【最新】統計でみるメンタルヘルス対策
まずはメンタルヘルス不調者の割合や対策に取り組んでいる事業所の割合について、厚生労働省の最新統計データをもとに解説します。
メンタルヘルス不調者の割合
厚生労働省の令和2年「労働安全衛生調査」によれば、仕事・職業生活の中で強い不安やストレスを感じている労働者の割合は54.2%でした。メンタルヘルス不調により連続1か月以上休職した労働者の割合は0.4%です。
事業規模別にみると、労働者が1,000人以上の大規模事業場では0.7%、10人~29人、30人〜49人の規模が小さい事業場では0.2%でした。また、産業別にみた場合の上位は、情報通信業0.9%、電気・ガス・熱供給・水道業0.8%、学術研究、専門・技術サービス業0.7%、複合サービス事業0.7%となっています。
事業所におけるメンタルヘルス対策の取り組み状況
厚生労働省によると、令和2年の事業所におけるメンタルヘルス対策の取り組み状況は、全事業所の61.4%で前回調査より2.2ポイント増えています。その取り組み内容は「ストレスチェック」が62.7%で最も多く、次に「職場環境などの評価および改善」が55.5%です。
ストレスチェックとは、労働者が自分のストレスがどのような状況にあるかを質問票に回答して調べる簡単な調査です。労働安全衛生法が改正され、2015年12月から労働者が50人以上の事業所はストレスチェックが義務づけられました。
参考:令和2年「労働安全衛生調査(実態調査)」の概況|厚生労働省
メンタルヘルスケアの基本的な考え方
厚生労働省は、メンタルヘルスケアの推進表明や、その実施方法の規定策定を事業者が積極的に推進すべきという考えを公開しています。さらに、メンタルヘルスケアの実施に当たっては「一次予防」から「三次予防」までを円滑に進め、「4つのケア」を効果的に行う必要があります。
- 1次~3次の予防内容
- 1次予防:メンタルヘルス不調を未然に防止
- 2次予防:メンタルヘルス不調を早期に発見し、適切に措置
- 3次予防:メンタルヘルス不調となった労働者の職場復帰を支援
- 4つのケア
- 1.セルフケア:労働者が実施
- 2.ラインによるケア:管理監督者が実施
- 3.事業場内産業保健スタッフによるケア:産業医、衛生管理者が実施
- 4.事業場外資源によるケア:事業場外の機関、専門家が実施
労働安全衛生法により、企業は以下の表のように一定の規模に該当する事業所および業種により、安全委員会、衛生委員会を設立する義務があります。
設置すべき委員会 |
事業所の条件 |
安全委員会 |
① 常時使用する労働者が50人以上の事業所で、次の業種に該当するもの
林業、鉱業、建設業、製造業の一部の業種(木材・木製品製造業、化学工業、鉄鋼業、 金属製品製造業、輸送用機械器具製造業)、運送業の一部の業種(道路貨物運送業、 港湾運送業)、自動車整備業、機械修理業、清掃業
② 常時使用する労働者が100人以上の事業所で、次の業種に該当するもの
製造業のうち①以外の業種、運送業のうち①以外の業種、電気業、ガス業、熱供給業、 水道業、通信業、各種商品卸売業・小売業、家具・建具・じゅう器等卸売業・小売業、 燃料小売業、旅館業、ゴルフ場業 |
衛生委員会 |
常時使用する労働者が50人以上の事業所(全業種) |
※安全委員会および衛生委員会の両方を設けなければならないときは、それぞれの委員会の設置に代えて、安全衛生委員会を設置できます。
参考:安全衛生委員会を設置しましょう|厚生労働省
メンタルヘルス対策の導入事例
統計から重要性が理解できたところで、続いてはメンタルヘルス対策の導入事例をご紹介します。
ストレスチェックなどのデータを活用した事例
健診結果とストレスチェックを活用してメンタルヘルス対策を進めている導入事例です。約300の事業所をもつ、旅客輸送を主要事業とする大規模な企業です。
同社は、2009年に心の健康づくり計画を策定し、社員や職場、安全衛生管理組織、健康管理センター、各部門に役割を定めました。取り組みの一つひとつに評価指標を定め、対策の評価・見直しを行っています。また職場活性化のため、ユニークなストレスチェックを実施しました。問題解決型だけでは職場の活性化は難しいと考え、強みを伸ばす戦略です。さらにストレスチェックと同時に、仕事に対してポジティブで充実した心理状態か否かを示す「ワークエンゲージメント」のアンケートを実施しています。
取り組みの結果、心理的ストレスの低下、働きやすさの向上、仕事への活力の向上などが認められました。メンタルヘルス不調に関連した傷病手当給付者や求職者数が、2013年以降減少傾向になっています。
内部委員会を活用した事例
安全衛生委員会が主体となり、メンタルヘルス対策を進めている導入事例を紹介します。北陸地方で特別養護老人ホームを運営する中規模の社会福祉法人です。
同法人では、ある年にメンタル不調で複数人の休職が同時に発生し、労働者代表が理事長にメンタルヘルス対策の必要性を申し出たことがきっかけとなり始まりました。労働者代表を中心に産業保健総合支援センターの協力を得て取り組みを進めました。理事長の「よりよいサービスにつながる」というメッセージが大きな支えとなっています。
取り組みの結果、安全衛生委員会が計画を立て、進捗を確認し、評価するというPDCA(Plan Do Check Action)サイクルが確立されました。さらに、委員はさまざまな情報を集め熱心に活動し、県内の健康経営の取り組みに応募することを目指しています。
部門連携を中心とした事例
相談窓口の利用や関連部門連携によるコミュニケーションで、メンタルヘルス対策を進めている導入事例です。飲食店を全国に展開する大規模な企業です。
同社は行動基準を作り、社内外に公表しました。行動基準の中で、ストレスの少ない職場環境づくり、あらゆるハラスメント防止などに取り組むことを宣言しています。
本部に相談ダイヤルを設け、頻繁に店舗を巡回し、全従業員から意見・要望を吸い上げる仕組みを作りました。さらに残業時間の把握漏れがないよう、店長を対象に労働時間研修を行いました。若手社員と仕事以外の話でコミュニケーションを促進し、人事担当者は不調による休業者の円滑な職場復帰を支援しています。
取り組みの結果として、メンタルヘルス不調による休業者が減少したことで、今後管理職のメンタルヘルスにも取り組む必要があると考えています。
経営者が主導した事例
従業員約80人のタクシー会社で、社長主導でメンタルヘルス対策を進めている導入事例です。同社は、設立以来「健康の保持」を社訓の1つとしています。公共輸送機関として顧客の安全確保が責務であり、従業員の心身の健康が基盤と考えています。
タクシー乗務員の労働時間は不規則で、給与の一部が歩合給であるため長時間乗務したいという気持ちになりがちです。同社社長は、労働時間の適正管理が重要であると考え、簡便に労働時間を把握・管理できるツールを開発しました。さらに、乗務員が毎日記入する日常点検表に、発熱、疲れ、睡眠不足などの項目を加えました。運行管理者は、日常点検表で乗務員の健康状態を把握し、乗務員に声をかけるきっかけとしています。
結果として、乗務員の労働時間が大きく改善され、メンタルヘルス不調による事故が発生しなくなりました。
外部支援を活用した事例1
事業所内の産業保健スタッフと事業所外の資源を活用しメンタルヘルス対策を進めている導入事例を紹介します。国内外にビジネス展開する大規模なIT企業です。
同社はグループとして健康宣言を社内外に公表しました。健康保険組合が策定するデータヘルス計画の中でも、メンタルヘルス疾患を重点課題とし目標設定を行っています。
ストレスチェックの結果、健康リスクが高い職場ではワークショップを開催しており、高ストレス判定者には、産業保健スタッフが声かけを行い、体調確認や面談を行っています。また、管理監督者が職場のケアに手が回らない現実があり、シニア層のベテラン幹部を「職場づくり支援スタッフ」に任命しました。産業スタッフに加え、事業所外機関の専門家が管理職をフォローしています。
取り組みの結果、メンタルヘルス疾患による休業者が減少し、今後は予兆把握のためAIの活用を検討しています。
外部支援を活用した事例2
1500人規模のIT企業の導入事例です。EAP(心身の健康を促進するために利用される従業員支援プログラム)によるメンタルヘルス対策を進めています。
同社は年1回「こころの健康診断」を実施し、3回連続で高ストレスと判定された部署にはコンサルテーションを実施しました。
取り組みの成果は、従業員同士でストレスケアを話し合い、休暇を取るなどの未然防止できたケースがありました。さらに、不調者が大きく崩れず勤務を継続したり、上司からのアドバイスで休暇を取り復帰したりする従業員もいたようです。
自社にあったメンタルヘルス対策で従業員の健康を守ろう
メンタルヘルスの不調を訴える労働者は多く、対策に取り組む企業は年々増えています。また、メンタルヘルス対策として企業は一次予防から三次予防、4つのケアを進める必要があります。従業員の心身を守るため、適切にメンタルヘルス対策に取り組みましょう。