2019年度と2020年度のIT導入補助金相違点
2017年度から開始されたIT導入補助金は、毎年、補助金額や条件に少しずつ変更が加えられています。2020年には、IT導入補助金に加え、ものづくり補助金と小規模事業者持続化補助金の3つの補助金が、生産性革命推進事業に組み入れられ、一体的な運用が行われています。
ここでは、IT導入補助金について、2019年度版と2020年版の違いについて確認しておきましょう。
コロナ特別枠が新設された
2020年度版IT導入補助金の一番大きな特徴は、コロナ特別枠が新設されたことであるといえるでしょう。2019年度版のA類型とB類型を一般型とし、特別枠としてC類型が加えられています。
特別枠を使えば、一般型では1/2にとどまる補助率を、最大3/4にまで高めることができます。IT導入補助金を使うのであれば、まずはコロナ特別枠を利用できるかどうか確認するとよいでしょう。
通年採用になった
2019年度版のIT導入補助金は、公募期間が定められており、定められた申請期間に申請を提出する必要がありました。2020年度版では、通年採用となりました。これにより、年間を通じていつでも申請ができるようになりました。
ただし、年度内に補助事業の実施を完了させる必要があることから、最終的な申請受付は、2020年9月30日になる見込みです。
過去の採択事業者は減点措置に
2020年度版のIT導入補助金より、過去3年以内に採択を受けた事業者に対して減点措置が取られることになりました。補助金の恩恵を、多くの中小企業に行き渡らせたいという国の意向が反映されているといえるでしょう。
このような減点措置は、ものづくり補助金や小規模事業者持続化補助金でも制度化されています。
給与総支給額の増加が加点、または必須要件に
申請する類型により異なりますが、旧予想支給額を増加させることが、加点、または必須要件になりました。具体的には、給与支給総額を年率1.5%以上増加させ、事業場内の最低賃金を、地域に設定された最低賃金より30円以上の水準にしなければなりません。
通常枠とコロナ特別枠の違いについて
新型コロナウイルスの蔓延により特別枠が設けられたIT導入補助金。この措置により、IT導入補助金は、通常枠と特別枠に大別されるようになりました。それぞれの具体的な相違点は、下図のとおりです。ここでは、特に気になる点について説明します。
申請条件
補助率が1/2から2/3もしくは3/4にあがる特別枠ですが、以下のいずれかの条件を満たす必要があります。
- 甲:サプライチェーンへの毀損への対応
- 顧客への製品供給を継続するために必要なIT投資が、全体の1/6以上を占める必要があります。甲ツールの導入が認められれば、特別枠のうちC類-1で申請することができ、補助率は2/3が適用されることになります。
- 仕入や原材料購入を安定的に入手するためのIT投資に加え、変化する需要に追随するためのITツール導入も対象になると考えられます。
- 乙:非対面型ビジネスモデルへの転換
- 非対面・遠隔でのサービス提供が可能なビジネスモデルに転換するために必要なIT投資が、全体の1/6以上を占める必要があります。乙ツールの導入は、特別枠のうちC類-2に該当し、補助率は3/4が適用されます。
- 従来は店頭で販売していた商品をネット販売するためのECサイト構築や、対面でおこなっていた営業のオンライン化に必要なIT投資が対象になると考えられます。
- 丙:テレワーク環境の整備
- 従業員がテレワークで業務をおこなう環境を整備するために必要なIT投資が、全体の1/6以上を占める必要があります。丙ツールの導入であれば、特別枠のうちC類-2で申請することができるため、補助率は3/4となります。
- ワークフローツールや勤怠管理システムといったWebアプリケーションや、ファイル共有ツール、セキュリティ対策などが対象になると考えられます。
一部のハードウェアも対象に
従来であれば、パソコンやタブレットなどのハードウェアは、補助事業以外にも利用できるためIT導入補助金の補助対象外でした。特別枠では、補助対象期間のレンタルの場合に限り、ハードウェアも補助対象にできます。対象にできる具体的なハードウェアは以下の通りです。
- a) デスクトップ型PC、ラップトップ型PC、タブレット型PC、スマートフォン
- b) aに接続し、甲・乙・丙のいずれかの目的に対応したWebカメラ、マイク、スピーカー、ヘッドセット、ルーター(WiFiルーター・アクセスポイントなど)、ディスプレイ、プリンター
- c) 「乙」の目的に対応したキャッシュレス決済端末及び付属品
遡及対応
IT導入補助金の通常枠では、導入するITツールを補助対象にするためには、交付決定後、事業実施期間内にITツールを導入する必要があります。特別枠の場合、2020年4月7日以降に遡り、すでに導入済みのITツールも補助対象にすることができます。
ただし、IT導入支援事業者が提供するITツールが補助対象になるという、IT導入補助金の基本的な考え方は、遡及対応の場合でも変わりません。このため、導入済みのITツールの提供ベンダーがIT導入支援事業者ではなかったり、ITツールが登録されていなかったりする場合、交付申請までに登録手続きをしてもらう必要があるので注意してください。
IT導入補助金の申請にあたり注意したいこと
ITツールを導入したい中小企業にとって、投資負担を軽減できるIT導入補助金はぜひとも検討したい補助金です。しかし、補助金である以上、採択審査があるため、100%確実に補助を受けることができるわけではありません。
ここでは、補助を受ける可能性を高めるために、注意したいポイントについて説明します。
IT導入支援事業者に相談を
IT導入補助金は、IT導入支援事業者が登録するITツールを購入する場合に補助をおこなうものです。このため、ほとんどの場合、IT導入支援事業者が、企業の課題解決につながるITツールの提案から、補助金の申請まで支援をしてくれます。信頼できるIT導入支援事業者を探すことが、IT導入補助金利用の最初の一歩であるといえるでしょう。
IT導入補助金以外の補助金や助成金も視野に
ITツールを導入するからといって、IT導入補助金が最適な選択肢であるとは限りません。東京都であれば、補助上限額の範囲内であればテレワークの導入を全額補助する制度がありますし、IT導入支援事業者が見つからないのであれば、小規模事業者持続化補助金の方が採択を受けやすいかもしれません。
導入したいITツールや、投資額などを考慮に入れて、投資負担を軽減するために最適な方法を選択するようにしましょう。必要に応じて、経営層もプロジェクトに参画してもらったり、外部のコンサルタントに相談したりすることも検討してください。
危機的状況をITの力で乗り越えるために
新型コロナウイルスという未曽有の危機を前にして、国は補助金を使った中小企業支援を拡充する方向にあります。持続化給付金や金融機関からの借入により、当面の資金繰りに目途をつけた中小企業の側も、アフターコロナを見据えた投資に動き出しました。
この厳しいときに前を向き、競争力向上につながるITツールの導入を成功させた企業は、飛躍的な成長を成し遂げる可能性が高まります。逆に、手をこまねいている企業には、持続的な成長は望めません。今こそ、企業の優勝劣敗が決しようとしているのかもしれません。