災害発生時の出勤ルールは「安全配慮義務」を考慮する
企業には、従業員の安全を確保する「安全配慮義務」があります。そのため自然災害などの非常時には、企業が従業員の安全に配慮したうえで、出勤・退勤すべきかどうかを判断しなければなりません。
ただし、法が定めた明確な判断基準はないため、企業独自にルールを策定します。災害発生時の出勤・退勤ルールをはじめ、給与の取り扱いや有給休暇の取得などについて、就業規則や災害対応マニュアルなどに明記することが大切です。安全への配慮とともに、従業員それぞれが適切かつ迅速に行動するための明確なルールづくりを行いましょう。
災害発生時の出勤判断基準
災害が発生している、または台風接近などが予測されうる段階で、どのように判断して「出勤」「帰宅」「自宅待機」などの指示を出したらよいのでしょうか。
出勤の基準:業務の重要度で判断する
災害発生時に従業員を出勤させるのは非常に危険な行為です。そのため出勤基準は、「その日に出社して対応にあたることが不可欠な業務」に限定します。例えば以下のような業務が該当します。
- その日に出社して対応にあたることが不可欠な業務
- ●延期することで企業が大きな損害を受ける可能性のある業務(期日を延ばせない商品の納品や、非常に重要な商談など)
- ●迅速な対応が求められる災害対策業務
災害時の出勤ルールには、上記のような出社指示対象者が担う業務内容を明示します。そして、災害発生時に従業員が迷わず行動できるように、日頃から周知しておくことが重要です。
なお出勤を指示した場合には、帰宅ができなくなったときに備えて、宿泊設備や食料などの備蓄品を企業側が準備します。このような帰宅困難者対策も、出勤ルールの策定と同時に対策を講じておきましょう。
帰宅・自宅待機の基準:従業員の危険度で判断する
災害の発生状況や予想状況による従業員の危険度に応じて、帰宅や自宅待機の判断を行いましょう。災害の予想状況は、鉄道会社やバス会社などの公共交通機関の運行情報や、気象庁の「警報級の可能性」をもとに判断する場合が多いでしょう。
- ■公共交通機関
- 台風や豪雨などの自然災害が予測されるとき、各公共交通機関の公式サイトに翌日の運行予定が掲載される。
- ■気象庁の警報級の可能性
- 警報級の現象が5日先までに予想されるとき、災害の可能性を「高」「中」の2段階で発表する。
なお、万が一従業員が出社途中に死傷した場合、企業は労働契約法第5条「安全配慮義務違反」に問われることも忘れてはなりません。治療費や通院交通費・慰謝料などの損害賠償請求に応じる必要があるため、災害状況や従業員の危険度を加味した適切な判断が求められます。
また従業員は企業からの出勤命令(出社命令)に対して、災害発生時などで危険が想定されるときには、出勤命令に従わなくてもよいという最高裁の判決が出ています。つまり、従業員は自身の安全と健康を守る権利があり、災害発生時において企業の出社命令(出勤命令)を拒否できるのです。
災害発生にともなうさまざまなリスクを考慮し、予想される災害に応じて「時差出勤・帰宅・自宅待機・在宅勤務」など指示の出し方の基準を事前に作っておきましょう。
参考:労働契約法 | e-Gov法令検索
参考:裁判例結果詳細 | 裁判所 - Courts in Japan
災害発生に対して事前に備えておくべきこと
災害発生を見越して、事前にどのような準備をすればよいのでしょうか。マニュアルの策定や在宅勤務の導入などについて紹介します。
災害対応マニュアルを作成し周知しておく
災害時の出勤判断ができないのは、「そもそもルールがない」「ルールがあっても従業員に周知していない」のが原因です。
そのため、事前に防災対応マニュアルや初動対応マニュアル、BCP(事業継続計画)を作成し、従業員に災害発生時の行動基準を周知することが重要です。組織としての出勤判断や事業継続判断が早くなり、従業員も自主的に行動しやすくなるでしょう。
- ■防災対応マニュアル
- 「人命が何より優先されること」「事業所や避難所にいる人への配慮を忘れないこと」を明記する。
- ■初動対応マニュアル
- 防災対応(救助活動、避難計画など)、インフラ構築(帰宅支援、宿泊支援など)、情報収集(災害情報、安否確認など)、意思決定(対策本部設置など)など、人命に直結する内容を記載する。
- ■BCP(事業継続計画)
- 企業の事業に優先順位を付け、災害時の出社指示対応業務を記載する。
命にかかわる情報が多いので、災害時の出勤についてのルールも含め、必要なことはすべて網羅しましょう。いずれも、簡潔にわかりやすく書くことが大切です。
災害時の補償や有給休暇についてのルールを明確にしておく
会社都合での休みには、労働基準法第8章により補償義務があります。使用者は労働者に対し、平均賃金の6割以上の休業手当を支給しなければなりません。よって、災害時でも影響が少なく従業員が出社できる状態であるにもかかわらず、会社判断で自宅待機を命じた場合は、補償義務を履行する必要があります。
反対に会社都合でない休みの場合は、補償義務はありません。仮に災害の影響で会社に行けなくなった従業員がいても、休業手当の支給は不要です。そのため、有給休暇の取得を奨励する企業が多いようです。
また、復旧や保守などの対応が早急に求められるものの、勤務時間内では復旧できず、時間外労働や休日労働をしなくては対応が追いつかないケースも考えられるでしょう。このように、事業災害対応出勤する明確な理由がある場合には、労働基準法第33条により企業が従業員に時間外労働を課すことが可能です。ただし、適用範囲や条件は細かく定められているので、規定をよく理解したうえで活用することが大切です。
参考:労働基準法第33条(災害時の時間外労働等)について|厚生労働省
参考:労働基準法 | e-Gov法令検索
在宅勤務の導入を検討しておく
在宅勤務やテレワークを導入していれば、自然災害の発生が予測されても通常通りに業務を行えます。ただし、突然在宅勤務に移行しても失敗するケースが多いため、ルールや業務環境を整備し、普段から部分的にでも実践しておくことが大切です。災害発生時にもスムーズに業務移行できるよう準備を整えておきましょう。
在宅勤務は、育児や介護などのワークライフバランスの強化にもつながります。在宅勤務の導入によってペーパーレス化やクラウド化が推進されると業務効率化にもつながるため、通常時でも利便性は高いでしょう。
情報の伝達方法を明確にしておく
災害発生時には、出勤するのか在宅勤務へ切り替えるのかといった対応を従業員へ迅速に伝える必要があります。そのためには、情報の伝達方法を明確にし、初動マニュアルにもわかりやすく記載しておくことが重要です。伝達方法は電話やメール、SMSなどの活用が考えられますが、情報の正確性や迅速性を加味すると、電子メールによる一斉連絡が好ましいでしょう。同時に多数の従業員へ連絡でき、文章によって正確な情報を伝えられるためです。
なお初動対応マニュアルには、「災害発生時の伝達方法」のほか、「災害情報を収集する担当者」「情報を整理する方法」「対策本部の設置」「意思決定する担当者」も記載します。災害情報を正確に把握しなければ、出勤判断や事業に関する的確な意思決定は不可能です。情報収集の方法や担当者についても初動対応マニュアルに記載することで、意思決定する側も指示を受ける側も、適切な対応が取れるでしょう。
災害発生時の指示出しを効率化する方法
災害発生時の出勤や自宅待機などの指示出しを効率化するには、安否確認システムがおすすめです。
安否確認システムは、災害時の安否確認専用に構築されたツールです。「一斉メール送信」「自動メール送信」「安否データのリアルタイム集計」が可能なため、災害発生時の指示出しを効率化できます。具体的なメリットは、以下のとおりです。
- ■一斉メール送信機能により、従業員全員に一括で送信できる。電話などの従来の連絡網に比べ、迅速かつ確実である。
- ■自動メール送信機能により、防災管理者の不在時や夜間・休日などにかかわらず、いつでも災害対応できる。
- ■安否確認メールの回答をリアルタイムで集計できるので、状況把握が瞬時に可能。事業の継続・再開の可否判断を早期に行える。
上記で紹介したのは機能の一部です。安否確認システムについてより詳しく知りたい方は、以下の記事をご覧ください。
災害発生時の出勤判断を適切に行おう
災害発生時の出勤判断は、災害時の職場環境や出勤ルールによって決まります。判断を早めるには、「災害対応マニュアルの作成・周知」「補償や有給休暇のルールの明確化」「在宅勤務の導入」「情報伝達方法の明確化」の事前準備を徹底しましょう。
また、災害発生時に従業員へ速やかに指示出しを行うには、安否確認システムの導入が有効です。従業員の安否情報の収集も可能なため、災害時に事業を継続・再開できるかの判断を迅速化し、企業に生じる被害を最小限に留められます。さっそく資料請求を行い、いつ起こるかわからない災害に備えましょう。