企業が講ずるべきメンタルヘルスケアとは
厚生労働省は「4つのケア」と「心の健康づくり計画」を推奨しています。どういった内容なのか以下で解説します。
継続実施が求められる「4つのケア」
メンタルヘルスケアは、「4つのケア」に分類されます。状況に応じ「4つのケア」を使い分けて実施することが重要です。
セルフケア
自分自身で取り組むことで、メンタルヘルスケア対策の第一歩になります。セルフケアの対象者は、職場の管理監督者も含む全従業員です。
正しい知識がなければ、自分自身でメンタルケア対策に取り組めません。そのため、企業は全従業員へ情報提供や教育研修を行う必要があります。自分自身のストレスに気付くために、ストレスチェックの受講も有効です。
ラインによるケア
職場の管理監督者が行うケアです。管理監督者は、日常的に部下の話を積極的に聞き、部下から自発的に相談を受けられるよう努めなければなりません。従業員の遅刻・早退・欠勤や言動など、いつもと違う部分にいち早く気づき、早期対応することが大事です。
職場の照明・温度やレイアウトなど、物理的環境が従業員のストレスの原因になることがあります。会議の在り方・情報の流れや職場組織体制などにも気を遣いましょう。
事業場内産業保健スタッフ等によるケア
事業場内にいる産業医・産業保健師などの産業保健スタッフが、支援して行うケアです。産業保健スタッフは「セルフケア」と「ラインによるケア」にも参加し支援します。職場を巡回して気づいたことを管理監督者と共有し、職場改善の助言を行います。
産業保健スタッフは、衛生委員会でメンタルヘルス対策の社内研修を立案し、従業員との面談結果をベースに課題解決へ取り組みます。後述する「心の健康づくり計画」の策定にも産業保健スタッフの意見は欠かせません。
従業員が50人未満の小規模な企業は、産業保健スタッフを確保しづらいことがあります。このような企業は、各都道府県に設置されている「産業保健総合支援センター」に相談してみましょう。中小企業事業場向けにメンタルヘルス対策支援事業を行っています。
事業場外資源によるケア
事業場外の専門機関や専門家などを活用して行うケアです。労働者が事業場内のメンタルヘルスケアを希望しない場合や、企業が専門的な知識を持つ機関から支援を受けたい場合などに効果的です。
主な機関として以下が挙げられます。
- ・こころの耳
- 厚生労働省が管轄するメンタルヘルスケアのポータルサイトです。労働者をはじめ経営者・管理監督者から産業保健スタッフまで、幅広くメンタルヘルスケアに関して情報発信しています。情報発信内容も幅広く、Eラーニング・動画や心の病気克服体験記などを提供しています。
- ・産業保健総合支援センター
- 独立行政法人労働者安全機構が、全国47都道府県に設置しています。産業医・産業看護師や衛生管理者など産業保健関係者を支援し、事業主へ職場の健康管理の啓発を行うことを目的にしています。
- ・産業保健サービスを提供する民間企業
- 民間企業が提供するサービスで、産業医の紹介に加えメンタルヘルス対策を行う企業もあります。人事や総務担当者の業務を軽減し、メンタルヘルス対策の体制整備の力になります。
- ・外部EAP機関
- 民間企業の中には、外部EAPサービスを提供している企業もあります。EAPを日本語にすると「従業員支援プログラム」です。心身の健康を促進するために利用されています。導入のメリットは、外部機関であるため従業員が相談しやすく、常駐型ではないためコストが抑えられます。
参考:こころの耳|厚生労働省
参考:産業保健総合支援センター(さんぽセンター)|独立行政法人労働者健康安全機構
基本方針「心の健康づくり計画」を定める
メンタルヘルスケアは中長期的な視野に立ち、継続的かつ計画的に行うことが重要です。そのため、企業はメンタルヘルスケア対策として「4つのケア」を進める前に、事前準備として「心の健康づくり計画」を策定する必要があります。
「心の健康づくり計画」は、企業が行うメンタルヘルスケア対策の基本方針です。衛生委員会で十分審議を行い「心の健康づくり計画」を策定する必要があります。
厚生労働省は「心の健康づくり計画」に以下の事項を盛り込む必要があると述べています。
- 1.事業者がメンタルヘルスケアを積極的に推進する旨の表明に関すること
- 2.事業場における心の健康づくりの体制の整備に関すること
- 3.事業場における問題点の把握及びメンタルヘルスケアの実施に関すること
- 4.メンタルヘルスケアを行うために必要な人材の確保及び事業場外資源の活用に関すること
- 5.労働者の健康情報の保護に関すること
- 6.心の健康づくり計画の実施状況の評価及び計画の見直しに関すること
- 7.その他労働者の心の健康づくりに必要な措置に関すること
なお、ストレスチェック制度は、各事業場で実施される総合的なメンタルヘルスケア対策の取り組みの中に位置づけることが重要です。心の健康づくり計画において、ストレスチェック制度の位置づけを明確にしておきましょう。
参考:職場における心の健康づくり|厚生労働省
メンタルヘルスケアを活用する企業実例
続いて、メンタルヘルスケアを活用したさまざまな企業の実例を紹介します。
研修や相談デスク設置など早期対応に注力した事例
「研修」と「相談デスク」を活用しメンタルヘルスケア対策を行った企業の事例です。主な事業は教育、出版、通信販売などです。以前から産業医と保健師を雇用し従業員の健康管理に力を入れてきました。
一時期大規模な中途採用を行った結果、会社の文化に対応できない社員が増え、メンタル不調者が続出。その際、産業医から「ラインによるケア」が重要であるという指導を受けました。
「ラインによるケア」の研修を全管理者に10年行い、「相談デスク」を立ち上げました。産業保健サポートと人事労務サポートの統合を目的とし、対象者は約6,000人です。
相談内容によっては、「相談デスク」が所属部署や産業医と相談しながら対応します。内容を知られたくない従業員には、外部EAPと連携し対応しています。
病気による休業者数と休業期間が減少し、大きな改善につながりました。
短時間の面談を毎日行い変調を察知した事例
短時間の面談を毎日実施した企業の事例です。主な事業は、医療機器などの製造・開発・販売です。
あるときグループ再編があり、大きな事業転換をしました。メンタル不調者が10名程度いました。その原因は、未経験な業務に慣れなかったり、新たな人間関係に戸惑ったりしたことでした。
当時、メンタル不調者一人に月1回1時間〜1.5時間の面談を行っていました。十分に状況を把握できないケースがあり、長時間の面談がかえってストレスを生むこともありました。
そこで、短時間の面談を毎日行う方針に変更。毎日退社前に健康管理室に寄ってもらい、私生活、業務、心情などを5分程度で立ち話します。毎日短時間会うことで、従業員の変調を察知できるようになりました。
調子が悪いと判断すれば、産業医との面談や職場への対応を促します。再休職率が約40%から10%未満に大幅改善しました。
外部EAP機関などの専門家支援を活用した事例
外部EAP機関のカウンセラーを活用して、メンタルヘルス対策を行った企業の事例です。主な事業は、配電盤などの開発およびソフトウエアの開発です。
東日本大震災後、メンタル不調になる従業員がいました。原因は、震災の影響、震災に伴う勤務地の転居や業務量・内容の変化などによるものです。メンタル不調で退職する従業員も現れ、担当する総務部門は四苦八苦し業務に支障をきたしていました。
外部EAP機関のセミナーを受講する機会があり、ストレスチェック制度が義務化されることもあり、委託することを社長が決断しました。
ストレスチェックの結果は高ストレス者が多く、総務部の担当者が声をかけ、カウンセラーとの面談につなげています。入社3年目の社員と中途社員30人を対象に、ストレスチェック結果と合わせカウンセラーと面談しています。月1回開催される幹部会議で、面談が役立っていると感じ取れるようになりました。
メンタルヘルスケアの活用事例を参考にして対策しよう!
事業者がメンタルヘルス対策を進めるためには、「4つのケア」と「心の健康づくり計画」が重要です。
メンタルヘルスケア対策は、企業の置かれた状況により、取り組み方と活用方法が異なります。具体的には下記のような活用事例があります。
- ・研修や相談デスクの設置を行った事例
- ・短時間の面談を毎日行った事例
- ・専門家の支援を活用した事例
上記を参考にして、自社に適したメンタルヘルス対策を進めてみましょう。