統計でみるメンタルヘルスケアの必要性
ストレス要因は仕事、職場、家庭や地域環境などさまざまです。個人が自覚し対処できればよいのですが、職場のストレス要因は自分の力だけで取り除けないケースも多いです。企業にとって従業員の「心の健康」は業績に大きく関わり、職場の環境改善や従業員のメンタルヘルスケアを適切に行う必要があるといえるでしょう。
厚生労働省の調査からも、従業員が仕事や職場でストレスを抱えることは少なくないと示されています。メンタルヘルス不調により連続1か月以上休業した労働者の割合は 0.4%、退職した労働者の割合は 0.1%です。従業員がストレスを抱えている内容でもっとも高いのは、42.5%の「仕事の量」です。
また、オムロン ヘルスケア株式会社が発表したデータによると、テレワークの影響で31%の人が「肩こり」や「腰痛」、「精神的なストレス」など心身の不調を抱えています。以上の理由から、企業のメンタルヘルスケアは急務といえるでしょう。
参考:令和2年「労働安全衛生調査(実態調査)」の概況|厚生労働省
参考:【テレワークとなった働き世代1,000人へ緊急アンケート】 新型コロナウイルスによる、働き方・暮らしの変化により 「肩こり」「精神的ストレス」などの身体的不調を実感|オムロン ヘルスケア
企業でメンタルヘルスケアが必要とされる理由
企業の視点から、メンタルヘルスケアの必要性や意義について具体的に解説します。
従業員の健康を守るため
従業員や同僚が不調にいち早く気づき、健康を守るためにメンタルヘルスケアが必要となります。メンタルヘルスケアで重要なポイントは、疲労、不眠や身体の不調など「いつもと違う変化」を早期に発見し対応することです。
企業が従業員に対してメンタルヘルスケアの研修教育を行えば、異変を自覚し、上司と相談して休養など速やかな対応が可能です。さらに、人事担当者や管理職に対してメンタルヘルスケアの研修教育を行えば、自身でのケアに加え組織的なケア、上司のラインケアにより高い成果が期待できるでしょう。
生産性の維持・向上のため
従業員はメンタルヘルス不調に陥ると、根気が続かず判断力が鈍り業務遂行能力が低下します。そうなれば、朝不調になり遅刻が増えたり、早退・欠勤などが多くなったりと勤務状態が悪化するでしょう。
またメンタルヘルス不調による休業は、長期に及ぶことが多く、長期休業者の3〜5割を占めています。最悪の場合は離職や自殺につながることもあり、企業は貴重な戦力を失う事態になりかねません。
企業がメンタルヘルスケアに取り組めば、メンタルヘルス不調の発生や悪化を防止できます。また、全社員を対象にすれば、メンタルヘルス不調に陥った従業員以外も職場での生活が充実します。モチベーションを高く保てるため、仕事の生産性維持や向上につながるでしょう。
健康にまつわるリスクマネジメントのため
企業がメンタルヘルス不調へ的確に対応しなければ、労災請求や民事訴訟になるケースもあります。そのため、企業経営のリスクマネジメント対策としてメンタルヘルスケアの重要性が増しているのです。
従業員はメンタルヘルス不調に陥ると集中力や注意力が低下し、事故・トラブルを起こすことがあります。特に公共の交通機関や、危険物を取り扱う工場・食品工場などは要注意です。些細なミスが従業員の安全を脅かすだけでなく、顧客にも影響がおよび、社会的な問題に発展しかねません。
CSR(企業の社会的責任)を果たすため
企業は従業員に対し健康を配慮するよう、法律で定められています。実際に、労働安全衛生法の中では、健康の保持増進のために健康診断や医師の面接指導が義務化されています。労働契約法5条では、身体だけではなく精神的な安全と健康が含まれると考えられています。
企業はメンタルヘルスケアを実施して、あらゆるステークホルダーにCSR(企業の社会的責任)を果たさなければいけません。ステークホルダーとは、従業員やその家族、取り囲む地域社会、投資家や取引先といった利害関係者を指します。
国が企業に求める取り組み
厚生労働省の報告によれば、2020年の精神障害による労災の請求件数は2,051件、支給決定件数は608件でした。国は「精神疾患」を「がん」などに加え「5疾病」と認定し、メンタルヘルスケアに注力する必要があるとして、企業にさまざまな取り組みを求めています。ここでは、国が企業に求めるメンタルヘルスケアの取り組みについて解説します。
参考:精神障害の労災補償状況|厚生労働省
体系をもとにしたメンタルヘルス対策の実行
厚生労働省は、メンタルヘルス対策を以下に示す「一次予防」から「三次予防」まで段階的に計画し実施する必要があるとしています。
- 一次予防:メンタルヘルス不調を未然に防止する
- 二次予防:メンタルヘルス不調を早期に発見し、適切な措置を行う
- 三次予防:メンタル不調となった従業員の職場復帰を支援する
さらに、厚生労働省は以下に示す「4つのケア」を、効果的に推進する必要があるとしています。
- 1.セルフケア:従業員が実施
- 2.ラインによるケア:管理監督者が実施
- 3.事業所内産業保健スタッフによるケア:産業医、衛生管理者が実施
- 4.事業所外資源によるケア:事業所外の機関、専門家が実施
ストレスチェックの実施
従業員が50人以上の事業所は、毎年1回全従業員に対しストレスチェックを行うことが義務付けられています。労働安全衛生法が改正され、2015年12月から施行されました。50人未満の事業所は当分の間努力義務となっています。
ストレスチェックは、従業員が自分のストレスがどのような状態にあるかを調べるアンケート形式の調査です。企業がこの義務を守らなくても罰則はありません。しかし、ストレスチェックの実施結果を労働基準監督署へ報告する義務はあります。これを怠ると、労働安全衛生法第120条により最大50万円の罰金を科せられる可能性があります。
関連する委員会の設置
労働安全衛生法に基づき、事業所の規模と業種により安全委員会、衛生委員会または両委員会を統合した安全衛生委員会を設置しなければなりません。職場における従業員の安全と健康を守り、快適な職場づくりを目的としています。
安全委員会や衛生委員会において、従業員の危険、または健康障害を防止するための基本となるべき対策(労働災害の原因再発防止対策など)などの重要事項について、労使一体となり十分な調査審議を行う必要があります。
安全委員会または衛生委員会を設置しなければならない事業所
設置すべき委員会 |
事業所の条件 |
安全委員会 |
① 常時使用する労働者が50人以上の事業所で、次の業種に該当するもの
林業、鉱業、建設業、製造業の一部の業種(木材・木製品製造業、化学工業、鉄鋼業、 金属製品製造業、輸送用機械器具製造業)、運送業の一部の業種(道路貨物運送業、 港湾運送業)、自動車整備業、機械修理業、清掃業
② 常時使用する労働者が100人以上の事業所で、次の業種に該当するもの
製造業のうち①以外の業種、運送業のうち①以外の業種、電気業、ガス業、熱供給業、 水道業、通信業、各種商品卸売業・小売業、家具・建具・じゅう器等卸売業・小売業、 燃料小売業、旅館業、ゴルフ場業 |
衛生委員会 |
常時使用する労働者が50人以上の事業所(全業種) |
参考:安全衛生委員会を設置しましょう|厚生労働省
企業におけるメンタルヘルス対策の実施状況
厚生労働省の令和2年の報告によれば、メンタルヘルス対策に取り組んでいる事業所の割合は61.4%(平成30年59.2%)となっており、2.2ポイント上昇しています。取り組み内容としてもっとも多いのはストレスチェックで62.7%(同62.9%)です。ストレスチェックを実施した事業所は78.6%(平成30年73.3%)となっています。
企業は従業員のメンタルヘルスケアを積極的に推進し、安全委員会や衛生委員会で十分審議を行い、全従業員の「心の健康づくり計画」を進めることが重要です。
メンタルヘルスケアを実行し、円滑な企業活動につなげよう
企業がメンタルヘルスケアを行う必要がある理由は以下のとおりです。
- ・従業員の健康を守るため
- ・生産性の維持向上ため
- ・経営のリスクマネジメントのため
- ・CSR(企業の社会的責任)を果たすため
統計データで重要性が裏付けられており、国も企業に下記の取り組みを求めています。
- ・体系的なメンタルヘルスケア対策
- ・ストレスチェック
- ・各種委員会の設置
上記を踏まえメンタルヘルスケアを実行し、円滑な企業活動につなげましょう。