賃貸管理分野で注目される「不動産テック」とは
不動産分野にIT技術を応用した新しい技術やサービス、技術革新を総称して不動産テックと呼びます。不動産業界で、不動産テックの活躍が顕著な分野は賃貸管理部門です。
この要因として、不動産仲介業を営む中小企業での経営者の高齢化や賃貸管理業務のシステム化の遅れが考えられます。
これらを解決する手段として、データベースによる賃貸情報の一元化やAI・VRなどを活用したサービスの活用が進んでいます。
まず、Webサイトの構築や賃貸情報を活用した顧客管理の一元化を実現するサービスが挙げられます。物件に紐づく全ての情報を一元的に管理し、業務の効率化を提供するサービスです。ほかにも、賃貸サイトへの一括掲載といったサービスを提供する業者もあり、賃貸管理業務を効率化するさまざまなサービスを広範囲にわたり提供しています。
つぎに、AIやビッグデータ、VRなどの技術を活用したサービスも見られます。大手の不動産ポータルサイトに集積された顧客データを分析し、物件ごとの集客プランを提供するのです。また、VRを活用し、住戸ごとの部屋や設備の見せ方にもこだわるサービス手法が注目を集めています。
日本における不動産テック導入の課題
不動産テックを導入するにあたり、日本にはどのような課題が存在するのでしょうか。3つの課題を紹介します。
1.デジタル化の遅れ
株式会社NTTデータ経営研究所の実施した調査によると、不動産業界における不動産テックに対する認知度が5.4%と、その低さが顕著になっています。
しかし、それを知る人が所属する企業の35.8%が不動産テックに取り組んでいるのが明らかになりました。業種別に見ると不動産業界は29.8%、建設業50.0%、製造業38.8%など、不動産テックと関係が薄いと考えられがちな業界での導入が進んでいるのです。
しかし、不動産業界での認知度が低いながらも不動産テック導入の遅れに危機感を感じる企業が増えているのも事実です。危機感を感じると答えた企業は61.1%→69.7%へと増加し、危機感を感じていないと答えた企業は38.9%→30.3%へと減少しています。
この調査結果から見ても、不動産業界のデジタル化の遅れが明らかなのがわかります。
参考:「企業における不動産テックの取り組み動向調査」3社に1社は不動産テック(PropTech)に取り組む実態が判明~ 不動産業よりも他業種のほうが積極的 ~| NTTデータ経営研究所
参考:「第 2 回 企業における不動産テックの取り組み動向調査」 |株式会社NTTデータ経営研究所
2.情報の非対称性
情報の非対称性とは、売り手・買い手のいずれかに情報が偏ることを指します。不動産業界ではこの状態が多く見られ、物件の買い手や借り手である消費者に不利益が生じているのが現状です。
不動産業者は物件を買って・借りて欲しいため、良い情報は消費者に積極的に伝えますが、情報の開示が義務化されていない不利益な情報は伝えようとしません。ほかにも、消費者が不動産情報ネットワークシステムを見れないことも情報の非対称性を生んでいます。
おとり広告など、さまざまな弊害が情報の非対称性により生じています。
3.データベースの整備遅れ
日本は米国と比べてデータベースの整備遅れが課題です。以下は課題とされる項目です。
- ■一般媒介契約物件の登録義務がなく、不動産情報の網羅性に欠ける
- ■性能、リフォーム履歴などの登録項目はあるがインフラに関する項目がなく、登録される項目が少ない
- ■登録必須項目を設けていないため、登録されていない項目が多い
- ■米国は契約後24~48時間以内に専用データベースへの登録を義務化しているのに対し、日本は1~2週間のため情報の鮮度に欠ける
- ■米国はエリアごとにデータベースが存在し、さまざまな関連業者へ不動産情報をリアルタイムで提供しているが、日本にはこのようなデータベースが存在しない
不動産情報を管理するデータベース整備の遅れは情報の非対称に拍車をかけ、消費者にさまざまな不利益をもたらします。
賃貸管理分野における不動産テックのトレンド4選
賃貸管理分野において導入が進む不動産テックのトレンドを4つ見ていきましょう。
1.AIが賃料の適正化や空室改善を提案
AIを活用した不動産テックとして、空室対策があります。契約状況や築年数などの情報を収集・蓄積してAIで分析し、結果を基に住居設備の提案や適切な家賃提案をオーナーへ提案する取り組みです。
ほかにも、ビックデータとAIを活用したサービスも始まっています。不動産会社が保有する物件・周辺情報、家賃推移といった、膨大な情報を活用し、AIでそれらのデータを分析するものです。これらの技術を組み合わせることで、物件購入・契約者に対して適正価格での提案を可能にしたり、50年先の物件査定を行えたりします。
2.パノラマVRで内見業務効率化と物件回転率をUP
パノラマVRコンテンツを物件資料に添付すれば内見業務を効率化できます。
入居者が事前に気になる物件のVR内見を済ませておけば、物件に行く必要はありません。また、実際に内見しないとわからないコンセントの位置や設備情報をVRで提供することで、入居希望者からの問い合わせを減らすことが可能です。
また、退去予定物件の内見は通常であればできませんが、VRはそれを可能にします。退去予定物件をVR化しておくことで、入居状態でも部屋の内見が可能です。退去から契約が決まるまでの期間が短くなり、空室率の軽減が期待できます。
3.IoTでセキュリティ強化し、物件価値向上や内見業務効率化
IoTによる不動産テックはさまざまなメリットをもたらします。
スマートロックの活用により、内見業務の効率化が実現します。スマートフォンがあれば解錠・施錠ができるため、仲介会社との鍵の受け渡しが不要です。ほかにも、入居希望者一人で内見を行うこともできるようになり、スマートロックによる業務効率化の効果は大きいです。
ほかにも、共働き家庭で子どもの見守りに活用されるなど、防犯へのメリットも期待できます。入居者の生活の質を向上させるIoTは、物件価値をも向上させることが可能です。
4.ブロックチェーン導入で賃貸取引をまるごとスマート化
ブロックチェーンによる不動産テックを実現すると、物件案内から契約、契約の更新に至るまでの業務を最適化できます。なお、ブロックチェーンとは暗号化したデータをチェーンのようにつないでネットワーク上で分散管理する仕組みのことです。
最適化できる業務は以下のとおりです。
- 物件の契約業務
- 仲介会社不要で物件の契約が実現します。貸し手・借り手間で契約でき、双方のコスト削減が可能です。
- 内見業務
- ブロックチェーンにより物件・個人情報を安全に管理できるだけでなく、IoTを組み合わせることも可能になります。人を必要としない、安全な内見を実現します。
- 各種業務
- ブロックチェーンはその性質によりデータが改ざんされるおそれはほとんどありません。そのため、ブロックチェーンを使ったスマートコントラクトにより、契約・履行・決裁が仲介者を介することなく、プログラムで安全に自動的に執行されます。この結果、賃貸取引に関わる不正防止や、決済期間・コストの削減を実現します。
不動産テックを導入して賃貸管理業務の改善を図ろう
賃貸管理分野で期待される不動産テックには、情報の活用・AIやIoT、ビッグデータを活用するサービスなどが挙げられます。
以下のような、長年に渡る不動産業界の課題も不動産テックで解決に向かうことが期待されています。
- ■デジタル化の遅れ
- ■情報の非対称性
- ■データベース整備の遅れ
不動産テックを導入する企業も増えつつあります。ぜひ、不動産テックを導入して賃貸管理業務の業務効率化を実現させましょう。