戦略人事とは
現在では人事で当たり前の言葉になった「戦略人事」。具体的にはどのような意味なのでしょうか。
戦略人事の定義
戦略人事とは、会社の経営戦略や事業戦略と連動した人事戦略を立案・実行する人事の在り方を意味します。従来のただ従業員を管理する人事ではなく、経営者のパートナーとして人と組織の面から会社の目標達成をサポートするのです。
時には積極的に経営者に先を読んだ提言を行い、組織の変革をリードすることもあります。このように、戦略人事は経営資源である人を戦略的に活用して会社の目標達成に貢献する考え方なのです。
ウルリッチの定義
戦略人事という言葉が使われ始めたのは、1990年代後半頃でした。戦略人事の在り方が明確に定義されたのは、アメリカのミシガンビジネススクール教授であるデーブ・ウルリッチ著書「MBAの人材戦略」だといわれています。
ウルリッチ教授はその著書の中で、はじめて経営における人事部門の重要性を説きました。実はウルリッチ教授が著書を出す前までは、経営学の中では人事について研究が盛んではなかったのです。
ウルリッチ教授は、経営における人事の機能を「パラダイムシフト」する必要性を説きました。人事は単に事務処理係ではなく、経営者の右腕として人と組織の面から意思決定をサポートするパートナーであるべきとしたのです。
戦略人事が注目される背景
日本には2010年代に入ってから、本格的に戦略人事という言葉が聞かれるようになりました。戦略人事が注目されるのには、どのような背景があったのでしょうか。
高度情報化社会の到来による人材獲得競争の激化
日本では2000年代前半にITバブルが到来し、本格的な高度情報社会を迎えました。高度情報社会では、多くの企業が専門性や能力の高い知識労働者を求めます。
知識労働者とは、文字通り知識を創造する労働者のことです。情報社会では、物理的にものづくりをする仕事よりも、プログラミングなどの知識を活用した仕事が付加価値の高い仕事になります。
付加価値はそのまま企業の生産性に直結します。つまり、場合によってはいかに優秀な知識労働者を獲得するかが経営を左右する場合もあるのです。そのため知識労働者を中心に人材獲得競争が次第に激化してきました。
こうした時代背景により、人事は先手を打って積極的に人材を獲得することが求められるようになったのです。
不確実性の高い社会環境
近年は新型コロナウィルスの影響やテクノロジーの発達など、不確実性の高い社会環境にあります。前年まで当たり前だったことが、翌年には通用しない時代です。誰も先を予測できない変化の激しい現代では、変化に合わせて柔軟に対応しなければなりません。
そのため、人事においても時代の変化を読みながら必要な時に必要な人材を常に用意する役割が期待されるのです。従来の人事がただ社内の従業員を管理する受け身で静的な在り方だとすれば、戦略人事の考え方は自ら考え行動する動的な在り方と言えるでしょう。
戦略人事のメリット
では、戦略人事の考え方を企業経営に取り入れることは、どのようなメリットがあるのでしょうか。
経営を安定させることができる
変化の激しい現代では、いつどのような状況が起こるかが全くわかりません。戦略が常に変更される可能性があります。
もし戦略を変更せざるを得ない状況になった場合、そのときになってはじめて必要な人材を用意するのではチャンスを逃してしまうでしょう。人事は常に経営者と対話しながら、起こりうる可能性を考慮して必要な人材を複数用意しておくことが重要です。
つまり、経営者のパートナーとなる戦略人事の考え方を導入すると、必要なときに必要な人材を用意することが可能になり、経営を安定させられるのです。
事業成長を実現できる
戦略人事の考え方を取り入れている企業では、人と組織の面から事業成長を実現しています。有名な例では、サイバーエージェントが経営状況を読みながら積極的に事業人材を育ててきたことで、複数の事業を立ち上げて急成長を実現できたそうです。
人材育成と事業の結果の関係性は見えづらいと言われますが、事業成長のための人材を育てるといった明確な目的を立てれば、人材を事業の結果へと結びつけられるでしょう。そのためには、人事が事業を理解して必要な人材を育て上げる戦略人事の考え方が欠かせません。
戦略人事の3つの機能
ここまで戦略人事の考え方についてご紹介してきました。最後に、具体的に戦略人事を実現するための3つの機能についてご紹介します。
CoE(Center of Exellence)
戦略人事を実現するために必要な機能には3つの機能があるとされています。その1つがCoE(Center of Exellence)です。CoEは、日本語では専門家集団と訳されます。
人事には高度な知識を持った専門家が必要です。採用、人材開発、労務管理など各分野に精通した専門家を持つことは企業の人材マネジメントの基盤強化につながります。
戦略人事の考え方を取り入れる多くの企業では、CoEが人事機能の中枢となって制度設計や全社に関わる企画を行います。
HRBP(人事ビジネスパートナー)
HRBPは広範囲な概念です。企業によっては経営者のパートナーとして仕事をする人事を意味することもあれば、部門担当の人事を意味する場合もあります。一般的には、部門のパートナーとして部門の事業成長を人と組織の面からサポートする機能を指す場合が多いでしょう。
HRBPは部門責任者のディスカッションパートナーとして、部門における人と組織の分析・報告・施策立案を行います。例えるなら、部門専属の人事コンサルタントといえるでしょう。
OPs(オペレーションズ)
戦略人事では高度な問題解決力が求められる一方で、従来の人事の機能である事務的な仕事も忘れられてはいません。給与計算や勤怠管理など、人材管理に欠かせない機能が人事には存在しています。こうした人事におけるオペレーションを担当するのがOPs(オペレーションズ)です。
OPsは給与計算などの労務系のオペレーション設計や運用を行うだけではなく、企業によっては研修運営や採用管理までを担います。人事部門の運用・実行部隊といったイメージです。OPsが制度や施策を確実に運用することで、企業における人材マネジメントが安定します。
まとめ
戦略人事は現代では、人事において欠かせない考え方です。かつての高度経済成長期のように、人口が増え右肩上がりに成長する時代では、人事もただ増える社員を管理するだけで充分でした。しかし人口減少と成長の鈍化を迎えた成熟社会では、企業は限られた人材を有効活用することが求められます。
人材を有効活用するためには、能動的に人と組織の側面から問題解決を行う戦略人事の考え方が不可欠です。もしまだあなたの会社が従来の人事機能を維持しているのなら、まずは今後の自社の成長にはどのような人事戦略が必要なのかを考えるところから始めてみてはどうでしょうか。