新リース会計基準の概要
新リース会計基準は、企業会計基準委員会(ASBJ)が2024年9月13日に公表した「リースに関する会計基準」(企業会計基準第34号)を指します。この基準では、リース取引の会計処理および開示方法を定め、特に借手がオペレーティング・リースも含めたすべてのリース取引を資産および負債として貸借対照表に計上することとされています。
これにより、国際的な会計基準(IFRS 16号及びTopic 842)との整合性が図られ、財務諸表間の国際的な比較可能性が高まります。
新基準と旧基準の違いと変更点
従来は、オペレーティングリースをオフバランス処理していましたが、新基準では全リース取引を「使用権資産」「リース負債」として計上します。これにより、損益計算書では賃貸料が消え、減価償却費と利息として処理されるなど、PL構成も変化します。契約管理面でも、契約中の条件変更に応じた再測定が必要となり、実務負担の増加が見込まれます。新基準と旧基準の主な違いは以下のとおりです。
| 項目 | 現行基準 | 新基準 |
|---|---|---|
| リースの分類 | FLとOLに分類 | FLとOLであるか分類しない |
| 貸借対照表(BS) | FL:売買取引に準じた会計処理 └リース資産・リース負債の計上 OL:賃貸借処理に準じた会計処理 └BSには計上されない | すべてのリースについて、BSに計上 (使用権資産・リース負債の計上) |
| 損益計算書(PL) | FL:リース資産に係る減価償却費及リース負債に係る利息相当額を計上 OL:賃貸借取引に準じた会計処理 └リース料として発生時に費用計上 | すべてのリースについて、使用権資産に係る減価償却費及びリース負債に係る利息相当額をPLに計上 |
| 契約管理業務 (情報収集) | 原則として締結時点で情報を収集し会計処理するため簡易 | 契約条件の変更時など、契約の締結時点だけでなく契約が終了するまで情報収集し更新していく必要があるため負担が増加する |
FL:ファイナンスリース,OL:オペレーティング・リース
会計基準変更の背景と目的
新リース会計基準の改定は、国際的な会計基準との整合性を図ることが主な目的です。従来の基準では、オペレーティング・リースは賃貸借処理に準じた会計処理(貸借対照表に計上しない処理)をしていたため、重要な負債が財務諸表に計上されず、財政状態を正確に把握しにくいという課題がありました。
新基準では、原則としてすべてのリース取引を資産・負債として計上することで国際的な比較可能性を向上させることを目的としています。また、投資家や利害関係者への情報提供を強化し、企業の実態をより正確に反映する狙いもあります。
参考:企業会計基準第34号「リースに関する会計基準」等の公表|企業会計基準委員会
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新リース会計基準の適用範囲と適用時期
ここでは、新リース会計基準について適用範囲や定義などを解説します。
適用範囲
新リース会計基準は、連結財務諸表および個別財務諸表の両方に適用され、すべてのリース取引が対象となります。ただし、以下の特定の取引については適用範囲外とされています。
- ●公共施設等運営事業における運営権者による公共施設等運営権の取得
- ●収益認識会計基準の範囲に含まれる貸手による知的財産のライセンス供与(ただし、製造または販売以外を事業とする貸手は適用可能)
- ●鉱物、石油、天然ガスなどの非再生型資源を探査・使用する権利の取得
- (リースに関する会計基準第3項より)
また、無形固定資産のリースについては、当該会計基準を適用しないことができるとされています。(リースに関する会計基準第4項)
従って、ソフトウェアのリースについては基準を適用するか任意であり、オフバランスにすることも可能となります。この点、現行の基準とは取り扱いが異なっています。
短期リース・少額リースの取扱い
リース期間が12か月以内であり購入オプションを含まないリースやリース契約1件当たり300万円以下の重要性が乏しいリースは使用権資産及びリース負債を計上しないことができるとされています。(同会計基準の適用指針第20項・22項)
この方法を採用した場合は、リース料を借手のリース期間にわたって定額で費用として計上されます。
リースの定義
リースの定義は以下の通りです。
原資産を使用する権利を一定期間にわたり対価と交換に移転する契約又は契約の一部分をいう。
(リースに関する会計基準第6項)
リースの識別
契約の締結時に、契約の当事者は、当該契約がリースを含むか否かを判断する。
(リースに関する会計基準第25項)
新しいリース基準では、契約にリースが含まれているかどうかを判断する際、「リースの識別」の要件に従う必要があります。この「リースの識別」は、現行基準にはなかった新たな規定であり、従来はリースに該当せず、発生時に費用処理されていたサービス契約などの取引が、新基準ではリース取引として認識される可能性があります。
つまり、法的な形式は関係無く、賃貸借契約やサービス契約の中にリースが含まれている場合は、リース会計基準の適用対象となる点に留意しなければなりません。
実務上ではリース識別の判定フローに従って、判断することになります。リース識別の判定フローは同会計基準の適用指針[設例1]にあります。
適用時期
適用時期は以下のとおりです。
- ●正式適用開始:2027年4月1日以降に開始する事業年度の期首から適用
- ●早期適用:2025年4月1日以降に開始する連結会計年度および事業年度の期首から適用可能
新リース会計基準は、2027年4月1日以降に開始する事業年度の期首から適用されます。これは、新基準にもとづいたリース取引の会計処理が、2027年度以降の財務諸表に反映されることを意味します。また、企業は2025年4月1日以降、新基準を早期適用することができます。
参考:企業会計基準第 34 号 リースに関する会計基準|財務会計基準機構
新リース会計基準が企業に与える影響
ここでは、新基準が企業に及ぼす具体的な影響を詳しく解説します。
財務諸表への影響
新リース会計基準の適用により、使用権資産とリース負債として計上されるため、資産及び負債の金額が増加します。
損益計算書では賃貸料や支払手数料は計上せず、使用権資産の減価償却費とリース負債に係る支払利息が計上されます。賃貸料や支払手数料が減少することで販管費が減少し営業利益が増加することが想定されます。
また、支払利息の計上により営業外費用の増加が想定されます。原則として利息法を採用することになるため支払利息の負担はリース期間で徐々に低減していくことが特徴です。
キャッシュフロー計算書では、損益計算書と同様にリース支払いの一部が営業CFから財務CFへ移るため、銀行や投資家にプラスの影響を与える可能性があります。
経営指標への影響
上記のようにBS、PL数値が変動することで重要な経営指標に影響を与えます。主な影響は以下のとおりです。
| 経営指標 | 影響 | 新基準 |
|---|---|---|
| 営業利益率 | プラス | 現行基準では、OLの費用は賃料として全額販管費(営業費用)に計上していたが、一部が支払利息(営業外費用)に計上されるため上昇する |
| EBITDA | プラス | 現行基準では、OLの費用は賃料として全額販管費(営業費用)に計上していたが、一部が支払利息(営業外費用)に計上されるため上昇する |
| ROA | マイナス | 分母(資産)の額が増加するため低下する |
| ROIC | マイナス | 分母(投下資本に含まれる負債)の額が増加するため低下する |
| 自己資本比率 | マイナス | 分母(総資本に含まれる負債)の額が増加するため低下する |
| 流動比率 | マイナス | リース負債の一部が流動負債に計上されるため低下する |
経理・財務担当者の業務負担
新基準の適用により、経理・財務担当者の負担が増加します。法的な形式は関係なくすべての契約にリースが含まれているか確認する必要があり、契約条件の変更時にはリース負債の再測定や使用権資産の修正が必要となることもあります。リース契約の管理がより複雑になるため、会計処理をするための情報収集や事務負担が増加します。すべての契約を網羅した管理表の作成するか新基準に対応したシステムの導入が必須となります。
経理・財務担当者の業務負担
新基準の適用により、経理・財務担当者の負担が増加します。リース契約の管理がより複雑になり、使用権資産やリース負債の適切な計上が求められるため、会計処理の見直しが必要です。
また、財務諸表への開示要件も増加し、リース契約ごとの詳細情報(契約期間・利率・減価償却方法など)の報告が必要になります。そのため、新基準に対応したシステムの導入や監査法人や税理士との連携が不可欠です。
税務上の影響
法人税法では、従来従来通りファイナンス・リースとオペレーティング・リースに分類され会計処理されます。従って、リース会計基準との会計処理で差異が発生し税務調整をすることが想定されます。その場合は税効果会計が適用されることに留意が必要です。リース取引ごとに差異の把握が必要となるため調整表作成やシステムの導入が必要となります。
通常繰延税金資産と繰延税金負債が相殺するため、会計上のインパクトは小さいことが予測されますが、分類5の会社の場合は多額の法人税等調整額(費用 )が発生する可能性があるため留意が必要です。
また、外形標準課税の付加価値割の支払賃借料の集計や消費税などでも影響があるため顧問税理士から助言を受け適切に対応することが必要となります。
新リース会計基準に向けた移行フロー(監査対応のためのステップ)
新リース会計基準は「仕訳を変えるだけ」の話ではなく、契約識別・再測定・注記開示など、期中で継続的に生じる実務と監査上の検証ポイントが増えることが最大の負担要因です。ここでは監査対応を滞らせず、新基準に業務を乗せ替えるための実務フローを整理します。
- 1.契約情報の全件把握とリスク領域の特定
- 賃貸借・サービス契約を含めてリース識別を実行し、再測定頻発が想定される高リスク契約を抽出する。
- 2.期中の再測定・注記に耐える業務フローへの改修
- 「締結時のみ処理」から「契約期間中ずっと更新する」前提に切り替え、判断・起票・承認の責任点を可視化する。
- 3.検証を前提にした証跡の保持方法を定義
- 再測定の根拠・割引率・契約変更の判断理由を監査に耐える形で残す媒体とルールを先に決める。
- 4.初回適用の試算と監査法人・税務との事前握り
- 影響額の試算結果をもとに、注記・税務調整・期中運用の前提を早期にすり合わせて手戻りを防ぐ。
- 5.手動運用の限界とシステム移行の判断
- Excelでは再測定・証跡・注記の三点で破綻しやすいため、基準対応ERPや会計ソフトへの移行判断を期限付きで実施する。
特に監査対応は「誤処理した後では直せない」領域であり、期初からシステム化しておくことで再測定・注記・証跡の3点セットを自動化できます。新基準対応済みのERPや会計システムを比較し、移行リードタイムを逆算して検討を始めるのがおすすめです。
対応が遅れた場合に起こり得る実務リスク
新基準対応は「期首に間に合わせればよい」性質ではありません。識別・再測定・注記は期中に発生するため、移行が遅れるほど修正・遡及対応のコストが膨らみます。特に以下のような影響が想定されます。
- ● 遡及修正による仕訳や注記の二重作業・監査指摘リスク
- ● Excel管理の破綻による証跡欠落・再測定判断根拠の喪失
- ● 開示準備の遅延による監査法人との追加調整・承認遅延
- ● 財務指標の急変による社内説明・経営判断の混乱
これらの放置コストは「直前に頑張れば回避できる」性質のものではないため、期中からの先行移行とシステム化が現実的な対策となります。
まとめ
新リース会計基準の適用により、すべてのリース取引が資産・負債として計上され、企業の財務諸表や税務処理に影響を与えます。適用開始に向けてリース契約の洗い出しや財務影響の分析、社内ルールの整備、会計システムの導入・更新、監査法人との連携など早めの対応が必要です。
また、新基準に適したERPの導入も、業務負担を軽減するための有効な手段です。まずは無料の資料請求を行い、導入に向けた比較・検討をはじめてみましょう。



これまで多くの企業では、リース契約をエクセルで管理してきました。しかし、新リース基準になると、賃貸借契約やサービス契約の中にリースが含まれる場合は新リース会計基準の適用対象となります。
また、契約条件の変更が発生した際には、リース負債の再測定や使用権資産の修正が求められるなど、リース管理は一層複雑化しています。そのため、情報収集や事務作業の負担が増大し、従来のエクセル管理では対応が困難になるケースも想定されます。すべての契約を網羅的に管理できる一覧表の作成、あるいは新基準に対応したシステムの導入が必須となります。
特に、賃貸契約を多数抱える飲食業や小売業などの業種では、新基準による影響が大きいと考えられます。早期にその影響度を分析し、システム導入も含めた計画的な対応を検討することが重要です。