メンタルヘルス対策の課題
令和5年に厚生労働省が発表した資料によると、令和3年11月から1年の間、メンタルヘルス不調で1か月以上休職または退職した労働者がいた事業所の割合は、前年比3%増の13.3%でした。一方で、メンタルヘルス対策に取り組んでいる事業者の割合は約6割超と年々増加しています。メンタルヘルス対策の効果を得るには時間も手間もかかるため、思うような成果が得られず、「メンタルヘルス対策は難しい」と感じている企業も多いでしょう。
ここでは調査結果をもとに、メンタルヘルス対策の課題を解説します。
参考:令和4年「労働安全衛生調査(実態調査)」の概況|厚生労働省
ストレスの程度や要因の正確な把握が難しい
現在の仕事や職業生活に関するストレスを感じている労働者の割合は、前年比約30%増の82.2%という結果が出ています。ストレスの要因として多くあげられているのは以下のとおりです。
- ●仕事の量
- ●仕事の失敗・責任など
- ●仕事の質
- ●対人関係(パワハラ・セクハラを含む)
しかし、ストレスの程度や要因は人によりさまざまなため、正確に把握するのは困難です。
プライバシーの保護が重要となる
メンタルヘルスに関する労働者の健康情報は、守られるべき個人情報の一つとして適切に取得・管理されなければなりません。一方で、メンタルヘルスの不調を訴える労働者がいる場合は、職場の理解と協力を得るため周囲の関係者に情報開示することも必要となるでしょう。
そのため情報の取り扱いや取得目的については、あらかじめ労働者に説明をし、同意を受けるのが望ましいといえます。
人手不足や連携の失敗で適切にケアできない
例えばメンタルヘルスケアの一環としてストレスチェックを実施し、結果を分析した場合、業務配分や人員体制の見直しなどが必要となるケースがあります。しかし、人手不足や業務過多などが原因で、思うように改善が進まない実情もあるでしょう。また、組織変更や人事異動を伴う職場改善には、人事労務管理部門と連携して対応しないと失敗する可能性があります。
メンタルヘルス対策で活用できるサービス
何からはじめたらよいのかわからない、基本的な情報や知識を得たいという人には、サービスの利用がおすすめです。企業が活用できるサービスを紹介します。
こころの耳
「こころの耳」は厚生労働省が管轄するメンタルヘルス・ポータルサイトです。労働者本人とその家族はもちろん、事業者に向けたメンタルヘルスに関するあらゆる情報や、電話・メール・SNSでの相談窓口が用意されています。事業者だけに限らず、労働者向けのコンテンツやリーフレットも充実しています。メンタルヘルスに興味のない労働者に対する啓発、自身のセルフケアに役立つでしょう。
提供する主なコンテンツは以下のとおりです。
- ●メンタルヘルスに関する知識が学べる動画
- ●職場のメンタルヘルス対策の取り組み事例
- ●こころの病克服体験記
- ●Q&A
- ●各種冊子パンフレット
- ●研修の紹介
さらに、「ストレスチェック制度の導入や実施に役立つポイント」「職場環境改善に役立つツール」などの最新情報も提供しています。
参考:こころの耳|厚生労働省
産業保健総合支援センター
独立行政法人労働者健康安全機構が運営する「産業保健総合支援センター(通称さんぽセンター)」は、全国47都道府県に設置されている施設です。事業場内にいる産業医・衛生管理者・産業看護職・人事労務担当者などの産業保健関係者を支援します。
また職場の健康管理への啓発を目的として、「事業主を対象とした経営観点からの産業保健の課題と対策」などのセミナーも開催しています。さらに両立支援コーディネーター研修を実施しているため、事業場内に専門スタッフがいない場合や、専門スタッフを育成するためにも有効活用できるでしょう。
参考:産業保健総合支援センター(さんぽセンター)|独立行政法人労働者健康安全機構
地域産業保健センター
独立行政法人労働者健康安全機構が運営する「地域産業保健センター(通称地さんぽ)」は、労働者数50人未満の事業所や労働者へ、以下の産業保健サービスを原則無料で提供している施設です。
- ■長時間労働者への医師による面接指導の相談
- 労働安全衛生法で定められた、長時間労働者への医師による面接指導の相談にのります。
- ■健康相談窓口の開設
- 健康診断結果に基づいた健康管理、メンタルヘルスなどについて医師や保健師が相談に応じます。
- ■個別訪問による産業保健指導の実施
- 医師が希望する事業場を訪問し、指導、助言を行います。
- ■産業保健情報の提供
- 地域の産業保健機関の情報提供を行います。
このほか、労働者の健康管理や産業保健に関する相談を受け付けています。
参考:地域窓口(地域産業保健センター)|独立行政法人労働者健康安全機構
厚生労働省が提示する基本対策「4つのケア」とは
厚生労働省はメンタルヘルスの基本対策として、以下の「4つのケア」が継続的かつ計画的に行われる環境整備が重要と述べています。それぞれ詳しく解説します。
- ●セルフケア
- ●ラインによるケア
- ●事業場内の産業保健スタッフなどによるケア
- ●事業場外資源によるケア
参考:職場における心の健康づくり~労働者の心の健康の保持増進のための指針~|厚生労働省
セルフケア
事業者は労働者に対して、自身でケアが行えるよう研修・情報提供をすることが求められます。ストレスやメンタルヘルスに対する正しい知識を提供し、ストレスチェックなどを活用して自身のストレスに気付く機会をつくるのもよいでしょう。
ラインによるケア
職場の管理監督者や事業者が行うケアを指します。管理監督者は、日頃から職場環境に目を配り、部下のちょっとした変化にいち早く気づくことが大事です。遅刻・早退・欠勤の増加や業務効率の低下、ミスの増加、目つき・顔色・言動の変化などがあれば要注意です。相談に乗ったり、必要に応じて事業場内の産業保健スタッフへの相談や受診を促したりしましょう。
事業者は労働者のストレス軽減につながるよう、作業レイアウトや室内温度といった物理的環境から組織体制・社内ルールまで、さまざまな面から労働環境の改善に努めましょう。休業者数や医療費の軽減に効果が出るまで数年以上かかるため、現状調査を行い、改善計画の立案・実施・効果計測を継続していくことが重要です。
事業場内の産業保健スタッフなどによるケア
産業保健スタッフの主な役割は、セルフケアとラインによるケアのサポートです。具体的には、メンタルヘルスケアの実施に関する企画の立案や、職場復帰支援などを行います。産業保健スタッフには、産業医、衛生管理者、保健師、心の健康づくり専門スタッフ、人事労務管理担当者などがあげられます。特に、産業医と衛生管理者は50人以上の事業場には選任義務があるため注意しましょう。
参考:産業医について|厚生労働省
参考:衛生管理者について教えて下さい。|厚生労働省
事業場外資源によるケア
「産業保健総合支援センター」など、事業場外の専門的な機関やサービスを活用したケアです。メンタルヘルス対策は専門的な知識が必要であるため、これらの機関のアドバイスやサポートは安全で効果的です。必要に応じて速やかに労働者を医療機関などの施設へ紹介できるよう、日頃からネットワークを形成し、事業場内のスタッフと連携することが重要といえます。
メンタルヘルスの課題を解消して適切に取り組もう
政府は令和5年4月より第14次労働災害防止計画を実施し、メンタルヘルス対策を全国的に推進しています。しかし、「取り組み方がわからない」「専門スタッフがいない」などの理由から、メンタルヘルス対策を思うように進められない現状もあるようです。
メンタルヘルスを取り巻く現状と課題を理解し、できる範囲から少しずつ職場環境の改善やストレスチェック分析に取り組んでみましょう。なお、メンタルヘルス・ストレスチェックに役立つツールをお探しの方は、おすすめ製品を紹介した以下の記事も参考にしてください。
参考:第14次労働災害防止計画の概要|厚生労働省労働基準局安全衛生部計画課