サクセッションプランとは経営を担う人材の育成計画
まずは言葉の意味と対象範囲を整理します。似た言葉が多い分野のため、後継者育成計画や事業承継との関係を押さえておくと、社内で議論する際の認識のずれを防げます。あわせて、多くの企業が取り組みを急いでいる背景も確認しましょう。
サクセッションプランが指すものと対象になるポスト
サクセッションプラン(succession plan)とは、経営者や事業部長といった組織の中核を担うポストについて、将来その役割を引き継ぐ候補者をあらかじめ定め、計画的に育てていく仕組みを指します。席が空いてから急いで人を探す採用活動とは異なり、数年単位の時間をかけて候補者を選び、必要な経験を積ませ、準備が整った状態で引き継ぐ点に大きな特徴があります。
対象は社長やCEO(経営の最終責任を負う役職)だけではありません。事業部門の責任者、工場長、研究開発の中核ポジション、海外拠点の代表など、その人が抜けると事業が滞る重要ポストが広く含まれます。まずは自社にとってどのポストが該当するのかを洗い出し、優先順位を付けるところから始めると、計画の輪郭が見えてきます。
後継者育成計画や事業承継との違いを整理する
日本語では「後継者育成計画」や「後継者計画」と訳され、これらはほぼ同じ意味で使われます。ただし後継者育成という言葉は、特定の一人を指名して鍛えるという文脈で使われる場合があります。サクセッションプランは、複数の候補者を人材プールとして管理し、要件定義から評価・見直しまでを一連の仕組みとして回す点に重心があると理解すると分かりやすいでしょう。
事業承継との違いも押さえておきたいところです。事業承継は、株式や事業用資産といった財産の引き継ぎを含む概念で、親族内での承継や社外への譲渡なども選択肢に入ります。一方でサクセッションプランが扱うのは、経営を担う人の能力と経験の引き継ぎです。オーナー企業では両者が重なる場面もありますが、検討すべき論点は異なります。
サクセッションプランへの関心が高まっている背景
背景の一つが、コーポレートガバナンス強化の流れです。東京証券取引所のコーポレートガバナンス・コード(2026年7月改訂版)の原則4-3では、取締役会がCEOの後継者計画の策定・運用に主体的に関与し、後継者候補の育成と資質を備えたCEOの選任が十分な時間と資源をかけて計画的に行われるよう監督すべきだと示されています。適用対象の上場企業は、実施しない場合に理由の説明を求められます。
もう一つは人材市場の変化です。管理職層を担う年代の人数が限られる企業もあり、人材の流動性が高まるなかで、有力な候補者の突然の退職も想定しなければなりません。人的資本の情報開示への関心が広がり、育成の状況を社内外へ説明できる形で残す必要性も高まっています。
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サクセッションプランに取り組む3つのメリット
サクセッションプランに取り組むことで、重要ポストの後継者不足に備えられるだけでなく、候補者の育成や人材情報の可視化にもつながります。ここでは、代表的な3つのメリットを紹介します。
経営の空白を防ぎ事業の継続性を高められる
最大のメリットは、経営者や事業責任者などの重要ポストが突然空いた場合でも、速やかに後継者を配置しやすくなることです。あらかじめ候補者を選定・育成しておけば、意思決定の停滞を最小限に抑え、事業の継続性を確保できます。
また、後継者に求める人材要件や選抜基準を明確にすることで、特定の経営者や上司の判断だけに依存した選任を防げます。後継者選びの根拠を明確にできるため、取締役会や従業員に対する説明もしやすくなります。
候補者のキャリアパスが明確になり成長を促せる
後継者候補として求められる役割やスキル、経験を明確にすることで、候補者自身が将来のキャリアを具体的に描きやすくなります。どのポストを目指し、そのために何を身につける必要があるのかがわかれば、日々の業務や研修にも目的意識をもって取り組めます。
さらに、将来の活躍機会や成長の道筋を示すことは、従業員のモチベーション向上や定着にもつながります。特に次世代の経営人材や管理職候補を計画的に育成したい企業にとって、有効な人材育成施策といえるでしょう。
人材情報を可視化し適材適所の配置に活かせる
サクセッションプランを策定する過程では、候補者の経歴やスキル、評価、異動履歴などの人材情報を整理する必要があります。その結果、部門ごとに分散していた情報が可視化され、組織全体でどのような人材がいるのかを把握しやすくなります。
蓄積した人材情報は、後継者の選抜だけでなく、配置転換や抜てき、育成計画の検討にも活用できます。サクセッションプランをきっかけに人材データを整備することで、より戦略的な人材配置や人材育成につなげられます。
サクセッションプランの策定手順を5ステップで解説
策定の流れは、大きく5つのステップに分けて考えると進めやすくなります。ここでは、人材要件の定義から候補者の把握、育成計画の実行、そして評価と見直しまでを、実務で迷いやすい点を補いながら順に見ていきます。
ステップ1・2:人材要件の定義と候補者の洗い出し
最初に行うのは、対象ポストの選定と人材要件の定義です。そのポストが担う責任、意思決定の範囲、必要な知識や行動特性を具体的な言葉に落とし込みます。現任者の経歴をそのまま写すのではなく、これから数年先に自社が向かう事業戦略から逆算して要件を描くことが重要です。
要件が固まったら、社内から候補者を洗い出します。評価データや異動履歴、上司からの推薦などを組み合わせ、幅広く候補を挙げるのが基本です。この段階で人数を絞り込みすぎると、候補者の離脱に対応できません。次世代リーダーの母集団として、対象ポスト1つに対し複数名を確保しておく考え方があります。
ステップ3:育成計画を設計し実際の仕事で経験を積ませる
候補者ごとに、現在の状態と要件との差を明らかにし、その差を埋める育成計画を設計します。人材開発の分野では、能力の成長に最も影響するのは実際の仕事経験であり、上司や先輩からの助言、研修がそれに続くという考え方が知られています。研修だけで経営人材を育てるのは難しいという前提に立つことが大切です。
そこで重視されるのが、意図的に難易度の高い役割を任せる配置です。赤字事業の立て直し、新規領域の立ち上げ、規模の異なる拠点の運営など、これまでと質の違う課題に取り組ませます。あわせて、経営層が対話の相手役を務めたり、外部研修や社外での役員経験を組み合わせたりすることで、視野を広げる機会をつくります。
ステップ4・5:進捗の評価と計画そのものの見直し
育成は任せて終わりではありません。半期や年次といった区切りで、候補者がどの要件をどこまで満たしたのかを確認します。経営層と人事が集まって候補者一人ひとりの状況を議論する会議体を設け、次の配置や不足している経験を決めていくと、計画が実際の人事に結び付きます。
最後のステップが、計画そのものの見直しです。事業戦略が変われば求める人材要件も変わり、候補者の意向や家庭の事情によって前提が崩れることもあります。要件、候補者名簿、育成の中身を定期的に更新し、退任時期から逆算した準備状況を確認する運用にしておけば、計画が形だけの文書になるのを防げます。
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次世代リーダーの選抜方法と候補者の見極め方
サクセッションプランで最も悩ましいのが、誰を候補に選ぶかという判断です。ここでは、将来性の高い人材をどう捉えるか、どのような選抜手法があるか、そして判断の偏りをどう抑えるかを解説します。
ハイポテンシャル人材をどう捉えるか
ハイポテンシャル人材とは、現時点の成果だけでなく、将来より大きな責任を担える見込みが高いと判断される人材を指します。注意したいのは、現在の業績が高いことと、将来の伸びしろが大きいことは必ずしも一致しない点です。担当業務で優秀な成果を出す人が、そのまま経営を担えるとは限りません。
見極めの観点としては、経験したことのない状況でも学びながら成果を出せる力、周囲を巻き込む影響力、自社の枠を超えて物事を考える視野の広さなどが挙げられます。実務では、業績とポテンシャルの2軸で人材を9つの区分に分けて整理する手法が広く使われており、議論の共通言語として役立ちます。
選抜に使われる代表的な方法と組み合わせ方
選抜方法は一つに頼らず、複数を組み合わせるのが基本です。上司による推薦は現場での働きぶりを把握できる一方、上司の視野に判断が左右されます。そこに、周囲の複数の関係者から行動を評価してもらう多面評価や、模擬的な経営課題に取り組ませて行動を観察する演習型の評価を加えると、見える範囲が広がります。
さらに、候補者本人との面談で、どのポストを目指したいのか、転居や職種転換をどこまで受け入れられるのかといった意向を確認しておきます。会社側の期待と本人の希望がずれたまま計画を進めると、決定的な場面で辞退される恐れがあります。評価結果と本人の意向を突き合わせ、候補者名簿を更新していきましょう。
運用でつまずく原因と定着させるためのポイント
計画を作ったものの動かないという声は少なくありません。よくあるつまずきの原因は、候補者の心情への配慮不足と、情報が散らばったまま運用が属人化することにあります。それぞれの対策を確認します。
候補者のモチベーションと選ばれなかった人への配慮
候補者に選ばれたことを本人へ伝えるかどうかは、判断が分かれる論点です。伝えれば期待が明確になり努力を引き出しやすくなりますが、途中で外れた場合に落胆や退職を招く恐れもあります。対象ポストを断定せずに、成長機会を提供する選抜プログラムとして伝える運用を採る企業もあります。
同時に、選ばれなかった従業員への目配りも欠かせません。特定の層だけが優遇されていると受け取られると、組織全体の意欲が下がります。専門職としての道など複数のキャリアパスを用意し、選抜の基準と再挑戦の機会を公開しておくことで、公平感を保ちながら制度を運用できます。
人材情報を一元化し継続して回せる状態にする
もう一つのつまずきが、情報管理です。経歴、評価、研修の受講履歴、面談での意向などが部門ごとの表計算ファイルに分散していると、候補者の状況を把握するだけで時間がかかります。担当者の異動をきっかけに運用が止まってしまう例も見られ、継続性を確保する仕組みが必要です。
そこで有効なのが、人材情報を一つの基盤に集約し、要件との差や配置の履歴をいつでも参照できる状態にすることです。タレントマネジメントシステムを使えば、候補者名簿の管理や人材の分類、面談記録の蓄積までを同じ場所で扱えます。まずは自社の運用に必要な機能を整理し、比較検討するとよいでしょう。
後継者候補の管理に役立つシステム
ここでは、候補者の情報と育成の状況を一つの基盤で扱える、後継者管理の機能に対応したタレントマネジメントシステムを取り上げます。
カオナビ
- タレントマネジメントシステム「シェアNo.1」
- 人事・労務業務の効率化から戦略人事の実現まで
- 直感的に使えるUIで人事から現場まで定着
株式会社カオナビが提供する「カオナビ」は、顔写真を起点に社員情報を一元管理するタレントマネジメントシステムです。人材データベースや社員リスト、組織ツリー図、配置バランス図によって人材の状況を可視化でき、スキル管理や評価ワークフロー、1on1・面談記録の蓄積にも対応しています。後継者管理の機能を備えており、候補者の情報と育成の状況を同じ基盤で扱えます。社員アンケートやダッシュボードによる分析にも対応しています。
タレントパレット
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HiTalent (ハイタレント株式会社)
- 高度専門人材が多数登録しています。
- 個人の選択肢と可能性を広げ、次代を創るハイタレント集団
- 審査・招待制の優秀なコミュニティ運営
アッテル (株式会社アッテル)
- 適性検査・サーベイ・人事データ統合で早期退職を予測
- 感覚人事から脱却し、採用力を強化する仕組みを構築
- 10万人超のデータとAI分析で活躍人材の傾向を可視化
まとめ
サクセッションプランは、重要ポストの後継者を計画的に育て、経営の空白を防ぐための仕組みです。事業戦略から人材要件を定義し、候補者を複数名の母集団として洗い出し、実際の仕事を通じて経験を積ませ、定期的に評価と見直しを行うという流れが基本になります。選抜では現在の業績だけで判断せず、将来の伸びしろと本人の意向を丁寧に確認することが欠かせません。人材情報を一元的に管理できる環境を整え、計画を継続して回せる状態を目指しましょう。

