業種によってロードバランサの懸念点が異なる理由
ロードバランサの懸念点は、業種ごとのアクセスの特徴や、守るべき基準によって変わります。共通する基本を押さえたうえで、自社の業種に近い懸念を見つける準備をしましょう。最初に全体像をつかむと、後の業種別の説明が理解しやすくなります。
業種ごとに異なるアクセスの特徴
ロードバランサは、届いたアクセスを複数のサーバーに振り分ける装置やサービスです。EC事業者は、セールの時期にアクセスが集中する場合があり、メディア運営企業は、話題の記事によって急に増える場合があります。
金融業は、処理の正確さと停止しにくさが重視され、IT企業は、開発や検証の環境が多く、設定の変更が頻繁に行われる場合があります。業種の特徴が、懸念の種類を決める出発点です。業種ごとの特徴を把握すると、必要な性能の見積もりも立てやすくなります。
業種で変わる要件の優先順位
求められる要件は、可用性、セキュリティ、変更のしやすさ、処理能力に大別できます。可用性とは、サービスを止めずに使い続けられる度合いを指し、冗長構成などで高められます。例えば、止められない業務では可用性を、変更が多い開発では操作性を重視します。
どの要件を最優先にするかは、業種や事業の内容によって異なります。優先順位を決めずに選ぶと、重視すべき点が不足した製品を選んでしまう恐れがあります。社内で優先順位を話し合っておきましょう。
懸念を事前に整理する手順
最初に、自社のサービスで想定されるアクセスの変動と、停止したときの影響を書き出します。次に、守るべき社内ルールや業界の基準があれば、その内容を確認します。停止の影響が大きい機能から順に、優先度をつけていきましょう。
整理した内容を、ベンダーへの質問項目に置き換えると、比較の軸がそろいます。事例が公開されている場合は、自社と近い業種の導入例を探して、懸念として挙がった点を参考にしましょう。調査の結果は、社内の関係者と共有しておくと合意が得やすくなります。
EC事業者で起こりうる処理性能の不足による懸念
EC事業者は、セールなどで一時的にアクセスが増えるため、ロードバランサの処理性能が不足すると、サービス全体に影響する場合があります。性能の見方と、不足が疑われるときの確認点を整理します。指標の測定条件の違いにも注意が必要です。
処理性能を表す指標の見方
ロードバランサの処理性能は、同時に扱える接続の数、単位時間あたりの処理量、暗号化通信の処理能力といった指標で示されます。カタログの数値は、測定の条件によって前提が異なる場合があります。具体的な条件は、仕様書の注記にも記載されていることがあります。
条件が違う数値を単純に比べることはできません。自社の通信が暗号化通信中心か、どの程度の同時接続を想定するかを伝え、その条件での性能をベンダーに確認しましょう。測定の条件が示されていない数値は、参考にとどめるのが安全です。
性能不足が疑われるときの切り分け
アクセスが集中したときに、画面の表示が遅れたり、接続できなくなったりする場合があります。原因は、ロードバランサの性能だけとは限りません。表示の遅れや接続の失敗は、利用者の離脱につながる場合があります。
振り分け先のサーバーの処理能力、データベースの負荷、回線の帯域など、複数の要因が関係します。ロードバランサの稼働状況を監視ツールで確認し、どこが限界に達しているかを切り分けましょう。確認の記録は、製品の見直しやベンダーへの相談にも役立ちます。
決済情報を扱うときのセキュリティ要件
EC事業者がクレジットカード情報を扱う場合は、カード業界のセキュリティ基準であるPCI DSSへの対応が求められる場合があります。ロードバランサが暗号化通信の終端になる構成では、機器も確認の対象になり得ます。
SSLオフロードを使う構成では、復号した通信がロードバランサ内を通る点に留意する必要があります。自社の構成が基準の対象に含まれるかは、カード会社や決済代行事業者、専門家に確認しましょう。対応範囲の確認は、導入の前に済ませるのが望ましい作業です。
金融業の導入で確認したい要件と懸念点
金融業では、サービスの停止が顧客や取引に与える影響が大きく、導入前に確認すべき要件も多くなります。導入時の懸念として、可用性、監査、変更管理の3点を整理します。業界の基準や社内規程との整合も、早めに確かめておきたい点です。
高い可用性を求められる冗長構成
金融業のシステムでは、障害が起きても業務を継続できる設計が求められる傾向です。ロードバランサ自体が単一の障害点とならないよう、機器を複数台にする冗長構成が検討されます。ただし、冗長構成にしても、設定の誤りまでは防げない点に注意が必要です。
冗長構成では、切り替えの方式や、切り替え時間、通信の途中での引き継ぎが論点です。構成が複雑になるほど設定や試験の手間が増え、導入の期間が延びる場合があります。計画の段階で見込んでおきましょう。
監査に対応するログと安全対策基準
金融機関には、システムの安全対策について、FISCが公表する安全対策基準などの指針を参考にする場合があります。FISCとは、金融情報システムセンターのことです。指針は改訂される場合があるため、最新の内容を確認する必要があります。
これらの指針や社内の規程に沿うため、操作の履歴やアクセスのログを一定期間残し、必要に応じて提出できる機能が求められます。ログの保存期間、改ざんへの対策、出力の形式を確認しましょう。ログの出力先を別のサーバーにできるかも、確認したい点です。
変更管理と承認プロセスへの適合
金融業では、システムの変更に、申請と承認の手続きが定められている場合があります。設定を簡単に変更できる製品でも、承認の手順を経ずに変更されることがないよう、権限の管理が必要です。
管理者の権限を役割ごとに分けられるか、変更の履歴を担当者別に確認できるかは、比較したい点です。導入の初期に、社内の手続きとの整合を確認しないと、運用開始が遅れる恐れがあります。あわせて、変更前の確認画面や、元に戻す機能の有無も見ておきましょう。
ITトレンドでは、最新の製品・サービスを多数比較・掲載しています。まず資料請求して、さまざまな製品の機能や特徴を比較してみてください。忙しい業務時間内でも、各社に問い合わせる手間なく、たった1回の入力(約60秒)でロードバランサの一括資料請求が可能です。浮いた時間で、じっくりと製品を比較検討し進めましょう。
IT企業のロードバランサ運用で起こりうるトラブル
IT企業では、開発や検証が頻繁に行われるため、設定の変更に伴うトラブルが懸念されます。運用で起こりうる課題と、あらかじめ整えておきたい仕組みを解説します。トラブルは設定や運用の工夫で減らせる場合があるため、仕組みづくりが欠かせません。
開発環境と本番環境の設定の違い
開発や検証の環境で動いていた設定が、本番環境で意図したとおりに動かない場合があります。振り分けの方式、ヘルスチェックの条件、証明書の設定などに差があると、挙動が変わるためです。テスト環境と本番環境の構成を近づけるほど、差異による問題は減らせます。
設定をコードで管理し、環境間の差を一覧で確認できる仕組みがあると、見落としを減らせます。設定のエクスポートや、APIによる操作に対応しているかを製品選びの段階で確認しましょう。
設定変更の影響範囲と誤設定
1つのロードバランサが複数のサービスの通信を扱っている場合、設定の誤りが複数のサービスに影響する恐れがあります。変更を加える担当者が複数いると、意図しない変更が行われる場合もあります。影響範囲が広いほど、変更の前後の確認が欠かせません。
変更前の設定に戻せるか、変更の内容を事前に確認できるか、変更履歴を残せるかは、重要な確認点です。変更の手順と承認の流れを決めておくと、トラブルの発生を抑えられます。作業の記録を残し、複数人で内容を確認すると誤りに気づきやすくなります。
証明書の期限と担当者への依存
暗号化通信に使うSSL証明書には有効期限があり、更新を怠ると通信エラーの原因になる場合があります。複数のサービスや環境で証明書を扱う企業では、管理の漏れが起こりやすくなります。期限が近づくと通知する仕組みを、あらかじめ整えておくと安心です。
更新の担当や手順が特定の担当者に偏っていると、異動や退職の際に対応が滞る恐れがあります。期限の通知や自動更新の機能を確認し、手順を文書にして共有しておきましょう。引き継ぎのときも、文書があれば作業を引き継ぎやすくなります。
メディア運営企業のアクセス急増時に生じる懸念
メディア運営企業では、記事の拡散や速報によって、アクセスが予測しにくく急に増える場合があります。振り分けに不具合が出る原因と、備えとして確認したい点を整理します。業種ごとの懸念と確認事項は、下の表にまとめました。
| 業種 | 主な懸念 | 導入前に確認すること |
|---|---|---|
| EC事業者 | 処理性能の不足、決済情報の扱い | 性能指標の測定条件、セキュリティ基準 |
| 金融業 | 可用性、監査、変更管理 | 冗長構成、ログの保存、権限の分離 |
| IT企業 | 設定変更のトラブル、証明書の期限 | 設定の管理方法、更新の仕組み |
| メディア運営 | 急増時の振り分け、サーバーの偏り | 振り分け方式、ヘルスチェック、CDNとの併用 |
急増を予測しにくいアクセスの特徴
メディアサイトのアクセスは、SNSで拡散されたり、検索結果で目立ったりして、短時間で大きく増える場合があります。発生の時期を予測しにくいため、普段のアクセス量を基準にした設計では不足する場合があります。
過去の急増時の最大値を把握し、それを上回る余裕があるか、処理能力を短時間で増やせるかを確認しましょう。クラウド型では、設定によってサーバーの台数を自動で増やせる場合があります。あわせて、急増の予兆を検知する監視や通知の仕組みも検討しましょう。
振り分けの偏りや遅れが生じる要因
急増時に特定のサーバーへ通信が偏り、応答が遅れる場合があります。要因には、振り分け方式が処理の重さに合っていないことや、ヘルスチェックの間隔が長く、異常の検知が遅れることなどがあります。
セッション維持の設定で、同じ利用者が同じサーバーに集中する場合にも、偏りが生じます。原因は製品側、設定、サーバー側など複数あるため、状況を記録して切り分けましょう。ベンダーに状況を伝える際にも、記録があると相談が円滑に進みます。
CDNとの併用と事前の負荷試験
CDNとは、データを各地の配信拠点に置き、利用者に近い拠点から届ける仕組みです。画像や記事の表示に使うと、ロードバランサに届くアクセスを減らせる場合があります。更新の頻度が低いデータほど、効果が見込みやすくなります。
ただし、CDNを使っても、更新直後のデータの取得などでロードバランサに通信が届きます。急増を想定した負荷試験を事前に実施し、不足する点を把握しておくと安心です。実施の前に、ベンダーへ可否と時期を確認しましょう。
業種ごとの要件を確認したい製品
業種に応じた処理性能やセキュリティの要件を確認する際に、比較の候補となる製品を紹介します。
ビジネスセキュリティ(VSR)nシリーズ
- 業界最多クラスのセキュリティ機能の中から独自のカスタムが可能
- 管理者負担軽減!導入から運用、保守まですべて一括対応。
- 24時間365日の障害検知・切り分けから復旧対応までサポート!
株式会社 USEN ICT Solutionsが提供する「ビジネスセキュリティ(VSR)nシリーズ」は、UTM(複数のセキュリティ機能を1台にまとめた機器)にロードバランサ機能を持たせた製品です。バランシングとSSLオフロードに対応します。機器の構成をまとめたい場合や、金融やECなど通信の扱いに注意が必要な業種で構成を検討する際の候補です。提供形態はオンプレミスのハードウェアで、運用監視や保守、設定変更まで依頼できる点も確認できます。
BIG-IP Local Traffic Manager(LTM) (エフファイブ・ネットワークス・ジャパン合同会社)
- トラフィックをリアルタイムに監視
- TCPとコンテンツオフロードでページ読み込み時間を大幅短縮
- クラウドやハードウェアなど複数の導入形態に対応
Cloud Load Balancing (グーグル合同会社)
- 自動スケーリングで最適な負荷分散を実現
- SSLオフロードで高速かつ安全なサービス提供を支援
- 無料トライアルあり
Thunderシリーズ (A10ネットワークス株式会社)
- SSL/TLSオフロード、DDoS防御、WAF機能を標準サポート。
- Harmony Controller連携でオンプレ・クラウド環境を一元管理
- FlexPoolライセンスで複数のインスタンス間で帯域を共有可能
ロードバランサに関するよくある質問
ロードバランサの業種別についてよくある質問と回答をまとめました。
- ■Q1:ECサイトで性能が足りるかどうかは、導入前に分かりますか?
- A:カタログの数値だけでは判断しにくいため、測定の条件を確認し、自社の想定する同時接続や暗号化通信の量で試算してもらいましょう。試用や負荷試験で確かめられると、より正確に判断できます。
- ■Q2:金融業では、冗長構成は求められますか?
- A:停止の影響が大きい業務では、冗長構成が検討される傾向にあります。社内の規程や業界の指針で求められる水準を確認し、切り替えの方式や時間もあわせて確認しましょう。
- ■Q3:IT企業で、設定ミスによるトラブルを防ぐにはどうすればよいですか?
- A:変更前の確認や元に戻す機能、変更履歴の記録を備えた製品を選ぶと役立ちます。あわせて、変更の手順と承認の流れを決め、複数人で内容を確認する運用にしておきましょう。
- ■Q4:メディアサイトでは、CDNを使えばロードバランサは不要ですか?
- A:CDNでアクセスを減らせる場合はありますが、更新直後のデータの取得などで、ロードバランサに通信が届く場合があります。サーバーの構成や目的にあわせて、両方の必要性を検討しましょう。
まとめ
ロードバランサの懸念点は、業種によって異なります。EC事業者では処理性能と決済情報の扱い、金融業では可用性と監査が論点です。IT企業では設定変更と証明書の管理、メディア運営企業では急増時の振り分けに注意が必要です。どの業種でも、事前の確認と試験が、運用開始後のトラブルを減らす近道となります。自社の業種の特徴を整理し、確認項目をそろえたうえで、複数の製品の資料を請求して比較してみてください。

