中小企業におけるBCP策定率の現状
中小企業庁が発表したデータによると、2021年における中小企業のBCP策定率はわずか15.0%でした。「現在策定中」と答えた企業を含めても、22.0%に留まります。
また同データによると、BCPを策定していない主な理由として、「策定に必要なノウハウがない」「策定する人材を確保できない」などが挙げられました。大企業と違い、中小企業では少人数でBCP策定しなければならないため、リスクがわかっていても対応しきれていない企業が多いようです。
このような現状を受け、政府は中小企業のBCP策定を後押しする「事業継続力強化計画認定制度」を実施しています。認定制度を活用すると、税制上の優遇措置や金融支援を受けられます。BCPを策定する際にはあわせて確認してみてください。
参照:2022年版「中小企業白書」 第5節 事業継続計画(BCP)の取組|中小企業庁
参照:事業継続力強化計画|中小企業庁
また、以下の記事ではBCP対策率を業種・企業規模・地域別に紹介しています。詳しく知りたい方はご覧ください。
中小企業がBCP策定に取り組むべき理由
中小企業がBCP策定に取り組むことは、単なるリスク対策以上の意味をもちます。次に、中小企業がBCP策定に取り組むべき理由を5つ紹介します。
事業の存続を確実なものにするため
災害や事故が発生した際、BCPがあれば速やかに事業を再開し、顧客や取引先への影響を最小限に抑えられます。中小企業は大企業に比べて経営基盤が脆弱なため、長期の事業中断は致命的な打撃となりかねません。そのため、BCPは中小企業の生命線となる可能性があるのです。
取引先からの信頼獲得のため
企業によっては、取引先にBCPの策定を求めているパターンも少なくありません。中小企業がBCPを策定することで、取引先からの信頼を得られ、新規取引の開拓や既存取引の維持につながる可能性があるでしょう。これは、競争力の向上にも直結します。
金融機関からの評価を上げるため
BCPの策定は、金融機関からの融資や条件交渉において有利に働く可能性があります。事業の継続性が担保されることで、金融機関からの信用力が向上し、資金調達しやすくなります。
従業員の安全確保と雇用維持のため
BCPには、従業員の安全確保策も含まれます。これにより、災害時であっても従業員の安全を守り、さらには事業継続による雇用維持にもつながります。結果的に、従業員の安心感だけでなく会社への信頼感を高める効果も期待できるでしょう。
経営の見直しと業務改善のため
BCP策定のプロセスでは、自社の業務を見直す機会が得られます。これにより、普段気づかない非効率な業務プロセスや潜在的なリスクを発見し、平常時の経営改善にも活かせます。
このように、BCP策定は中小企業にとって、リスク対策だけでなく、経営強化や競争力向上の機会となる要素です。早期に取り組むことで、自社の成長と発展を支える経営戦略となるでしょう。
以下の記事では、BCPの必要性についてさらに詳しく解説しています。BCP対策におすすめの製品も紹介しているので、ぜひ一読ください。
中小企業におけるBCP策定のメリット
次に、中小企業がBCPを策定することで得られる主な3つのメリットを解説します。
経営者の意思決定が速くなる
中小企業では、経営者が多くの意思決定を担っています。BCPを策定することで、緊急時の判断基準や行動指針が明確化し、経営者の意思決定が迅速かつ的確になります。意思決定の速さは、複雑になりがちな大企業の意思決定プロセスに比べ、中小企業の強みとなるでしょう。
さらに、BCPは事業承継対策としても有効です。緊急時の事業継続手順を文書化することで、経営者が不在のときでも事業を継続できる体制が整います。例えば、後継者が突然の事態で経営を引き継ぐ場合でも、BCPがあれば重要な業務プロセスや緊急時の対応手順を即座に把握できます。
BCPにより、事業の継続性が確保され、取引先や従業員の不安も軽減されるでしょう。結果として、BCPは円滑な事業承継を支援する重要なツールとなるのです。
限られた経営資源を活用できる
中小企業は大企業と比べて経営資源が限られています。BCPを策定することで、自社で重要な業務や必要となる資源を明確にし、緊急時でも効率的に資源を配分できます。適切な資源配分により、少ない資源でも効果的な事業継続が実現可能です。
例えば、BCPの策定過程で重要な業務の優先順位付けを行うことで、緊急時に「真に重要な」業務に集中できます。また、必要な人材や設備、資金といった資源を事前に把握し、確保するための手段を検討しておくことも重要です。災害発生時でもスムーズな対応が可能になります。さらに、平常時から業務プロセスの効率化や代替手段の検討を行うことで、日々の業務改善にもつながるでしょう。
地域との連携強化で社会的信頼を獲得できる
企業によっては、地域社会との結びつきが強い中小企業もあります。BCP策定を通じて地域の他企業や自治体との協力体制を構築することで、災害時の相互支援が可能になり、地域全体の防災力向上にも貢献できます。
具体的には、地域の防災訓練への参加や、地元企業同士での災害時の相互協力協定の締結などが考えられます。こうした活動は、平常時から地域との関係性を深め、企業の社会的価値を高めることになるでしょう。また、取引先や金融機関に対しても、地域貢献をアピールすることで、信頼性の向上や取引条件の改善につながるかもしれません。
さらに、BCP策定を通じて得られる地域との強い連携は、災害時のみならず、平常時の事業機会の創出や人材確保にも好影響を与えます。地域に根ざした企業として、より強固な経営基盤を築けるのです。
中小企業におけるBCP策定の手順
続いて、中小企業におけるBCP策定の手順を解説します。
1.BCPの基本方針を立案する
まずは、BCPの策定目的や期待できる効果を明らかにしましょう。自社の経営方針を踏まえてBCPの方針を定めます。
例として、以下のような基本方針が考えられるでしょう。
- ●従業員の雇用を守る
- ●地域の経済活動に貢献する
- ●顧客からの信用を守る
- ●社会からの需要に応える
2.自社における重要商品を検討する
重要商品とは、有事の際に優先的に提供すべき商品やサービスのことです。災害や事故などの緊急事態発生時には、限られた資源や人手で商品を提供しなければなりません。重要商品には、基本方針の実現や事業の継続に欠かせない商品を選びましょう。
例えば、物流会社であれば物流サービスが重要商品となるでしょう。多様な事業展開をしている場合でも、有事の際には中心事業である物流を優先すべきです。
また、運搬するものも決めなくてはなりません。社会への貢献や顧客からの信頼などの基本方針を踏まえ、「X社向けの商品A」などと具体的に定めます。
3.災害ごとの被害状況を想定する
続いて、災害時における自社業務への影響度を想定しましょう。一口に災害といっても、想定される危機によってとるべき対策は異なります。
例えば、地震や津波では事業に必要な設備やライフラインの物理的な損失が考えられます。業務が停止し、従業員間の連絡に支障が出る可能性もあるでしょう。
一方、大規模な新型インフルエンザなどの感染症流行時には、別の被害が生じます。設備や資源に影響はなくても、人員を集めるのが難しくなり、事業が停滞します。地震などの災害と違い、速やかに復旧すればよいというものではないため、慎重な判断が求められるでしょう。
4.経営資源を意識した事前対策を実施する
想定される被害状況のなかで、重要商品を確実に提供するためには、自社の経営資源を確保する必要があります。経営資源とは、人・金・物・情報など企業が事業を継続するために必要となる資源のことです。特に、中小企業は大企業と比べて資源が限られます。自社の長所と短所を考慮して対策をとりましょう。
具体的には、各経営資源について以下の対策が考えられます。
- ●人:安否確認ルールの整備、代替要員の確保
- ●金:必要な資金の把握、調達先の確保
- ●物:設備の整備、代替方法の確保
- ●情報:保有するデータの保護、災害時の情報収集・発信手段の確保
5.緊急時の体制を整備する
実際に災害が起こった際には、社内に大きな混乱が生じます。そのときにも会社が一丸となって行動できるよう、緊急時の体制を決めましょう。
もっとも重要なのは責任者の決定です。災害時には情報が錯綜し、誰の指示に従えばよいのかわからなくなります。中小企業の場合、社長が責任者として指示を出すケースが多いでしょう。しかし、社長が対応できない可能性も考え、代理責任者を複数名決めておくと安心です。
そして、緊急時の対応内容を以下のようにあらかじめ定めておきます。
- ●顧客の安否確認
- ●従業員の安否確認
- ●取引先との連絡
- ●対外情報発信
- ●資金確保
なお、事前対策や緊急時の体制構築を行うには、専用システムの利用が便利です。例えば、安否確認システムを活用すれば、LINEやSMSなど複数の連絡手段を利用し、従業員や関係者に素早く自動で連絡がとれます。以下のボタンよりおすすめのBCP対策ソリューションの一括資料請求が可能なため、詳しい製品情報が知りたい方はぜひご利用ください。
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BCP策定後の注意点
BCPを策定しても、実際の災害発生時に活かされなければ無意味です。そこで、策定後に注意すべきことを2つ紹介します。
BCPを社内に定着させる
災害発生時に従業員が適切な行動をとれるよう、BCPの内容を社内で定着させましょう。マニュアルの配布だけでなく、定期的な研修を行うのがおすすめです。
災害時には、普段使わない設備やツールを活用する場合があります。例えば、非常電源の入れ方や、非常時連絡ツールの扱い方を熟知しておきましょう。これらは定期的に訓練し、従業員全員が活用できるようにしておくことが大切です。
安否確認システムなどの非常時連絡ツールは、日常の業務連絡として使用できる製品もあるため、普段から利用して操作に慣れておくのも一手です。
以下の記事では、BCPを社内に定着させるために役立つBCP訓練について解説しています。あわせてご覧ください。
BCPを更新する
BCPは、策定して終わりではありません。内容が古くなると、災害時に役に立たない可能性があります。そのため、以下の情報について随時更新を行いましょう。
- ●従業員
- ●顧客
- ●製品製造体制
- ●設備
- ●取引先
- ●商品やサービス
これらの情報が変化するたびに、BCPの内容を見直すのも有効です。具体的にどのタイミングで見直しを行うかも決めてチェックリストを作っておくと、抜け漏れがなくなります。
まとめ
中小企業におけるBCP策定率は高くありません。しかし、災害が起こってから対処するようでは、自社だけでなく取引先にも被害が及んでしまう恐れがあります。紹介した手順や注意点などを踏まえてBCPを策定し、緊急事態に備えましょう。
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