登壇者プロフィール
株式会社morich
代表取締役 All Rounder Agent
森本 千賀子氏
1993年リクルート人材センター(現リクルート)に入社。転職エージェントとしてCxOクラスの採用支援を中心に、3万名超の求職者と接点を持ち、2,000名超の転職に携わる。リクルートキャリアでは累計売上実績が歴代トップで、全社MVPなど受賞歴は30回超。 2012年には、カリスマ転職エージェントとしてNHK「プロフェッショナル~仕事の流儀~」に出演。
2017年3月株式会社morich設立。現在、NPO理事や社外取締役・顧問など「複業=パラレルキャリア」を意識した多様な働き方を自ら体現。日経オンライン・プレジデントオンラインなどの連載のほか、『1000人の経営者に信頼される人の仕事の習慣』『本気の転職』『無敵の転職』など著書も多数。2022年2月には、日経新聞夕刊「人間発見」の連載にも取り上げられる。2男の母の顔も持ち、希望と期待あふれる未来を背中を通じて子供たちに伝えている。
株式会社ZENKIGEN
コーポレート本部 マネージャー 兼 ZINZIEN コミュニティマネージャー
清水 邑氏
2013年新卒で株式会社イノベーションに入社。BtoBマーケティング支援のコンサルタント営業として、同社が上場までの4年間、数百社の顧客支援に携わり同社の成長を牽引。上場後は、社長室にてM &A、新規事業開発に従事。2018年、第一号社員として設立直後の株式会社ZENKIGENへ入社。
経営者・人事向けのカンファレンス「NEXT HR Conference」、地方就活生応援プロジェクト「上京しなくても"いい"就活」の立ち上げや数百本の人事系イベントのプロデュースを経て、2020年7月"開かれた人事"を目指す人事コミュニティ「ZINZIEN」の立ち上げ、コミュニティーマネージャーに就任。
経営者人事向けのプロデュースを中心に自身も年間150本以上のセミナー登壇を行う。
価値観の多様化と向き合う
株式会社ZENKIGEN 清水 邑氏(以下、清水):
最初に、世の中全体の変化について伺っていきたいと思います。企業側や転職希望者と接する中で「価値観の多様化」を実感することはありますか?
株式会社morich 森本 千賀子氏(以下、森本):
もうめちゃくちゃ感じていますね。もともと転職希望者が潜在的に持っていたニーズが、明らかに顕在化していると感じていて。私は東京と静岡とを行ったり来たりしながらの二拠点生活をしていますが、これは2年前のビフォーコロナの状況下では多分考えられなかったと思うんです。コロナ禍以前は出社が当たり前でしたが、今ではリモートワークとのハイブリッド型。おそらく以前のスタイルに戻ることはないだろうという前提で考えると、東京の狭い家で生活をする必要が無いんじゃないかと。同じ家賃でも、静岡の方が圧倒的に部屋は広いですから。生活環境もある程度充実させながら仕事をするという選択が可能になりました。
副業に関しても「いつかはやってみたい」という声自体は以前からありましたが、最近では転職先の条件が「副業のできる場所」になっています。リモートワークにより通勤の必要性が無くなり、時間的な余裕ができた。そしてこの先はおそらく、60歳で定年を迎えたら働かなくてもいいという時代ではないので、今のうちに何か新しいチャレンジをしておきたい。そういったニーズがあるんですね。
清水:
多様化に対して組織としても向き合わなければ、転職者への対応が難しくなってくる、ということでしょうか。
森本:
そうですね。価値観の多様化をいかに経営に反映させていくかというのは、非常に大事だと思います。働き方に生き方を合わせていくのではなく、自分の望む生き方に働き方を合わせていくという。人事の方も、それをどうやって実現していくかを考える時代になったという風に感じますね。
仕事の意義、意味でつながる
清水:
「つながり」というテーマにおいては、リモートワークに少々課題を感じている企業も多いのではないでしょうか。
森本:
21世紀型経営には、「パーパス経営」というキーワードが出てきます。資本の「資」ではなく「志(こころざし)」である、「志本経営」。これは何かと言うと「パーパス」、与えられる使命ではなく人の内から湧き上がる“思い”や“志”です。
そのパーパスがあり、ミッション、ビジョンがある。ビジョンの部分は自分の夢ですよね。自分の夢の実現のために仕事がある。夢を実現するために支える信念、内なるものからの思いをどのように体現していくのか。これらを実現させるための経営や組織づくりに変わってきているように感じています。
清水:
人事としての視点でお聞きしたいんですが、今までの日本企業の、上から降りてきたものに対して忠実に再現をすることで評価をされるという制度を突然変えてしまうと、社員の方は「仕事の意義とは何だっけな」と足が止まっちゃうのではないでしょうか。そんなときにはどうアプローチをすると良いですか?
森本:
いろいろとやり方はあると思うんですけど、リクルートでは社内報をいまだに紙で発行しているんです。やはり紙で作られて自席に置かれていると、社員は手に取って読むんですよね(笑)。 社内報にはさまざまな成功事例や、社員の仕事ぶりがクローズアップされて取材されています。取り上げられる事例とは、会社としてここに今価値を見出している、という一つの価値指標の意思表示だと思うんですよね。それを伝えていくというやり方が、もしかしたら一番納得感があるのかなと思いますね。
人事制度を見つめ直す
清水:
企業の大事にしていることを社員に伝える手段として、評価制度や表彰があります。この点について事例や経験をお聞かせください。
森本:
私自身が上司から言われ、そしてメンバーや部下に伝えてきたことは、人事制度も評価も「会社の“意思”」ということです。例えばKPIや指標は、会社が「大事にしてほしい」と思っている価値指標。ブレークダウンをしていくと、その部門、グループ、あなた自身が大事にしなければならない価値観である、ということを常に伝えています。
その価値観を測るために、どのような指標を用意しようかという、そこが忘れ去られてしまっているところがありますね。会社の意思や価値をどのように決めているのかを、きちんと理解しておくべきだと思っているんですよ。また人事制度を変えることは、会社の価値基準を変える非常に大事なことなのです。その位置づけや意味づけは、きちんと伝えないと理解されません。
例えば評価シートは、自分が半年間会社の価値基準に合わせてどのように頑張ったか。結果だけではなく、そのプロセスですよね。 「これはたまたまです」「お客様に恵まれた」と結果だけを表現して終わることがありますが、どのようなプロセスでそうなったかをきちんと分析し、上司と部下の間で共有してほしいです。そういう内容を、人事側からもしっかりと伝えていくことが大事なのではないでしょうか。
Techの活用を考える
清水:
人事とのコミュニケーションや、上司と部下のコミュニケーション。人事制度を浸透させる取り組みにおいて、テクノロジーを上手く利用するのも一つの手段ですね。
森本:
テクノロジーの活用は必須です。定性的なものをいかに定量化するか、これは永遠の課題でした。 例えば評価においても、営業であれば訪問数や実績を表現しやすいですが、定量化しづらい仕事をしている方も多いでしょう。定性的なものを今はテクノロジーがかなりカバーしてくれています。
清水:
そうですね、このセッションのスポンサーである日立ソリューションズ様は、通常であれば上司の方が見るようなエンゲージメント・サーベイを、自身で見て改善サイクルを回せるような仕組みを提供していらっしゃいます。これはすごく良いなと思っています。
森本:
今、人事の方は恐らく日本でも人的資本の開示化が近く義務化されるということで、環境づくりに奔走されています。履き違えてはいけないのは、これは目的ではなく、ある意味手段ということ。開示するだけではなく、それを更に最大化させていくことが大事です。
人的資本の11項目、特にその中でも組織文化やダイバーシティ、リーダーシップなど、今までは可視化の難しかったものを数値化していこうということだと思うんですけど、これは本当にやらざるを得ないですね。逆に数値化し開示するからこそ、本当の意味で人的資本や持っている資本を最大化する取り組みにつながると考えています。
人事の言動が組織に与える影響
清水:
経営者のパートナーとして人事領域のお仕事をされている視点から、人事の言動が組織に与える影響や、役割の変化についてお聞かせください。
森本:
まずひしひしと変化を感じている一つとして、戦略人事や、CHRO(Chief Human Resource Officer/最高人事責任者)の求人ニーズが殺到していることが挙げられます。 また戦略人事のトップを社長直轄、例えば社長室の中に置きたいというケースも多くなっています。 経営×人事ですね。
最近は「ヒューマンリソース」について、「ヒューマンキャピタル」という言い方をしています。資源ではなくて資本、いわゆる未来資本ですね。このような価値観の中で、人の資産を考えられる人を採用したいという要望を多方面の経営者からいただいています
清水:
管理部門としての人事から、未来資本に対する投資や適切な働きかけをしていく人事に変化をするためには、どのような視点が必要でしょうか。
森本:
経営者とパートナーシップを取っていくことですね。これまでは、経営戦略や事業戦略が企業価値の大きな指標になっていました。これからは人的資本の開示、人のリソースや人のキャピタルをどのようにしていくのか、経営戦略や事業戦略とどのように紐づけていくかが大事だと思います。
清水:
中期経営計画をきちんと理解し、その中で人や組織の採用から育成も含め、トータルで考えることが求められているんですね。
森本:
企業様が求めるのは、新卒で人事に配属され、給与計算から始まってずっと垂直に人事経験を積み上げた20年・30年選手ではありません。 事業部のラインや事業サイドの経験、経営企画や経営側の視点を持つなどの経験がある方です。中には、子会社や関連会社での経営経験など経営や事業を当事者として俯瞰しながら人の部分を考える、自らそういう経験をした方を求めている企業様もあります。
掛け算の強い組織とは
清水:
強い組織の共通点はありますか?
森本:
「つながり」が本当に大事だなと思っていて。私は当初、マネジメントをやりたくなくて、個人プレーで一人で好き勝手にやっている方が楽だと考えていました。でも、一人でやれることには限界がある。むしろ人と人とを掛け算にすることによって「+(プラス)1」ではなくて3倍にも4倍にも組織力がレバレッジされていき、そのスケール感や非連続の成長に「森本、すごく楽しいぞ」ということを上司から言われてきました。どういうことなんだろうと思っていたんですけど、実際にマネジメントをしているときにすごく実感できたんですよね。
リクルートは、ナレッジマネジメントが当たり前でした。なぜ可能だったのかと言うと、一つは先ほども評価の話をしましたが、社員の評価指標が10あるとしたら、そのうちの2、3割が組織貢献なんですね。 これは新入社員であっても同じです。通常、一般的な新入社員だったら「とにかく目の前の仕事をやっておけ」と言われそうですが、そうではなくて自分がどうすれば組織に貢献できるかということを、入社して早々から常に意識させられるんです。 新入社員だから経験や知見が無いということではなく、先輩社員や上司が当たり前だと考えてやっていることを客観的にお客様視点で見て、「おかしいな」と思ったことはどんどん発信しろと言ってくれる組織だったんですよね。
もう一つは、自分が持っているナレッジを独り占めするな、ということです。“学び”とは、ほかの人が再現できる状態にしてはじめて血肉となり、自分のものになる。お客様の課題に対して「このようなソリューション提案をしたら、こうなった」と目的から結果までをまとめて、共有フォルダに入れておく。 このように自分の知見や成功事例といったナレッジをほかのメンバーがいつでも使えるように再現性の高い状態に整理しておく、そういったものが本当に組織力なのだと感じました。
おわりに
清水:
会社内の問題も、会社の外を社会的に取り巻く問題も、今は個人、または一社単体で解決できるものは本当に少ないと感じています。森本さんが打ち合わせのときにおっしゃっていた、ある顧客に価値を届けるときに「森本千賀子とその会社ではなくて、リクルート全員とその会社」なんだと、「これが掛け算なんだ」ということをおっしゃっていたのは本当に印象的ですし、今まさに必要かなと。
森本:
そうなんですよ。最近「マネジメントをやりたくない」「私にできるのだろうか」と悩む方も多いのですが、自分一人でメンバー育成やチームをマネジメントしていくのではなく、自分の背中の後ろに存在する組織がバックアップをしてくれるのだという思いで向き合う。それが「強い」ということにつながるのではないでしょうか。
ITトレンドEXPO次回もお楽しみに!
当日のセッションでは、登壇者が視聴者の皆さんからの質問にリアルタイムで答えてくれます。ぜひ次回のITトレンドEXPOへのご参加お待ちしております!(参加無料)
▽ITトレンドEXPOの開催情報はこちら