インナーブランディングとは
インナーブランディングは抽象的な言葉です。抽象的な言葉だからこそ、専門家の間でも意味や定義が異なります。インナーブランディングとは、一般的にどのような意味なのでしょうか。
インナーブランディング=「自分ゴト化」すること
インナーブランディングとは、自社の価値観を社内に浸透させることです。インナーブランディングのコンサルティングを行う電通インナーブランディングチームによれば、「企業理念や企業ブランドを実現するために、社員が自分ゴトとして主体的に行動できるようにすること」と定義されます。
つまり、単に理念やブランドを社員に理解してもらうだけでなく、社員に理念やブランドの体現者として主体的に行動してもらうことがインナーブランディングなのです。
インナーブランディングを意味する言葉の種類
インナーブランディングはしばしば、別の言葉で語られることもあります。しかし、いずれもインナーブランディングと同じ意味です。
- 【インナーブランディングの派生語】
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- ■インターナルブランディング
- ■インナーマーケティング
- ■インターナルマーケティング
インナーブランディングは社外向けブランディング活動の「アウターブランディング」の対義語です。そのため「アウター」=社外に対し、「インナー」=社内という言葉が用いられています。
インナーブランディングの必要性
多くの企業でインナーブランディングの取り組みが行われています。なぜ企業ではインナーブランディング活動を行うのでしょうか。
例えばコーヒーショップのスターバックスでは、アルバイト社員に対してもスターバックスのブランドを理解してもらうための教育を行っています。あなたも全国のスターバックスを訪れた際に、どこのお店に行ってもほとんど同じクオリティのサービスが受けられることに驚いたことはないでしょうか。
もしスターバックスでインナーブランディングの取り組みが行われていなければ、各地の店舗で全く異なった体験をするでしょう。そしてスターバックスのファンが多いのは、ホスピタリティあふれるサービスをどの店舗でも受けられるからです。
このように企業はインナーブランディングに取り組むことで顧客に対して約束された一定の体験価値を提供するとともに、中長期的に企業の価値自体を高めているのです。
インナーブランディングへの取り組み方
インナーブランディングに取り組むには、いくつかの定石といえるポイントがあります。ポイントさえ押さえれば、インナーブランディングはそう難しい取り組みではありません。
押し付けない
まず会社の価値観を社員に押し付けないことが重要です。
理念やブランドを押し付けて強制的に社員に実践してもらうことは簡単です。しかし、社員がいやいやながら実践する強制的なやり方は長続きしません。さらには会社やブランドに対する社員のモチベーションが下がり、場合によっては離職につながる可能性もあります。
自主的な行動がカギ
押し付けにならないためには、なるべく社員自身が理念やブランドを理解して納得した上で自主的に行動することが必要です。
先ほど例に挙げたスターバックスのように、インナーブランディングに成功している企業はスタッフが自ら進んで理念やブランドを体現しています。また、その様子が顧客にも伝わり、顧客だった人がスターバックスで働くことに憧れてアルバイトに応募する好循環が生まれているのです。
このように社員が自ら喜んで理念やブランドを体現する状態をつくることができれば、自動的に企業価値が高まり採用などのコストが削減できるという嬉しい効果も期待できます。
中長期的に取り組む
社員が自主的に理念やブランドを体現できるようになるためには、それなりの時間が必要です。時間をかけて自社の価値観を社員に伝え、社員自らが自社の価値をどう体現すればよいかを考えてもらう必要があります。社員による成功事例が増えてくると、徐々に理念やブランドに基づいた行動が定着するはずです。
ただし、成功事例がでてくるまでが時間がかかります。1~2年程度の短期ではなく、3~5年を見据えた中期から長期の取り組みとして考えましょう。
インナーブランディングの具体例
最後に、ある架空のBtoCメーカーを舞台にしたインナーブランディングの取り組みを例としてご紹介します。具体的にどのようにインナーブランディングに取り組めば良いか、参考にしてみてください。
赤字続きのA社
某メーカーA社では、2000年代初頭から顧客離れが激しくなり、2010年代後半には赤字が続く経営状態でした。また、赤字が続いたことにより予算がカットされ、かつてのようなヒット商品を生み出すことができなくなっていました。優秀な社員もやりがいのある仕事を求めて他社へ転職していき、社内にはかつてのような活気がなくなりつつありました。
そこで、A社を再び日本を代表するメーカへと甦らせるために、大手メーカーB社から引き抜きで特命担当役員のX氏が新たに着任。改めてA社の価値を見直すことに取り組み始めました。
ブランドのリニューアル
X氏はまず、かつて人気製品をたくさん生み出してきたA社の歴史を調べました。するとA社は競合他社に先駆けて斬新な製品を世に送り出してきたことがわかったのです。
X氏は「斬新で挑戦的」をA社の新たなブランド価値として設定することにしました。
ブランド推進プロジェクトの結成
早速、X氏は「斬新で挑戦的」というブランドを社内に浸透させるためにインナーブランディングの取り組みを始めました。A社ではこれまで理念やブランドの浸透活動の経験がないうえ、社員が1万人以上いるのでX氏の力だけでブランドを浸透させることができません。
そこで、各部門からインナーブランディングの企画・実行を担うメンバーを選出して全社横断プロジェクトを立ち上げることにしました。
ブランド推進メンバーをつくる
メンバー選出は各部門での旗振り役をつくるために、部門長の推薦または自薦での応募制にしました。そのため、年代や専門性もさまざまで、営業や技術者、サポート担当など多様な人材が25名ほど集まりました。しかし、ほとんどのメンバーはブランドはおろか、かつての自社の歴史や理念をよく理解していないことが判明したのです。
X氏は改めてA社の理念と歴史をメンバーに伝えるとともに、「A社の提供価値はなにか?」をテーマにメンバー同士で議論してもらうことにしました。毎週1回ミーティングを行い、各メンバーは議論を深めていきました。議論が深まったところで、X氏は「斬新で挑戦的」という新たな価値をこれからどのように世の中に提供するかをメンバーに考えてもらいました。
ブランドを自分事化する
最初はブランドについて全く理解できていなかったメンバーも、次第にブランドの概念やA社の歴史、新たなブランドについて理解が深まっていきました。中にはA社の今後について、夜遅くまで議論を続けるメンバーもいます。
そこでX氏は、メンバーに対して各部門でのブランド推進活動について自ら考えるように指示しました。最初は特定のメンバーだけが各部門での活動に取り組み始めました。お客様サポート部門では「斬新で挑戦的」をどうお客様に伝えるか議論し、業務に使用している顧客対応マニュアルに反映させました。
こうした成功事例が少しずつで始めると、熱心に取り組むメンバーに触発され他の部門でもブランドを自主的に体現する活動について議論が活発化していったのです。
その後、X氏がブランドのリニューアルを決めてから3年が経過した現在では、顧客にも「斬新で挑戦的」な企業であるというイメージが定着しています。
まとめ
インナーブランディングに取り組むには、まず「なぜ取り組むのか」という目的を明確にする必要があります。インナーブランディングの成功には、中長期的に企業価値を高めることを目的として本気で取り組むことが重要です。
そして、ご紹介したA社のケースのX氏のような社長や役員による強いリーダーシップによるトップダウンと、社員自身が自主的に行動するボトムアップの活動の両方が欠かせません。
成功するまでは時間がかかりますが、全社一丸となって取り組めばA社のように最終的に顧客に評価される日が必ず訪れます。ぜひ中長期的にインナーブランディングに取り組んでみてください。