シンクライアントとは
シンクライアント(Thin Client)とは、必要な処理をすべてサーバー側で実行し、管理するシステムのことです。クライアント側で機能を実行したり環境を整えたりする「ファットクライアント(Fat Client)」の対義となるため、「Thin(=薄い)Client」と呼ばれています。
つまりシンクライアントは、機能を最低限しか搭載していないクライアント端末です。実行するアプリケーションのデータは端末に保存することができず、ダウンロードもできません。必要な機能は全てサーバ側で管理する仕組みです。
シンクライアント端末は不要な機能を全て削ぎ落しており、業務に必要な機能だけであるため、通常の端末と比較すると低価格で用意することが可能です。種類は複数あるため、自社に合った方法で導入すると良いでしょう。
シンクライアントについてより詳しく知りたい方は、シンクライアントの種類や人気製品を紹介している以下の記事も参考にしてみてください。
シンクライアントの仕組み
シンクライアントは単体では業務に使えない端末を、ネット通信を介してサーバの機能を使う簡単な仕組みです。基本的にシンクライアントで利用する端末は、通信接続していなければ使いものになりません。逆にインターネット環境があり、サーバと通信接続できるのであれば、いつでもどこでも業務を行えます。
シンクライアントの仕組み(実行方式)には大きく分けて「ネットブート型」と「画像転送型」の2種類あります。この実行方式にはメリットとデメリットがあるため、内容を十分に把握しておくと良いでしょう。ここからはシンクライアントの仕組みについて説明していきます。
サーバでデータ保存を行う「ネットブート型」
一般的なシンクライアントの考え方は「ネットブート型」です。このネットワークブート型は、インターネットを使ってサーバ上にあるOSやアプリケーションをクライアント端末上で起動・実行します。
この方法では、先程説明したようにインターネット環境があれば、従来のクライアントと同様の使い方ができます。しかし、安定したネットワークとサーバのリソースが必要です。専用のサーバを構築する必要があり、シンクライアント端末の台数が多くなればなるほど設備投資の金額が膨大になります。
サーバでデータ保存・プログラム実行を行う「画像転送型」
シンクライアントの実行方式の中でも近年注目されている方法が「画像転送型」です。名前の通り、サーバ上で実行している内容の画面を、シンクライアント端末に転送して操作を行う方法です。この方法でもインターネットの通信を利用しますが、通信によって送受信される情報は画像と操作情報だけです。
ネットブート型の場合は送受信するデータ量が多いため、安定したネットワーク環境が重要です。しかし、この画像転送型はやり取りするデータ量も少ないため、遠隔地でも社内と同じようにパソコンや業務システムといったコンピュータを利用できます。
この画像転送型の方法には大きく分けて「ブレードPC型」「サーバーベース型」「VDI型」の3種類があります。その特徴を把握して、自社に合った方法で実行しましょう。
クライアントごとに専用ブレードPCをつなぐ「ブレードPC型」
ブレードPC型では画面を転送する基となるコンピュータとして「ブレードPC」と呼ばれる超小型のPCを用意します。ブレードPC型では社内にあるブレードPCと遠隔地にあるクライアント端末を、インターネット通信を使って接続します。遠隔地からクライアント端末を使って小型のブレードPCに接続し、操作する方法です。
この方法ではシンクライアント化する端末の数だけブレードPCを用意する必要があるため、ハードウェアのコストが発生します。しかし、遠隔地から操作するときは個別のブレードPCに接続するため、ほかのユーザーの影響を受けることはありません。
クライアントごとにサーバをつなぐ「サーバベース型」
サーバベース型は、利用するアプリケーションをサーバで実行し、1つのサーバを複数人でシェアする方式です。
アプリケーションとクライアント端末を接続し、操作と表示のみを行います。1つのサーバにあるアプリケーションを共有するため、リソースを有効活用できます。しかし、サーバの許容量を超えるような使い方をするとユーザー同士の影響を受ける可能性があります。
例えば、朝の始業時などでサーバのアクセスが一気に集中すると、サーバがダウンする可能性があります。1度に使えるユーザー数を制限するなどの対策が必要でしょう。
クライアントごとに仮想環境をつなぐ「VDI型」
VDIとは「Virtual Desktop Infrastructure」の略で、「仮想デスクトップ基盤」を意味します。このVDI型は、サーバ上に仮想のデスクトップ環境を構築し、シンクライアント端末からこの環境にアクセスする方法です。
ブレードPC型と同様に社内のコンピュータに接続する方法ですが、用意するコンピュータは仮想マシンです。ブレードPC型は物理的なコンピュータを用意しますが、このVDI型では仮想マシンを利用するため社内のリソースを有効活用できます。
シンクライアントのメリット
ここまでシンクライアントの仕組みや種類について触れてきました。では、導入することで具体的にどのようなメリットがあるのでしょうか。シンクライアントのメリットは「管理者の負担軽減」「利便性の高いアクセス」「高セキュリティ」の3つです。
ここからはシンクライアントのメリットについて詳しく説明します。
メリット1:運用・管理がしやすい
シンクライアントの端末には必要最低限の機能しか持たせません。企業としてどのクライアントにどのような機能やアプリケーションがあるか、管理する項目が少なくなります。そのためIT資産管理を行う担当者の業務負担を軽減できるでしょう。
また、シンクライアントで実行するデータやソフトなどはサーバで一元管理するため、担当者は全てのクライアント端末をチャックする必要はありません。このように管理業務を簡単にすることで運用・管理コストを削減できます。
メリット2:アクセスの利便性が高い
シンクライアント端末はインターネット環境があれば、いつでもどこでも利用することが可能です。そのため、シンクライアントを有効活用すれば、従業員の働き方の幅が広がるでしょう。
例えば、シンクライアント端末を自宅に用意すると、簡単に在宅ワークを行える環境を構築できます。また、営業社員にシンクライアント端末を持たせることで、提案する資料を印刷しなくてもPC上で相手に提示できます。外出先でも仕事を進められるので、わざわざ会社に戻って事務作業をしなくても近くのカフェなどで済ますことができるでしょう。
メリット3:セキュリティが高い
社外にノートPCを持ち出して業務を行うときは、情報漏えい対策を万全に行わなければなりません。社内情報が含まれる端末を紛失したり、盗難されたりすることで情報漏えいしてしまいます。
そこでシンクライアント端末を使えば、通常のクライアント端末を社外に持ち出すよりも強固なセキュリティ対策となります。
シンクライアント端末では、端末自体の機能が制限されている以外にも、業務システムにアクセスできる範囲も制限できます。アクセス制限は管理者が簡単に設定できるため、外出先での重要データの操作を阻止することが可能です。また、シンクライアント端末によっては、接続先の情報の保存防止や、ダウンロード自体の阻止ができます。
シンクライアントのデメリット
シンクライアント環境を構築することでさまざまなメリットを得ることができます。しかし、シンクライアントは万能な技術ではないため、デメリットも存在します。
シンクライアントを導入するときはメリットだけで選ぶのではなく、デメリットをカバーできる対策を講じることが大切です。
ここからはシンクライアントのデメリットについて説明していきます。
デメリット1:ネットワーク環境に左右されやすい
シンクライアント端末の最も大きなデメリットは、ネットワーク環境に依存することです。
シンクライアント端末はインターネット通信を利用し、サーバなど社内環境にアクセスしてアプリケーションを利用します。シンクライアント端末単体では、端末自体にデータが残されていないため、ネットワーク環境がなければ何もできません。
そのため、安定して通信できるインターネット環境を構築する必要があります。また、社外でもシンクライアント端末を利用できますが、通信が安定していないと仕事に支障が出る可能性も否めません。
デメリット2:サーバトラブルが生じやすい
複数のシンクライアント端末の業務をサーバで一元管理するため、サーバの負担が大きくなりやすいです。担当者の負担が減るというメリットはありますが、その分サーバ自体の負担は増加します。1つのサーバにアクセスが集中すると、サーバの処理が遅くなったり、サーバダウンしたりします。
1台のサーバを複数のユーザーが同時共有することを想定し、サーバ側は大きなリソースを用意する必要があるでしょう。重要な業務を複数のシンクライアント端末で行う場合は、高スペックなサーバを用意しなければなりません。
シンクライアント環境を構築してスマートに働こう!
シンクライアント環境を構築することで、時間と場所を選ばず仕事が可能です。
遠隔地から社内システムにアクセスして業務を行う方法はいくつかありますが、その中でもシンクライアントは特にセキュリティレベルが高いです。導入には費用が発生しますが、その費用分の効果を感じることができるでしょう。
紹介してきたようにシンクライアントの実行方式にはいくつか方法があるため、その特徴を理解することが重要です。シンクライアントの仕組みを理解して、自社にとって最適な製品を導入しましょう。