中小企業が抱えるメンタルヘルスの課題
産業や経済のグローバル化や技術革新によって企業間競争が激しくなり、従業員の労働負荷が増加しているのが昨今の日本企業における大きな課題です。そのうえで以下のような中小企業特有の要素が、従業員のメンタルの不調を生みやすくしています。
- ●リソース不足による整備の行き遅れ
- ●大企業よりも密な人間関係
- ●メンタルヘルスの必要性の無理解
中小企業の多くはコストやリソースが大企業と比べて有限であり、人材不足や密な人間関係の問題を簡単に解消できません。大きなリソースをかけずに済み、少しずつ、しかし確実に従業員のメンタルヘルスを維持できる対策が求められています。
中小企業がメンタルヘルス対策に取り組むメリット
中小企業がメンタルヘルス対策に取り組むメリットは、単に「従業員の心身の健康を保てる」ことにとどまりません。企業にもたらす3つのメリットを見ていきましょう。
休職・退職によるダメージを最小限にできる
厚生労働省の調査によれば、過去1年間でメンタルヘルス不調により1か月以上休業、または退職した労働者がいた事業所の割合は13.5%です。中小企業に限定すると、100人~299人規模では55.3%、50人~99人規模では28.2%の事業所が該当します。メンタルヘルス対策に取り組めば、こうした従業員の休職や退職を防止し経営へのダメージを最小限に抑えられます。
そもそも従業員が少ない中小企業では、たった一人抜けただけでも、穴埋めのためにほかの従業員へ大きな負担を与えてしまいます。これにより、芋づる式にメンタル不調者が発生し、業務が立ち行かなくなってしまうケースも少なくありません。しかし、コストやリソースが限られた中小企業では、すぐに代わりの人材を採用するのは難しいといえます。
そこで、メンタルヘルス対策に取り組み、「休職・退職が発生しにくい環境」をつくることが重要です。
参考:令和5年 労働安全衛生調査(実態調査)|厚生労働省
会社全体の生産性向上が期待できる
ストレスチェックサービスを提供する株式会社アドバンテッジリスクマネジメント社が272社、288,388人分のメンタルデータ分析を行いました。その結果、従業員のウェルビーイング(心身の健康)偏差値と仕事の生産性に大きな相関関係があることが分かりました。さらに、このうち従業員数が50人~99人の企業における相関関係が圧倒的に高いことが判明。中小企業において、一人の健康が事業の生産性に及ぼすインパクトが非常に大きいことが分かります。
生産性が上がれば、「残業や休日出勤が減り、従業員のメンタルヘルスも好調になる」という好循環が生まれます。売上アップやコスト削減などの効果が数字に表れてくるでしょう。
参考:「顧客企業272社、28.8万人のメンタルデータを分析 従業員のウェルビーイングと生産性の相関が明らかに」ー株式会社アドバンテッジ リスク マネジメントのプレスリリース|PRTIMES
ミスや事故の発生を抑制できる
従業員にメンタルヘルスへの不調が生じると、集中力や注意力が散漫になり、ミスや事故の発生率が高まりやすくなります。
心理的なストレスが原因で上司への報告や相談を怠り、重大な顧客トラブルが発生するケースも少なくありません。飲食店での異物混入や建設業での重機事故など、健康や人命を失うレベルの事故が起これば、事業継続は困難になってしまいます。
従業員のメンタルの不調を取り除けば、ミスや事故のリスクの低い職場環境が実現するでしょう。結果として、顧客満足度が上がり事業継続性も高められます。
中小企業におけるメンタルヘルス対策義務化の要件とは
中小企業におけるメンタルヘルス対策は、労働安全衛生法によって義務として定められています。実施義務のある内容とそれぞれの要件は以下のとおりです。
- ●ストレスチェックの実施(従業員数50名以上の事業所)
- ●産業医の選任(従業員数50名以上の事業所)
- ●労働災害の防止措置の実施(高所作業時の落下防止など)
- ●安全衛生教育の実施
例えば従業員数50名未満の事業所では、ストレスチェックの実施と産業医の選任は努力義務となり、必ずしも取り組む必要はありません。しかし、従業員の心身の健康を保つために、可能であれば取り組んでおきましょう。
参考:労働安全衛生法|e-Gov 法令検索
参考:職場のあんぜんサイト|厚生労働省
メンタルヘルス対策の具体例
ここからは、中小企業が取り組めるメンタルヘルス対策の具体例を4つ紹介します。なお、事業所の人数が50人を超えている場合は「年1回のストレスチェックの実施」と「産業医の設置」は義務となるので、必ず取り組みましょう。
ストレスチェックの実施
ストレスチェックとは、ストレスに関する質問票を労働者が記入して、自身のストレス状態を調べる検査のことです。一般的に、以下の流れで行います。
- 1.実施方法の決定
- 2.質問票の配布
- 3.ストレス状況の評価
- 4.従業員への結果通知
ストレス度の高い人には医師による面談や、労働時間の短縮、配置換えなどの就業上の措置を講じましょう。また、部署などのグループ単位でも分析し、「上司がパワハラをしている可能性がある」などの問題が見つかれば、職場環境の改善に努めてください。
なお、ストレスチェックを効率化する専用のサービスや製品もあります。工数をかけずに効果的なストレスチェックを行いたい方は、この後紹介するストレスチェックサービスを検討しましょう。
参考:ストレスチェック制度導入マニュアル|厚生労働省
産業医の設置
従業員50人以上3,000人以下の中小企業の事業場は、産業医を1名選任して従業員の健康管理を行うことが義務づけられています。産業医は医学的な視点から従業員の心身の健康を管理するため、結果として休職・退職防止や生産性向上の効果が期待できるでしょう。
なお「産業医」として認められる要件は以下の通りです。
- ●日本医師会、産業医科大学が行う研修を修了している
- ●産業医の養成課程を設置している大学で実習を履修し、厚生労働大臣が指定する過程を納めたうえで卒業している
- ●試験区分が「保健衛生」の労働衛生コンサルタント試験に合格している
- ●大学で労働衛生に関する科目を担当する教授、准教授、常勤講師(またはこれらの経験者)である
義務とはいえ、産業医を企業が雇用するのはハイコストです。そこで産業医活動に対応する地域の医師に依頼したり、月間数万円で外注できるサービスを活用したりすることでコストを軽減可能です。雇用できる産業医が見つからない、またはなるべくコストをかけずに産業医を設置したい方は検討しましょう。
参考:産業医について~その役割を知ってもらうために~|厚生労働省
メンター制度の導入
メンターとは主に「直属の上司ではない先輩社員」のことです。比較的年齢が近いメンターを相談相手として設置することで、メンティ(受け手側)となる若手社員が業務上の悩みを相談しやすくなります。結果としてメンタル不調や休職・退職の防止につながるでしょう。
ただし、お互いの相性を気にせず適当にメンターを選任すると、かえってメンティのストレスを増長させかねません。下記のような対策が必要です。
- ●複数のメンターを選任し、相談内容によって相談先を分ける
- ●メンター側にガイドラインを定める
メンター制度は導入後すぐには成功しません。さまざまなパターンを試しながら、最適な方法を模索しましょう。
福利厚生の充実
以下のような福利厚生制度を充実させることで、従業員の満足度向上やストレスの軽減が期待できます。
- ●誕生日や結婚記念日などの特別休暇
- ●フレックス勤務の実施
- ●テレワークの推進
- ●旅行支援・レジャー優待
- ●食事補助
- ●資格取得補助
ただし、従業員が求めていない福利厚生を導入しても、満足度はなかなか上がりません。従業員に求める福利厚生のアンケートを取るとよいでしょう。
なお、福利厚生を整備するリソースを割くのが難しいなら、アウトソーシングできる「福利厚生サービス」を活用するのもおすすめです。以下の記事では中小企業におすすめの福利厚生サービスを紹介しているので、ぜひ参考にしてください。
中小企業のメンタルヘルス対策に役立つ製品・サービス
ここからは、ストレスチェックサービスをはじめとした中小企業におすすめのメンタルヘルスケア製品を紹介します。無料で資料請求も可能なため、気になる製品があればぜひ活用してください。
製品・サービスのPOINT
- 東大発IT企業としての技術力を応用し、低コスト・短期納品を実現
- 当社より安い見積もりがありましたらそこから更にお値引きします
- 社内完結型のため最短2週間で納品!実施完了まで約1ヶ月!
株式会社情報基盤開発が提供する「ソシキスイッチ ストレスチェック」は、手軽かつ効果的な職場改善をサポートします。東大発の技術を活用し、低コストでの実施が可能。厚生労働省の基準に準拠し、紙とWebどちらの受検にも対応します。データは金融機関レベルのセキュリティで保護されているため、安心して利用できます。
《ストレスチェック》のPOINT
- 事務局業務全て”まるごと” アウトソーシングできる「楽ちん感」
- 「57項目」「80項目」どちらの診断方法にも対応
- web診断以外のマークシート等紙媒体にも対応(web+紙の併用可)
株式会社ジェーピークリエイトが提供する「ストレスチェック」は、事務局業務をアウトソーシングできるサービスです。紙やWebなど、複数の受検媒体を選べるほか、57項目・80項目の診断方法にも対応。集団的分析の時系列比較も可能で、ニーズに応じたサービスを提供します。個人情報保護に配慮し、プライバシーマークも取得済みです。
《リモート産業保健》のPOINT
- 業界最安値水準月額3万円から
- WEB版ストレスチェック無料
- 産業看護師付き充実のメンタルケアサポート
株式会社エス・エム・エスが提供する「リモート産業保健」は、低コストで包括的な産業保健サポートを実現するサービスです。産業医と産業看護職が連携し、メンタルケアや法定義務対応をサポート。担当者の業務負担軽減に貢献します。訪問とオンラインの組み合わせによる柔軟な対応が可能で、複数の小規模拠点でも平等に面談を受けられます。
《Geppo》のPOINT
- 課題を可視化!個人のパルスサーベイと組織診断を低コストで
- リクルートとサイバーエージェントの社内サーベイをベースに開発
- 継続率98%!さまざまな業界・組織で価値を実感されています
株式会社リクルートが提供する「Geppo」は、個人と組織の状況を可視化するHRサーベイツールです。個人のコンディションを3問の簡単な質問で把握でき、組織全体の課題もeNPSを活用して分析可能。月次で従業員の変化をトラッキングし、適切なタイミングで対応を実施します。回答率の高さと詳細な分析により、打ち手へとつなげやすいツールです。
以下の記事では、おすすめのストレスチェックサービスをまとめています。自社に適したサービス選びのポイントも解説しているので、ぜひ参考にしてください。
中小企業のメンタルヘルス対策に使える助成金情報
中小企業のメンタルヘルス対策には「団体経由産業保健活動推進助成金」が使える可能性があります。事業協同組合や都道府県中小企業団体中央会などの事業者団体が支給対象です。事業者は、該当の団体に申請して助成を受けます。
助成の対象となる経費は、ストレスチェックの実施や産業医による保健指導といった産業保健活動、および関連する事務費です。最大で費用総額の90%(上限500万円)の助成が受けられるので、各事業者団体のホームページを確認してみましょう。
参考:助成金|JOHAS(労働者健康安全機構)
まとめ
中小企業がメンタルヘルス対策に取り組めば、単に従業員の心身の健康を保てるだけでなく、生産性の向上やミス・事故の抑制といった効果が期待できます。事業所の従業員数が50人以上の場合、ストレスチェックの実施や産業医の設置は義務です。紹介した製品やサービスも活用しながら、メンタルヘルス対策を進めていきましょう。