中小企業におけるBCP策定率の現状
みずほ総合研究所株式会社が発表したデータによると、2015年12月時点で中小企業のBCP策定率はわずか15.3%です。「現在策定中である」が9.1%、「策定する計画がある」が10.9%で、これらを合わせても35.3%に止まります。
つまり、残りの64.7%はまったくBCP策定を考えていないということです。
また、同社の発表によると、BCPを策定しない主な理由は「ノウハウがない」「人手不足」などです。大企業と違い、中小企業では少人数で対応しなければならないがリスクがわかっても対応できない場合が多く、不安を感じている企業は少なくありません。
この現状を受け、政府は中小企業のBCP対策を推し進める政策を実施しています。BCP認定制度を活用すると、税制上の優遇措置や金融支援を受けられます。この流れを受け、今後はBCP策定を行う中小企業が増加するかもしれません。
参照:中小企業のリスクマネジメントと信用力向上に関する調査報告書|みずほ総合研究所株式会社
中小企業におけるBCP策定の手順
続いて、中小企業におけるBCP策定の手順を見ていきましょう。初めてBCPを策定する企業でも負担が少ないように、できるだけ早く簡単に策定することを念頭に解説します。
1.BCPの基本方針を立案する
初めにBCPの策定目的や期待できる効果を明らかにしましょう。自社の経営方針を踏まえてBCPの方針を定めます。
例として、以下のような基本方針が考えられるでしょう。
- ■従業員の雇用を守る
- ■地域の経済活動に貢献する
- ■顧客からの信用を守る
- ■社会からの需要に応える
2.自社における重要商品を検討する
災害や事故などの緊急事態発生時には限られた資源や人手で商品を提供しなければなりません。重要商品とは、その際に優先的に提供すべき商品やサービスのことです。基本方針の実現や事業の継続に欠かせない商品を選びましょう。
たとえば、物流会社であれば物流サービスが重要商品となるでしょう。ほかに事業を展開している場合でも、有事の際にはそちらを優先すべきではありません。
また、何を運搬するかも決めなくてはなりません。社会への貢献や顧客からの信頼などの基本方針を踏まえ、「X社向けの商品A」という形で具体的に重要商品を定めましょう。
3.自社に影響のある被害状況を確認する
続いて、災害時に自社にどのような影響が生じるのかを想定しましょう。一口に災害といっても、想定する危機によってとるべき対策は異なります。
地震や津波では事業に必要な設備やライフラインの物理的な損失が想定されるでしょう。その結果、工場での製品生産や従業員間の連絡に支障が生じます。
一方、大規模な新型インフルエンザの流行が発生した際には別の被害が生じます。設備や資源は影響を受けなくても人を集めるのが難しくなり、事業が停滞します。地震と違い、速やかに復旧すれば良いというものではないため、慎重な判断が求められるでしょう。
4.経営資源を意識した事前対策を実施する
前の手順で想定した被害状況の中で、重要商品を提供しなければなりません。そのためには、被害を受けても重要商品を提供できるだけの経営資源を確保する必要があります。
経営資源とは、具体的に人・金・物・情報などのことです。特に中小企業は大企業と比べて資源が限られます。自社の長所と短所を考慮して対策を取りましょう。
具体的には、各経営資源について以下の対策が考えられます。
- 人
- 安否確認ルールの整備、代替要員の確保
- 金
- 必要な資金の把握、調達先の確保
- 物
- 設備の整備、代替方法の確保
- 情報
- 保有するデータの保護、災害時の情報収集・発信手段の確保
5.緊急時の体制を整備する
実際に災害が起きた際には社内に大きな混乱が生じます。その時にも会社が一丸となって行動できるよう、緊急時の体制を決めましょう。
その中でもっとも重要なのは責任者の決定です。災害時には情報が錯綜し、誰の指示に従えばよいのか分からなくなります。基本的には社長が責任者として指示を出しますが、社長が動けない可能性も考え、代理責任者も複数名決めておきましょう。
そして、緊急時の対応内容を以下のようにあらかじめ挙げておきます。
- ■顧客の安否確認
- ■従業員の安否確認
- ■取引先との連絡
- ■対外情報発信
- ■資金確保
このように列挙しておけば、緊急時に責任者がとるべき行動のチェックリストとして活用できるでしょう。
中小企業におけるBCP策定の成功事例
BCP策定を成功させた、包装資材を手掛けるA社の事例を見ていきましょう。
A社は2009年に大流行した新型インフルエンザをきっかけに、BCP策定を考えるようになりました。ただし、実際のBCP策定では地震をはじめ災害全般を想定しました。
災害により従業員や設備・機器が稼働できなくなれば、取引先に迷惑をかけ、自社への信頼を大きく損なうことになります。そこで、A社は同業他社との間で代替生産を可能にするなど、事業継続体制を構築しました。
さらに、従業員には日常的に責任意識を持たせ、いざというときに対応できるようにしたといいます。
これらの活動には費用がかかりますが、被災した際の損失と比べれば大きく下回ります。さらに、A社はBCP策定を通して取引先から信頼を得られただけでなく、社員の結束力も強まりました。BCP策定は経営戦略としても有効といえるでしょう。
BCP策定後の注意点
BCPを策定しても、それが実際の災害発生時に活かされなければ無意味です。そこで、策定後に注意すべきことを2つ紹介します。
BCPを社内に定着させる
災害発生時に社員が適切な行動をとれるよう、BCPの内容を社内で定着させましょう。マニュアルの配布だけでなく、定期的な研修を行うとよいでしょう。
災害時には普段使わない設備やツールを使うこともあります。たとえば、非常電源の入れ方や、非常時連絡ツールの扱い方を熟知しておく必要があります。これらは定期的に訓練し、全員が使えるようにしておくことが大切です。
非常時連絡ツールは日常の業務連絡でも使える製品があるため、普段から利用しておいてもよいでしょう。
BCPを更新する
BCPは策定して終わりではありません。内容が古くなると、災害時に役に立たない可能性があります。以下についての情報を随時更新する必要があります。
- ■従業員
- ■顧客
- ■製品製造体制
- ■設備
- ■取引先
- ■商品・サービス
これらの情報が変化するたびにBCPの内容を見直しましょう。具体的にどのタイミングで見直しをするのかを決めてチェックリストを作っておくと、抜け漏れがなくなります。
中小企業でもBCPを策定し、緊急事態に備えよう
中小企業におけるBCP策定率は高くありません。しかし、なにかが起こってしまってから対処するようでは、自社の被害だけではなく取引先にも2次被害を出してしまう恐れがあります。しっかりと作成ポイントを踏まえてBCPを策定し、緊急事態に備えましょう。