中小企業生産性革命推進事業とは
従来、中小企業は、匠の技やこだわりといった、生産性とは異なる要素で企業の競争力に磨きをかけ、大企業に対抗していきました。しかし、近年では、人手不足が深刻化し、中小企業も生産性向上と無関係ではいられなくなってきました。こうした中小企業を巡る環境を考慮に入れて、国が主導しているのが中小企業生産性革命推進事業なのです。
参考:中小企業生産性革命推進事業|中小企業庁
事業の目的
中小企業は、人手不足という構造的な問題に加えて、働き方改革にも対応する必要が出てきました。中小企業が持続的な成長を果たすためには、生産性の向上が欠かせなくなってきているのです。
しかし、生産性の向上を実現するためには、ときに設備投資やITツールの導入、販路拡大など、費用負担の増加を伴います。このような実情に対し、中小企業生産性革命推進事業では、中小企業に対する資金面の補助や広報活動、ハンズオン支援など、さまざまな支援を一体的かつ機動的に実施しています。
なかでも、中小企業生産性革命推進事業では、以下の3つの補助金制度の運用が主力事業と考えてよいでしょう。
- ・ものづくり補助金(ものづくり・商業・サービス生産性向上促進事業)
- ・持続化補助金(小規模事業者持続的発展支援事業)
- ・IT導入補助金(サービス等生産性向上IT導入支援事業)
補助金制度の成果目標
中小企業生産性革命推進事業では、国が具体的な成果目標を掲げています。このため、中小企業生産性革命推進事業の補助金制度を使う場合は、成果目標を考慮に入れて経営計画を作成しなければなりません。特に、労働生産性や付加価値額の増加率の設定値は、各補助金を使う場合に押さえておいたほうが良いでしょう。
補助金の予算額の動向
令和元年度実施の中小企業生産性革命推進事業の予算額は、1,100億円でした。令和2年度では、3年間の予算として3,600億円が予算計上されています。予算額は、令和元年度と比較して微増と考えてよいでしょう。3年分が一括予算計上されていることから、国は、中長期的に中小企業の生産性向上に取り組む姿勢を見せたといえそうです。
なお、中小企業生産性革命推進事業では、ものづくり補助金、IT導入補助金、持続化補助金という3つの補助金に対し、一体的に予算化されています。このため、それぞれの補助金にどの程度の予算が配分されるか分かりません。しかし、補助額の大きいものづくり補助金に、多くの予算が回されるとみてよいでしょう。
各補助金の2020年の動向
3つの補助金が一体的に運営される中小企業生産性革命推進事業ですが、それぞれの補助金の動向も明らかになってきました。令和元年度とは異なる部分もあるようです。それでは、現時点で明らかになっている補助金の内容について確認しておきましょう。
ものづくり補助金
新製品・サービス開発や生産プロセス改善等のための設備投資について、補助金を受けることができます。補助上限額は、原則1,000万円で補助率は1/2(条件を満たせば2/3)となっています。今までにはない要件として、給与支給額1.5%(従来は1.0%)や、地域最低賃金+30円といった賃上げ要因が強く打ち出されていることが特徴であるといえるでしょう。
グローバル展開型やビジネスモデル支援型といった、複数の新しいメニューが加えられており、場合によっては1,000万円以上の補助金を受け取ることができるようになっています。3月にも公募が開始される予定となっており、すでにカウントダウンが開始されている補助金であるといえるでしょう。
IT導入補助金
業務自動化や働き方改革の実現は、ITツールの導入なくして難しいといえます。IT導入補助金は、中小企業のITツール導入を資金面から補助することを目的とした補助金です。補助額は30万円から450万円、補助率は1/2となっています。
令和元年度までとは異なり、「給与支給総額が年率平均1.5%以上向上」、「事業場内最低賃金が地域別最低賃金+30円以上」という新たな要件が加わりました。ITツールを導入したい中小企業であれば、是非とも利用したい制度であるといえるでしょう。
持続化補助金
従業員数5名以下(業種によって異なる)の小規模事業者を対象とした補助金で、ホームページ作成や、看板作成、チラシ作成といったプロモーション費用を補助することを目的としています。補助上限額は50万円、補助率は2/3と、補助額は大きくはないのですが、気軽に使える補助金として小規模事業者が注目している補助金です。
商工会・商工会議所の指導員と、協力しながら経営計画を作成する必要があることも、本補助金の大きな特徴となっています。
補助金の採択を受けるために今からできること
補助金は、申請をすれば誰でも採択を受けて補助を受けることができるというものではありません。申請内容の審査を受け、上位に入らなければ採択されません。国が主導する、ものづくり補助金、IT導入補助金、持続化補助金は、これまで毎年実施されているため、難易度も上がってきました。採択を受けるために、実施しておくべきことはないのでしょうか。事前に理解しておくべきことと、準備できることをまとめます。
補助金の制度が例年と違う
2020年に中小企業生産性革命推進事業で実施する3つの補助金は、以下の点が例年とは異なります。
- ・通年で公募する
- ・補助金申請システムによる電子申請を開始する
- ・過去3年以内に同じ補助金を受給している事業者には、原点措置を講じる
通年で公募されるため、締め切り時期を考慮に入れながら、最適なタイミングで申請すればよく、これまでより使い勝手がよくなりました。ただ、過去3年以内に補助を受けている事業者は、採択が難しくなったといえます。このような特徴をよく理解して、どの補助金を使うのかを検討する必要があります。
GビズIDを取得する
令和2年度より、補助金申請システム・Jグランツによる電子申請の受付が開始されます。そして、Jグランツを利用するためには、GビズIDを取得しなければなりません。GビズIDを取得しておけば、補助金申請システム以外にも、社会保険手続きの電子申請など複数の手続きをインターネットでおこなえるようになります。
ただし、このGビズIDは、申請してから2週間ほどかかります。公募開始してから慌てて申請しても、間に合わない可能性があるのです。面倒がらずに早めに取得しておくと安心です。
参考:補助金申請システム・Jグランツ|経済産業省
参考:GビズID|経済産業省 GビズID
加点要素となる可能性の高い経営計画の認定をうける
特に、ものづくり補助金の場合、経営革新計画や経営力向上計画などの認定が、補助率を1/2から2/3にしたり、加点要素になったりする条件となっています。これらの補助金を受けると、税的な優遇措置や税的な優遇措置を受けることもできます。ものづくり補助金の採択を受けるのであれば、こうした経営計画の認定を受けておくことも効果的です。
補助金を使って持続的な成長を成し遂げるために
企業数の99%を占める中小企業は、まさにこの国の産業を支えています。こうした実情を加味し、国は中小企業の支援に力を入れてきました。なかでも最も注力しているのが、補助金であるといえます。補助金制度を使っている企業と、まったく知らずに使わない企業では、競争力に大きな差が出てしまいます。正しく国の制度を理解し、採択を目指してみてはいかがでしょうか。