登壇者プロフィール
株式会社シンクロ
代表取締役社長
西井 敏恭 氏
二度の世界一周の旅ののち、2014年に起業、多くの企業のデジタルマーケティング支援を行う。グロースX 取締役CMO、NTTドコモ シニアマーケティングディレクター、オイシックス・ラ・大地 専門役員CMT等を兼任。
SATORI株式会社
代表取締役
植山 浩介 氏
東京大学 情報理工学系修士。インターネット創成期にトライアックス株式会社を設立。デジタルマーケティング業界にて20年以上従事し、多くのプロダクトを受託・開発する。2014年にトライアックスの社内ベンチャーとしてSATORIをスタートし、2015年9月新会社SATORIを設立。創業5年で導入1000社を達成した。マーケティングオートメーションツール「SATORI」は自身9作品目のソフトウェアとなる。
どんなマーケティングを実践しているか
SATORI株式会社 植山 浩介 氏(以下、植山):
私たちのミッションやビジョンの話をさせていただくと、もともと我々も、マーケティングがどういうものか分からないところから会社をスタートしていまして。先輩方から学んだり自分たちで実践したりすることで、一つひとつのマーケティング活動に感動してきたというか、魅力的だと感じたんですね。マーケティングは経営の大事な武器なのだと気づいたんです。
そこで、私たちはマーケティングの魅力を知らない方々や、マーケティングを武器として使うことでもっと魅力的なサービスを世に出せそうな方々をターゲットにしています。マーケティングそのものが非常に楽しく、経営に必要であることを啓蒙していくというか、気付きを提供するところからスタートしています。
特に今は、セールス課題を抱えている企業様に、マーケティングオートメーションツールを提供しようとしています。より具体的にマーケティングのソリューションを提供しようということで、セミナーを開催したりしています。
また、インサイドセールスの方、フィールドセールスの方に、マーケティングの啓蒙から徐々にセールス課題に紐付けていって、最後にSATORIを検討いただくというプロセスを取っています。
株式会社シンクロ 西井 敏恭氏(以下、西井):
マーケティングの日本語訳は何かと聞かれると、みなさんどう答えますか?僕は2007年に前職の株式会社ドクターシーラボの入社面接で、当時の社長に「僕、マーケターとして一流になりたいんです」と伝えたら、「西井君、マーケティングの日本語の意味、分かる?」と言われました。その時は、「市場調査」と答えました。
市場調査もマーケティングですが、マーケティングにはほかにもいろいろなことが含まれています。例えば、価値をつくることだったり、顧客の創造だったり。日本語では「売れる仕組みづくり」と言われています。販促も営業も市場調査も、顧客満足度の向上も含めて、売れる仕組みづくりはすべてマーケティングだというのが、僕の理解ですね。
その後、今所属しているオイシックス・ラ・大地株式会社の髙島社長に「僕は、マーケティングは、売れる仕組みづくりだと思います」とちょっとドヤりながら言いました。そうしたら、社長に「僕は、買いたい気持ちづくりだと思うんだよね」と言われたのです。
社長が今も全社員へずっと伝えていることなのですが、どうしても僕らって「売りたい」という気持ちが前に出すぎてしまっていて、それがこのインターネットの時代にはお客様に見透かされちゃうと。だから、いかにして「売りたい気持ち」を「買いたい気持ち」に変えるかがマーケティングだということですね。
マーケティングという言葉に対して、正しい日本語訳があるわけではないです。広告のことをマーケティングと呼ぶ企業もあれば、商品開発を指す企業もあります。ただ、僕の今のマーケティング活動は、お客様の買いたい気持ちをどうつくるかを、全体で考えることかなと思っています。
顧客の声が顧客を呼ぶ
西井:
昔のマーケティングは、広告にすごく寄っていた気がします。例えば化粧品では、テレビCMをどうつくるか、新聞の広告をどうつくるかといったマーケティングがすごく多かったです。
でも今では、例えばiPhoneのテレビCMを見た人が、「このiPhone、めちゃくちゃ欲しい。買おう」と思うことって、ほとんどないと思うんですよ。iPhoneは、評判も良く、周りも使っている。だから、CMでiPhoneのすべてを理解するのではなくて、リマインド的に「今、買おう」と思うんですね。広告ですべてを伝える時代から、すでに体験して知っている価値を広告で思い出してもらうという風に、マーケティングが変わってきているのかなと思います。
とにかく使っているお客様にむちゃくちゃ満足してもらって、いい体験してもらうということが僕の今のマーケティングではすごく重要になってきているし、ここ10年くらいでは、そちらのほうにマーケティング活動の重点を置くことが多いなと思います。
植山:
事前に打ち合わせをさせていただいたときの、顧客が顧客を呼ぶということを信じてやっているというお話がすごく印象的でした。今のお話も、まさにそういうことですよね。
西井:
もう本当にそうで。例えば、最近僕は株式会社NTTドコモのシニアマーケティングディレクターという職に就いて、ドコモのお客様を見ています。
NTTドコモには、dTVというサブスクリプションのサービスがありますが、世の中にNetflixやAmazonプライムがある中で、なぜdTVを選んだのかとお客様に聞いてみました。すると、「ママ友の間で、子どもにアンパンマンを見せるのに、dTVが一番安くていいと言って噂になっている」からだと。
ということは、dTVを支持してくれるお客様をつくることが大事ですよね。そのお客様の声が、どんどん次のお客様を連れてくるのです。BtoBも同じだと思いますね。
植山:
なるほど。どうしてもテレビCMなどで効率的に顧客を取ろうと思ってしまいますが、dTVについて既存のお客様にインタビューしたのは、やはりこれまでのご経験から、お客様の声に答えがあると思ったということですか?
西井:
はい、売れるものと売れないものの圧倒的な違いは何かと考えたときに、熱狂的なお客様がいることがすごく重要だと思っています。熱狂的なお客様がいる商品は高いポテンシャルがありますし、そこまで行きついていないのなら、商品を磨くことが大事だと思います。磨く前にテレビCMなどでリーチを増やしても、むしろ悪い評判が増えてしまって導入されないかもしれません。
BtoBのサービスにおいても最後は口コミが効くのです。社内でとても評判になっているサービスがあれば、ほかの部署でも導入しようという話になる。認知を高めたり新しいお客様と接点を持ったりすることも大事だと思いますが、まずは商品を磨こう、という順番の話かと思いますね。
熱狂的ファンとそうでない人の差分を把握する
植山:
お客様の中から誰にインタビューするのがいいのでしょうか。雰囲気からファンを見つけるほか、ユーザー会などの場から選べばいいのかとも思うのですが、経営の観点からは売り上げを上げてくれる人にアプローチしたいという思いもあります。どう決めるべきか、ヒントをいただきたいです。
西井:
マーケティングオートメーションなどを使うと、お客様と自社がどのような関係にあるのか分かりますよね。例えば僕がやっているオイシックス・ラ・大地のお客様で言うと、非常に熱狂的なロイヤルユーザーがいたり、めちゃくちゃ買ってくれているけど実は熱量の低いお客様がいたり。量で関係性を管理できるのは、デジタルマーケティングの強みだと思っています。
マーケティングって、ボリュームのあるところに施策を入れて、そこが変化すると売上にもつながりますよね。熱狂的な人がいなかったら困りますが、いるのなら熱狂的な人と熱狂までたどり着いていない人の両方に聞きます。
植山:
両方に聞いてみるのですね。
西井:
はい。同じようにいっぱい買ってくれていても、熱狂的な人と熱狂的じゃない人の間には、伝わっている情報の差があります。
例えばオイシックス・ラ・大地で言うと、Kit Oisixというミールキットがあるのですが、僕が入社した2014年当時はミールキットが全然売れていませんでした。平均値で、20~30人に1人しか買ってくれていないプロダクトだったのです。ただ、その20~30人に1人の人が「めちゃくちゃいい」とおっしゃってくれていると。ほかの人は「高いし、別に料理は自分でできちゃうからいらない」と言う一方で、「めっちゃ良くて、これがなかったらもう生活できない」みたいな声もあったのです。
評価の理由などをヒアリングしてみると、いろんな背景が分かってきました。ユーザーの意見に合わせてプロダクトやサービスづくりをした上で、ちゃんとコミュニケーションした結果、今では一番売れています。
でも、誰にヒアリングするかという話をすると、ロイヤルユーザーだけじゃなくて、1回入ってやめちゃった人にすぐお話を聞きに行きたいというときもあります。なぜ使い続けてくれていないのですかと聞くと、それなりの理由があるんですよね。ちょっとした情報の誤差だったり、使い方の違いだったりします。その差を、メールや同梱チラシでフォローすることをよくやっていますね。
マーケティングを実践して見えた、3つの確信
植山:
「3つの確信」というよりは、悩んでいることを西井さんにぶつけてみようと思います。
1つ目として、顧客をどう理解していくかというのがやはり重要なテーマだと思っております。サブスクは使い始めてもらうことも、使い続けてもらうことも非常に難易度が高いなと改めて思っているので、この「顧客理解」について西井さんにお伺いしたいと思います。
データに基づいて継続的に顧客を理解
西井:
例えば、サブスクリプションという言葉は最近急に出てきたように言われているけれど、実は昔からありますよね。新聞料金は毎月支払いますし、ケーブルテレビなども同じです。
しかし今はデジタルの時代になって、お客様の利用状況をデータで理解できるようになりました。また、インタビューが必要な時もメールで簡単にアンケートを取れます。お客様の状態を比較的簡単に理解できるようになったから、サブスクを継続利用してもらえるようになったのです。さらにインタビューとデータによる顧客理解と組み合わせられるところが、従来と変わりました。
10年近く同じ企業でマーケティングをやっていると、お客様はどんどん変わっていきます。この2年でもコロナ禍の影響ですごく変わっています。「昔はこれで売れたから、これからも売れるだろう」という考え方をしていると、どんどんずれちゃうわけですよね。
だから継続的にお客様を理解して、サービスや商品、コミュニケーションを変えていくことが、まさにマーケティングの大事なところなのかなと思います。
植山:
なるほど。あえて接点のない顧客のインサイトを取る方法もお聞きしてみたいです。
例えば、マーケティングに詳しくない方々へ、弊社のマーケティングオートメーションツールの魅力を伝えたいときに、マーケティングリサーチで一般的な第三者的パネルを使うようなことが、どう活きてくるのか。自社でデータが取れない部分について、何か最新の情報やコツはありますか?
西井:
最近、私がすごく影響を受けているのが、もともとスマートニュースにいらっしゃった西口一希さんの著書『顧客起点マーケティング』で紹介されている「9セグメント」というものです。
9セグメントでは市場調査を定期的に行って、お客様を分類するのですね。認知しているかどうかや、使った後に継続しているかどうか、熱狂しているかどうか、次回購入意向があるかなどを調べてお客様を分けていく。僕が今までやっていた通販やダイレクトマーケティングとは異なるやり方を、リサーチベースでやれるというのがすごい発見だと思いました。
「100人に1人が絶対欲しい」を追求する
植山:
2つ目に質問したいのは、継続的な提供価値の開発についてです。どのように価値提供をするエリアを決めるのかということですね。
サブスクリプションでは、お客様から「こういうものが欲しい」「機能を改善してほしい」というリクエストがたくさん来ます。その中から、どういうリクエストを選んでいけばいいのか、やっぱり悩みが発生していまして。
弊社では、1つは、顧客の成果に紐付くのは何かを考えます。もう1つは、自社がやるべきものなのかどうかですね。自社の強みに直接ひも付いて、場合によっては競合より勝てるエリアは何なのかという2軸で考えようとしているのですが、経営メンバーの主観的な判断になりがちです。
もし、たくさんリクエストのリストがあって「西井さん、どれを次に開発しますか」と言われたときにどう選択するかを聞いてみたいと思います。
西井:
価値提供を継続的に行うのはすごく大事だと思っています。昔から存在したサブスクが近年優秀になっているのは、継続して価値をつくり出せるからだと思います。継続的な価値提供をするには、まず「誰に」がすごく重要なのですよね。
100人に1人が絶対に買う商品をつくれば、日本では100万人に売れるんです。売り上げでもだいたい年間で300〜400億ぐらいのビジネスになるというのが僕の考えです。
ここで大事なのは、「100人に1人が絶対欲しい」ことなのですね。お金を出しますか、自腹でちゃんと買いますかというところまで突き詰めて100人に1人のお客様を捉えていくと、その価値提供の軸がぶれない気がします。
「1人だけじゃん」と思われるかもしれませんが、世の中には似たようなタイプの人がそれなりにいます。1人が熱狂的に声を発してくれれば、共感してくれる方がたくさん買ってくれるかなと思うんです。
極論を言えば、社長が「自分自身が自腹で本当に欲しい」と冷静に評価できるのだったら、その価値観に沿って優先度をつけてもいいと思いますし。それが難しいのなら、身近な方が本当に導入するかどうかを突き詰めて考えるのが、1つの正しいやり方かと思います。
植山:
既存のお客様からアンケートを取ると、「自社の営業を良くしたい」という一般的な話や、「業務がひっ迫している」、「営業担当者を採用できない」などという課題感しか見えてこなくて。実際何が欲しいのかが見えないことがあります。
今おっしゃっていたのは、おそらくデプスインタビューというものでしょうか。一人ひとりになぜですかと聞いていくようなプロセスをイメージしていますか?
西井:
そうですね。一番いいのはやっぱり、すでに自社をめちゃくちゃいいと言ってくれているお客様がいることなのです。価値がないところからつくるのは大変ですが、熱狂的なお客様にヒアリングし、その方の価値観に沿ったものならつくれるはずなので。
ただ、そこに寄り添いすぎるとよくないこともあります。例えばリテラシーの高い人に寄り添いすぎると、初回離脱のポイントが非常に落ちてしまうかもしれません。
カスタマージャーニーではないですけれど、深いお客様は偶然いい価値に気付いているけど、その価値に気付かない別の方もいらっしゃるのだったら、価値を持ち上げる機能やサービスって何だろうと考えていくのが大切だと思います。
商材を変えてもビジョンは貫く
植山:
3つ目のテーマは、長期ビジョンについてです。どのお客様にファンになっていただくかですとか、顧客のニーズだけを見ていると、どうしてもロイヤル顧客ばかり見ていて、本来企業がやるべき方向性とずれる可能性もあるのかなと。
例えば弊社の場合、SATORIを使いこなして、マーケターとしてもある程度熟練した方々にフォーカスをしていくと、マーケティング初心者から離れた製品になってしまいます。我々のビジョンと離れていってしまうという、漠然とした悩みを抱えています。
会社のビジョンが、製品開発や顧客へのメッセージングに影響を与えている例があれば、聞いてみたいです。
西井:
僕のイメージでは、SATORIさんはマーケティング経験の浅い中小企業の方も使えるような製品を目指しているのではないかと思います。それなら、昔は全然使いこなしていなかったけど、今はめちゃくちゃ使いこなしている人がたどった道の再現性を高めることがすごく大事ですし、価値がぶれないのではないでしょうか。
長期ビジョンを考えると、単純に機能的な差別性だけではなくて、社会的にどうかというのを消費者から見られます。SATORIさんは、このDXの時代にリテラシーが高くなければ使いこなせないサービスばかりだと世の中が幸せじゃないよね、ということでサービスを提供されていると思います。そういうビジョンに対して需要が広がってくれば、まさに市場はあると思うのです。
例えばオイシックスは、食品宅配サービスと言われがちですが、僕らは豊かな食卓づくりをビジョンとしています。家でご飯を食べると素敵な時間を過ごせるはずなのに、仕事が忙しかったり料理が難しかったりという課題がある。だから、家で簡単につくれるようになることが、僕らにとっての豊かな食卓なんですね。
豊かな食卓というのは、時代によって変わってきています。でも変わったとしても、僕らがつくりたいのは家で食べる時間であると。だから、オイシックス・ラ・大地では外食は一切やらなくて、逆に家の食卓をつくるところではほかの企業とコラボすることもあります。
まさにそれが長期ビジョンなのです。20年前は有機野菜を中心に売っていたオイシックスが今ではミールキットを売っていますが、提供している価値は同じなのです。
おわりに
植山:
マーケティングは進化も続けているので、どういうものかが分からないですとか、少しとっつきづらいスキルかなと思っております。私自身も7年前に初めてマーケティングに取り組んだことで、新たなビジネススキルを獲得できましたし、事業もようやく立ち上がりつつあるという状況になっています。
そのときの感動や苦労といった実体験を企業として持っているので、何か「自分のサービスを広げたい」「顧客満足を上げたい」という方々に、我々のサービスが響くといいなと思っております。
「SATORIのおかげで自社の製品が売れた」、「自分自身が昇格した」というお話も聞くことがあります。それは非常にうれしくて、これからもそういったご支援や、マーケティングの立ち上げの支援をやっていきたいと思いますので、どうぞよろしくお願いします。
SATORI様の公式サイトはこちら
https://satori.marketing/
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