企業におけるハザードマップの活用方法
企業におけて、ハザードマップはどのように活用したらよいのでしょうか。ここでは、ぜひ活用してほしい3つの方法を紹介します。
会社のある地域を確認し避難経路を設定する
まずハザードマップで会社のある地域を確認し、その後、実際に歩いて避難場所・避難所までの避難経路を確認します。日常的に使用している通路が使えなくなる可能性も踏まえ、複数の避難経路を用意するのがおすすめです。
また、従業員それぞれに、自宅までの避難経路を確認させることも大切です。災害発生時に慌てないように、普段から定期的に歩いて、障害物の有無や周辺の状況を把握しましょう。
災害が想定される地域の場合は事前準備を進める
災害(特に水害)が想定される地域の場合は、予想浸水深に応じた事前対策を進めます。具体的なやり方は、以下のとおりです。
まずは、浸水防止設備を設置して浸水を防ぎます。必要な場所に「土のう」や「水のう」を運んで設置したり、出入口に脱着式の止水版を取り付けたり、開閉式の防水扉を取り付けたりするのが一般的です。
地下施設は、数cmの浸水深でも水没するので、機械や電子機器は置けません。地下施設を守るには、「敷地の防水化」「開口部の防水化」「重要設備の防水化」などの対策がおすすめです。どの方法にするかは、現地調査で「実現の可能性」や「発生頻度、浸水リスク」などを明らかにしたうえで、総合的に判断しましょう。
なお、耐震対策としては、「基礎・土台・床の補強」「部材の接合・交換」「耐力壁の設置」などが考えられます。老朽化などで少しでも怪しいところがある場合は、すぐに補強しましょう。
新拠点を設置する場合は災害の少ない地域を選定する
ハザードマップを活用すれば、災害リスクを把握したうえで、災害の少ない新拠点を選定できます。
新拠点を見つける際は、経営活動における利便性も考慮しましょう。いくら災害に強い地域でも、物流が悪く高コストだと、事業活動を継続できません。
経営を重視するなら、災害リスクだけではなく、経営を有利にする視点も持つべきです。仮に地盤の強度に不安がある場合でも、盛土などで土台を補強できます。
ハザードマップを活用している企業の事例
次に、防災対策の一環として、実際にハザードマップを活用している企業の具体事例を見てみましょう。
事例1.有限会社池ちゃん家・ドリームケア(介護施設)
静岡県で17の介護施設を運営する有限会社池ちゃん家・ドリームケアでは、東海地震による被害を想定し、設立当初より地震災害を念頭に置いた防災体制を構築してきました。しかし、東日本大震災での津波被害を見た結果、自社の防災体制に不安を感じ、事業継続計画(BCP)に関するセミナーへ参加することにしました。
セミナー出席後、ハザードマップで津波の浸水想定地区を把握したところ、災害発生時における利用者の安全が確保されないことが判明。一部の事業所を、津波の浸水想定地区外に移転しました。これによりコストはかかったものの、災害発生時の安全が確保されたことで、施設の信頼性が向上したそうです。また、ハザードマップを活用したことで企業全体の防災意識も高まり、備蓄・非常用電源の確保や、定期的な防災訓練の実施につながっています。
参考:第2章防災・減災対策|中小企業庁
事例2.有限会社岩間東華堂(薬局)
有限会社岩間東華堂は、茨城県で300年以上続く老舗薬局を営んでいます。2011年の東日本大震災時、岩間東華堂薬局では医薬品や商品などが散乱し、ガラス製の薬瓶が破損。薬剤の臭いが充満し、店の奥の倉庫も倒壊するなど甚大な被害を受けました。
ライフラインの早期復旧により、発災後3日目には業務を再開しましたが、体調を崩した高齢者や小さな子を抱えた母親などが店に駆け込んでくる姿を見て、「医薬品や医療機器を取り扱う薬局は、災害時も事業を維持できる体制を整える必要がある」と実感したといいます。
その後、体制整備のためにBCPを策定し、店内のレイアウトの見直しや緊急時における近隣の医療機関・薬局との連携体制を構築しました。BCPにはハザードマップを添付していたことから、2015年9月に発生した茨城県内の大雨では、ハザードマップをもとに薬局周辺の安全を確認し、状況が悪化する前に従業員を帰宅させるなどに役立ったといいます。
参考:第2章防災・減災対策|中小企業庁
事例3.鹿島建設株式会社(建設業)
大手総合建設会社の鹿島建設株式会社では、災害発⽣時に同社拠点や周辺地域に想定される被害の範囲や程度を、社員が簡易に確認できるオンラインハザードマップを構築しました。国や自治体などが公開している各種災害ハザードの地図情報に、同社拠点の位置情報を重ねて表示。主に想定地震の震度や津波、液状化の予測結果、台風などの大雨による土砂災害の危険個所、洪水による浸水想定区域といった情報を確認できます。
オンラインハザードマップは、日頃の防災対策の一助であり、新たな現場事務所の開設時における災害危険度の確認としても大いに役立っています。震災訓練時には、オンラインハザードマップを改めて周知するとともに、避難計画の再確認を行うなどの防災対策を実施しています。
参考:社員が情報収集 被害可能性箇所を確認できるオンラインハザードマップ|内閣官房
事例4.株式会社オリエンタルコンサルタンツ(総合建設コンサルタント)
大手建設コンサルタント会社の株式会社オリエンタルコンサルタンツでは、都市や地域の防災事業を推進しています。同社が携わった事例の1つに、平成25年10月に東京都大島町で発生した土石流災害があります。
このとき大島町では、台風26号の豪雨にともなう土石流災害によって深刻な被害を受けました。同町は高齢化率が40%を超え、災害防止に向けて的確な避難行動を実践することが課題でした。そこで、住民・地域組織・行政などの関係機関でバランスよく「自助・共助・公助」の効果を発現させるため、同社は土砂災害ハザードマップと土砂災害避難行動計画の作成を行いました。
土砂災害ハザードマップは、大島島内の12地区ごとに内容の説明会を開催したのち、全世帯に配布。あわせて、観光客も被災する可能性があるため、観光客が立ち寄る宿泊施設・観光施設・空港や港湾施設などにも貼付し、町全体での防災意識の向上を図りました。
参考:土砂災害ハザードマップと土砂災害避難行動計画の作成|内閣官房
ここまで、ハザードマップの活用方法や具体事例を紹介してきましたが、そもそもハザードマップとはどのようなものなのでしょうか。続いて、ハザードマップの入手方法や見方などの概要について解説します。
ハザードマップとは
ハザードマップとは、地震・津波・高潮・大雨などの自然災害による被害範囲を予測した地図です。災害に伴う被害を最小にするために作成されます。
想定される被害は、以下の8種類です。このなかから発生する可能性の高いものだけを、各自治体がそれぞれの手法で作成しています。
自治体や国土交通省のホームページで入手可能
ハザードマップは、自治体や国土交通省のホームページで入手できます。「住所や郵便番号で検索」もしくは「任意の場所をクリック」するだけで入手可能です。国土交通省のポータルサイトは、各自治体の公表しているハザードマップをまとめて検索できるようにしたものです。
なおハザードマップは、一度確認してもその後最新の情報に更新されることもあるため、定期的な確認をおすすめします。2018年には、実際に都内5区のハザードマップが統合されています。
ハザードマップの見方
ハザードマップを使うと、災害時の被害状況を一目で把握可能です。自治体によって名称は異なる場合もありますが、ここでは主な6つのハザードマップの見方や概要を解説します。
浸水予想区域図
浸水予想区域図は、大雨による水害を想定し、川の流域地図に浸水範囲や浸水の深さを表示したものです。想定被害の大きさ順に、地域を色で塗りわけています(黄→緑→青→濃い青)。
川を管轄する国や都道府県が作成しており、例えば東京都の場合、都が管理するすべての河川流域の浸水予測区域図を、東京都水道局が作成・公表しています。
洪水ハザードマップ
洪水ハザードマップは、市町村地図に浸水範囲や浸水の深さ、避難先などを表示したものです。浸水予想区域図を参考に、市町村が作成します。
地図の欄外には、洪水発生時にとるべき避難行動など、実際の災害時に役立つ情報が掲載されています。例えば、避難時の安全な服装や避難する前に確認すべきこと、市町村が発令する5段階の警戒レベルと各レベルにおける避難情報や避難行動などです。
土砂災害ハザードマップ
土砂災害ハザードマップは、各都道府県が指定した土砂災害警戒区域および特別警戒区域と避難所を、市町村地図に表示したものです。災害時の情報伝達手段や避難行動なども掲載されています。
土石流・地すべり・がけ崩れ・火山災害などの土砂災害が発生したら、一刻も早く危険な区域から離れることが重要です。土砂災害ハザードマップで事前に危険区域や避難所の位置を確認し、最短で区域外に出るための安全な避難経路を見つけておきましょう。
津波・高潮ハザードマップ
津波・高潮ハザードマップは、津波・高潮による被害が想定される区域と、その程度を市町村地図に表示したものです。湾岸部や海岸付近に隣接している市町村で、主に作成されています。
浸水想定区域とその程度のほか、最寄りにある「津波避難ビル」などの避難場所や避難経路といった防災関連情報も、記載されている場合が多いでしょう。
地震ハザードマップ
地震ハザードマップは、地盤や断層の状態から地震の発生地点や被害範囲を判断し、市町村地図に表示したものです。地震による揺れの強さや、揺れによって引き起こされる建物倒壊・液状化・大規模火災発生の危険度なども記載されています。
広い公園などの広域避難場所も記載されていますが、二次災害などによって最寄りの避難場所が被害を受ける可能性もあります。そのため、複数の避難場所と避難経路を確認しておくことが大切です。
防災マップ
防災マップは、主に避難場所を表示した地図で、一般的なハザードマップのように災害種別を問いません。自治体によっては、ハザードマップと防災マップを統合して作成している場合もあります。防災マップには、主に以下の4つの場所が記載されています。
- ■一時避難場所
- 一時的に使える避難場所。
- ■広域避難場所
- 一時、避難場所より安全。被害が大きくなる場合に移動する。
- ■避難所
- 食料や救援物資が配られる場所。
- ■二次避難所
- 高齢者・障がい者・妊婦・子供などの要援護者が、医療や介護が受けられる場所。
ハザードマップを活用して企業の防災活動を推進しよう
ハザードマップは、災害による被害の予測範囲を地図にしたものです。会社の位置と照らし合わせることで、災害発生時の被害状況を推測できます。自治体や国土交通省のホームページで入手可能なので、ぜひ活用してください。
また実際に災害が発生した際には、企業は速やかに従業員の安否確認を行うことが大切です。そのためには、企業での安否確認を目的に構築された「安否確認システム」の導入がおすすめです。緊急時にも、従業員の安否状況を迅速かつ正確に確認・把握できます。
ハザードマップとともに、安否確認システムの活用もぜひ導検討してみてはいかがでしょうか。興味のある方は、以下の記事をご覧ください。