登壇者プロフィール
freee株式会社 CEO
佐々木 大輔 氏
Googleで、日本およびアジア・パシフィック地域での中小企業向けのマーケティングチームを統括。 その後、2012年7月freee株式会社を設立。 Google以前は博報堂、投資ファンドのCLSAキャピタルパートナーズにて投資アナリストを経て、レコメンドエンジンのスタートアップであるALBERTにてCFOと新規レコメンドエンジンの開発を兼任。
株式会社マクアケ 代表取締役社長
中山 亮太郎 氏
2006年に株式会社サイバーエージェントに入社。2013年に現在の株式会社マクアケを創業し、アタラシイものや体験の応援購入サービス「Makuake(マクアケ)」をリリース。2019年12月には東証マザーズに株式を上場。
株式会社大塚商会 業種SI部門 執行役員
十倉 義弘 氏
1991年株式会社大塚商会に営業職として入社、1994年からSIビジネスに携わる。数多くの中堅中小企業に寄り添い、業務改善やERPの導入で企業の生産性向上と実績に貢献。2019年執行役員に就任。ERPパッケージ「SMILE V」シリーズの開発元である株式会社OSKの取締役を兼務。
「DX=ツール導入」だけじゃない!各社の考えるDXとは
株式会社大塚商会 十倉 義弘 氏(以下、十倉):
日本の中堅・中小企業のお客様には、デジタル化・効率化を意欲的に進められている企業様もいらっしゃいます。しかし、現実にはDXの推進を考えてはいるものの、何から着手すべきか分からない段階で止まっている例も多いです。DXは概念なのでその定義は考え方によると思いますが、このあたり中山さんどうですか?
株式会社マクアケ 中山 亮太郎 氏(以下、中山):
中小企業に限らないとも思いますが、不便なことって物凄いあるじゃないですか。でも、それを解消するデジタルツール自体は、だいたい揃っているんじゃないかと思っていて。なので、ツールをどう活用するか、ツールによって可視化されたデータをどう活かすのかという段階も含めてDXだと感じています。
面倒くさいことを解消してマイナスをゼロにし、その次はゼロからプラスを作り出すという、一連の流れがDXという感じですね。ただ、中小企業の場合、具体的にそれをどうするかが課題として大きく立ちはだかってきそうだとは感じてます。
十倉:
なるほど。うちの会社もめんどくさいことまだ山盛りありますんで、それを解決できるだけで確かにDXかもしれないです。
中山:
弊社もfreeeさんの会計ソフトを導入して効率化が進んでますね。元々別の製品を使っていたんですけど、便利なサービスってどんどん増えていくんで、そういう意味ではインターネット関連企業もDXが100%に到達しているわけではないんですよ。何が便利なのかずっと探求していかなくちゃいけないのは、僕らも中小企業も一緒かなって。ただ、僕らの場合はITに詳しい人が多い分、導入しやすいっていうのはあるかなと思います。
十倉:
なるほど、ありがとうございます。佐々木さんいかがでしょうか。
freee株式会社 佐々木 大輔 氏(以下、佐々木):
僕たちが創業したとき、スモールビジネスでのテクノロジー活用がまだ進んでいないという課題感があって。中小企業の労働生産性は大企業の半分以下で、これが日本の生産性のボトルネックになっています。
デジタル化自体は、中小企業でも進んでいるんですよね。しかし、メールは使っているけど、それ以外の部分で独自のシステムを使っていたりするんです。すると情報の転記作業が発生し、この作業が挟まっているせいで業務のプロセスが遅くなっている。こういうことをなくして、色んなことをスピードアップしていき、労働生産性を上げなきゃいけないんです。じゃあこれをどうやって実現するのかっていうところは難しいんですけど。
一方で、ビジネス分野では難しいとされているのに、一般消費者が当たり前にやっていることもいっぱいあって。たとえば、スマホのGoogleフォトで写真を共有…とか、当たり前に行われてるんですよ。
だから、ビジネスの現場で「クラウドにしたら生産性が上がる」とか、こういう議論ももう古臭いと思っていて。「普通に生活している人はどうしてるのか」って考えたら、当たり前にクラウドサービスとか使っているわけですから。
普通の生活で行われていることを、ビジネスの世界に上手に持ち込む。この発想がすごい重要なんじゃないかと思います。
十倉:
「普通の生活の中で」って今佐々木さんおっしゃいましたし、前回中山さんとお話しした時にもあんまり社内でDXって言葉を出して意識はしてない、みたいなお話しもあったんで。「普通の中に」がキーワードなんですかね。
中山:
「DX」って大々的に掲げるんじゃなくて、日常生活で感じる「もっと便利に」「もっと効率的に」っていう日本語ワードが、そのまま出てくるっていう感じです。だから、必ずしもデジタルにこだわらなくて、アナログな方法で解決することもあります。たとえば、「一人暮らしだと栄養が偏りがち」という問題に対処しようと思ったら「じゃあ野菜を送ってあげよう」みたいな、どアナログな方法を提案したりするんですよ。
十倉:
なるほど。「DX」のDはデジタルのDですけど、そればかりとも限らないんですね。
自社で取り組んでいるDX、教えます!
十倉:
大塚商会では色んなサービス・商品を提供しているわけですが、それらは本当にお客様のためになるんだろうかというのを考え、まず自社で使ってみて効果が出たものを提供しています。
たとえば、大塚商会の営業はお客様先に入る前にスマホを貸与されていて、「今週はこのお客様に行った方が面白いよ」とか、「このお客様はきっとこんなサービスを考えてらっしゃるはずなんでこのツールを持って行ったらどうですか」なんてことを、AIが示唆するんです。実際、受注率は月を追うごとに上昇している。すると「このAIシステムはお客様に提供できるんじゃないか」という感覚を抱く。こんなイメージですね。
ただ、AIを扱うにはバックデータが必要ですし、データサイエンティストを雇う必要も出てくる。これでは難しいので、中小企業のお客様がハンドリングできるようにAIを仕立ててPRする、という流れになっています。お客様に提供する前のテストの場が大塚商会にあるかな、という感覚ですね。
佐々木:
僕たちはクラウドサービスを世の中に広めようというビジョンを掲げて、創業時から何もインストールせず、クラウドサービスだけで社内を回してきています。
昨年3月に全国休校のアナウンスがあって、全社リモートワークに移ったんですけど、その時に何も議論することがなかったんです。全部インターネットでできる状態だったので、何も問題ないよね、と。経理とか、あるいは上場企業だと監査なんかをどうするのかっていう議論が普通は生じると思いますが、これもすでにデータはクラウドで管理してるので問題ありませんでした。
別にこれは、コロナ禍を想定していたわけではないんです。ただ、社員が病気になった際や、自然災害が起きたときのためにBCP対策として備えてて、それがコロナ禍で偶然発動された形です。全部の仕事をインターネットでできるようにすることのメリットを、率先して模索し続けていこう、というのはカルチャーとして浸透しています。
十倉:
中山さんはどうですか、自社の取り組み。
中山:
結構いろんな角度でやってますね。それこそ、会計はfreeeさんを使わせていただいて大幅に効率化しましたし。ほかにも人事労務のところでは、リモートワークで顔が見えない状況で社員のモチベーションやエンゲージメントを高めるために、人事HRシステムみたいなものを早めに導入したりとか。あと、うちの労務担当がSaaSマニアなんです。好きで積極的に試してくれてるんで、自然と効率化が進んでる感じですね。
面白かったのが、Zoomなどのオンラインミーティングで議論が多次元化してたことです。会話している画面の横で、チャット機能で別の議論が自然に展開されているんですよ。これもなんか効率的だな、とか。
他にも、画面に出てる顔が本人じゃなくて、アバターになってきてたりとか。自分の分身みたいなキャラクターの画像同士で話をしていて、将来的には一緒に働いている人の顔も知らずに仕事ができるんじゃないかって思っちゃうような。こういう面白い流れが勝手に生まれてるのを眺めてますね。
マクアケが変えた、新商品のデビュープロセス
中山:
マクアケによって、新商品のデビューの仕方は明らかに変わってきたと思っています。これまでは新商品をデビューさせようとしたら、在庫を作ってお店に並べるか、大量の広告費をかけて宣伝して消費者に認知してもらうことがマストでした。しかしマクアケでは企画のタイミングで消費者にいきなり購入してもらって、そこから作り始めることも可能です。この時間軸のシフトによって、これまでだったらお蔵入りしちゃうようなアイデアも世の中に広がっていくようになったのが、大きな成果かなと思っています。
ただ、これはコンシューマー限定の話なんですね。今後はコンシューマーだけでなく、日本中のセレクトショップやバイヤーにも同様の売り方ができるようになれれば、と。また、今は日本国内に限定されてるんで、海外に拡張もしたりとか。
今までの「流通構造ってこうだよね」という前提を、そもそも流通のスペシャリストではない僕らが整理整頓し直したら、「こうした方が合理的・効率的なんじゃないか」というのが見えてきたと感じています。この新しい構造に素直にアジャストしていって、新商品が生まれやすくなるような動きをしています。
十倉:
マクアケって課金のビジネスではないじゃないですか。どちらかというと1つの商品ができてアップされて、テストマーケティングがあって終わりっていうイメージなんですけども。割と次々とリピートされてるんですかね。
中山:
そうですね、今出ている半分近くの商品は、過去に使ったことのあるメーカーさんとかが出品していますね。多いところだと年に何商品も出してきます。企業が新商品を作るライフサイクルの中にマクアケが入ってる、という感じです。
「自動化」と「高度化」、両方の実現を叶えるfreee
佐々木:
僕たちの場合は、新しく起業される方が経営しやすく、成長中の企業が効率を犠牲にせず内部統制や管理体制を図れるように、を目指しています。
そして、これらはもう少し抽象的に言えば、これまではバラバラの方向を向いていた「自動化」と「高度化」を全部同時にできるようにしたということだと思うんです。以前はこれらは相反するもので、どちらかが犠牲になると考えられていたので、両立できることを理解してもらうのは大変でした。
たとえば、freeeって数年前までは小規模事業者向けと言われていたんです。でも僕らはそうは思っていなくて、「むしろ高度な分析も可能になるんだ」と思っていたんですけど、これを理解してもらえるようになったのはようやく最近のことですね。
そもそも自動化がなぜ実現するかというと、業務間を連携して人の手を介在させないようにするからなんですね。そして、人の手が介在しないということは、手作業による情報の損失がないということでもある。ということは、生のデータがたくさん得られるわけですから、高度な分析も可能になる。こういう風に、自動化と高度化は両立できるわけです。
何かを犠牲にせずに両立できることがテクノロジーだと思うんで、こういったことを起こしていきたいと思っています。
DXの推進には、小さな成功の積み重ねを
中山:
冒頭で申し上げたとおり、DXの推進には不便を解消する視点が大切かなと思っています。「もっと便利に」「もっと効率的に」って、いろんなものを組み合わせれば大体のことはできるし、それをサポートする会社もたくさんあります。
具体的にどうするのかというところは、まさに大塚商会さんの出番だと思うんです。「DXって何?トランスフォーメーションなのになんでXなの?」みたいな段階でも、上手くサポートしてくれる会社さんの力を借りれば、どんどん不便は解消されていくかなと。ツールと人に甘えまくる、っていうのがDXのコツなんじゃないかなと思ってます。
佐々木:
新しいことを取り入れようとすると反対する人もいっぱいいます。僕たちのようなクラウドネイティブの会社でもやっぱりそれは同じです。
何年か前にフェイスブックワークプレイスっていうコミュニケーションツールを導入したんですが、従来のメールとコミュニケーションの概念が大きく変わってしまうので、社内で大クレームを受けたんです。今では社内のカルチャーとしてすっかり定着しているんですが、最初はめちゃくちゃ反対されました。そこで大事なのは、「めげない」っていうことと「小さな成功を積み重ねていく」ことだと思います。
日本は特に反対するカルチャーだと僕は思っていて。Googleで5年くらい働いたことがあるんですが、そのことを強く実感しました。いろんなオフィスに行って「Googleからこういう機能が出ます」っていうミーティングをすると、日本だけ極端に反応が違うんですよ。他の国は「おー、すげえ」「これあのパートナーに伝えよう」って喜ぶんですけど、日本のオフィスはみんな怒り出すと。「これお客様にどうやって説明するんだ」みたいな話になっちゃうんですね。
ただ、それは「日本人はそういう傾向があるんだな」って受け入れると、別にへこまなくなるというか。気の持ちようというのは大事ですし、それを大事にしてきたからこそ今のfreeeがあると思っていますね。
もう一つの「小さな成功を積み重ねていく」については、分かりやすい効果を良いタイミングで上手に提示していくということですね。たとえば、日本ではレシートや請求書はスキャナで保存しても紙の原本は保存しなければならなかったんですが、来年の頭からは原本を捨てられるようになります。この小さな変化で成功を実感できれば、電子化に反対する人も減ってくるかなと。リモートワークにしても同じですよね。「もしもの時」のBCP対策の一環として取り入れると言えば反対する人は少ないでしょうし、その過程で成功を実感できれば本格的なリモートワーク導入も進んでいく。こういう小さな成功の積み重ねが、DX推進のうえで大事なのかなと思っています。
おわりに
十倉:
システム導入をサポートしてきた立場からすると、お客様に寄り添う形が今までちょっと違うのかな、と感じています。DXってソフトを導入しておしまいではなく、お客様にとってはそこからがむしろスタートじゃないですか。しかし実際は、打合せをして設計をして作ってお渡しして、そこからSEは離れていきます。このギャップが苦しいですね。
もっとお客様に寄り添うような、アジャイル型の提供に変えていかないといけないかなと思っています。中堅・中小企業のお客様って本当は自分たちで新しいことをやりたいんだけどなかなか生まれてこない、っていうところも現実あるかなと思いますので、ずっと寄り添って相談相手になってくれるようなベンダーさんとお付き合いすると新しい発想が生まれたり、その新しい時間が生まれた時に相談ができるのではないでしょうか。
あと、toCのDXって華々しいじゃないですか。Uber Eatsが運んでくれたり、タクシー乗ったら行先も告げず登録されていたり…みたいな。でも日本の中堅・中小企業のDXは一つの業務の自動化が積み重なって、やっと新しい時間や発想が出てくるのかなと。華々しくDX推進室を立ち上げて……というよりは、目の前の面倒くさいことをひとつひとつ片づけていく、その積み重ねがDXにつながるんじゃないかと思ってます。
今日はどうもありがとうございました。
登壇企業による提供製品をご紹介!
本セッションにご登壇いただいたfreee株式会社様、株式会社大塚商会様が提供するシステムをご紹介します。
《SMILE V 2nd Edition》のPOINT
- 約40年の歴史を持つ基幹業務システムのSMILEの最新版
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ITトレンドEXPO次回もお楽しみに!
当日のセッションでは、登壇者が視聴者の皆さんからの質問にリアルタイムで答えてくれます。ぜひ次回のITトレンドEXPOへのご参加お待ちしております!(参加無料)
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