登壇者プロフィール
株式会社ユニリタ クラウドサービス事業本部 Growwwingグループ 事業責任者 兼 プロダクトマネージャー
尾上 雄馬氏
2007年に株式会社ビーエスピー(現ユニリタ)入社。ITサービス向けヘルプデスクSaaS「LMS」を新規開発から開発を担当。開発業務の傍らサポートも兼務していたが、解約率の高まりに危機感を感じ、2017年より同サービスのカスタマーサクセスチームを立ち上げ責任者を担当。カスタマーサクセス管理用のツールを内製することで、解約率半減を実現 。
この管理ツールを汎用化し、Salesforce上で稼働するカスタマーサクセス管理SaaS「Growwwing(グローウィング)」として販売開始、2020年7月より事業化し責任者を担当。
コミューン株式会社 執行役員CRO
岩熊 勇斗氏
新卒でDeNAを経て、創業期のクラウドサイン(弁護士ドットコム)に入社。カスタマーサクセス部門の立ち上げおよび責任者を経験し、約5年間で10万社以上の顧客を支援。2020年よりコミューンに参画し、カスタマーサクセス部門責任者として従事したのち執行役員CROに就任。幅広い業種・業界におけるカスタマーサクセスの知見を有する。
1.今までの“当たり前”
株式会社ユニリタ 尾上氏(以下、尾上):
私が15年ほど前にIT業界に入った当時は、メインフレームと呼ばれている大型汎用機のようなソフトや、オンプレミスと呼ばれるいわゆるデスクトップのサーバー向けのソフトなどを取り扱っていました。
それらは売り切りの商材なので、売るまでのコストを最小化して、売った時点での利益をいかにそのまま継続させるかというのが当たり前でした。売った後もコストをかけないように、サポートの工数削減に取り組むというのが従来のスタイルだったと感じております。
コミューン株式会社 岩熊氏(以下、岩熊):
概要は尾上さんがおっしゃったとおりで、売る瞬間にいかに価値を最大化するかという点に焦点を置かれていたのが今までの当たり前だと思います。企業が業績を伸ばしていくために、いかに認知され購入していただける数を増やしていけるのか。そしてその際にどれだけ高いお金を払ってもらうのか、というのが基本的な考え方で、企業として最も投資の優先度の高い事項でした。
2.なぜ変化する必要がある?
岩熊:
大きく4つの背景があると思っています。
1つ目は、マーケットがどんどんシュリンクしていること。国内も縮小市場になっているので、そもそも新しいお客様をどんどん開拓し拡大していくことは、マクロで見ると不可能になってきています。
2つ目は、購買活動のトレンドの変化です。いわゆるサブスクリプション(サブスク)モデルは、一般消費者にとってもメジャーになってきましたし、サブスクモデルではなくても、何回繰り返してもらえるかが非常に重要になってきています。「1回目に買うときに支払うお金は、ある程度安くて当然だよね」とか、「気軽に使いはじめられる」というのが一般的になってきています。
3つ目は、買い手側の力が相対的に強くなってきていることです。いろいろなマーケットがレッドオーシャンになっていたり、買い手の発信力が強くなってきていたりすることで、今まで情報格差を利用して売る側が優位な時代だったのが、いよいよ構造的に終わってしまったといえます。
4つ目は、以上の3つ全てを包含するような内容ではありますが、デジタルシフトがよりいっそう進んでいることですね。企業側もお客様の利用状況やニーズに合わせて提供価値を変えながら付き合っていく必要があるというのが、当たり前が変わっていくきっかけになっていると考えています。
尾上:
そうですね。共感しかないです。テクノロジーに関しては、最近よく聞くDXも必須になってきていて、目的に応じた守りのDXと攻めのDXという話があります。守りのDXは業務を効率化させていくこと、攻めのDXはそこから価値をいかに生み出していくかというところが求められます。つまり、企業の基幹のシステムが老朽化してきているので、変わっていかなければいけないけれど、ただシステムを入れ替えるだけではなくてそこからさらに価値を生み出していけるかということです。
お客様の情報を取得して、得られた価値を自分たちのサービスに転換し競争力に生かしていくと。感度の高い企業さんはすでにやられているんですけれども、その他の企業も変わっていかざるを得ない、変わらないと生き残れないようになってきています。
岩熊:
私たちもお客様から、そういった危機感を持っているというお声を頂いています。驚くことに、ソフトウェアメーカーだけではなくて、メーカー、飲食店、あるいは学校のような組織も含めて、これまでのビジネスモデルから脱却したいと強く思われている経営層の方からの声が増えているので、間違いなくトレンドといえますね。
3.新しい“当たり前”
岩熊:
売ってからが勝負の時代がいよいよ来ているな、というふうに感じます。最終的にお客様と離れるまでの期間に得られる収益をライフタイムバリュー(LTV)といいますが、このLTVを最大化することにものすごく集中しなければならない時代といえます。
株式市場、投資においても重要指標が変化しており、上場企業の決算発表でも顧客獲得コストであるCACとLTVを比較して、「このぐらいLTVが上回っているからもっと投資します」と言及する企業が増えています。
新しい当たり前においては、LTVの最大化を実現するための手段として、カスタマーサクセスに取り組んだり、そのレベルを経営レイヤーで上げていくことが収益の源泉になっていくという時代が来ていると思います。
尾上:
結局、システムを納めたり、物を売ったりして終わりということではなくて、その後に得られる価値がいかに大きいのかというところが非常に重要になってきています。
最近ですと、例えばTwitterなどで良い口コミだけでなく、悪い口コミも簡単に書けてしまいますよね。売るまでマーケティング部門が頑張って「こんなに良い物ですよ」と宣伝していたところを、実際のユーザーのリアルな声としてすぐに発信されてしまうので、カスタマーサクセスがちゃんとフォローしていくことが必要ですね。良いお声をお客様が発信してくれれば、そこには嘘がないものだろうと受け取ってもらいやすいので、マーケティングのコストとしても見ることもできるんじゃないかなと感じております。
カスタマーサクセスが担っていく売り上げのボリュームというのは、非常に大きくなっています。つまり売上を上げる部門でもあるし、マーケティングをする部門でもあるということで、複合的な価値を提供するというような考え方になってくると思います。そして、そこがこれからの当たり前として取り組むべきところだと感じます。
BtoCの成功事例
岩熊:
弊社が支援しているカスタマーサクセスの取り組みで高い成果を挙げられている事例として、シャープ様をご紹介します。シャープ様は、ホットクックという調理家電を販売されています。材料をいくつか入れてボタンを押すと全自動で調理ができるものです。ここでの取り組みとしては、ホットクックをたくさん売ることはもちろん大事ですけれども、購入したお客様に製品をきちんと使いこなしてもらったり、よりファンになってもらったりするのを目的として投資されています。
具体的には、ホットクック部というユーザー用コミュニティサイトを弊社のcommmuneで作り運営されています。その中で、ユーザーが自分で作ったレシピを公開できるので、ほかのユーザーやシャープ様からも「いいね」やコメントがついたりして喜んでいただいています。また、そのレシピを見たユーザーもメニューのバリエーションが増えて製品の利用回数が増える、という形で広がっていきます。
定量的な調査を行ったところ、結果として買い替えの時期になってもまたホットクックを選ぶ確率がこれまでよりも有意に上がりました。心理的なロイヤルティが上がったことで、家族や友人にプレゼントとして2台目3台目を買っていただくという、まさにLTV経営にうまくシフトされています。
BtoBの成功事例
尾上:
弊社は特にBtoBビジネスのお客様がメインなんですけれども、自社のサービスをどのように活用して、どれだけ価値が出せているのかというレポートの発行に取り組んでいらっしゃる企業様もいます。
今まで分かりづらかったビジネス的な価値を、そのサービスがどのくらい提供しているのかというのを示すことで、ユーザー企業に「このサービスを使っていて良かった」と感じていただき契約更新につなげるという活動をされている企業様は多いですね。
岩熊:
BtoCですと購買の動機が「好きだから」とか、情理的なロイヤルティなどに基づくことが多いですが、BtoBの場合は合理で意思決定をする必要があるので、いくらファンだとしても投資対効果を証明できないと解約されてしまいますよね。なおさら成果にコミットしないといけないのが難しいポイントです。
尾上:
BtoBの場合は、購入した方と利用する方が同じではないことがあるのも非常に難しい問題です。どういう目的で導入したのかという価値を、利用される方がしっかり理解されていないことで「なんだ、この使いにくいものは」という話が出たり、購入者が別の部署に異動されていくという課題もあります。そのため、いかに価値を分かりやすく提示していくかが取り組むべきことの1つだと思います。
4.カスタマーサクセスを成功に導くポイント
岩熊:
大きく分けて3つあると思っています。
1つ目は、個別最適な顧客体験を設計することです。つまり、これまでのマスマーケティングではなく、お客様ごとにその瞬間のニーズをとらえた手を打つことが大切です。デジタル化が進み詳細なデータが取れるようになってきているので、個々のお客様に合わせたコミュニケーションができる企業と、そうでない企業との差がつきやすくなってきています。
2つ目が、顧客の力を活用するというものです。構造的に、企業側はお客様の声などのコンテンツの発信パワーに勝てないんだとしたら、お客様の声を活用して次のお客様を支援するというサイクルを作っていかないといけません。競合優位性を担保したり持続的な成長を遂げたりするために、次のカスタマーサクセスの段階として取り組まれている企業も増えています。
3つ目がスケーラビリティの担保です。立ち上げてからスケールアップさせていくときは、ゆくゆく事業が伸びていったときにも全てのユーザーに同じ支援を提供できるのかとか、データの取得は今のままで十分なのか、ということを頭に入れながら打ち手を講じていくのが大切です。
尾上:
私は「可視化」「標準化」「効率化」の3つを挙げます。
1つ目に、最初の段階として可視化するというところで、現状のお客様の状態やサブスクの指標となるARR(Annual Recurring Revenue)や解約率などを整理し、スタート地点を明確にします。ゴールを設定しているだけでは、どれぐらい近づいてきたとか、予定より進捗は早いのか遅いのかとか、そういうところが分からず活動の管理ができませんよね。
2つ目は標準化です。カスタマーサクセスやその他の業務も、最初は属人化するんですよね。誰かすごくうまくできる人が頑張って回していたところを、いかに標準化してみんなができるようにしていくか、というのが非常に重要です。そのためにはプロセスを整えたり、ガイドラインを作成したりする活動が必要になってきます。
3つ目は、効率化です。標準化できた作業を自動化したり、いわゆるマーケティングオートメーションなどのツールを活用したりします。この段階で初めて自動化や効率化をすることが、成功のポイントだと考えています。逆に、最初に効率化に取り組んでしまうと、プロセスの無駄や非効率な部分もそのまま自動化されてしまい取り返しがつかなくなることがあります。1、2、3の順番で、しっかりプロセスの無駄を省き最適化した後で効率化していくことをおすすめします。
おわりに
尾上:
弊社は、Growwwingというカスタマーサクセスのサービスを提供しております。本日お伝えしたような内容を経営の方とお話ししたり、また組織づくりのコンサルティングから全体を通してフォローできるようになっております。ぜひご興味お持ちいただけましたらお声がけください。
Growwwing の公式サイトはこちら
https://www.growwwing.jp/
岩熊:
カスタマーサクセスに本気で取り組むことはこれからの時代、企業の収益向上にダイレクトにつながると思っています。カスタマーサクセスに取り組んでいきたいなとか、でもどうすればいいのか分からないなというお悩みを抱えていらっしゃる方は、ぜひ私たちコミューンにご相談を頂きたいと思っております。
commmune の公式サイトはこちら
https://commmune.jp/
ITトレンドEXPO次回もお楽しみに!
当日のセッションでは、登壇者が視聴者の皆さんからの質問にリアルタイムで答えてくれます。ぜひ次回のITトレンドEXPOへのご参加お待ちしております!(参加無料)
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