新型コロナウィルスに関連する賃金の基本的な考え方
新型コロナウィルスが猛威を振るう中、テレワークやフレックス勤務などの柔軟な就業ができない業種の場合、賃金の支払いについてどのように考えればよいのかを整理します。
基本的な3つの考え方
新型コロナウィルスなどの感染症と賃金の関係については以下のとおり基本的な3つの考え方があります
参考:
新型コロナウィルスに関するQ&A(企業の方向け)
(令和2年2月 21 日時点版)|厚生労働省
1:国などが指定している感染症にかかった人は感染拡大を防ぐために就業を禁止しなければならない。
厚生労働省の情報によると「新型コロナウィルスに感染しており、都道府県知事が行う就業制限により労働者が休業する場合は、一般的には『使用者の責に帰すべき事由による休業』に該当しないと考えられます。そのため、休業手当を支払う必要はありません。」とあります。
つまり、新型コロナウィルスに罹った人が仕事を休む場合については無給でもよいことになります。
2:「会社の都合」で休ませる場合、平均賃金の60%以上の休業手当を支払わなければならない。
例えば、工場などの勤務をしている従業員に対して生産調整をするために労働者を休ませる、接客業で来客が減ったため従業員を休ませる等の場合は、「会社都合の休業」と判断されます。
その場合は、平均賃金の60%以上の休業手当を支払う義務があります。
3:労働者は健全な労務を提供する義務がある。
労働者が仕事を始める際に交わす雇用契約書。この契約は、労働者が労働を提供する(つまり、会社の命令を聞いて働く)義務と、雇い主が賃金を支払う義務をお互いに約束し、確認をする契約です。
そのため、労働者は期待されたレベルの労働を提供しなければなりません。厳しい言い方にはなりますが、怪我をしたり、病気に罹ったりした場合、労働を提供できないのは、労働者の事情と判断されます。いわば、契約不履行の状態となり、休業手当の支払いを受けることができません。
結論として、新型コロナウィルスに罹った労働者には休業手当を支払う必要はないですが、会社の都合で従業員を休ませる場合は、休業手当の支払いが必要となります。
実務レベルでの対応策
しかし、現実的な実務レベルの問題としては、労働者の生活を守るためには、何らかの保障を検討せざるを得ないことになるでしょう。その方法として考えられるのは、(1)有給休暇対応(2)助成金 などの対応が現実的です。
1:有給休暇を使う対応
本人の都合で会社を休んだ場合、通常は欠勤扱いとなります。しかし、休んだ日数に法定年次有給休暇をあてることは可能です。
一方で、会社都合による休業(休業手当の支払い義務がある場合)では、有給休暇を使わせることには問題が発生します。その理由は、年次有給休暇は出勤の義務がある日に休日を取るために使用をするものだからです。
会社都合の休業日は、そもそも従業員に出勤の義務がないため使用できないと考えられます。
2:小学校休業等対応助成金
政府からの一斉休校の要請に伴い、仕事を休まざるを得ない労働者に対しては“法定の年次有給休暇とは別に”有給の休暇を設けた場合、休暇にかかる賃金については、企業に対する助成金が創設されています。
参考:新型コロナ休暇支援|厚生労働省
その他にも、企業に対する助成金の情報に注意しつつ、不明な場合は社会保険労務士に相談して下さい。
労働保険の「年度更新」は時間厳守!
続いては、新型コロナウイルス対策で多忙な中でもそろそろ準備を考えなくてはいけない労働保険についてのトピックスです。
労働保険とは、労災保険 (事業主負担)と雇用保険(労使それぞれ負担)のことをいいます。労働者を一人でも雇用する事業所には労働保険の加入義務があります。毎年、概ね6月1日から7月10日の間に保険料算定のための手続きが必要です。
この手続きを労働保険の「年度更新」といいます。 4月1日から翌年3月31日までの1年間を労働保険の「保険年度」と呼び、保険料はこの保険年度の賃金総額に保険料率をかけて算出します。
労働保険の年度更新とは、「前年度の保険料を確定精算するための申告・納付」と「新年度(本年度)の概算保険料を納付するための申告・納付」手続きのことです。
- 前年度の保険料を確定精算するための申告・納付
- 前年度の賃金額がすでに確定しているので、確定納付額を算出し精算します。精算の結果、納付額が確定納付額より多ければ還付を受け(または次年度に充当)、付録していた場合は納付します。
- 新年度(本年度)の概算保険料を納付するための申告・納付
- 新年度(本年度)の賃金総額を概算で申告・納付します。
年度更新のポイント「賃金総額」
労働保険料は、賃金総額に保険料率を掛けることで算出します。したがって、賃金総額を正しく把握しておくことがすべての基礎となります。ここで言う賃金とは、労働の対償として支払うすべての(「給与」「賞与」「手当」など)が該当します。注意が必要なのは、労災保険と雇用保険では対象者が異なるということです。
労災保険は、正社員のみならず、アルバイトやパート等を含めた労働者全員が対象ですが、雇用保険の場合は法令の条件を満たした労働者のみが対象となります。
賃金総額算定の際、対象となる労働者が異なる場合は両者を区別して総額を割り出すことが必要です。
令和2年度の雇用保険料率について
令和2年4月1日から令和3年3月31日までの雇用保険料は以下の通りです。
早めの準備をしておきましょう
期限内に申告・納付が行われなかった場合は、延滞金(年利14.6%)が課せられます。
普段から、賃金管理を整理し、年度更新に備えておくことが大切です。不明な点がある場合は、社会保険労務士に相談して下さい。