登壇者プロフィール
株式会社ラクス
楽楽精算事業統括部 製品企画課 課長 大平 竜也氏
2000年株式会社インテリジェンスグループ会社へ入社し、セールスアウトソーシング領域にてBtoBセールス戦略立案、実行支援、部門マネジメントなどを経て、2013年からパーソルプロセス&テクノロジー株式会社にてWebアナリティクス事業、MA導入・運用支援事業、自社Saasサービスの立上げなどセールス・マーケティング領域の支援を幅広く担当。
現在は株式会社ラクスにて「楽楽精算」の製品企画部門の責任者として、顧客便益性の向上に向けた新機能、サービスの企画、売れる仕組み構築、他企業とのアライアンスなどを担当。
freee株式会社
Product Marketing Manager 尾籠 威則氏
日本オラクル、テラデータを経て、2016年にfreee株式会社へ参画。
freee株式会社では会計事務所向けセールスチームの立ち上げ・拡大に従事した後、中堅・上場企業向け業務改善コンサルティングチームを設立。その後、事業開発にて新たな代理店モデルの構築とアライアンス推進に従事。
現在、PMM(Product Marketing Manager)として新規プロダクトのローンチに従事する傍ら、上級コンサルタントとして年間50以上のセミナー登壇を行っている。
電子帳簿保存法の改正・施行と、インボイス制度の施行
株式会社ラクス 大平 竜也氏(以下、大平):
2022年に電帳法(電子帳簿保存法)が改正・施行されました。領収書などの書類をスキャナ保存する要件が緩和され、電子取引の保存義務などで対応を検討された企業様も多いのではないでしょうか。
2023年10月にはインボイス制度が施行されます。こちらは要件を満たさない場合は仕入税額控除が受けられなくなることもあり、そうなると納付消費税が上がり、コストも増える、といった影響のある制度です。 2023年末には、電子保存義務化の宥恕(ゆうじょ)期間が終了するので、電子で受け取った書類の紙での保管ができなくなります。経理の皆さんにとって大きな変化が、ここ2年で起きてくるでしょう。
freee株式会社 尾籠 威則氏(以下、尾籠):
アメリカ、ドイツ、オーストラリア、イギリスなどの先進国において、レシートや請求書を破棄するプロセスに事前手続きはほとんど必要ありません。電子上に情報が記載されていれば破棄OKとなっているんですね。日本では、2021年時点で3か月前に税務署に承認をもらう必要があったりシステム要件が細かく決まっていたりと、ダブルチェック・トリプルチェックしなきゃいけないなど非現実的でした。
それが2022年の改正で事前手続きも不要になり、要件が大幅に緩和されましたね。領収書や請求書を受領して、適切なシステムに入れる。これを受領後約70日以内にすればよく、破棄もできます。破棄までわずか2ステップになり、欧米並みにペーパーレス化が実施できるような環境になりました。
これから起こりうることとその対応
大平:
大きな視点で言うと、2022年は電帳法への対応、2023年はインボイスへの対応となります。この流れはあくまでもモデルケースなので、必ずやらなければならないというものではありません。
2022年度中に取り組むべきこと
- 電子帳簿保存法への対応
- 電子で保管する領収書・請求書のフローやシステムの整備
- 利用中システムのインボイス制度への対応可否の確認
大平:
2022年はシステム面での対応として、2点取り組むべきだと考えています。まず1点目は電帳法への対応になります。電子で保管する領収書・請求書のフローやシステムの整備を行い、スキャナ保存や電子取引の電子保存義務に対応できると、電子化も進められます。リモートワークの推進にもつなげられるでしょう。
特に、電子取引の電子保存の義務化には2022年内での対応をご提案しています。そのためには真実性の確保や可視性の確保など、要件に適したフローやシステムを整備・導入していくということが必要になります。そして社員の皆さまにしっかりと要件に適した運用をしてもらうために、社内教育も欠かせません。
2点目は、2023年に向けて現在利用中のシステムがインボイス制度の要件に適用するかしないか、今後していくのかどうかをサービスベンダーへ確認しましょう。万が一対応できない場合は、対応しているシステムに乗り換える必要もあります。
2023年に取り組むべきこと
- 適格請求書事業者登録
- 適格請求書フォーマットや保存方式の整備
- 仕入税額控除の影響を加味した取引先の整理や交渉完了
- インボイス制度に対応したフロー、システムの導入
大平:
2023年に取り組むべきことは4点あり、すべてインボイス制度への対応準備になっています。そのうち3つが運用面での対応、1つがシステム面での対応です。
1点目は「適格請求書事業者登録」。インボイス制度に適応していくために、事業者登録を済ませ、登録番号を取得しておくことです。取得自体は4月以降でも可能ですが、2023年の10月の施行タイミングからインボイス制度に適応した運用をしていくには、2023年3月までの事業者登録と登録番号の取得が必要になります。
2点目は、適格請求書フォーマットや保存方式の整備です。新たに必要な項目が、適格請求書では3つ増えます。「登録番号」「適用税率」「税区分の税額の合計金額」を記載することが適用要件なので、要件に沿ったフォーマットを2023年の半ばぐらいまでに準備する方がいいでしょう。
3点目は、仕入税額控除の影響を加味した取引先の整理や交渉完了です。現在の取引先企業が適格請求書発行事業者になるのか、または免税事業者なのかを確認しましょう。その上で免税事業者への取引の継続方針や、交渉するのであれば条件面など、あらかじめ取り決めて来年の半ばくらいまでには交渉完了しておくのが望ましいと思っています。
4点目は、インボイス制度に対応したフローとシステムの導入です。法要件や運用要件に適した環境を整えていくということですね。例えば、取引先が適格請求書発行事業者かを判別したり、仕入税額控除を判別したりできるような仕訳の作成や、会計システムとの連携などが要件として挙がってくると思うので、適応できるフローやシステムを遅くとも2023年8月くらいまでには準備をして10月を迎えるという流れがいいのではないでしょうか。
そして電帳法への対応と同じように社内教育が必要でしょう。フローやシステムが変わるという対応だけでなく、免税事業者との取引のポリシーなどを事前に決めて社内に落とし込んでいくことや、変更になる部分をしっかりと運用に乗せていくことが必要になってきます。
インボイス制度が経理業務に与える4つの負担
- 発行した適格請求書(領収書含む)の控えをすべて保存
- 公共交通機関の一部例外を除き、受領した適格請求書(領収書含む)をすべて保存
- 仕入税額控除が可能となる適格請求書か否かどうかを分類
- 日付、金額、科目だけでなく、取引先名、取引内容、適した税区分もすべて記帳
尾籠:
インボイス開始に伴う経理業務にどういう負担が増えてくるかと言うと、大きく4つに分けられます。
1つ目は、インボイス制度では発行した適格請求書・領収書の控えをすべて保存、と決められました。今までは請求書の控えを作らない限り保存しなくても良かったのですが、インボイス制度が始まったらすべて保存する、ということになったのです。
2つ目は公共交通機関の一部の例外を除き、受領した適格請求書をすべて保存する、と決まりました。今までは3万円未満のものに関しては保存しなくていい、帳簿に適した入力をすればいいと決まっていたのですが、インボイス制度が始まると、公共交通機関、自動販売機、切手などを除いてすべて保存しなければいけません。例えば「少額だから別にこのタクシーの領収書は保存しなくていいよ」と言っていたものも、きちんと保存しないと仕入額控除ができなくなり、増税になってしまいます。
3つ目は、要件を満たす適格請求書でないと仕入税額控除ができないので、適格請求書か否かというのをすべて振り分けなければいけません。
4つ目は、帳簿に記載する事項は日付、金額、科目だけでなく、取引先名と取引内容もすべて記帳しないといけません。さらに適格請求書か否かで税区分も変わってきます。あらゆる書類は保存しなければいけないし、受領したものが適格請求書かどうか分類しなければいけない。さらに記帳量も増えます。
2023年は、アナログでやっていると非常に大変になってしまうでしょう。同年末には電子保存義務化が徹底され、猶予期間が無くなってしまいます。例えば、取引先からメール添付で送られた請求書を印刷して紙で保管することや、ECサイトからダウンロードした領収書を印刷して保管することはすべて不可になります。
紙文化では業務の非効率化を招く
尾籠:
コンサルタントとしていろいろな企業様に入ってペーパーレス化の支援をしているのですが、紙文化のままでインボイス制度に対応すると業務の非効率化を間違いなく招いてしまうと思います。
例えば申請業務です。申請者が証票、レシートを受領して、Excelで作ったものを紙に印刷し台紙に貼って上長に提出します。上長はそれを確認してハンコを押し、経理に渡す、または戻します。経理は受領したものを一件ずつチェックして、会計ソフトやExcelの支払い管理表などに記載して、同じ内容を会計ソフトに転記をするという、こういった流れの企業様が多いのではないでしょうか。
この業務をこのまま電子化した場合を考えてみましょう。途中までは同じフローで進みますが、最終的に経理が処理の終わったものに関してスキャンをして内容をチェックする、という作業が増えます。さらに、スキャナ保存をするためには日付と金額、取引先名を検索できるように、すべてのファイルにデータを付与するという要件があります。
つまり、支払管理表や売掛管理表に記載、会計ソフトにも同じような入力、さらにスキャナ保存をする場合にはそのシステムにも同じような内容を入力しなければいけないのです。
紙を前提にした業務フローのまま、電子取引データ保存に対応した場合
尾籠:
電子取引の電子保存が義務化されると、紙で処理してはいけないということになります。電子で受け取ったものの原本は電子であり、それを紙にしたらコピーになってしまうからです。ではどうするかと言うと、申請者が何かしらの共有フォルダ―などに格納するという作業が発生します。PDFでデータを受け取ったら共有フォルダに格納した上で、日付と金額と取引先名を入力します。承認者も現場も紙だけではなく共有フォルダを開けて、きちんと日付、金額、取引先が入力されているのかと確認しなければいけない。つまり、多大な負荷がかかるんです。
さらにインボイス制度が始まれば先ほどの4つの課題もあるので、すべて保存しなければいけません。電子のまま保存もしなければいけないし、証票を分類しなければいけないし、入力内容も増えるという仕組みになっています。
しかし電子完結フローにすると、非常にシンプルになることは間違いありません。証票を受領して、スキャンして、申請して、承認できるという形になります。やはり紙前提ではなく、この際に電子ですべて業務を行えるように検討、あるいは刷新するというのが非常に重要になると思っています。
おわりに
紙文化の根付いている企業が上手く電子システムを運用するために、実際に上手く運用している企業様の特徴やシステムの選定方法を伺いました。お二方それぞれの企業の提供サービスのページも併せてご紹介しますので、興味のある方はぜひご確認ください。
大平:
まずは現在の業務フローを知ることが大事ですね。これを知ることでどこを改善し、どこをペーパーレス化すればいいのかが見えてきます。その後で、業務フローに沿ったシステムを導入いただくという流れがいいのではないでしょうか。
尾籠:
一気にやろうとすると大変ですので、まずは小さなところから始めてみるのがいいと思います。例えば経理周りから、請求書の発行をペーパーレス化したり、経費精算を導入したりしてみて、その後全社に展開していくのが一番好ましいかなと思います。
ITトレンドEXPO次回もお楽しみに!
当日のセッションでは、登壇者が視聴者の皆さんからの質問にリアルタイムで答えてくれます。ぜひ次回のITトレンドEXPOへのご参加お待ちしております!(参加無料)
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