登壇者プロフィール
株式会社サイダス
代表取締役 松田 晋氏
大塚商会を経て、人事・組織に関するコンサルティング事業会社設立。その後単身渡米し最先端のタレントマネジメントシステムを研究。2011年、株式会社サイダスを設立。
「スタートアップ列伝 ニッポンの明日を拓く30人(日経BP社)」掲載。
株式会社クロスリバー
代表取締役 越川 慎司氏
全メンバーが週休3日・リモートワーク・複業の会社を2017年に創業し、 815社17万人の働き方と成果を調査・分析。著書19冊、各社の人事評価上位5%の行動をまとめた書籍『トップ5%社員の習慣』は 国内外で出版されベストセラーに。
いま、「働きがい」が注目される理由
株式会社クロスリバー 越川 慎司 氏(以下、越川):
よく使われる言葉の「働きやすさ」と「働きがい」はまったく違っています。働きやすさは、労働衛生環境や人事制度、報酬といった外部環境のことです。一方、働きがいはどちらかというと内発的動機のことで、働く上での幸せと定義されています。
「テレワークをやると部下がサボる問題」は誤り
越川:
「テレワークをやると部下がサボる問題」に終止符を打つために、分かりやすい調査データを紹介します。管理職の76%が、在宅勤務だと部下はサボると思っていますが、実状は異なります。新型コロナが流行する以前に在宅勤務をしていた605名を対象に調査したところ、14%がサボっていました。ところが、在宅勤務でサボっている方の94%が出社してもサボっていたのです。
要するに、サボるかサボらないかは場所の問題ではありません。職責と評価がなければサボってしまう。もっと言えば、5日でやるべき仕事を4日で終えればサボっても問題ないわけです。ということで、「テレワークをやると部下がサボる問題」は今日で終わりにしたいと思います!
その上で企業が求めているのは、在宅でもオフィスでも「これ、やんなきゃいけないな。やることによって自分も成長するし、達成感も得られるし」という働きがいですね。弊社が617社を対象に匿名で調べたところ、働きがいのある人はない人よりも生産性が31%高いという結果が出ました。つまり時間生産性が高いので、残業が少ないことを意味します。また、欠勤率は41%低く、精神面の健康にも関係しています。離職率は59%低くて、エンゲージメントが高いなんて言われますね。
では働きがいを持っている人は、どういうときに働きがいを感じるのかについて、17万3,000人に聞いてみました。自由記入式のアンケートをテキストマイニングとAIで分析してみたのです。いろいろな意見が出てきましたが、結局のところ承認・達成・自由の3つに集約されます。
承認・達成・自由のサイクルが働きがいに
越川:
では承認・達成・自由をどうすれば得られるかと言うと、まずは責任を基に目標を立てるところから始まるわけです。年間目標や行動目標を立てて、それを達成する。達成するから承認され、承認されると自由が与えられる。このサイクルを理解しておくと、企業の成長と社員の働きがいが両方とも叶うのです。
株式会社サイダス 松田 晋 氏(以下、松田):
越川さんの説明が非常に分かりやすくて、もう説明するものないじゃんみたいな感じです(笑)。
弊社は創業したときにCYDAS HRというサービスを提供していました。でもお客様から「使いづらい」と駄目出しされ、新たにCYDAS PEOPLEというサービスを作ることになりました。新サービスを作るとき、最初からチームメンバーが働きがいを感じていたかと言うと、そうではありませんでした。でも目標を作りながら壁を乗り越えて、達成感を感じていったのです。達成できたことをメンバーにフィードバックすると、一生懸命やってきた人っていい意味で泣くんですよ。やっぱり働きがいを感じているということですよね。
働きがいを感じられるようになると、まず企業内が変わるし、チームもすごくよくなります。ぶっちゃけてしまうと、チームメンバーにフィードバックしてメンバーが感動して泣いているときに、自分も泣いちゃっていますからね。一緒に頑張っていると、管理職も同じように働きがいを感じますし、信頼関係も築けるのかなと思います。
越川:
今のは経営者ならではの発言で、僕は正解だと思うんです。というのも、働き方改革に取り組む企業は上場企業だと97%あるのですが、成功していると答える企業は12.1%しかありません。働き方改革とは、企業の成長と社員の働きがいを両立するためのものです。両立のために残業を減らしたり、一緒に何かを達成したりしようということなのですよね。それを目指してスタートすると、働き方改革の成功確率が3.5倍上がります。
松田:
IT企業でも、結局最後はアナログなことがすごく大事になってきます。ITを使えば効率化できるのかもしれませんが、DXとアナログなものの関係性はとても重要なのだと思いますね。
越川:
ITが働き方を変えるわけではなくて、人間が働き方を変えるんですよね。ただ、人間が主体として改革を進めるための手段としてのITは必須です。目的と手段を履き違えなければ、ITは有効活用できると思います。
企業は今後どう取り組むべきか?
松田:
まず、上司と部下の信頼関係を深めていきながら、働きがいを高められるような仕組みづくりがすごく重要になってくると思います。上司も部下も人間なので、当たり前ですが、上司側も部下の成長がうれしいわけです。だから、管理職から部下の状況が見えるようにするとよいですし、部下も自分から発信すべきだと思っています。
会議ではなく会話がイノベーションを生む
越川:
日頃の業務をどうやって変えるかが我々の支援の対象になっていて、面白いデータが集まっています。1週間のうち何に時間を費やしているか調べたところ、社内会議が43%でした。コロナ禍以降は45%に増えています。コロナ禍での会議はオンラインで行うじゃないですか。しかし、オンライン会議の内職率は41%というデータが出ていて、出席することが会議の目的になっている状況ですよね。
でも、会議でイノベーションは生まれません。ほとんどは会話を通じて生まれるのです。だからハイブリッドの今こそ、場所にかかわらず会話を増やしていく必要があります。各企業は1on1ミーティングをやっていると思いますが、これはやめてもらいたいです。多くの場合「よろしくお願いします」から始めるので、部下からすると面談だと思って何もしゃべらないですよね。面談よりも、1on1トークをしてほしいです。
弊社を通じて17社が、1on1ミーティングを1on1トークに変えました。雑談でも何でもいいという形にするとトークの頻度がすごく高くなるし、会話によって心理的安全性が生まれて部下が何でもしゃべってくれるようになるんですね。その会話の中には、業務改善や事業開発のヒントが潜んでいます。人材を有効活用する上で、会議を減らして会話を増やすことをぜひやってもらいたいと思います。
松田:
本当にそのとおりなのですが、一つだけちょっと問題がありまして。今、傾聴が問題になっていて、上司は話を聞くだけになっているのです。部下もストレスをためちゃうので、アドバイスも重要かと思っています。
越川:
そうですね。1on1が制度になってしまって、管理職の方々も大変ですよね。私独自の考え方で言うと、上司と部下がフラットな状況で対話するのが1on1だと思っています。部下の方々って受け身になる方が多くて、仕方ないからやっていたり、ちょっと愚痴とか相談をしたりする、というような姿勢になりがちです。そうではなく、一緒に解決するという姿勢が重要だと思います。
今は、共に感じて共に創っていくという、「共感・共創」時代だと思っています。部下と上司が互いの悩みを知って、一緒に解決しようという時代だと思います。僕が支援している企業のメンバー17万人には、まず解決すべきは感情共有だと伝えています。この1週間でうれしかったことと悲しかったことを、必ず2つ持ってきなさいと。加えて、自分の行動目標と進捗を自分から見せていってください。そして、意識を擦り合わせる場として、1on1をうまく使ってくださいと言っています。
フラットな関係での感情共有が大切
松田:
1on1に対してアンケートをしてみると、部下のほうがネガティブですよね。やる意味があるのかといった意見もあります。だから越川さんが言ったように、感情共有をして今のお互いを知ることによって、だいぶ上司と部下の問題を解決できるのではないかと思いました。
越川:
情報共有だけの会議ではみんな良いことしか言わないので、生産的ではないのです。やっぱり1on1は、はじめに関係構築ステージがあって、それをクリアした後は成長支援ステージに持っていったほうが、お互いのためだと思いますね。
松田:
いろいろな企業のすごく伸びるチームを見ていたら、やっぱり上司がメンバーと一緒にやっているのです。一方で、一緒にやっていないチームだとメンバーがサボる。たぶん、上司も上司としての役割をサボっているとも言えますよね。なので、一緒にやっていくことがすごく大事な時代だと思います。
「業務の見せる化」はどうしたら実現できるのか?
松田:
最近ちょっと面白いなと思う、成果を見せる化している企業様がいます。成果を企業ではなく本人に決めさせているのです。評価のデータと違って、些細なことでも失敗でも「成果」になります。見せる化によって、成果が出ていない人が「これも成果なんだ」と気づけたこと、「成果を挙げている人の成果って、こういうことなんだ」「じゃあ、これに挑戦してみよう」というふうに変わってきたことが、うまくいっていると思いました。
越川:
昔は、失敗か成功かどっちかを選んで、成功を選んだら成果という感じでした。でも今は、成果の出し方に正解がありません。優秀な方は、失敗を繰り返して成功を掴んでいます。失敗を繰り返した先に成功があると考える人は、「行動すること、行動実験することが自分の成果だ」と言っています。
成果と行動目標の進捗を見せる化すると、2つのいい化学反応が起きます。まず1つは、上司から「最近どう?」というマイクロマネジメントがなくなることですね。部下から「僕の行動目標はこれで、今提案件数、進捗23%です」と見せる化すれば、マイクロマネジメントを避けられるのです。
もう1つは、うまくいっていないことも言うべきです。例えば「イベントで集客2万人、今1万4,000人。ちょっと苦戦しているので進捗70%」といったことをチャットで言うと、社内で助けてくれる人がいます。業務目標や進捗の見せる化によって、上司と周囲を巻き込めるのです。
松田:
できていないことや壁にぶち当たったことを、オープンにしたほうが本当にいいですよね。「困っています」と言えば、同じ企業で働いている人はみんな助けます。弊社は、まさにお客様にも助けられています。お客様がSlackにいるのですが、社員が「困っています」と言うと、お客様が助けてくれるんです。
越川:
今もっとも生産性を落としているのは、上司とお客様に対する過剰な気遣いです。でも、上司もお客様も今では一緒に問題を解決する「共感・共創」パートナーなので、忖度はなくすべきです。そうするためには、腹を割って話せる感情共有や弱みを見せることが必要なので、1on1やチャットの内容をITで見える化すべきだと思います。ITによる見える化と、人による見せる化が組み合わさったときに、過剰な気遣いがなくなるのではないでしょうか。
「ITの見える化×人の見せる化」を実現した事例
ーーITの見える化×人の見せる化という部分が実現できている企業の事例や、うまくいく組織の事例を1つずつ教えてください。
松田:
弊社のツールを活用いただいているある企業様は、1カ月に多い人で40件の成功体験や成果を入力しています。少ない人でも20件。何千人規模の会社で日本でもトップクラスの企業様なのですが、皆さん入れているわけですよね。最初は、私には体育会系の上下関係の厳しいみたいな企業にしか見えなかったので、やらされた感が満載なのかと思っていたのですが、中身のデータを見たらそんなことはなくて。
おそらく、コロナ禍においてそういったものが大切だと理解している経営者が、なぜこれが必要かという目的をみんなと会話したからだと思います。ちゃんと説明してやることが、すごく重要かなと思いますね。システムは箱だと思ったほうが良くて、入れる側の心理的安全性が高くないとやっぱり成功体験や成果って入れられないと思います。
越川:
弊社は「うまくいっているチームの法則を、うまくいっていないチームに提供したらどうなのか」という再現実験をやる企業なのですが、過剰な気遣いなどを取り除く方法として雑談が有効だと判明しました。雑談は、くだらない話をすることが目的ではなくて、参加者との共通点を見つけるためのコミュニケーションの術です。定例会議の冒頭に2分の雑談を入れると、発言者数1.9倍、発言数1.7倍になったのです。
また、うまくいっているチームはうまくいっていないチームの8倍「今ちょっといいですか」と声がけしていることも分かっています。忙しいときに言われるとちょっと煩わしいものですが、言い合える関係性ができているということです。こういう積み重ねで心理的安全性が確保された結果、見える化を進めるITシステムと、見せる化を進める人とのつながりがうまくマッチするのではないかなと思います。
フィードバックは「駄目出し」ではなく「プレゼント」
越川:
タレントマネジメントは人事部のためのものだと思っている方もいますが、僕は管理職よりもむしろメンバーのものだと思っています。メンバーが承認・達成・自由を得る上で役立つツールなのです。メンバー自らが目標や希望を見せる化して、リーダーが異動・育成に活用する要素をシステムに入れていくのです。タレントマネジメントを部下とリーダーと一緒に活用していこうという、ボトムアップの力がすごく重要だと思いますね。
松田:
人事給与システムに入っているデータをグラフィカルに見るだけだと、経営に活かされないですよね。だから、現場の方、メンバーの方、管理職の方たちが普通に使いながら、自分たちの気付きを得ていかないといけません。あとは、絶対にフィードバックは大事だと思います。管理職も強化されますし、メンバーもフィードバックされたほうがうれしいですよね。
越川:
昔は成功の出し方が画一的で、「これをやれ」と上司がティーチングしていました。でも今は「自分たちで考えてやれ」だから、コーチングに変えていかなきゃいけないのです。上司は対等な目線でフィードバックをして、上司も部下からフィードバックをもらう。僕はあえて22歳のメンバーにフィードバックをしてもらっています。「今日もかんでましたね」などというコメントは、プレゼントだと思っています。フィードバックのためにタレントマネジメントシステムを活用すると考えれば、もうちょっと活用方法が広がると思いますね。
360度フィードバックをやっている企業も多いですが、上司のほうが圧倒的に満足度が高いのですよ。勇気を持って客観的な目線で言うことが成長につながるのであれば、聞く側はプレゼントだと思って受け取るべきですよね。そして、組織はフィードバックをシステムでマネジメントして異動や育成に役立てるべきです。
松田:
みんなで共有できるようにフィードバックの履歴がディクショナリー化されていたら、解決できることがいっぱいあります。ところが今の日本での使い方を見ると、ただ評価して終わっていてフィードバックできていないのがすごくもったいないと思います。
越川:
今は、感情共有とフィードバック以外に、フィードフォワードが流行っています。終わってから意見を出すのがフィードバックなのに対し、フィードフォワードは途中で意見を出すのです。資料作成の進捗20%の時点で上司にフィードフォワードをもらう実験をしたところ、差し戻しが74%減ったんです。だから1on1でフィードフォワードをするのもすごく効果的かと思います。
松田:
すごく大事ですね。本当にその通りで、フィードフォワードを意識してやったほうが、無駄がなくなりますし、間違いなく人も成長すると思います。
おわりに
越川:
PDCAはもう古いです。P(Plan)に時間をかけても精度の高いITツールは選べません。まず使うのです。サイダスもそうですが、だいたいトライアルやお試しができるので、それでまず使ってみて、「意外と良かった」という現場の意見が出てきたら、本格稼働すればいいと思います。ぜひ人の見せる化、ITの見える化、それをつなぐシステムとして、ITツールをまずDoする。Pを小さくしてすぐDoするということで、いろいろなツールをトライしていただければなと思います。
松田:
できることからまずは行動することが一番かなと思います。ITとかDXとかいろいろとありますが、まずアナログでできることをやってもらえればなと思いますので、ぜひ試してみてください。ありがとうございました。
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《CYDAS(サイダス)》のPOINT
- 社員数1,000名以上の大手企業導入実績が多数
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