後継者育成とは
後継者育成とはどのようなものなのでしょうか。そしてなぜ企業にとって後継者育成は必要なのでしょうか。
企業における後継者育成とは
企業では将来の経営者候補の育成を、後継者育成といいます。人事の専門用語では、後継者育成計画をサクセッションプランと呼び、サクセッションプランという言葉自体が後継者育成を意味する場合もあります。後継者育成は、創業者の跡継ぎをつくるだけではなく、同族経営以外の会社でもごく当たり前に行われている取り組みです。
後継者育成が必要な目的
経営者は必ずいつかは引退します。どんな企業の経営者であっても、年齢や体調、家族の事情などで引退する時がくるでしょう。
例えばDeNAを創業した南場智子氏も、家族の看病のため一時引退していました。経営者が急に引退した場合、企業は最終決裁者がいなくなり船頭を失います。もし後継者がいなければ、急な経営者交代に備えることができず、場合によっては企業が解散の危機に陥る可能性もあるでしょう。
上場企業であれば会社は経営者のものではなく、株主のもの、そして社会のものでもあります。東証では上場企業のガバナンスについて定めた「コーポレートガバナンスコード」の中で、後継者育成の重要性を説いています。そのため企業では常に経営者の後継者を育成しておく必要があるのです。
後継者育成をしないと企業はどうなるのか
後継者育成は企業の存続のために重要となる取り組みです。しかし万が一、後継者育成をしなかった場合、企業はどうなるのでしょうか。
売上が減少する
企業によっては、経営者の信頼関係によってビジネスが成り立っている場合があります。また、カリスマ経営者が存在する企業では経営者がビジネスの方針を強く示しています。
有名企業の例でいえば、ユニクロやソフトバンクが思い出されるでしょう。もしそうした企業で後継者育成をしていなかった場合、経営者が退任した途端に企業イメージが低下し、売上が減少する可能性があります。
離職者が増加する
後継者育成を行わずに経営者が退任すると、会社の求心力が低下します。あなたも「あの社長だからこの会社で働いている」と考えたことはないでしょうか。経営者の交代は組織に大きな影響を与えます。場合によっては「あの社長でないなら会社を辞める」という社員も増えるでしょう。
後継者育成は、次の社長候補をあらかじめ決めておけば、求心力の低下を防ぐだけではなく、社員のショックを和らげる効果もあります。
解散の危機を迎える
東京商工リサーチの調査によれば、後継者不在により倒産した企業は2020年上期だけで194件にも上ります。この結果は前年度の1.8倍の結果であり、年々増加傾向にあります。後継者育成をしていなければ、適切な経営者を次期社長として就任させることができず、企業は事業を続けられないのです。
出典:「2020年上半期(1-6月)『後継者難』の倒産状況調査」|株式会社東京商工リサーチ
企業における後継者育成のポイント
では実際に後継者育成に取り組むにはどうすればいいのでしょうか。企業における後継者育成のポイントを紹介します。
早期育成に取り組む
まず、経営者交代はいつどのようなタイミングで起こるかわかりません。そのため常に後継者を育てる取り組みが重要です。特に見込みのある人材に対しては、早くから後継者候補として育成プログラムに参加させましょう。
一定期間「カバン持ち」をやらせる
経営者を育てるには、経営者による指導が最も効果的です。経営者と社員に求められる能力は全く異なるからです。
そのため昔から企業では、将来有望な社員を一定期間社長のそばで働かせて秘書業務や社長の補佐に取り組ませてきました。いわゆる「カバン持ち」です。現代では実際に、KDDIなどの大企業が将来有望な若手社員を「社長付」にして経営者とは何たるかを教え込んでいます。
タフな経験をさせる
経営者は時に、厳しい判断を瞬時に求められます。社員のリストラや事業方針の転換、事業からの撤退などです。こうした判断を行うには経験が必要になります。
そこで、あえてプレッシャーをかけて追い込む取り組みを後継者育成の手段として行う場合があります。これを「タフアサインメント」と呼びます。タフアサインメントでは、子会社の立ち上げや急成長するベンチャー企業への派遣など、結果が求められる環境に後継者候補を追い込みます。このようなタフな経験により、経営者に必要な判断力を養うことができるのです。
後継者育成の事例
最後に実際の後継者育成の例をみてみましょう。今回は代表的な事例を2つご紹介します。
CoCo壱番屋の事例
カレーハウス「ココイチ」で有名なCoCo壱番屋は、後継者への経営者交代に成功した企業の一つです。1978年に小さな喫茶店から創業したCoCo壱番屋は、創業20周年の1998年に500店舗を達成しました。その3年後の2001年に、創業社長の宗次徳二氏は突然、副社長に社長の座を譲ったのです。
実はその半年ほど前から宗次氏は副社長の浜島氏をみて「後継者になってほしい」と話していました。宗次氏は後継者育成は、経営者が真摯に仕事に取り組む姿が何よりも重要だと語っています。よい人材を見つけたら、経営基盤を安定させ、社長の座に執着せずに後継者に譲ることが大切だそうです。
まさに社長が後継者をつくる取り組みを経営者自らが実践した事例です。
参考:株式会社壱番屋 創業者特別顧問 宗次 徳二|経営者通信
日本電産の事例
日本電産には、「グローバル経営大学校」という企業内大学があります。この企業内大学で将来の後継者育成を行っています。グローバル経営大学校で行われる経営者育成プログラムでは、時間をかけて日本電産の経営理念を教え込むそうです。
また、早期育成にも取り組んでおり、優秀な人材を経営者候補として育成するプログラムも実施しています。こうした企業内大学での後継者育成は大企業の最も主流な後継者育成への取り組み方です。
出典:人材の育成|日本電産株式会社
まとめ
今回は後継者育成について解説しました。後継者育成は、長期的な取り組みであるためつい後回しになりがちです。しかし後継者がいなければ、企業は存続も成長もできません。また、後継者が育成できたとしても現任の経営者が退任する気持ちがなければ経営者交代はできないものです。
後継者育成は難しい問題ですが、企業にとっては必要不可欠な取り組みです。常に不測の事態に備えておくためにも、後継者育成には必ず取り組みましょう。