を導入すれば、社内で管理するサーバを設置する必要がありません。
サーバの管理にかかるコストを削減できるほか、導入にかかる期間も短縮できます。中小企業をはじめ、管理に社内リソースを割くのが難しい企業に適しているでしょう。
オールインワンとよばれる全体最適型
企業経営において、生産ルートに至る一連の業務(企画や出荷後の商品管理、在庫管理等)の総合的な改善を目指すことを「全体最適」といいます。
全体最適型のERPとは、経営に必要な業務をトータルでカバーできるオールインワンタイプのシステムを指します。商品管理から販売戦略まで、あらゆる業務の連携不足でトラブルや問題が発生している場合に効果的といえるでしょう。
必要な機能だけの業務ソフト型
業務ソフト型は、社内の会計業務や営業業務などといった単独業務に焦点を当て、最適化を目指したシステムです。それぞれ特定の分野で単独業務に関わるデータの一元管理を行いたい場合に最適でしょう。
業務ソフト型は、関連部署の少ない小規模事業者で多く導入されています。
柔軟なコンポーネント型
コンポーネント型は、既存の業務システムに新たなシステムの追加や拡張が行えるERPです。ある程度の業務単位(会計や販売、生産など)で導入し、ピンポイントでの最適化を目的としています。販売管理や生産管理などを担っていた従来のシステムとの融合や連携性に優れており、社内スタッフの業務効率化が図れるでしょう。
柔軟に対応でき、変動する経営環境に対応しやすいというメリットもあります。
ERPシステムの導入方法
ERPを導入するには、まず要件定義もしくは適用分析が必要です。これらの工程では要件の定義が漏れていた、要件の解釈を間違えていたなどのトラブルが起こりやすいので、慎重に行いましょう。
ERPの導入方法は2つ
ERPの導入には、大きく分けて2種類の方法があります。一つは新しい業務システムを構築する方法、もう一つはERPシステムの機能に業務をあわせる方法です。それぞれの方法について詳しく見ていきましょう。
新しく業務システムを構築する
この方法は、ERPシステムを基本として業務に必要な機能の変更や追加を行い、新しい業務システムを構築するのが特徴で、「要件定義」とよばれます。
要件定義では、まず自社の業務要件がシステムの機能にマッチしているか否かを確認します。要件が機能に満たない場合は必要なカスタマイズを行い、最適な機能に仕上げていきましょう。ただしすべての要件を満たすようにカスタマイズすれば、コストが膨大になる場合もあるので注意が必要です。本当に必要な機能なのか、費用対効果はあるのかといった検討を慎重に行ってください。
ERPシステムにあわせる
この方法は、ERPシステムの機能に業務をあわせる形で導入するもので、「適用分析」ともいわれています。
適用分析では、導入のために選定したERPシステムがもつ機能で新しい業務の運用を検討し、各機能を慎重に確認しながら業務に適用させます。ERPシステムに業務をあわせるため、システムの機能の効率性や効果を大きく発揮できる利点があるでしょう。また短期間での導入や、コストを抑えるといったメリットも生まれます。
ただしシステムの機能を十分に理解する必要があり、関連業務の見直しや適用できているかなどの確認作業も欠かせません。
気になる製品はベンダーへの問い合わせがおすすめ
ERPシステムの導入は、導入する企業と売り手であるベンダーの双方が主体となって行います。しかし現状不足している機能や、新たに追加すべき機能について決める打ち合わせでは、専門性をもつベンダーがリードして話を進めます。
このとき、導入機能に対する認識のギャップが生じると、後から問題やトラブルが発生しかねません。情報共有が不十分で余計なコストが膨らんでしまった、というケースも起こり得ます。
不測の事態を避けるためにも、必要な情報はすべてベンダーに提供し、製品に関する詳細や疑問、不安なども問い合わせるようにしましょう。
以下の記事でおすすめERPパッケージを紹介しているため、サポート内容や製品を比較してみたい方は参考にしてください。
ERPシステムの導入の流れ
ERPを導入する際には、以下の流れを押さえておきましょう。一つひとつのステップを具体的に解説します。
1.導入目的の明確化と製品選定
ERPの導入前に、まず利用目的を明確にしましょう。目的の一例として、「全社の業務プロセスを改善したい」「個別システムを基幹システムで統合したい」「全面的にリプレースしたい」などがあります。また多くの場合、幅広い機能の中から必要なものを選択して利用するため、現行システムの課題解決となる機能を搭載した製品を選ぶとよいでしょう。
2.プロジェクトメンバーの選出
ERP導入にあたり、まずプロジェクトリーダーを選出します。社内組織の仕組みや事業に精通しており、メンバーが頼れる運営側の人物が適任でしょう。つぎに、各部門ごとにプロジェクトメンバーを選定します。メンバーには、ERP導入に先立って、プロジェクトの管理手法やツールの活用方法についての教育を実施します。
3.業務内容の洗い出し
ERPに置き換わる予定の現行業務について、内容や使用中のツール、業務プロセスなどを整理し、洗い出してみましょう。ERP導入によって、各部門のシステムが統合された場合、変更のない業務と変更が生じる業務に仕分けします。変更がある場合、業務をERPにあわせてフローを整備したり、アドオンを開発したりするなどの対応が必要になるでしょう。
4.新しい業務プロセスの構築
3.で洗い出した業務プロセスにERPが適用されることを想定し、新たな業務フローを構築しましょう。同時に、業務規定や業務マニュアルなども作成します。新たなフローにあわせて、業務手順に関連するISO9000シリーズやISO関連規定、情報セキュリティポリシーなども改訂すべきかどうかチェックしてみましょう。
5.実装~運用テスト
業務プロセスに沿って、ベンダー側で設計開発を行います。設計開発終了後は、一つの機能における稼働状態を確認する単体テストを実施します。その後、2つ以上の機能を連携させた結合テスト、全体の総合テストに進みましょう。また、最大限に負荷をかけた場合の耐性もテストし、必要に応じてソフトウェアのチューニングやハードウェアの追加などを行います。
6.本格リリース
運用テストがクリアしたら、本格リリースに向けて操作方法やトラブル時の対応マニュアルなどを作成します。リリース後は、システムが正常に稼働しているかを確認しながら、慎重に運用することが大切です。さらにユーザー教育として、導入目的や操作方法、セキュリティポリシーなどの説明会や研修を実施し、社員への周知・定着を図りましょう。
ERPシステムの選び方
ERPを選定する場合は、機能やサポートなど以下のポイントに着目してみましょう。
- ■機能
- 自社業務と適合する機能を搭載しているか確認します。ERPの標準機能で業務を賄えない場合は、カスタマイズの必要があるため追加費用が発生するでしょう。
- ■サポート
- 導入時のサポートや運用時のサポートは大切です。また新システム切り替え時にトラブルが生じやすいため、具体的なサポート体制や対応窓口、営業時間などもチェックしておきましょう。
以下の記事では、ERPシステムの選び方について、解説しています。製品導入にお役立てください。
自社に合うERPを導入し、業務をさらに効率化しよう
ERPは、企業に眠る情報資産の活用や業務効率化に役立ちます。システム導入時には業務プロセスの見直しや既存のシステムとの連携可否などを確認しましょう。
また、スムーズな導入にはベンダーとの情報共有も必要です。ERPをよく理解し、導入を成功させるためにも、さっそく資料を取り寄せ、自社に合う製品の比較をしてみてはいかがでしょうか。