オンボーディングとは
人事用語としてよく使われる「オンボーディング」は、もともと飛行機や船に乗って目的地まで行くことを意味する英語「on-boarding」から転じたものです。中途採用者や新卒社員をなるべく早く職場に慣れさせ、定着や戦力化を促す取り組みのひとつです。
OJTとよく混同されますが、OJTは「仕事を通して業務を学ばせ、即戦力にすること」を目的としています。対して、オンボーディングは「組織になじませ定着させること」が主な目的です。
オンボーディングが必要とされる背景・導入メリット
厚生労働省が公開する2020年度のデータによれば、就職後3年以内の離職率は、高卒が37%、大卒が32.8%。3年以内に、新卒就職者の約3人に1人が退職してしまう状況です。「売り手市場化」で転職が当たり前となっていることが離職要因の一つとして考えられています。また、リモートワークの推進でコミュニケーションが希薄になり、人間関係のトラブルが起こりやすい点も理由にあげられるでしょう。
そのため、組織に定着させ離職を防止するための施策として、オンボーディングが重要視されています。オンボーディングの導入により離職防止はもちろん、新入社員の成長スピード向上や、部署ごとの教育格差の是正などのメリットが期待できます。
参考:新規学卒就職者の離職状況(令和2年3月卒業者)を公表します|厚生労働省
SaaS領域の「オンボーディング」とは別の概念
最近では、SaaS(サブスク型のクラウドサービス)のカスタマーサクセスにおける、ユーザーの初期定着支援もオンボーディングと呼ばれています。「ユーザーと伴走し、新規のユーザーが自らサービスを活用できるよう導く」という意味で使用されています。
どちらもビジネス用語として使用されていますが、採用・育成領域の「オンボーディング」と、SaaS領域の「オンボーディング」は別の概念です。
オンボーディングの実施手順
オンボーディングはどのような手順で進めていくべきでしょうか。一般的に、オンボーディングは以下の3ステップで実施します。
- 1.新入社員のオンボーディングプラン・目標を設定する
- 2.実施計画を社内で共有し、準備を行う
- 3.オンボーディングを実施し、振り返り・改善を行う
順に詳しく見ていきましょう。
新入社員のオンボーディングプラン・目標を設定する
まずは以下のような目標を明確にし、新入社員が目指すべき姿と、それを達成するための方針をプランニングしていきましょう。
- ●どのようなスキルを習得してほしいか
- ●どのようなイメージで活躍してほしいか
- ●いつまでに何をやるのか
例えば営業職における、実際のオンボーディングプランの一例が以下です。
- ●1か月目:自社製品・サービスの特徴を理解する
- ●2か月目:OJTで客先提案に同行し、実際の流れを把握する
- ●3か月目:先輩同行のもと、実際に客先で提案をする
また、上記のプランを達成するために、さらに細分化した目標のチェックリストを作成するとよいでしょう。新入社員本人はもちろん、受け入れ側の上司や先輩もやるべきことが明確になります。
実施計画を社内で共有し、準備を行う
プランが定まったら、オンボーディングの実施計画を上司や現場で関わる全従業員に共有し、新入社員の受け入れ環境を整備します。
このとき、企画者と受け入れ側とでプランのすり合わせを行いましょう。現場との認識のギャップがあり、実現が難しい目標を設定しているかもしれません。新入社員のモチベーションを維持するためにも、実現可能で段階的な目標設定がポイントです。
オンボーディングを実施し、振り返り・改善を行う
実際にオンボーディングが始まったら、メンバーからの報告を受けながら定期的にミーティングを行い、進捗を丁寧に管理します。改善すべき点が見つかったら、新入社員に過度な不安やストレスを与えないよう早期に対策しましょう。
一通りオンボーディングを実施したあとは、次回の受け入れを想定して必ず振り返りを行ってください。直属の上司はもちろん、実際にオンボーディングを受けた新入社員や、関わりの多かった現場の従業員とも意見交換するのがおすすめです。特に、新入社員の定着度に影響を及ぼしやすい以下の点について重点的に確認しましょう。
- ●新入社員に負荷をかけるインプット量になっていなかったか
- ●無理な目標を設定していなかったか
計画・実施・振り返り・改善のPDCAサイクルを回してブラッシュアップしていくことで、より最適なオンボーディングプランが完成するでしょう。
オンボーディング導入のポイント
オンボーディングを円滑に、かつ効果的に実施するために、押さえておきたい3つのポイントがあります。
実施前に人事部がコミュニケーションを取っておく
現場の実態と新入社員の期待値にギャップが生じると、「思っていたのと違う」というストレスから離職のリスクが高まります。
まずは、新入社員と関わる機会の多い人事部が積極的なコミュニケーションで信頼関係を構築しておくことが必要です。人事部の立ち回り次第で、新入社員が早期に組織になじみ、離職のリスクを軽減しつつ早期に現場で活躍できるようになるでしょう。
組織全体でサポートする体制を整える
オンボーディングの最大の目的は、なるべく早く組織になじませて離職を防止することです。直接関わりのない従業員も新入社員への積極的な声がけや、チャットグループでの交流を試みましょう。これにより、新入社員は人間関係の不安がない居心地のよさを感じられるでしょう。
また、全従業員の顔と名前確認できるツールを用意したり、業務ごとのマニュアルを整備したりするのもおすすめです。新入社員の不安を軽減できるほか、必要な情報をすぐに得られることで業務の知識やルールの早期定着が狙えます。
なお、従業員情報を集約して一元管理するタレントマネジメントシステムを活用すれば、新入社員が定着しやすい環境を構築できる可能性があります。下記のボタンからタレントマネジメントシステムの一括資料請求が可能なため、ぜひ活用してください。
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小さな目標の積み重ねを意識してプランを策定する
オンボーディングでは、いきなり大きな目標を設定しないように注意してください。入社して間もないうちから高すぎる目標を設定すると、自信の喪失やストレスにつながりかねません。
そこで目標を細分化し、徐々に大きな目標へ近づけていく「スモールステップ法」を用いてプランを策定するのがおすすめです。小さな成功体験を積み重ねられるので、自信やモチベーションの向上につながり、早期の戦力化に期待できます。
オンボーディングの施策例
オンボーディングで取り組むべき施策は、企業の狙いによって変わります。ここでは、多くの企業が取り組むオンボーディング施策の一例を紹介するので、何から取り組めばよいか迷っている方は参考にしてください。
タレントマネジメントシステムを導入する
タレントマネジメントシステムとは、従業員のスキルや経験などの情報を一元管理するシステムです。主に人材配置や育成、評価などの業務に活用されています。
入社時の情報を記録しておくことで、特性を活かした部署への配置が容易です。さらに、適宜スキル情報の振り返りを行えば、成長した部分を本人に明確に共有でき、モチベーション向上につながります。また、最近ではAIを活用しデータから離職の兆候を察知できるシステムもあるため、早期フォローによる離職防止への大きな効果が期待できます。
下記の記事ではおすすめのタレントマネジメントシステムや、目的に応じた選定ポイントを解説しているので、システムを使って従業員を効果的に定着させたい方はぜひご覧ください。
メンター制度を導入する
メンター制度とは、部署の垣根を超えて、経験豊かな先輩社員(メンター)が対話を通じて後輩社員をサポートする仕組みのことです。直属の上司や人事評価を行う上長など、利害関係のある先輩社員には打ち明けづらい悩みも相談しやすい環境作りが構築できます。
メンターは、基本的に新入社員からの相談内容を口外してはいけません。業務の細かい質問はもちろん、人間関係などの悩みもメンターへ気軽に相談できる環境をつくれば、新入社員の不安をなくし離職リスクの軽減につながります。
リモートランチなどの交流イベントを開催する
リモートワークを導入した企業の多くが、「新入社員と既存の従業員との信頼関係が構築できない」点を課題と感じています。新入社員は上司や先輩とあまりコミュニケーションを取れなかったことで、誰にも質問ができず業務につまづきがちです。さらに、業務でミスを頻繁に起こし、職場にもなじめない悪循環を生み出してしまうケースが多くあります。
そこで、リモートワークでもコミュニケーションを取れる交流イベントの開催がおすすめです。例えば、オンライン会議で顔をあわせながらメンターや上司・先輩とお昼を食べる「リモートランチ」があげられます。ランチの後には「家にあるものでしりとり」「以心伝心ゲーム」のような簡単なゲームを企画し、新入社員の積極的なコミュニケーションを促すのがポイントです。
ただし、従業員によっては「お昼は落ち着いて食べたい」「必ず仮眠を取りたい」などのニーズがあり、休憩時間での開催は逆にストレスを与えてしまう場合もあります。事前にアンケートなどを取って、なるべく多くの従業員の希望に沿ったイベントを企画しましょう。
まとめ
多くの企業が悩む「新入社員が定着しない」課題を解決するには、オンボーディングの導入が効果的です。オンボーディングプランに沿って、組織全体で新入社員の受け入れをサポートすることで、離職防止や早期の戦力化などの効果が期待できます。タレントマネジメントシステムやメンター制度の導入など、自社にあったオンボーディング施策を検討してみてください。